こんにちは。ファイナンシャルプランナーの中川優也です。前回は「住宅ローン金利を値切る交渉術」についてアドバイスしました。今回は、低金利のいまだからこそ考えてみたい、一番お得になる住宅ローンの借り方について、住宅ローン控除などを絡めてお伝えしたいと思います。
年末調整や確定申告で、必ずといっていいほど申請する住宅ローン控除。年末時点のローン残高の1%分、所得税の還付が受けられる(控除しきれなかった分は住民税の減税も)仕組みです。入居年から向こう10年にわたって毎年最大で50万円(認定長期優良住宅の場合)税還付が受けられるため、対象者で申請しない人はいないでしょう。
住宅ローン残高の1%と割合が決まっているため、「それなら、住宅ローンの残高が多い(たくさん借りる)ほどお得なんじゃないの?」という質問をよくもらいます。本当にお得なのでしょうか。以下の条件で検証してみます。
検証の条件
物件の購入価格:4000万円
返済期間:35年
金利:年0.444%(住信SBIネット銀行2017年9月金利)、金利変動なし
融資手数料:借入額の2.16%
年収:800万円
頭金用の貯金:1000万円
認定長期優良住宅ではない
元利均等返済
登録免許税の軽減を満たす
この条件で、
(A)頭金を1000万円入れて住宅ローンを3000万円借りる場合(毎月の返済額77,135円)
(B)頭金を500万円入れて3500万円借りる場合(同89,991円)
(C)頭金を入れず4000万円借りる場合(同102,847円)
という3パターンで、住宅ローン控除の適用がなくなる10年後に手元に残るお金を比べてみます。
検証条件とした住宅ローン金利(0.444%)と住宅ローン控除の割合(1%)だけを比べると、住宅ローンの金利のほうが低いのはみてわかります。支払う住宅ローン利息よりも受けられる住宅ローン控除が多いため「じゃ、たくさん住宅ローンを借りるほどお得さが増すはずでしょう」と、単純にみればそういう答えにたどり着きます。
しかし、住宅ローンで負担するのは支払利息だけではありません。借入額を増やせば、以下の諸費用がその分増えます。
融資手数料は、住宅ローンを借りる際にかかる手数料です。この融資手数料が「借入額の●%」のように借入額によって変動する定率型であれば、借入額が増えると融資手数料も増えます。
保証料は住宅ローン返済ができなくなった場合の保証に対する費用です。そのため、住宅ローンの借入額が多いほど、支払う保証料も多くなります。
抵当権設定登記費用は、住宅ローンを借りる際に必要な抵当権設定登記にかかる費用です。このうち、住宅ローンの借入額によって変わるのは登録免許税です。登録免許税額は住宅ローンの借入額×0.4%で、一定の条件を満たすと0.1%に軽減されます。
住宅ローンをたくさん借りるほどお得になる、という状態を実現するためには、住宅ローン利息とこうした諸費用を合わせた金額が、住宅ローン控除額よりも少ない必要があります。
検証の条件で記載した、(A)頭金を1000万円入れて住宅ローンを3000万円借りる場合(B)500万円入れて3500万円借りる場合(C)頭金を入れず4000万円借りる場合それぞれの、住宅ローン控除額から利息や諸費用を差し引いた、10年後に手元に残るお金は以下の表の赤いラインで囲った「E」の欄にあるとおりです。
借入額が500万円増えるごとに約12万円ずつお金が多くなっていることがわかります。つまり、現在のように住宅ローン金利が低い場合は、頭金を入れて借入額を減らすよりも、住宅ローンをたくさん借りて控除額を大きくしたほうがお得になります。
住宅ローンを借りるほどお得さがアップすることを説明しました。しかし、頭金を入れて借入額を小さくすれば毎月の返済負担は減り、その分手元に残るお金は増えます。頭金を使わないで全額を住宅ローンでまかなえば、頭金をとっておくことができます。今度は、こうした手元に残るお金を有効活用した場合を確認してみましょう。
「検証の条件」で示した3パターンを使い、以下のように想定します。
頭金として1000万円支払っており、手元にお金は残っていません。しかし、月々の住宅ローンの返済額が77,135円と、4000万円借りるとき(102,847円)と比べ25,712円少なく済むため、このお金を運用で増やすとします。(25,712円×12か月=毎年貯まる308,544円を運用)
頭金として500万円支払い、手元に500万円残っています。加えて、月々の住宅ローン返済額が4000万円借りる場合と比べ12,856円(1年で154,272円)少なく済むため、このお金を運用して増やします。(頭金の残り500万円+毎年貯まる154,272円を運用)
頭金を支払わず、すべて住宅ローンでまかなったケースです。手元には1000万円残っています。そのため、この1000万円を資産運用で増やすとします。月々の返済額の負担軽減はないため、積み立てるお金はありません。(頭金として使わなかった1000万円のみを運用)
この3つのパターンを前提に以下のようにシミュレーションすると、以下の表の「J」欄にあるように、住宅ローンの借入額が500万円多くなるごとに10年後に手元に残るお金が80万円多くなる、という結果になりました。
数字がこまかいので、「何やら難しいな」と感じたら、それぞれ青いラインで囲った「10年間で受け取る金額」と「10年間で支払う金額」、赤いラインの「10年後に手元に残るお金」だけ、さらっと確認してください。
※1:(102,847円−77,135円)×12か月=308,544円を年1.5%の利回りで運用
※2:(102,847円−89,991円)×12か月=154,272円を年1.5%の利回りで運用
※3:500万円を年1.5%の利回りで運用
※4:1000万円を年1.5%の利回りで運用
住宅ローンの控除額と諸費用だけを比較した場合、手元に残ったお金を有効活用した場合の2パターンでそれぞれお得さに違いがあるのかみてきましたが、いずれのケースでも、借入額が多いほうがお得だということがわかりました。「たくさん借りたほうが住宅ローン控除が多くなってお得」という意見は、正しいといえそうです。
また、住宅ローンの借入額を多くすることで、団体信用生命保険の保障額も多くなります。団体信用生命保険とは、住宅ローンの契約者が死亡・高度障害、そのほか銀行などが定めた条件に該当すると、住宅ローンの返済を免除してくれる保険です。つまり、この保険の保障額は、住宅ローンの残高と等しくなります。
手元にある1000万円を頭金として入れて3000万円借り、翌日に亡くなった場合、3000万円のローンの残債がゼロになるほか、頭金として使ったことで手元にもお金は残りません。一方で、頭金を入れずに4000万円借り、翌日に亡くなれば、手元には頭金に使わなかった1000万円が残ります。
手元にお金を置いておけば、急きょお金が必要になったなど、不測の事態への備えとしても活用できます。
住宅ローンはたくさん借りるほどお得度が増す、ということを実証してきました。ただし、注意点があります。これまでの説明は、すべて金利が年0.444%の住宅ローンを借りる場合を前提にしています。たとえば、金利が高い場合はどうなるでしょう。
こまかい計算は省きますが、住宅ローン金利が年0.725%を超えるようであれば、住宅ローン控除額よりも支払う住宅ローン利息+諸費用の合計が多くなり、借入額が多いほど損になります。
価格.comの住宅ローンランキングをみると、0.725%以内で借りられる住宅ローンは借入期間35年の全期間固定タイプで一部ありますが、多くは変動金利タイプや固定金利で借りられる期間が10年などと決まっている当初固定(固定期間選択)タイプです。今回は金利変動なしを想定しましたが、変動金利タイプや当初固定タイプは金利変動リスクがあることにも、十分注意してください。
住宅ローンの金利が高く、頭金を入れるか入れないかで支払う利息に大きな差が出るのであれば、頭金を入れないという選択肢はないでしょう。しかし、いまは住宅ローンの金利が低く、頭金を入れる、入れないで大きな差はありません。住宅ローン控除で受けられる税控除のメリットも、住宅ローンの借入額が多いほど大きくなります。
「住宅ローン=人生で一番大きな借金」であるため、ファイナンシャルプランナーの多くは「頭金は2割必要」「住宅ローンの借入額は少ないほうがいい」と、なるべく多く借りすぎないようにとアドバイスするでしょう。こうしたアドバイスを鵜呑みにせず、何が自分にとって一番有利なのか、しっかり考えましょう。
もちろん、その時々によって金利情勢は変わります。そのとき、どんな借り方をすれば自分にとって一番メリットがあるのか考え、賢くお得に住宅ローンを利用してください。
※本記事は、執筆者個人または執筆者が所属する団体等の見解です。
理想の家と豊かな生活を手に入れるためのコンサルタント。 全国から住宅購入相談を700件以上受ける。アドバイスは住宅ローンや保険の見直しにとどまらず、お金持ち思考へ切り替える方法など多岐にわたる。