2009年に台湾のE.K.INT'Lが発売し、その画期的な抽出方法に注目が集まった浸漬式の「クレバーコーヒードリッパー」。どんなところが“クレバー”なのか、実際に使ったレポートとともに紹介します。
一見すると一般的なドリッパーですが、構造が異なります。「クレバーコーヒードリッパー」は底部に弁があり、穴を塞いだ状態でお湯を注ぐのが特徴。ドリッパー内にお湯を溜め、コーヒーの成分を十分に抽出してから弁を開いてコーヒー液をサーバーやカップに落とします。
1〜2杯用の「S」サイズと2〜3杯用の「L」サイズがあります。マグカップで2杯分淹れたい人はLサイズを選ぶといいでしょう。今回使用するのはLサイズ。サイズは約173(幅)×135(奥行)×145(高さ)mmです。カラーは半透明ブラウン、半透明ブラック、ブラックをラインアップ(2025年2月5日時点)
一般的なドリッパーでは穴が開いている部分に、シリコンラバー製の弁を装着。この弁が開くことで、抽出されたコーヒー液がサーバーなどに流れ落ちます
いちいち弁を閉じ開きするのは面倒と思うかもしれませんが、本製品は、テーブルなどの平らな場所では弁が閉じ、カップやサーバーに載せると弁が開く独自の「シャットオフシステム」を搭載しているので手動で開閉する必要はありません。そのため、一般的なドリッパーのように最初にカップなどにセットするのではなく、机など平らなところに置いたままお湯を注ぐのがポイント。その後、十分にコーヒーの成分を抽出したタイミングでサーバーやカップにセットすると自動で弁が開き、ドリッパー内のコーヒー液がカップに落ちます。
ドリッパー底に備えられた「リリースリング」が下から押さえられることにより、弁が開きます。写真右は「リリースリング」を取り外した状態
ドリッパーには脚が付いており、平らな場所では「リリースリング」が押されないので弁は開きません
ドリッパー内にお湯を溜めて抽出する方法は「浸漬(しんし)式」と呼ばれるもの。サイフォンやフレンチプレスと同じ抽出方法です。コーヒー粉をお湯に浸してゆっくり成分を抽出させるので、誰でも簡単にコクのある濃厚なコーヒーを淹れられるのが特徴。ちなみに、一般的なドリッパーを使った抽出方法は「透過式」。お湯がコーヒー粉を通過する間に成分が抽出されるため抽出時間が短く、すっきりとした味わいになります。
「クレバーコーヒードリッパー」のLサイズを使って、2杯分のコーヒーを淹れてみましょう。今回はコーヒースケールを使用し、コーヒー粉の量や湯量を計測しながら抽出します。
ペーパーフィルター(4〜7杯用の台形フィルター「103」)をドリッパーにセットし、中挽きのコーヒー粉を20g入れて平らにならしたらドリッパーをスケールに載せます。今回はスケールに載せていますが、テーブルに置いた状態でもOK
2杯分のお湯(300mL、93度)を全部注ぎます。一般的なドリッパー(透過式)で淹れる場合、最初に40mLくらいのお湯を注いでコーヒー粉を蒸らした後、数回に分けて「の」の字を書くようにお湯を注ぎますが、「クレバーコーヒードリッパー」は蒸らし工程は不要で、注ぎ方も自由
弁が閉じているので、注いだお湯はドリッパー内に溜まります
お湯が溜まった状態で1分30秒蒸らします。湯温が下がらないように、付属のふたをかぶせましょう
1分30秒経ったらふたを取り、コーヒー液をやさしく5〜10回攪拌しましょう。必ず行わなければならない作業ではありませんが、浮いているコーヒー粉を沈めることで成分がしっかり抽出されます
4分は抽出したほうがいいので、攪拌を終えたらふたをして待ちましょう。
お湯を注いでからトータル4分経過したら抽出完了。ドリッパーをサーバーにセットします。弁が閉じているのでコーヒー液は漏れません
サーバーにセットすると、ドリッパーに溜まっていたコーヒー液が一気に流れ落ちます(下の動画参照)。ポタポタ落ちる透過式のドリッパーとはまったく異なる落ち方。300mLのコーヒー液がすべて落ちるまで1分弱かかりますが、放っておけばいいので楽ちんです。
コーヒー液が全部落ちたらドリッパーを外します。一般的なドリッパーはコーヒー液が下から垂れるため器などに載せますが、「クレバーコーヒードリッパー」はサーバーから外すと弁が閉じるので持ち上げてそのままシンクに運ぶことも可能。
そのまま机に置いても大丈夫ですが、心配なら付属のコースターを使いましょう
「クレバーコーヒードリッパー」で淹れたコーヒーの味の違いを確認するため、透過式のドリッパー(ハリオ「V60」)で抽出したコーヒーと比べてみました。
色合いや香りの差はほとんどありませんが、飲み比べると、透過式のドリッパー(ハリオ「V60」)で淹れたほうがすっきりとしてクリアで、浸漬式の「クレバーコーヒードリッパー」で淹れたコーヒーは濃厚で飲み応えがありました
浸漬式で抽出するだけでなく、透過式でも淹れられるのが「クレバーコーヒードリッパー」の“クレバー(=賢い)”なところ。最初からサーバーやカップにセットすれば弁が開きっぱなしになるので、一般的なドリッパーと同じ方法で淹れられます。
最初にサーバーやカップにセットするだけで、透過式のドリッパーに! なお、浸漬式で淹れたときはお湯を300mL使いましたが、透過式では280mL使用します(湯温は同じく93度)
お湯の注ぎ方は、普通の透過式ドリッパーで淹れるときと同じ。最初は40mLのお湯をゆっくり注ぎ、30秒蒸らします
蒸らしが終わったら、残り240mLのお湯を3回に分けて「の」の字を書くように注ぎましょう。弁が開いているので、一般的なドリッパーと同じように注ぐそばからコーヒー液がサーバーに落ちます
透過式ドリッパーとしての特徴を確かめたいので、ハリオ「V60」(透過式)で淹れたコーヒーと比較してみました。
見た目と香りはほぼ同じ。味は、「V60」で淹れたコーヒーより「クレバーコーヒードリッパー」のほうがコクがあります
どちらも透過式ですが、ハリオ「V60」は円錐型で、「クレバーコーヒードリッパー」は台形なのがポイント。台形のほうが円錐型よりお湯が落ちるスピードが比較的遅く、コーヒー粉に触れている時間が長くなるため、ハリオ「V60」よりもコクのある味わいになりました。
もちろん、形状だけでなく、ドリッパー内部のリブの形も味の差につながります
なお、円錐型の透過式のドリッパーと比べるとコクのある仕上がりですが、「クレバーコーヒードリッパー」を使って浸漬式で淹れたコーヒーよりは少しすっきりとした味わいです。
「クレバーコーヒードリッパー」は「リリースリング」や弁を取り外して洗うなど、一般的なドリッパーよりお手入れに手間はかかります。しかし、簡単に分解できるので洗浄はそれほど負担にはならないでしょう。ただし、洗浄後、乾かしてから元に戻すときの作業は慎重に! 各パーツやパッキンがしっかりはまっていないと、コーヒーが漏れ出てしまうからです。慣れてくると確認が甘くなりやすく、実際、筆者も何度かテーブルやスケールをびしょびしょにしてしまいました。ひとつずつ、ていねいに確認しながら組み立てましょう。
「リリースリング」はまっすぐ差し込んで戻しましょう。その際、本体側のパッキンが外れてしまうことがあるので、パッキンの状態の確認も忘れずに
また、「リリースリング」の作りは結構華奢なので、着脱時に無理に力を入れたり、斜め方向に力を加えたりすると弁の付け根が折れてしまう場合があります。実は、筆者もポキリとやってしまいました……。「リリースリング」は単体で販売されているので買い替えられます。弁となるシリコンボールは付属しないので、交換前の「リリースリング」からシリコンボールを取り外しておきましょう。
シリコンボールは使い回しなので、「リリースリング」が壊れても捨てないように!
一般的な透過式のドリッパーはお湯を注ぐスピードや注ぎ方で味わいなどが変わるのに対し、浸漬式の「クレバーコーヒードリッパー」はお湯の量や温度、浸漬する時間を決めておけば同じ味を再現できます。抽出方法が同じ「フレンチプレス」も同様ですが、「クレバーコーヒードリッパー」はペーパーフィルターを使うため微粉が混入しにくく、コーヒーかすの処理が簡単。手軽に浸漬式を楽しむには最適なツールでしょう。
使用後のコーヒーかすは一般的なドリッパーと同じようにペーパーフィルターごと捨てるだけ!
浸漬式ドリッパーはほかにもありますが、抽出したコーヒーを落とす際にボタンなどを押す必要がなく、透過式ドリッパーとしても使えるのが「クレバーコーヒードリッパー」のいいところ。3,000〜4,000円で購入できるので、ちょっと試してみたいくらいの気持ちで手に入れてもすぐに元は取れそう。ハンドドリップ初心者にもうってつけです。