筆者はいくつかの理由から、趣味のひとつであったはずの「プラモデル作り」をずーっとお預けにしてきました。
もともと何かを作ることやミニチュアが好きなことから、実家に住んでいたころは月に1〜2点、ときには毎週のようにプラモデルを購入していました。ジャンルにはそれほどこだわらず、価格.comマガジンでもよく紹介されているガンプラから、ゲームやアニメなどのコンテンツを通して以前よりもメジャーになった戦車や艦艇まで、気に入ったキットならなんでもチャレンジしてきました。
遠ざかっていた一番の理由は、プラモデルに費やす時間が取れないこと。個人的に、一定の時間を確保して集中作業をするほうが毎日ちょっとずつ進めるよりも楽しく感じるので、家族や仕事を優先しているここ最近はプラモデル作りに没頭できるタイミングがありませんでした。
それに、そのまま組み立てるだけでも楽しめるガンプラはいいとしても、戦車や艦艇などのプラモデルでは基本的に接着や塗装が必要なので、部屋に臭いが漂ってしまいます。このことも、プラモデル作りをためらう理由となっていました。
ところが、ニッパーでパーツを切り離したときの感触も記憶の中でかなりおぼろげになってきた最近になって、物欲を大きく刺激される製品を見つけてしまいました。衝動を抑えきれずに注文してしまったのがこちら、フジミ模型の「艦NEXT」シリーズです。
フジミ模型の艦NEXTシリーズより、戦艦「武蔵」
艦NEXTシリーズでは、第二次世界大戦当時の艦船を1/700または1/350のスケールで再現。現時点では旧日本海軍の艦船のみがラインアップされています。
従来の艦船模型は塗装を前提としており、パーツの成型色も1色のみが基本で、特に色分けはされていませんでした。しかし、本シリーズでは成型色を変えることで、「船体」「甲板」「船底」「スクリュー」といった主要な部分があらかじめ色分けされています。さらに、付属のシール(デカール)を貼ることで、パーツが分割できないような細かな部分の塗装も不要となっているのです。
製作中の「武蔵」。船体や構造物(薄いグレー)、甲板(黒っぽいグレー)、船底(濃い赤)をそれぞれ色の違うパーツで表現。甲板上の小さな構造物はシールを貼ることで再現します
また、従来の模型では接着時の位置合わせとしての役割を持たされていたダボ(ピン)とダボ穴(ピンを差し込む穴)が、本シリーズでは互いにしっかりと噛み合うサイズで作られていて、ガンプラ同様にスナップキットとなっています。そのため、基本的には接着剤がなくても組み立てることが可能です。
パーツの1組。ダボ(左のパーツ)とダボ穴(右のパーツ)が互いに噛み合って離れないように作られています
接着剤の付着量に神経を使うことも、塗装の仕上がりに一喜一憂することもない。つまり、プラモデルの醍醐味でもありながら、ライトに楽しみたい人を遠ざける要因でもあった「接着」と「塗装」が、艦NEXTのキットではどちらも不要なのです。これなら塗装の手間がかからないだけでなく、接着剤の臭いも気になりません。
筆者は本製品の存在を知るやいなや、肝心の制作時間を確保する目処が立っていないにもかかわらず、大和型戦艦2番艦「武蔵」のキットを注文してしまいました。一体いつ作る気だったのこれ……。
なお、本製品の製作に用いた工具は「ニッパー」「カッター」「ピンセット」の3点。必要に応じて「爪楊枝」も併用しました。
ニッパー、カッター、ピンセットを準備して製作開始です
届いた「武蔵」のキットを開封したとき、ちょっとした衝撃を受けました。おかしいぞ、過去に作ったことのある艦船模型と比べて、パーツ点数が多すぎるのではないかと。
艦NEXT「武蔵」のパーツをざっと並べたところ。こんなに多かっただろうか
理由は本シリーズの特徴である「色分け済み」にありました。考えてみれば当然のことなのですが、色分けをパーツの分割によって表現するということは、従来のキットであれば1点だったパーツが、2点、3点、それ以上に細分化されることを意味します。
接着も塗装も不要なことから根拠もなく「簡単でしょ」と思い込んでいた筆者は若干怖気づきつつも、説明書の手順にしたがって船体の制作に取り掛かりました。
艦NEXT「武蔵」には同シリーズの「大和」と共通のパーツもあれば、「武蔵」独自のパーツもあります。キットには似たような形状のパーツが2つ以上含まれていて、最後まで使わずに余るパーツも少なからず存在します。誤ったパーツを使わないように、同封のパーツ一覧を参照しながら必要なパーツを集めます。
いよいよ「武蔵」の建造を開始。船体はパーツのサイズが大きいので、肩慣らしにはちょうどいい感じです
両舷ともに取り付けるパーツは左右対称なことが多いので、間違えないように番号を1つひとつ確認しながら切り離していきます
大小8点のパーツを組み立てると、武蔵の船体が姿を現します。1/700の艦船模型では喫水線から上だけが再現された「ウォーターライン」や「シーウェイモデル」といったシリーズがポピュラーですが、艦NEXTでは喫水線下もすべて再現されています。
過去にウォーターラインを作ったことがあるためか、なんとなく「船体は平べったいもの」というイメージを持っていましたが、こうして船底まで揃った大和型戦艦の船体からは、この段階でもどっしりとした重量感を感じます。
艦NEXTの艦艇は、船底まで再現されたいわゆる「フルハルモデル」。まだ1番目の手順を終えただけなのにニヤニヤしながら写真を撮っています
艦NEXT「武蔵」の本領発揮は手順2番目からでした。さあ次いってみようと手順を確認すると、艦尾の小さなパーツがいくつも目に入ります。特に怖いのが旗竿で、ただでさえ細いパーツなのに軍艦旗のシールまで巻かなければなりません。
この手順ではっきりと気付かされたのは、本シリーズも1/700スケールの艦船模型であるという事実です。たしかに「接着不要」「色分け済み」で作りやすいのですが、スケールは従来と同じなので、パーツの細かさも変わらないのです。
直径1mmもない旗竿。切り取るだけでも神経がすり減りそう……
改めて気合を入れ、パーツを切り取ります。この手順では旗竿のほかに2隻の艦載艇にもシールを貼る必要があります。シールも1つひとつが細かいので、ピンセットを使ってパーツに付着させたり、爪楊枝や綿棒などで押し付けたりして慎重に貼っていきます。
艦NEXT「武蔵」付属のシール。パーツの分割だけでは再現できない部分に貼り付けていきます。シールを逆さまに撮っていたことには原稿を書き始めてから気が付きました
艦載艇に木目のシールを貼ったところ。奥まった場所へ押し付けるには爪楊枝などを使うことが推奨されています
別の手順でスクリューの軸に銀色のシールを巻き付けたところ。シールの紙質と糊の相性がよいのか、ていねいに作業すれば細いパーツにもしっかり貼り付いてくれます
艦尾周辺を組み立て終えたら、いよいよ甲板の取り付けです。甲板上には砲塔や艦橋をはじめとしたさまざまな構造物が存在しますが、パーツ分けできないほど細かな部分にはグレーのシールが塗装代わりに用意されています。
ちなみに、艦NEXT「武蔵」のキットは、武蔵が沈むことになる1944年10月のレイテ沖海戦時の姿を再現しています。出撃時の武蔵は甲板が黒く塗られていたと記録が残っていることから、キットでも甲板は黒い成型色で再現されています。
甲板にもシールを貼り付け。モールド(出っ張って表現された部分)全体を隠すように位置を合わせながら密着させます
すべての甲板を取り付けたところ。黒い甲板がとても印象的です
この先は甲板より上のパーツを組み立てていくことになりますが、それは細かいパーツが一気に増えることを意味します。大戦後半の艦艇はそれまでの戦訓から対空兵装が強化されており、これらを再現するには小さいパーツがどうしても大量に必要となるからです。
後半の手順の一例。ここだけでも25mm3連装機銃を17基取り付けなければなりません
1つひとつのパーツが小さいので慎重な作業を求められますが、数が多いので集中力を持続させるのに苦労します。楽しいはずのプラモ作りで苛立ってしまっては本末転倒なので、適度に休息しながら作業を進めていくのがいいでしょう。
シールド付き機銃を組み立てているところ。比較対象物がないのでわかりにくいですが、完成品を爪の上に4つは載せられるほどの小ささです
高角砲と周辺の機銃を取り付けたところ。艦橋周辺が少しずつ形になってきました
艦橋の基部が出来上がったら、艦橋と煙突を組み立てます。ここも細かなパーツが多いので、取り付け位置を確認しながら慎重に取り付けていきます。
なお、接着剤は不要ですが、パーツによってはダボが細かったり、ダボ穴が広かったりして、ちょっと触れただけで脱落しそうなものがありました。紛失が不安な場合は、そこだけ接着剤を使うなどして対処するのがよいかもしれません。
艦橋を構成するパーツのひとつ(対水上用レーダーの22号電探)。ピンセットの先にあるのが見えますか?
艦橋が完成。これでも旧海軍の戦艦としてはシンプルですね
いよいよ最終段階、大和型戦艦最大の特徴である45口径46cm砲の砲塔を組み立てます。砲身の根元にある防水用のキャンバスは色分けされていないので、付属のシールを貼り付け。目立つ部分なのでていねいに貼っていきます。
主砲身1つひとつにシールを貼り付けて、砲塔に差し込んでいきます
主砲塔3基と副砲塔2基が揃ったところ。砲身と砲塔が一体成型されている副砲は、シールが非常に貼りにくくて苦労しました
砲塔が完成したら、円筒形のバーベットに差し込みます。スナップキットのよいところは、砲塔だけでなく砲身も接着しないので、あとから角度が変えられるところ。航行・停泊時や戦闘時など、いろいろな情景を再現できます。
仕上げに艦首の旗竿を取り付ければ、艦NEXT「武蔵」の完成です!
艦首の砲塔群。甲板まで黒い武蔵には、砲身基部の白いキャンバスがよいアクセントとなっています
最後まで油断できない艦首の旗竿。旧海軍の「軍艦」の証である菊花紋はシールで再現されています
完成した武蔵、左前方から。重厚さと流麗さを兼ね備えた大和型戦艦のシルエットにウットリ……
艦橋周辺。接着も色塗りもせずにここまで再現できるのが艦NEXTシリーズならでは
艦橋頂部の主砲射撃指揮所も動かせるので、主砲の射撃シーンを再現することも可能です
接着も塗装も不要な「艦NEXT」シリーズは、艦船模型を気軽に楽しむのにぴったりです。極力リアルに作り込みたい人からすれば当然物足りない部分もありますが、艦艇の持つ雰囲気をライトに味わいたい人にとって、色塗りをせずにここまで艦容が再現できるというのは、やはりすばらしいポイントです。
また、実際に作ってみて感じたのは、プラモデル作りの経験が浅い人への心配りです。たとえば、組立説明書の冒頭にはニッパーの使い方が載っていて、パーツのきれいな切り離し方を学ぶことができます。
組み立ての手順にも工夫を感じました。艦船模型のなかには、船体の組み立てに先立ち、最初の手順で小規模な備砲や対空兵装をあらかじめ組み立てておくものがあります。いっぽう、今回制作した艦NEXT「武蔵」の場合、船体から艦橋・備砲にかけて、下から上へと順に組み上げていく手順になっています。
本シリーズを手にする人のなかには、これが初めての艦船模型作りだという人も少なくはないでしょう。まずは大きなパーツで構成される船体を組み立てることで作業に慣れておき、少しずつ小さな部品の組み立てに移っていくというのは、とても理に適っているように感じました。
1番目の手順に先立って、工具の使い方が解説されています
ただ、1/700というこのスケールならではの緻密さは本シリーズでも健在です。艦橋脇に取り付けたレーダーのように、爪の隙間にさえ入り込めるほど小さなパーツが無数に存在しているので、紛失や折損の恐怖が常につきまといます。指だけでは取り付けられないパーツもあるので、ピンセットを使った慎重な組み立てが必須です。
なお、筆者が艦NEXT「武蔵」の完成までに要した時間は、およそ7時間。これを2日に分けて作りました。頑張れば1日でもできそうですが、数日に分けて作ったほうが、集中力も維持できてよいかもしれません。
大型連休はあと少しですが、自由な時間がある今のうちに、普段は作れないキットに挑戦してみてはいかがでしょうか?
ちなみに筆者は“おかわり”として艦NEXT「信濃」の建造を進めています