この企画は、スマートホーム化した筆者・鴻池宅をモデルケースに、IoT家電がもたらすQoL(クオリティ・オブ・ライフ)の向上を体感検証していくシリーズである。これまで、エアコン、テレビ、レコーダーなどのIoT対応機器を取り上げてきたが、ついに連載6回目の今回は「調理家電」に挑む。
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「ついに」というほど決意表明をしたのは、筆者は調理が大の苦手だからだ。51年の人生で、ひとり暮らし経験もトータルで5年はあり、何度か調理をした記憶はあるが、パスタを茹でて市販のレトルトソースをかけるか、白米を炊いて市販のレトルトカレーまたは中華丼をかけるか……という三択で乗り切った。27歳で結婚して以降は、ありがたいことに奥さんが23年間料理担当で現在に至り、自分は「調理」というものから目をそらしてきた。
食べることは大好きで、決して調理や手間を嫌っているわけではないのだが、根本としてマルチタスクが苦手。料理は、食材をムダにしないよう計画性が必要だし、さらに調理中は複数の工程を同時に管理する必要があり、シングルタスクの筆者には荷が重い。
そんな中、ようやく筆者が「これは自分でもイケそう?」と思えたのが、ご存じ、シャープの自動調理鍋「ヘルシオ ホットクック」なのである。ホットクックはすでに人気商品なので、何を今さら……感があるだろうが、時間をかけてようやく、調理に鈍感な筆者の視野にも入ってきたという状況なのだ。
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近年、シャープの家電製品は「AIoT」をテーマに掲げ、AIやIoT技術による高機能化が特徴。調理家電のホットクックも、その例に漏れない。そう、まずこの「IoT」や「AI」が筆者の琴線に触れた。こういった機能性が、調理家電に興味を持つ入り口となったのである。
さらにいろいろと製品情報を見てみると、使い方は材料を切って鍋に放り込むだけと超簡単。レシピにも、「予熱」とか、「○○分経ったら○○を投入する」とか、「火加減を〇〇にする」「焦げ目がついたら裏返す」のような話が一切出てこない。火加減やかき混ぜを自動で行ってくれるので、本当に「ホットク」(放置しておく)だけでいいらしい。ネーミングにダジャレが効いているのもイイ。
重複するが、筆者は決して調理の手間が惜しいわけではない。自宅勤務なので時間もある。ただ、「ホットクックなら複雑なことを考えなくて料理ができる」という点に、大きな魅力とひと筋の光明を見出したのだ。
せっかくなので今回は、シャープに取材してホットクックのユーザー属性情報を教えてもらった。ホットクックには容量別にいくつか種類があるのだが、これがわりと興味深い内容であった。
上の画像を見ていただくと、2.4L(2〜6人用)は女性ユーザーが約7割を占め、さらに年齢層も30代と40代に集中しているのがわかる。シャープの分析では、ファミリーユースと見ていて、調理家電としては順当と言える。いっぽう、比較的新しく発売された1.0L(1〜2人用)は、男性ユーザーが過半数の51%を占め、年代層も20代〜50代まで幅広く分散している。これはシャープとしても意外な結果だったとのことだ。
この数値情報だけでは、ユーザー像や実態はわからないが、単身者の食事に加え、男性の趣味としての「料理」としての用途も見えてくる。シャープのAIoT家電はネットへの接続率がわかるそうだが、数ある対応家電の中でもホットクックは断トツで、購入者の7割近くがネットに接続しているという。
鍋ひとつでできるというシンプルさに加え、AI+IoTのデジタルガジェット的な要素が、筆者を含め男性を調理の世界に惹き入れたのではないだろうか? 調理が趣味として成立すれば、お腹も満たせるので一石二鳥と言えるかもしれない。
というわけで、さっそく調理に挑戦したい。まずは第一関門として、メニューを決める必要がある。「今晩何にしようかしら……」は、人類に共通する毎日の悩みごとではないだろうか。このプレッシャーに毎日耐えるのはストレスである。
筆者の場合、調理初心者なので、旬の食材、栄養バランス、特売情報なんてものはすっ飛ばし、食べたいモノを選ぶことにした。あれこれ考えると面倒になって先に進めないからだ。
というわけで、第一のターゲットは「ローストビーフ」。いつもはお店で完成品を購入しているが、家計の都合上、量が限られてしまう。これがなんと「低温調理」に対応したホットクックで作ることができ、お安めの肉でもパサパサしないらしい。同じ予算で、おいしくたくさん食べられるのではと夢がふくらむ。
では実践! 肉はスーパーでモモブロックを500g、約1000円で調達してきた。まずこれを、フライパンで焦げ目が付くまで焼くところからスタートする。
レシピを読むと、まずフライパンで表面に焦げ目がつくまで焼く必要がある。O157系の食中毒で寝込んだ経験のある筆者としては、納得できる作業
表面を焼いたブロック肉をファスナー付き袋に入れ、水を張ったホットクックに入れる
ここまでで下ごしらえ終わり。あとは肉をファスナー付きの袋に入れて、水を張ったホットクックの内鍋に入れてフタを閉めるだけ。通常、調理家電を使う場合は、温度調整やタイマー設定が必要だが、ホットクックなら、スマホアプリからメニューを選んで転送操作した後、ホットクック本体でダウンロードしたメニューを呼び出せばOK。このIoT的な使い勝手が、筆者には実にわかりやすくてよい。
スマホでレシピを選び、ホットクックに転送すればよし! このIoT感覚がとてもいい
調理はホットクックが自動でやってくれるので、あとはほうっておく。ホットクックはセンサーを搭載しており、57℃をキープして低温調理を行うという。57℃はタンパク質が変化しミディアムレアになる温度で、この仕組みなら、原理的に「焼き過ぎ」は起こらないので安心とのこと。
さらにホットクックのありがたところは、炊飯器みたいな感覚で使えるところ。調理中に外出OKというのがイイ。世の中には、普通の鍋で使える低温調理器の存在もあるが、いくら低温とはいえ、加熱中に外出するのは心配だ。その点ホットクックは、調理中の時間を有効に使えるのも大きなメリットに感じる。筆者と奥さんは散歩が趣味なので、ホットクックで調理を開始したら公園をブラブラして、ついでに合いそうな赤ワインでも買いに行こう……と、イイ感じに過ごした。
ローストビーフの加熱時間は3時間強となかなか長いが、上述の通り、手がかからずほかのことができるので、実質的な調理時間は下ごしらえの10分だけと言ってもいいだろう。ホットクックでの調理が完了したら、肉を内鍋から取り出し、さらに1時間休ませてカットする。
できあがり! 料理初心者が初めて作ったにしては上出来ではないだろうか?
なお、実は食べようとしたところで問題が発生。ローストビーフにかけるソースのことをすっかり忘れていたのだ。レシピ本には作り方の記載があるが、ここは面倒なので、市販品を買いにスーパーへ。こだわり過ぎても億劫に感じるので、ラクできるところはラクして前向きに楽しみたい
そんなこんなで、いよいよ実食。100gで200円とお安めのモモ肉だが、ムラなくパーフェクトなミディアムレアに仕上がっていてやわらかい! 水分も適度でうま味もしっかり感じる。脂の味ではなく、肉本来のうま味だ。
肉好きの筆者だが、40代なかばから極端に脂に弱くなってきた。霜降り肉もウマいが、ひと口でお腹いっぱいになるのがくやしい。このローストビーフなら、うま味を感じつつたくさん食べられるのがうれしい。これらの特徴は低温調理によるものだが、ホットクックなら、ホットクだけでできるので、肩に力が入らない。週の半ばでも、昼食後に仕込んでおけば、ディナーが充実しそうだ。
先ほど、料理の際のメニュー選びが難題だといったが、ホットクックと連動するウェブサービス「COCORO KITCHEN」(ココロキッチン)を利用すると、みんなが検索している料理、作っている料理を教えてくれるのでとても参考になる。こうしたランキングは、作りやすさ、おいしさ、コスパなども反映されているはずなので、貴重な情報。そして、これらの新しいレシピをどんどん追加できるのも、IoT対応ならではだ。
さらに、専用コミュニティーサイト「ホットクック部」にユーザーが投稿したメニューが、厳選した上で追加される仕組みも斬新。ユーザーの知恵を共有できるのはIoTの特性を生かした高機能、好サービスと言え、その価値と楽しさは、調理初心者の筆者にとっては、無限と言っても過言ではないものだ。
では実際に見ていこう。「COCORO KITCHEN」を眺めると、まず目に飛び込んで来るのが「今、調理中」と「急上昇ランキング」。人気ランキングも含め、リアルなユーザーの声なので「ハズレ」の確率は低いだろう。
50歳を超えると量が食べられないし、健康でおいしく食べられる回数も残り少なくなってくる。イチかバチかで大当たりをねらうよりも、「ハズレ」を確実に避けたいので、人気ランキングの情報は値千金
ほか、ユーザー設定で「料理で重視するポイント」を選択しておくと、それに合ったメニューを勧めてくれるのも気がきいている。料理で気になるポイントと、家族構成を選択すればOK。「簡単」「旬の食材」「低カロリー」といった項目もあり、アラフィフ夫婦の好みや体調にも合わせることができる。さらに、自身の調理履歴から、AIでメニューを提案してくれるのも現実的だ。唐突に、「舌平目のムニエルブルゴーニュ風」とかを勧められても困るので……。
こちらが「COCORO KITCHEN」のユーザー設定画面。料理で重視するポイントを3つまで選択でき、レシピのレコメンドに生かしてくれる
続いては、何を作ろうか……? いろいろ見ていたら、「急上昇ランキング」の第2位「牛肉トマト丼」(ホットクック部)が目に留まった。なじみのないメニューで少々不安は感じるが、IoTが生み出す価値をフルに体験する意味でも、ホットクック部のメニューを試すべきだろう。
こちらが、コミュニティーサイトのホットクック部に投稿されている「牛肉トマト丼」である
材料は至って一般的で、すべて近所のスーパーで難なく手に入る。調味料が家にあるモノだけで済むのも好ましい。ここで、特殊な調味料が出てくると、筆者のような初心者かつ怠けモノは、料理嫌いになってしまう。ある意味、最高を目指す料理ではなく、一般家庭での作りやすさを考慮しているようで好ましい。
というわけで作ってみた! 材料は、牛薄切り肉、しょうゆ、おろしにんにく、トマト、玉ねぎ、エリンギ、しょうゆ、みりん、そして白米。近所のスーパーで手に入るものだけでできる
どんぶりの具で牛肉にトマトを組み合わせるという発想は筆者にはない
こちらのレシピ、あらかじめ牛肉をしょうゆとおろしにんにくに漬けるというひと手間は必要だが、あとは食材をカットしてホットクックに入れるだけなので、やはり簡単だ。
完成したものを食べてみると、さっぱりしつつもコクがあり、実においしい! トマトの風味がアクセントになるのか、少量のしょうゆとみりんだけでこのような深みのある味わいが出ることに驚いた。食材に含まれている水分だけで調理する「無水調理」のレシピということもあり、とにかくうま味が凝縮されていて、おいしい。
どんぶりものを作ろうとしても、牛肉にトマトという組み合わせは、筆者の知恵では一生出てこないだろう。まさに人類の英知の集合である。
余談だが、元々「COCORO KITCHEN」はアプリだったが、現在はウェブサービスに移行し、ブラウザーで閲覧するスタイルになっている。とは言え、上述の通り見た目はアプリ画面に近く、スマホのホーム画面にページのショートカットを作っておけば、使い勝手の面でアプリと遜色ない。
ホットクックのおかげで、初めて料理に興味が持てたことは、筆者にとって人生の楽しみを広げることにつながった。ホットクックは、ほうっておいても料理を作ってくれるという便利さに加え、近年はIoTという仕組みを活用することで新しい価値を生み出したことも画期的で、人気商品になったのもうなずける。アイデアの勝利と言えるだろう。
これまで我が家の料理担当はずっと奥さんだったが、ホットクックを使い始めてからは、いくらか筆者にも分散された。奥さんが調理時間から解放されると、一緒に散歩に出かける時間も増える。予約機能や、メニューに応じた下加工済み食材を宅配してくれるサービス「ヘルシオデリ」なども活用すると、もっと自由な時間が手に入るだろう。
楽しく、おいしく、そして時間を有効活用できることで日常が充実する。ホットクックは単なる調理家電ではなく、QoLアップにつながる存在だと感じた。これこそが高い人気を獲得し、ユーザー層を広げている理由のようだ。
オーディオ・ビジュアル評論家として活躍する傍ら、スマート家電グランプリ(KGP)審査員、家電製品総合アドバイザーの肩書きを持ち、家電の賢い選び方&使いこなし術を発信中。