90年代半ばにブームとなり、その名が全国に広まった「油そば」。しかし最近では、2000年ごろから急速に専門店が増えてきた「つけ麺」や、名古屋めしとして注目を浴びる「台湾まぜそば」の陰に隠れてしまっているかもしれません。そこで、今回の“ラーメン大好き松田”さんは、そんな油そば発祥のお店とされる、東京・武蔵境の「珍々亭(ちんちんてい)」の味と、コラボカップ麺を食べ比べ。実は、カップ麺としてのポテンシャルがとても高かった「油そば」の魅力を探っていきます。
珍々亭。油そば発祥と言われているお店です
「油そば」と言っても、麺にラードをぶっかけただけの「オイリーな食べ物」ではありません。名前のインパクトから、ついつい油まみれの食べ物を想像してしまいがちですよね。
油そばは、醤油やごま油をベースとしたタレと麺を混ぜて楽しむ「汁なしラーメン」のことで、「あぶらーめん」や「まぜそば」とも呼ばれています。オーソドックスな具材は、チャーシューやネギ、なると、メンマなど。卓上に置かれているラー油や酢を使って、カスタマイズしながら味に変化をつけていくのが、王道の楽しみ方です。
“カップ麺ウォッチャー”として気になっているのが、そんな油そばのカップ麺を最近よく見かけること。池袋本店の「春日亭」や東京・吉祥寺の「ぶぶか」といった人気店とのコラボカップ麺がコンビニの棚によく置かれており、「カップラーメン」「カップ焼きそば」といった“鉄板ジャンル”に続いて、実は油そばは、カップ麺として確固たる地位を築いているのではと感じます。
ただし、この油そばの置かれているスペースは、「台湾まぜそば」や「台湾ラーメン」など、最近人気の“新潮流のカップ麺”が占拠している場合もあります。限られた陣地を取り合う姿は、さながら、“ラーメン戦国時代”の縮図を見ているよう。これだから、コンビニの棚をチェックするのは、おもしろい。
今回訪れたのは、油そばの発祥(諸説あり)とされる1954年創業の「珍々亭」。東京のJR中央線・武蔵境駅から徒歩15分ほど歩いた住宅街の中にお店があります。営業時間は11時から16時30分ごろまで(麺が売り切れ次第、閉店)。今回は11時過ぎに訪れましたが、カウンターとテーブル席はすべて満席でした。平日だというのに、この人気はすごい。
JR武蔵境駅に到着!
珍々亭が見えてきました。知っていないと気づかないほど、住宅街に溶け込んでいます
お店の外観は、たいへん趣(おもむき)があります
珍々亭に入店!
外観のイメージと異なり、店内は明るい雰囲気です
卓上には、自家製ラー油や酢といった調味料が置かれています
油そば大盛り(750円)+ネギ盛り(100円)+生卵(50円)+スープ(50円)を注文
太麺の麺はやわらかめ。一気にかき混ぜて食べます
油そばというくらいなので、ついつい「油っぽい味」を想像してしまいがちですが、かなりやさしい味です。どこか懐かしい味とでもいいますか、老舗の中華そばにも近い雰囲気。これならば、油そばが初めての方でも、安心して食べられるはず。
麺はやわらかめに茹でてあり、ヌメりも残っています。コシの強い麺などに慣れていると、「ちょっと、やわらかすぎるかな」と感じてしまうかも。しかし、このやわらかい麺が醤油ダレとよくからみ、クセになって、スルスルッー、ズズズッーと食べ進められます。見た目のボリューム以上に、“軽い”のがうれしいです。
具材は、チャーシュー、なると、メンマと、一般的な中華そばと変わらぬラインアップ。特に、チャーシューは硬めに仕上がっており、これだけでも、歴史を感じずにはいられません。以前、この連載で訪れた東池袋大勝軒もそうでしたが、“トロトロチャーシュー”がトレンドとなっている昨今、このようなクラシカルスタイルのチャーシューに出会うと、なぜかホッとします。
さらに、ここからが油そばの真骨頂。最大のポイントであるラー油と酢を投入していきます。
ラー油を入れて、油そばが“第2形態”に変化!
まずは、ラー油を投入。自家製のラー油は少量でもピリッとしていて、とがった辛さがあります。かけ過ぎに注意したいところ。ほどよく赤くなった油そばは、かなり辛旨くてクセになります。「ちょっと、お腹がいっぱいになってきたかな」と弱気になっていたので、まるで、ラー油が「喝だ!」と叫んでくるようです。汗が止まりません。
酢を入れると、油そばが“最終形態”に!
改めて全体をかき混ぜると、まったく違った味わいを楽しめます
さらに酢をかけると、ついに、油そばが“最終形態”に! 味が大きく変わった“ラスボス”は、すっぱ辛い味がクセになり、箸が止まりません。丼の中あるすべてが混ざりに混ざって、ラストスパートに向かって箸をかけ込むスピードがどんどん速くなり、“第4コーナー”をドーンッと全力で疾走する勢いで、もうやみつきィ! 気が付くと、丼は空になっていました。
それでは、カップ麺バージョンの「珍々亭 油そば」(東洋水産)を食べてみましょう。内容量は166g(麺が130g)で、必要なお湯の量が650mlとなかなかのボリューム。さらに、カロリーが740kcalと、食べ盛りのキッズが泣いて喜びそうな「キング・オブ・ジャンク・フード」の風格です。カップは、通常のカップ焼そばと変わらず、後からお湯を捨てるタイプとなっています。
東洋水産の珍々亭 油そばを実食。お店の味と比べてみます
パッケージ側面には、ご主人の写真も。お店では、厨房がカウンターの奥にあり、その姿を拝見することはできませんでした
フタを半分までビリビリと開けると、麺の太さがすぐにわかりました。かなりの太麺です
熱湯を入れて5分。お湯を捨てた後、液体ダレをかけます
ひたすら無心にかき混ぜます。ウォー!
珍々亭 油そばが完成!
一番の感動ポイントは、醤油ダレの再現度の高さ。醤油ダレをかけて全体を混ぜると、醤油の香ばしい香りがフワッと伝わってきます。むむ、これはもしや。そんな直感が働きつつ、いざ食べてみると、お店の味とほとんど変わらないではないですか! 醤油ダレの味や酸味、油の具合など、お店と同じだったので、かなり驚きました。
さらに、麺の太さも特徴。通常のカップ焼きそばの倍はあろうかという太麺で、かなりボリューミーです。とても食べごたえがあるので、一気に食べると、あごが疲れます。具材は、小さなこま切れチャーシューとネギが入っていますが、この太麺のインパクトがあまりに強すぎて、主役どころか脇役にもなれず、もっぱらエキストラの通行人レベルといったところ。
さぁ、お店と同様に、ラー油と酢を投入していきますよ!
ラー油を入れて、カップ麺の油そばも“第2形態”に変化!
さらに酢を入れて、油そばを“最終形態”にします!
最後に、生卵もたしてみました
今回は市販のラー油を入れましたが、これだけでも十分に臨場感を味わえます。醤油ダレとの相性とも抜群で、お店で食べた“第2形態”の味にかなり近いです。それにしても、市販のラー油とお店の自家製ラー油を食べ比べると、お店のほうがマイルドでしたね。お店にいたときは気づきませんでしたが、自家製ラー油はやさしい辛さだったようです。
さらに、酢をかけて“最終形態”にします。続いて、お店と同様に生卵も投入……ウマい! ウマすぎる! いやぁ、これ。お店のすっぱ辛さを、ほぼ完全に再現しています。これだけカスタマイズしても、味がまったくブレないというのは、醤油ダレの再現度がそれだけ高い証拠なのではないでしょうか。
油そばのカップ麺でも、ラー油や酢によるカスタマイズを十分に楽しめました!
今回の食べ比べでは、珍々亭のお店の味もカップ麺も、ともにすばらしくて大満足でした。油そばの醍醐味であるカスタマイズも、カップ麺で十分に楽しめます。また、油そばは、醤油ダレというシンプルな味付けで勝負できるため、改めて、カップ麺との親和性が高いと実感しました。 “タレ(ソース)のおいしいカップ焼きそば”とも言えるので、カップラーメンが好きな方はもちろん、カップ焼きそば好きの方にこそ、有力な選択肢になりそうです。