今年も新米の季節がやってきました。近年、お米業界には新品種が毎年登場しています。お米大好きな筆者はこの時季になると、「今年はどんな味に出会えるんだろう、どんな食感に出会えるんだろう」とワクワクしながらスーパーのお米コーナーを巡っています。
そんなごはん大好きオヤジにとっては、炊飯器選びも大切なイベント。高価なものなので毎年買い替えることはできませんが、大きく進化したモデルを見るにつけ、物欲、いや、食欲がムラムラ沸き立ってきます。
というわけで今回フィーチャーするのは、2018年に大幅なモデルチェンジを行った象印マホービン(以下、象印)の“プレミアム圧力IH炊飯ジャー”「炎舞炊き NW-KA10」(以下、炎舞炊き)。その進化っぷりを実食してチェックしました!
ごはん好きオヤジとして、今年の象印炊飯器の何が驚いたって、これまで1番にアピールしてきた南部鉄器の内釜「南部鉄器 極め羽釜」をあっさりとやめてしまったこと。新しい内釜を採用し、完全に新世代モデルになったのです。
前モデル「南部鉄器 極め羽釜」(右)の本体外寸は幅30.5×奥行き40×高さ24.5cmに対して、新モデル「炎舞炊き」(左)は幅27.5×奥行き34.5×高さ23.5cmと、奥行きが大幅に縮小しています。カップボードや炊飯器ラックにより収めやすいサイズになりました
内釜は形状が大幅に変わっただけでなく、重量も約2kg→約1.2kgとなり、持ち運びやすく、洗いやすくなっています。内釜を含む総重量も約11.5kg→約8.5kgと大幅削減
従来の南部鉄器を使った内釜はIH式と相性がよく、かまどの形をベースとした羽釜形状にすることで、大火力と激しい熱対流を生み出してごはんをムラなくふっくら炊き上げる、というのがウリでした。南部鉄器は重いというデメリットこそあったものの、実際に「極め羽釜」で炊いたごはんは、ふっくらもちもち、甘みがじゅわーっという感じで、とてもおいしいものでした。
2018年からその南部鉄器をやめてしまった理由は、「かまど炊きの味をより追求した結果」だそうです。本製品の開発にあたり、同社は奈良の古民家にて、実際にかまどでごはんを炊いてみたそう。その際、炎が激しくゆらぎながら釜を部分的に加熱していることがわかりました。
ズバリ、「炎舞炊き」の特徴は、この「炎のゆらぎ」を再現したところ。底部のIHヒーターを3分割し、部分的に集中加熱することで釜内に温度差を生じさせ、激しく複雑な対流を引き起こすことに成功したのです。以下の動画は、「炎舞炊き」がいかに「炎のゆらぎ」を再現しているかをわかりやすく表現したものです。
写真左が「炎舞炊き」のIHコイル。この3分割構造がポイントなのです
単位面積あたり従来の4倍以上という大火力と激しい対流により、釜内のお米をより大きくかき混ぜて、お米1粒ひと粒に高い熱を伝え、甘みのあるふっくらしたごはんを炊き上げる構造です。以下、従来モデルとの比較動画をご参照ください。
そして、加熱方式を変更したことで、内釜の形状もそれに合ったものに変更しなければいけなくなりました。そこで新しい「炎舞炊き」では、IHと相性のよい鉄を素材に、熱伝導率の高いアルミと蓄熱性・耐久性にすぐれたステンレスを仕込んだ「鉄〜くろがね仕込み〜豪炎かまど釜」を採用したのです。
ちなみに釜のフチを分厚くしているのは、熱が外に逃げるのを抑えて高火力の熱を効率的にお米に伝えるため。極め羽釜のノウハウが、ここに引き継がれています。なお、南部鉄器の内釜は完全に撤退というわけではなく、3.5合炊きの小容量モデルで継続しています
ということで、まずは新製品の「炎舞炊き」と前モデルの「南部鉄器 極め羽釜」を炊き比べてみました! 両モデルとも、炊飯メニューは「熟成炊き」を選択して炊いてみます。
この「熟成炊き」は、じっくりと時間をかけて甘みを引出すモードなのですが、従来の「極め羽釜」は炊きあがりまでが94分なのに対して、「炎舞炊き」は74分と20分も短くなっています。この時間の違いが、どのように味・食感に影響するのでしょうか。
「極め羽釜」の「熟成」モードは炊きあがりまで94分で、「炎舞炊き」は74分。いずれも2合で炊きました
最初は「極め羽釜」で炊いたごはんから食べてみましょう。ふっくらして、やはりおいしいです。火が全体に回っていることがよくわかる粒の大きさは、象印炊飯器で炊いたごはんの特徴。本当にひと粒が大きい。そして食感はやわらかめで、もちもちしていながら、さっぱり。噛むごとに甘みがじゅわーっと口の中に広がります。うん、これぞ「南部鉄器 極め羽釜」、安定のおいしさ。
「南部鉄器 極め羽釜」で炊いたごはんはやわらかめでもちもち。甘さは軽めで、さっぱりした味わいです
次に「炎舞炊き」で炊いたごはんです。こちらも、ふっくらもちもちさっぱり……なのですが、「極め羽釜」で炊いたごはんよりお米の表面がつるつるしていて、それでいて噛んでみると粘り気を強く感じます。甘みも強く、香り高い! ひと噛みごとに、お米の甘みと香りが口の中に広がります。比べてみると、なるほどこれが、象印がこだわった「かまどごはん」なのだということがよくわかります。
同じ「熟成」モードでも、「炎舞炊き」のほうがちょっと硬めで味に深みがあります。香りも強く、甘みも濃い!
ともに粒が大きくふっくらしており、ふわふわした食感という表現が最適かもしれません(写真は「炎舞炊き」で炊いたごはん)
そして「炎舞炊き」の炊飯クオリティで驚いたのが、「鉄器おこげ」「玄米」「お弁当」の3つのメニューです。大事なことだからもう1回言います。これは正直驚いた。
まずは「鉄器おこげ」から。その名の通り「おこげ」ができるモードです。これで炊飯すると、おこげ自体は意外にやわらかくて香ばしいので食べやすいのですが、それよりもびっくりしたのは、焦げていない部分がウマいんです! 少し硬めに仕上がり、表面がつるつる、中もちもち、おこげの香ばしさをまとわせているので、舌と鼻孔で存分においしさを味わえます。
さらに驚いたのが12時間保温後。ちょっと硬めだったおこげがやわらかくなり、とても食べすくなりました。おこげの香りそのままに、もちもちのごはんになるのです。
「鉄器おこげ」モードに限らず、「極め保温」のおかげで、中のごはんが劣化しないのも「炎舞炊き」のポイント。「うるおい二重ぶた」と内ブタによって蒸気を閉じ込め、さらに適度な温度コントロールを行うことで内釜が熱くなりすぎないためです。12時間程度の保温ならば全くパサつかず、みずみずしくておいしいごはんが食べられます!
「おこげ」モードは軽く黄色く焦げる程度で、それほど硬くはありません。焦げていない部分がおこげの香りをまとい、とてももちもちして、おいしいったら!
「鉄器おこげ」モードの焦げていない部分を冷凍してみました。解凍後のごはんも、もちもち。みずみずしさを失わず、炊きたてのような食感とおいしさを維持しています
次に「玄米」モードの炊き具合をご紹介しましょう。大阪・難波に先ごろオープンした「象印食堂」で出しているのと同じ銘柄の玄米「金のいぶき」を近所のスーパーで見かけたので試してみました(→「象印食堂」の詳細はこちら!)
すると、これが本当にウマい! 硬さもなく、かといってべちゃべちゃしたやわらかさもなく、ほどよい噛みごたえなのです。玄米特有のにおいもまったくなし。むしろ甘いです。ほんのりバターのような味と香りが口いっぱいに広がり、感動のおいしさ。これなら毎日玄米ごはんが食べられます。
実は、わが家の20歳の次女は玄米ごはんが嫌いなのですが、「炎舞炊き」で炊いた金のいぶきはバクバク食べて、ひとりで釜をカラにしてしまいました。とーちゃんももっと食べたかったよヨ(泣)
大阪の象印食堂のメニューでも出されている「金のいぶき」を試してみました! 玄米を普通モードで炊くと70分強で炊きあがります
均一に炊きあがり、うっすらとカニ穴ができているのがわかります
ふっくら、つやつやしてみずみずしい玄米ごはんが炊けました。「金のいぶき」の性質なのか、とっても甘い!
最後に「お弁当」モード。これもスゴかった。このモードでは、冷めても硬くなりにくいごはんが炊けるということですが、炊きたてでも特にやわらかすぎることはなく、そのままおいしく食べられます。
そしておにぎりを握って5時間ほど放置した後で(ラップはかけました)食べてみたら、表面がつるつるでさっぱりしながら噛むともちもち! 冷やごはんでも硬くならず、むしろみずみずしい食感なんです。
しかも炊きあがったのが夜19時くらいだったのですが、その後「極め保温」して翌日に妻がお弁当に詰めて持っていったところ、ごはんのみずみずしさが全く損なわれず、もちもちした食感を楽しめたそうです。恐るべし、「お弁当」モードと「極め保温」のあわせ技!
5時間たったおにぎりの表面はまだつやつやしています(ラップをかけて常温放置)
割ってみると、中もつやつやで、食感はもちもち!
ちなみに、象印炊飯器のプレミアムモデルの特徴のひとつとして、「わが家炊き」モードがあります。これは、最初に同モードで炊いて、その食感の感想を炊飯器に入力することで徐々に自分の好みを探っていくという、ごはん好きにはたまらない機能。もちろん最新の「炎舞炊き」でもしっかり引き継がれています。
「かたさ」が11段階、「粘り」も11段階、合計121段階で変更することが可能なのですが、1回の変更の振れ幅が少ないので、ちょっとずつ好みを探れるのがよいところ。時間がかかりそうですが、家族に意見を聞きながら味を修正していくのが楽しそうです。
「わが家炊き」は、ごはんを炊いて食べるたびにアンケートに答えるかたちで感想を入力していくことで、自分好みの味を探すことができます
筆者は正直、象印の炊飯器においては「南部鉄器 極め羽釜」が「おいしいごはん」の最終型だと思っていました。しかし、新世代の「炎舞炊き」は、そのステージを1段も2段も上げた印象です。
近年、バーミキュラやシロカといった新興メーカーが高級炊飯器市場に進出して話題をさらっていますが、どっこい老舗メーカーだって負けてないよ! という意気込みというかプライドというか、底力みたいなものが「炎舞炊き」からは感じられました。むしろ、象印による「おいしいごはん」の追求に終わりがないことに恐ろしさすら感じつつ、筆者は今日もおいしく玄米ごはんを食べています。
1966年生まれ、福島県出身。大学では考古学を専攻。主に生活家電を中心に執筆活動する家電&デジタルライター。レビューや検証記事では、オジさん目線を大切にしている。得意分野は家電流通・家電量販店。趣味は、ゴルフ、ギター、山登り、アニメ、漫画、歴史、猫。