ここ数年プラモデル作りから遠ざかっていた筆者ですが、平成最後の4月、フジミ模型「艦NEXT」シリーズの戦艦「武蔵」にチャレンジしたことで、改めてプラモデル作りの楽しさを実感しました(参考記事:プラモ作りをあきらめかけていた筆者がフジミ模型の「艦NEXT」シリーズにハマる)。
パーツの成型色を変えることで大まかな色分けが済んでいて、基本的に接着剤も不要な本シリーズは、艦船模型を気軽に楽しみたい筆者のような人間にピッタリ。難易度が下がるだけでなく、製作に要する期間も短くて済むのもうれしいところ。「武蔵」が完成してすっかり気をよくした筆者は、あれから1か月と経たないうちに次のキットを漁り始めていました。
そして購入したのが駆逐艦「島風」。今回は艦船模型でメジャーな1/700スケールではなく、完成時のサイズが大きな1/350スケールを選んでみました。1/700スケールでは省略されたり簡略化されたりしてしまう部分がよりリアルに再現されているはずなので、戦艦や空母のキットとはまた違った楽しみが得られるではないかというのがその理由です。
艦NEXTシリーズの駆逐艦「島風」。1/350のキットです
実は筆者、どちらかと言えば戦艦や空母などの大型艦よりも、駆逐艦や海防艦といった小型艦や、練習艦や工作艦などの補助艦艇が好み。小さな船体をギリギリまで生かす工夫や、明確な用途を目指した設計に心が惹かれるのかもしれません。亡くなった祖父が戦時中に海防艦「神津」に乗っていたため、同種の艦艇に関心が高いというのも理由のひとつです。
また、同じ1/350スケールの駆逐艦としては、太平洋戦争を通して活躍した有名な駆逐艦「雪風」や同型艦の「陽炎」もキット化されていますが、今回は製作予定日と進水日が近く(「島風」の進水日は1942年7月18日)、後述するようにちょっと特殊な駆逐艦として建造されているところにも魅力を感じた「島風」を選びました。
早速パッケージを開封してみましたが、色分け済みキットならではの豊富なパーツ点数は「島風」でも健在。箱の厚みからしても、色分けされていない艦船模型の2〜3倍はあります。
組み立て前にパーツの開封。「武蔵」で一度体験していたものの、艦船模型とは思えないボリューム感に再び固まってしまう筆者
なお、今回は「ニッパー」「カッター」「ピンセット」の工具3点セットと「爪楊枝」に加えて、プラモデル用の「接着剤」も加えて製作に挑みました。
前回製作した「武蔵」ではダボ(ピン)が細かったりダボ穴(ピンを差し込む穴)が広かったりして、すぐに脱落してしまいそうなパーツがいくつかありました。今回は、そのようなパーツはあらかじめ接着して、紛失を予防することにしたのです。
のちにこの判断が自分を何度も救うことになるとは、下の写真を撮ったころの筆者はまだ知りません。
ニッパー、カッター、ピンセット、爪楊枝、そして接着剤の5つを使って製作します
いよいよ「島風」の製作開始。大まかな流れは「武蔵」と同じで、まずは船体から組み立てていき、甲板、艦橋や煙突、兵装、そのほかの艤装(ぎそう)といった順番で作っていくことになります。
ここでまさかの事態が。早速船体のパーツを切り取ろうとランナーを手にしたところ、左舷のパーツがぱっくり割れてしまっているではありませんか……。
いつからこうなっていたのか全然気が付きませんでしたが、撮影に集中しすぎた筆者が自ら割ってしまったのかもしれません。
ゲート付近でばっさり割れている左舷のパーツ。「えーっ!」と思わず声が
船体のパーツを揃えたところ。合計4点のはずが、全部で5つあります
落ち込んでいても仕方がないので、あきらめて船体を組み上げていきます。割れ目をヤスリがけして整えた上で色を塗れば目立たなくできるのでしょうが、塗装の予定もそのようなテクニックもないので、端面に接着剤を少量塗布してそのまま取り付けます。
幸いにも艦NEXTはスナップキットなので、割れたパーツの前後それぞれが骨組みとなる内側のパーツにがっちり噛み合ってくれました。割れた部分も目を凝らして見てみないとわからない程度には目立たなくなり、少しホッとしながら次の手順に進みます。
接着剤を少量付着させた上で取り付け。何とか割れ目は目立たずに済みました
続いて甲板と船底のスクリューや舵を取り付けます。成型色の異なるパーツを組み合わせることで色分けを実現している艦NEXTですが、パーツに分割できない部分はシールで再現されています。「島風」も同様で、甲板や搭載艇などの塗り分けにシールが活用されています。
爆雷を移動させるためのレールは色違いのパーツですが、シールで塗り分けを再現する部分(赤丸)もあります
甲板は中央から前後へと取り付けていくことになりますが、難しかったのが艦首の段差になっている部分(船首楼の後端)。壁になるパーツの差し込みが固いのですが、下手に力を入れるとダボが折れ曲がってしまう可能性があるため、慎重に少しずつ押し込んでいきました。
筆者のように「片側だけ奥まで押し込んでしまい、抜くに抜けず、押し込むのも困難」といった事態を招かないよう、ちょっと差し込んで「固そうだな」と思ったらダボを少し削って細くしたり、ダボ穴をえぐって広げたりといった加工をするのがいいかもしれません。
斜めに刺さってしまって大変だった「壁」のパーツ。今回は序盤に筆者のアラが目立ちます……
その後はスムーズに取り付けが進み、船体の基本構造が完成。どっしりと重厚さを感じた「武蔵」とは異なり、縦横比の大きな船体は刀剣を思わせるようなカーブを描いており、高速を追求した駆逐艦ならではといった趣があります。
なお、「島風」は高速性能を実現するために船体形状や機関(エンジン)が改良された試作品の要素が濃い駆逐艦で、同型艦はありません。その甲斐あって、船の性能チェックにあたる公試運転では最大時速40.9ノット(時速およそ75.7km)を記録しています。
基本構造が完成した船体。艦首から艦尾にかけての流れるようなラインがきれい
戦艦と比べてはいけないほどの縦横比の違い。とても細長いのが印象的です
甲板の取り付けが済んだら次は船底に移り、2つのスクリューと舵を組み立てます。スケールが2倍になっているためか、スクリューのパーツの大きさは1/700スケールの「武蔵」とだいたい同じくらい。シャフトに銀色のシールを巻き、折らないようにはめ込んでいきます。
スクリューと舵を取り付けたところ。艦尾の船底は抵抗なく水が流れていきそうな、とてもなだらかな形状をしています
ここからは甲板より上の部分の製作が始まります。2本の煙突とその基礎部分に始まり、前後の艦橋、対空機銃とその台座を組み立てていきます。
1/350スケールとはいっても、実物よりそれだけ縮小されているわけですから、細かなパーツはやはり小さいです。下の写真で指先に載っているのは通風筒と思われるパーツで、今回のキットでは最小クラス。今後はこの程度の大きさのパーツが最後まで出現します。
本キット最小クラスのパーツのひとつ。写真に撮ったのだから気を付けていたはずなのに……
「小さいな、気を付けなければ」と意識していたはずのこのパーツ、全部で4つあるのですが、力の加減を誤ってしまい、そのうちひとつを折ってしまいました。
幸いにも今回、自分で折損したことをはっきりと意識したのはこのパーツのみ。淡々と接着剤を付け、ピンセットで慎重に向きを合わせながら取り付けることができました。「武蔵」のときは接着剤なしで挑みましたが、こうしたトラブルが起きたときもすぐ対応できるように、念のため接着剤は準備しておいたほうがよさそうです。
力を加減しづらい位置でもありましたが、4本のうち1本を根元から折ってしまいました(赤丸が取り付けるべき部分)
組み立てに神経を使う小さなパーツですが、そのおかげで1/350スケールの「島風」では、艦橋内部の羅針儀や双眼鏡まで再現されています。床になるパーツには階段まで存在するので、内部の人の動きを想像しながら組み立てられることも楽しみのひとつと言えます。
組み立て中の艦橋の様子。透明なパーツで再現された窓に沿って双眼鏡が並び、床には階段まで用意されています
また、「武蔵」のキットでは小さくて大変だった対空機銃も、1/350スケールの「島風」ではサイズが大きくなったぶん作りやすく、よりディテールが細かくなっていました。対空機銃の合計数も駆逐艦はずっと少ないので、初めての人は戦艦よりも駆逐艦から始めたほうが慣れやすいかもしれません。
組み立てが済んだ3連装25mm機銃。「島風」では2連装機銃と合わせても5基しか作らなくて済みます
組み立て終わった艦橋や対空機銃の台座。せっかく作り込まれている艦橋内部ですが、屋根がかぶさると隠れて見えなくなってしまいます
徐々に細かくなっていくパーツに悩まされながらも完成した艦橋を、船体に取り付けていきます。煙突と艦橋が揃ったことで、一段と船らしいシルエットになってきました。
艦橋などを取り付けたところ。主砲や魚雷などの兵装と交互に配置されているので、この時点ではちょっとスカスカな印象です
艦橋内部のパーツは隠れてしまいましたが、窓越しになんとなく何かがあるのが見えるだけでも緻密さを感じるのが楽しいところ
艦橋などの構造物がある程度形になったところで、主砲と魚雷発射管の組み立てに移ります。
46cmの巨砲を搭載していた「武蔵」に対して、「島風」の主砲は12.7cmという小さなもの。それでも砲身の根元をカバーしていた防水布はシールで再現されています。全部で6本ある砲身にシールを巻き付けていきますが、説明書によれば事務用の修正液を使って塗装してもよいそうです。
砲身の根元にある白い防水布はシールで再現。表面が波打っているパーツに馴染むよう、ゆっくりていねいに貼っていきます
シールを貼り終えた砲身を砲塔に差し込みます。砲身は上下に可動する構造なので、完成後に角度を付けることができます
続いて魚雷発射管を組み立てます。「島風」と同時期に活躍した駆逐艦では3連装や4連装の魚雷発射管が主流でしたが、「島風」は唯一となる5連装の魚雷発射管を3基装備していました。
たとえば、同じ1/350スケールでキット化されている駆逐艦「雪風」は4連装の魚雷発射管を2基装備していたので、同時に発射できる魚雷の本数は8本でしたが、「島風」ではほぼ倍となる15本の同時発射が実現されています。これも試作艦としての性格が濃い「島風」ならではの特徴のひとつです。
装填された魚雷まで再現されている5連装魚雷発射管。15本という魚雷の同時発射能力は、改装された軽巡洋艦「北上」と「大井」の片舷20本(4連装×5基を左右両舷に搭載)に次ぐ強力なものでした
主砲と魚雷発射管それぞれ3基ずつが揃ったところ。繰り返し作るパーツが少ないのも駆逐艦のお手軽ポイント
できあがった主砲と魚雷発射管を、それぞれ所定の位置に組み込んでいきます。艦橋類を取り付けた時点ではまだ甲板がスカスカな感じでしたが、兵装が組み込まれると一気に艦艇らしくなります。
流れるような曲線で描かれた船体と、不要な部分を削り落として彫り込まれたような甲板上の兵装や構造物、両者の対比にちょっと見とれてしまいましたが、まだ完成はしていません。
兵装が載ると一気に手狭になる甲板。戦うための船、といった雰囲気が一気に高まります
いよいよ最後の仕上げ、残された艤装を進めます。まずは4隻ある搭載艇から。防水布や木製の甲板はシールが用意されているので、爪楊枝を使ってしっかり密着するように貼っていきます。
小さな駆逐艦でも連絡などに用いる搭載艇が用意されていました。「島風」には2種類4隻が付属します
搭載艇はダビットというクレーンの一種を使って、甲板から降ろしたり引き上げたりします。
茶色い甲板の搭載艇は船体とダビットが別々になっているので組み立てやすいのですが、白い防水布付きの搭載艇はダビットで吊るような構造が再現されていて、ピタリと組み立てるのが非常に難しく、細いダビットのパーツを折ってしまいそうでヒヤヒヤしました。
結局、接着剤を使ってあらかじめ搭載艇とダビットを固定しておき、ダビットの根元も甲板へ接着することで切り抜けました。
平仮名の「し」と片仮名の「ス」を合わせたような形をしたダビットと搭載艇を、あらかじめ接着しておきます
甲板に取り付けたところ。接着剤を使わずにこの状態まで組み立てられる器用さを、筆者は持ち合わせていませんでした……
搭載艇と前後してマストも組み立てていきます。どうしてもパーツが細くなるマストは折損が怖いので、取り付け後の角度やほかのパーツとの干渉などを意識しながら、慎重に時間をかけて組み立てを進めます。
背が高い前方のマストには、「武蔵」の艦橋に取り付けたのと同じレーダーが装備されていました。1/700スケールの「武蔵」では爪の隙間に入り込んでしまいそうなほど小さなパーツでしたが、1/350スケールの「島風」では指先でつまめるほどのサイズ。こんなところにもスケールの違いを感じます。
対水上用レーダーの22号電探。「武蔵」のときはピンセットを使って取り付けたパーツですが、「島風」では指でつまむことができました
前方のマストを艦橋の後ろに取り付けたところ。3本ある脚のうち艦首寄りの1本は、艦橋後方の穴を貫通させた上で甲板の穴に差し込まねばならず、慎重に組み立てないと折ってしまいそうで怖い部分でした
前後のマストや搭載艇を取り付けたら、最後の仕上げ。草刈り鎌のような形のダビット数本や旗竿などを取り付けます。艦尾の旗竿にシールで再現された日章旗を貼り付ければ、駆逐艦「島風」の完成です!
ごちゃついたディテールが楽しい艦尾。いくつものリールや爆雷関連の装備、旗竿、ダビット、プロペラガードといった小さなパーツが盛りだくさん
完成した「島風」を左舷前方から。艦橋、マスト、煙突といった構造物が、兵装の隙間に押し込まれるように配置されています
左舷艦尾から。日本海軍の駆逐艦は再装填用の魚雷や設備を搭載しているものが多かったのですが、5連装で3基もの魚雷発射管を装備した「島風」は再装填用の設備を省略。そのぶん艦上も少しすっきりしています
艦首部分。錨鎖の巻揚機やリールが別パーツになっているので、塗装なしでも甲板上のディテールが細かく再現されています
中央部分。発射される魚雷の妨げにならないよう甲板には最低限の構造物しかありませんが、そのぶん魚雷発射管の存在感が際立っています
艦尾部分。2基の主砲塔と爆雷関連の装備が集中しているので、パーツの密度感はここが一番高くなっています
艦首より。細身の船体からは波を切り裂く鋭さを感じます
艦尾より。接着剤が基本不要の艦NEXTでは、主砲や魚雷発射管の向きを変えて会敵シーンを再現することが可能です
今回製作した1/350スケールの駆逐艦「島風」も、前回作った1/700スケールの戦艦「武蔵」と同様に、塗装が不要で接着剤も基本的にいらないというお手軽さが最大の魅力。おかげでサクサクと組み立てが進み、合間の撮影を含めても延べ5時間ほどで完成しました。
実物のサイズが小さな駆逐艦を選んだためか、艦船模型でありがちな「砲塔や対空機銃などの同じものを何個も作る」工程が想像以上に少なく、繰り返し作業がもたらす飽きやストレスを感じにくかったことも意外な発見でした。
ただ、実物を350分の1にしているわけですから、爪の上にたくさん載せられるほどの小さなパーツはどうしても避けられず、紛失や破損といったトラブルの恐れは常につきまといます。
実際に今回は2つのパーツを破損するアクシデントに見舞われましたが、「あったほうが便利だろう」と用意しておいたプラモデル用接着剤のおかげで、さほど困ることなくトラブルを切り抜けることができました。接着剤が使えないわけでも、使ってはいけないわけでもありませんから、要所で使えるように準備しておいたほうがいいでしょう。
戦艦「武蔵」に駆逐艦「島風」と作ってきたフジミ模型の「艦NEXT」シリーズ。次は何にチャレンジしようかと、筆者はすでに物色を始めています。