本連載は、文房具の専門家2人がそれぞれお気に入りの新製品を互いにプレゼンし合う対談企画。専門家として対談を行うのは、テレビ番組「マツコの知らない世界」にたびたび出演する文具ソムリエール・菅未里さんと、文房具コラムサイト「森市文具概論」編集長のきだてたくさんの2人だ。
【プロフィール紹介】
●菅未里(かん みさと/左)……Webサイト「STATIONERY RESTAURANT」を運営する文具ソムリエールとして活躍。大学卒業後、文具好きが高じて雑貨店に就職しステーショナリー担当に。現在は、文房具の紹介、コラム執筆、商品開発、売り場企画などの活動をしている
●きだてたく(右)……1973年京都生まれのライター/デザイナー。自称「世界一の色物文具コレクション(3000点以上)」に囲まれながらニヤニヤと笑って暮らす日々を送る。文房具コラムサイト「森市文具概論」では、文房具魔改造講座などピーキーな記事を連発している
きだて 今シーズン的にはね、新入社員の皆さんが研修期間だったり、配属されたばかりの時期だと思うんですよ。
菅 そうですね。本社での研修が終わっていよいよ、みたいな頃合いですかね。
きだて そういう人たちに役に立つ文房具って何かな? っていうと、「メモ」だと思うんですよ。なので、今回はパッと素早くメモを取るのに役立つ文房具を紹介しようかな、と。
菅 ああー! 確かに社会人にメモは大事ですよ。
きだて だいたい、新入社員の1番多い仕事ってメモを取ることじゃないですか。
菅 懐かしいなー。私も必死でメモ取ってましたね。
きだて 指導してくれる先輩社員や上司の言うことを逐一メモらなきゃいけないんだけど、学生のときってメモ帳を持ち歩くことがそんなにないから、慣れてないんですよね。だから、メモ周りの優秀なツールを使うと便利ですよ。
きだて ということで、まずはスゴく便利なリングメモを紹介。デザインフィルの「パッとメモ」です。見た目は普通のリングメモなんですけども、実は“セーブ機能”がついたメモ帳という。
見た目は普通だけど、実はスゴい機能を秘めた「パッとメモ」
菅 そう。見た目はホントに普通なんで、どう便利なのか伝わりにくいんですよね、これ。
きだて 表紙を閉じた状態から軽く本体を振って開けてやると、必ず前回最後に書き込んだページが開くようになってるんですよ。やってみましょうか。たとえば「このページまで書いた」と書き込んで、いったん表紙を閉じますね。で、ちょっと手首にスナップをきかせて振ると、よっ……ほら! 1発で元のページに戻りましたね。
編集・牧野 おおー! ホントだ!
めくると必ず前回書き込んだページに戻れるセーブ機能付き
きだて どういう仕組みか説明します。これ、上辺はリングで綴じられていますよね。で、さらにノートページすべての左の側面も天のりのパッドみたいにまとめてのり付けしてあるんです。新しいページをめくるときは毎回そこをベリッとはがすんだけど、まだ使っていない後ろのページはまだひとまとめになってるので、開かないようになってるんですね。
菅 すでにめくったことのあるページしか開かない。これ、スゴいアイデアですよね。考えた人、天才だなと思いました。
写真の赤く色付けした部分がのり付けされているところ。ページをめくる際はここをはがしながらめくる
きだて 何か上司に言われて「あっ、メモしなきゃ」ってときに、書けるページを探してモタモタすることがあるじゃないですか。あれ、指導する側からすると「もー、早くしろよ」ってイライラするから。これだと一瞬で前回の書き込みの最後に戻れるわけです。
菅 わかるー! 私がまさにそういうモタモタする人だったんで、新入社員がモタついても温かい目で見守ってましたよ(笑)。
きだて 菅センパイやさしいなー。
菅 私も店頭で販売員をやっていたころは、一般的なリングメモを使っていたんですけど、やっぱり「とっさに書けるページが見つからない問題」は切実に困っていたんですよ。先輩に何か言われて、メモしなきゃってときに「ちょちょちょ、ちょっと待ってください!」って、あわてて……。
きだて 牧野さん、このあわててる(シーンを再現する)菅さんが面白いから写真撮っといて(笑)。
編集・牧野 了解でーす(笑)。
「ちょちょちょ、ちょっと待ってください!」と、当時のあわてぶりを再現する菅さん(小刻みに動いていたため、写真がぶれております。ご了承ください)
菅 当時、私としてはこの問題をどうやって解決しようかと考えました。で、どうしたかというと、書き込んだページを開いたままの状態でポケットに入れていたんです。
きだて あー、はいはい。もう結果は予想つきましたけども(笑)。
菅 はい、予想された通り、ページがグシャグシャに折れて破れてしまいまして。だから書くときはそのページの折れを伸ばしてから書くので、結局モタモタすることになるという。
きだて やっぱり、そうなりますよねー。
菅 だから、最新ページが一瞬で開けるって、新社会人としては絶対に便利で助かるはずなんですよ。やっぱり表紙は中の紙を守るのに必要だから、持ち歩くときは閉じておくべきなんですよね。でも、いざというときは書き込みできるページにすぐ移動できる。これはホントに最高ですって。
きだて 書くときは絶対にページをめくるんだけど、その動作がセーブ機能に直結しているから、ほかに何もする必要がないんだもん。何も考えずに使って、それだけで便利さを享受できるって、スゴいよ。
菅 もういっそのこと、企業さんは新入社員全員にこれを支給するといいと思うんですよ。
きだて お次はキングジムの「ブギーボード BB-12」という電子メモです。菅さん、使ったことあります?
菅 「ブギーボード」自体は使ったことあるんですが、このサイズのモデルはまだちゃんと触ってないです。
きだて 今までの「ブギーボード」シリーズはタブレットサイズが基本だったんですが、2019年春に登場した「BB-12」は“付箋サイズ”と言われるコンパクト型なんです。
卓上メモに最適なサイズとなった「ブギーボード BB-12」
菅 タブレットよりちょっと小さめぐらいのミニサイズはありましたけど、ここまで小さいのはなかったかも。
きだて 液晶サイズでいうと、3.9インチ。実測で64×75mmですね。
菅 じゃあ、まさに75×75mmの正方形付箋に近い感じですね。
きだて 「ブギーボード」って、黒い液晶画面にスタイラスペンで書き込むと黄緑色の線が書けて、消すときはボタンを押すとパッと全消去する、というものですよね。で、これがデスク周りのメモとして使ってみると超優秀で。
菅 ほほう……。あれ? 「ブギーボード」ってこんなに細かく書けましたっけ。漢字も潰れずに読み取れますね。
きだて 液晶の仕様は従来品と同じだと思うんだけど。でも小さい画面に書いてみると、改めて「おっ、よくできてるな」って感じますよ。
菅 久しぶりに使うと、いいですねー。
筆圧で線に強弱がつけられるので、太字・細字も書き分けられる
きだて 書くときはいちいち電源をオンにせずにノータイムで書けるから、紙のメモと同じ感覚で使えるでしょ。たとえば電話を受けるときに、こまごまと用件をメモするのにスゴく使いやすいんだ。
菅 私、自宅の固定電話の近くに紙のメモ帳を置いているんですけど、誰かに伝言があるときは、その手書きメモをスマホで撮ってすぐにLINEで送るようにしているんですよ。で、白い紙にペンで書いた黒い文字より、黒い画面に黄緑の文字のほうが写真に撮ったときに視認性もよさそうだな、と。
きだて それはそうかも。あと電話以外にも、忘れちゃいけないことを書き留めたり、電卓で計算する途中の数字を一時的に書き出したり、なんだかんだでメモって使うんですよね。
菅 あー、あるある。宿泊費と交通費の計算を紙の端にチョチョッと書き込んだりしますよ。そうか。ちょっとしたメモにはこれぐらいのサイズで十分ですしね。あっ、裏面にマグネットが付いていますね。これ大事ですよ。
地味に使いやすさをアップさせる背面マグネット
きだて さすが、よく見てますね。このマグネットがスチールデスクの天板に軽くくっつくので、手で押さえなくても書きやすいんですよ。使わないときはパーティションなんかに貼っておくと場所もムダにしないし。あと、マグネットシールも付属しているので、スチールではない面にも貼れるようになっています。
編集・牧野 あー、なるほど。それは気がきいてる。
菅 で、書き終わったあとに破いた紙ゴミが出ることもないでしょ。うちは机から離れた場所にゴミを捨てに行かなきゃいけないんで、面倒なんですよ。うん、スゴく便利な気がしてきました。
きだて 最近はフリーアドレス制のオフィスでゴミ箱が手近にない、なんてことも多いしね。メモぐらいのゴミをいちいち捨てに行くの、イヤですよ。
きだて メモって、自分が記憶すべきことを書き留めておくっていう用途のほかにもうひとつ、他人に伝言するために使うことってありますよね。そこで「確実に伝言するために最適な筆記具って何かな」と考えたことがありまして。
菅 ほほう。
きだて 僕の中での結論は、水性マーカー。サインペンとかフェルトペンとか、そういうやつですね。卓上のメモパッドとかそれぐらいの面積だと、ボールペンで「○○様から何時にお電話ありました。折り返しお願いします。電話番号00……」と書いて相手の机に置いておいても、字が細いからパッと目に入ってこないんですよ。
編集・牧野 あー! そうかも。
きだて だから、離れた場所から机を見たときでも「あっ、なんかメッセージあるな」と気づいてもらうためには、もっと太字でくっきりとした筆記具がいいんですね。なので、僕は会社員時代、伝言は赤の水性マーカーで書くって決めていたんです。
菅 なるほど。それは確かに大事だわ。
きだて ただ、水性マーカーってひとつ欠点あるでしょ。
編集・牧野 ??
きだて キャップを開けるのが面倒くさいんですよ。たとえば電話を受けて、伝言メモしなきゃってとき、まず片手が受話器なりスマホなりを持ってますよね。
菅 片手がふさがってるからキャップが……。
きだて ね、開けにくいんですよ。そんなときに便利なのが、最近発売されたばかりの水性マーカーで、なんと「ノック式」のゼブラ「クリッカート」なんですよ。
ボールペンのようにノックするだけで書ける水性マーカー「クリッカート」
菅 そうか、そういう流れで「クリッカート」だったんですね。メモグッズ紹介するという話で、何でこれなんだろうと思っていたんですが。
編集・牧野 へぇー、水性マーカーでノック式! ちなみに、今までノック式ってなかったんですか?
きだて ボールペンと違って、ペン先の体積が大きくて乾燥しやすいマーカーはノック式って難しいんですよ。今までノック式の油性マーカーはあったんですが、それは複雑なシャッター機構を使って先端の穴を閉じるもので、やっぱりお値段もちょい割高というか。
編集・牧野 これは先端に穴が開きっぱなしですよね。乾燥しないんですか?
菅 これ、自分で空気中の水分を吸収して潤いを保つ「モイストキープインク」という新開発のインクを使ってるんですよ。
編集・牧野 えー! 何それ!
インクが、みずから空気中の水分を吸収して乾燥を防ぐため乾燥しにくい
菅 最初に「インクが空気中の水分を吸収する」って聞いたときには、えっ、じゃあ湿度が高いときはインクがシャバシャバになるの? って思ったんですが、それもちゃんと最適な水分量を保って調整するらしいんですよ。
きだて ホント、何それー! ですよね。とにかく、この乾燥を防ぐ新インクによって、ノック式ボールペンと同じ感覚で、カチッとノックノブを押せばペン先が出て、もう1度カチッと押せば戻る。キャップをいちいち開けるより圧倒的に早いし、片手でできる。
菅 そういえば、きだてさんの「伝言には水性マーカー」という話で思い出したんですけど……、実は私も毎年この時期に新入社員にアドバイスしていることがありました。
きだて おっ、何ですか。
菅 大学生のころは周りが同世代ばかりだから仕方ないんですけど……、会社に入って上司や先輩と接するときに、彼らが老眼かもしれないってことに気づいてないんですよ。
きだて わはははははは(笑)。あー、そうかそうか!
菅 だから、新入社員から回ってくる伝言メモの字は、異様に小さいんですよ。私も過去にこれをやっちゃったんですけど……。自分は問題なく読めるから、引き継ぎ内容とか小さい字でびっしりと書いちゃって。
きだて それだと受け取るほうは辛いよね。
菅 上司も「見えねぇよ!」とは言いづらいのか、黙ってメガネをずらしたり、メモを顔から離したりしてて。うわー、すみません! って感じですよね。だから、文字は太くて大きな字で書いたほうが絶対に相手のためだぞ、というのを新入社員の皆さんにお伝えしたい。
「メモを渡すと、こう、ちょっと離されるんですよね」(菅)。「わかる」(きだて)
きだて まったくもってその通りですよ。新入社員のみんな、伝言メモは必ず水性マーカーで太く大きく書こう!
編集・牧野 いやー、これはタメになりますね。今回はタイトルに「新入社員必読!」とか入れるべきだな。
きだて ということで、今回はメモに便利な文房具を紹介しましたけれども、菅さん、自分が新入社員のころにこれがあったらなーって1番思ったのはどれ?
菅 私は「パッとメモ」ですかね。販売員時代は立ち仕事だったので、やっぱりリングメモを多用してましたから。座り仕事だと「ブギーボード BB-12」も欲しかったかもですけど。
新入社員に使ってほしいメモ関連文房具3選
きだて メモの表紙を開けっ放しでページをグシャグシャにしていた菅さんとしては、やはりそれですか。
菅 ホント、当時はいろいろと工夫してみてたんですよ。最後に書いたページで(仕事着として着ていた)エプロンのポケットを挟んでおいたりとか。結局グシャグシャにはなるんですけど(笑)。
きだて 苦労してたんだね〜。
菅 入社して最初に困ったのがそれでしたから。で、あとから伝言メモの字の大きさにも気づいたんで「クリッカート」も重要なんですけど。
きだて 新入社員の皆さんも、そろそろこういう困りごとを具体的に実感してる頃合いだと思うんで、特にメモ周りで悩んでる人は、ぜひ試してみてほしいですね。
側面をのり付けした特殊な構造により、前回に書いた最後のページが一瞬で開ける機能派リングメモ。新しいページを探す手間がないため、迅速に書き出せる。罫線は、1行で小さい字を、2行使って大きな字を、と書き分けしやすい2.5mm罫を採用している。
液晶画面に手書きでメモが残せる電子メモパッド「ブギーボード」シリーズのコンパクトな最新モデル。筆圧によって線幅が変わるため、細い文字も潰れず読み取りやすい。画面消去のときだけ電力を消費する省エネ設計なので、ボタン電池ひとつで約3万回の書き消しが可能。
新開発の「モイストキープインク」を搭載することでノック機構を実現した水性マーカー。濃色で書いた上に薄色を塗り重ねてもにじまないインク特性があるため、画材としても使いやすい。色数は全36色と多彩で、筆記色としても人気の「ブルーブラック」や「グリーンブラック」などもラインアップしている。
最新機能系から雑貨系おもちゃ文具まで、何でも使い倒してレビューする文房具ライター。現在は大手文房具店の企画広報として企業ノベルティの提案なども行っており、筆箱の中は試作用のカッターやはさみ、テープのりなどでギチギチ。