おいしいものが食べたいけれど、キッチンに立ってがっつりと調理するのは面倒くさい。これはもう全人類が等しく抱える悩みでしょう。お腹を減らした状態でちまちまと野菜を刻んだり、じーっと鍋やフライパンの前に待機したりするのとか、基本的にダルい以外の何ものでもありませんし(個人的見解)。
そんな我ら自堕落クッカーの救世主とも言えるのが、ここ数年でかなり普及した感のある低温調理器です。沸点よりも低い温度で湯せんしてじわじわと肉や魚を加熱することで、パサつかずしっとりした食感に仕上がり、しかも1度セットすればあとは放置でOK。これはシンプルにありがたいですよ。
ただ、一般的な低温調理器って、大きな鍋をヨッコラショと出して、たっぷりの水を注いで、そこに調理器本体を設置して……と、セットするまでに微妙な手間があるんですよね。
一般的な低温調理器のイメージ図。大きめの鍋に水を張って食材を放り込み、調理器本体をセットするだけで準備完了! ……なのですが、やってみると意外と面倒なんですよね……
大きな鍋に水を張るのは重たくてしんどいし、水が適温に加熱されるまで余分に時間がかかることもあるし。ひとり暮らしの人なら、そもそもそんな大きな鍋を持っていないという場合もあるのでは。そのあたりを何とかしてもらえると、自堕落王(ジダラキング)的には最高なんですけど……。
なんてことを考えていたら、アイリスオーヤマからポーチ型の低温調理器「ポケットシェフ」が発売されているのを発見。なんと鍋も水も、何なら火も不要で低温調理ができるそう。これが本当なら、自堕落クッカー待望の調理家電じゃないですか。
鍋も水も不要の新しい低温調理器「ポケットシェフ」(アイリスオーヤマ)
というわけで、さっそくメーカーからお借りしてみました。本体は、約230(幅)×240(奥行)×10(高さ)mmの黒いポーチと、約90(幅)×60(奥行)×38(高さ)mmのコントローラーが付いた電源コード(長さ約1m)で構成されています。
ポーチの口を開いてみると、中は薄いシート状の金属線が全体的に配置されていました。実はこれがヒーターで、中に入れた食材をじっくりと低温加熱してくれるというわけ。
ポーチ内部のヒーターからダイレクトに加熱するから、鍋も水も不要ということ。なるほど!
調理温度は40〜80度から5度刻みで、調理時間は1〜540分でそれぞれ設定可能です。なお、時間は1〜10分は1分刻み、10〜120分は5分刻み、120〜540分は30分刻みと、設定時間により調整できる範囲が異なります。
たとえば、鶏むね肉1枚を使ってサラダチキンを作る場合、温度は80度、時間は120分の設定で完成するそう。調理にかかる時間は一般的な低温調理器とほとんど変わりませんね。
ただ、定格消費電力が90Wとかなり抑えめ(一般的な低温調理器は大体800〜1,000W)なのがうれしいポイント。「ヒーター→水→食材」のように間接的な加熱をしない分、効率的なのかもしれません。
コントローラーは温度と時間をセットしてスタートするだけ。操作に迷うことはまずないはず
それでは「ポケットシェフ」のお手並み拝見ということで、ローストビーフを作ってみました。
牛もものブロック肉に下味を付けて軽くもみ込み、密封袋にイン。このとき、可能な限り空気を抜き、真空に近くなるように密閉するのが大切です。個人的には、水を張ったボウルに袋ごと浸けて水圧をかける方法が簡単でよかったです。
牛もものブロック肉200gに塩・コショウをまぶし、チューブのニンニクを塗って下味を付けます、肉が厚すぎると加熱しきれないので、5cm厚ぐらいを目安にしましょう
耐熱100度以上の密封袋に食材をイン。空気は断熱性がめちゃくちゃ高いため、ここでしっかり抜いておきましょう。真空パック機があれば話は簡単なのでしょうが、なくても何とかなりました
これをポーチに突っ込んで、あとは温度と時間をセットするだけ……なのですが、ここでも重要なポイントが! ポーチの内側上部には温度センサーが搭載されているため、ここに触れないよう、本体の2/3より下側に食材が収まるように入れる必要があります。
ポーチの内側、ファスナーの近くに温度センサーが搭載されています
筆者は大きめの袋を使用したため、端を2〜3回折りたたんで入れました。ちなみに、袋を折って入れる場合は、折った部分が食材に重ならないようにするのが調理のコツとのこと。
袋を折る場合は、折った部分が食材に重ならないよう注意しましょう。でないと、熱がうまく伝わりません
ポーチのファスナーを閉めたら、コントローラーで温度を80度、時間を150分に設定して調理スタート。あとはただ待つだけで、火加減を見たり、かき混ぜたりといった作業はまったく必要なし。
ぼーっと待っている間にタイマーが切れて、ローストビーフが完成しました。ぶっちゃけ、始めの手順さえ守れば、料理経験ゼロの人でも簡単に作れるでしょう。
調理中は「IRIS OHYAMA」のロゴが見える側を上にして平置きします
調理が終了したら、袋ごと取り出します。食材やポーチの内側が結構熱くなっているので、取り出す際はミトンやトングなどを使いましょう。素手はNGです!
包丁で切ってみると、ザ・おいしそうな肉! という見事なロゼ色の仕上がり。本当にただぼんやりと放置していただけなのに、 こんないい感じにローストビーフができあがっちゃうの、すごいなー。
ほどよく火が通ったローストビーフの完成! こんな手軽に作れるの!? と驚くレベルでした
食べてみると……おおー、パサつきゼロのしっとり食感! 噛むとじゅわーっと肉の旨味があふれてきます。そのままの味付けでも十分でしたが、わさび醤油やバルサミコ酢を煮詰めたソースなんかを添えてみたら、完全にパーティーのメインに出てくる味になりました。
袋にたまっていた肉汁とバルサミコ酢、醬油を煮詰めたソースをかけてみました。もはや食べる前からうまいとわかります
「自宅でローストビーフ丼をおかわりし放題」なんて贅沢も簡単にかないます。ただ、個人的には白飯よりも、ピラフのほうが肉の味をしっかり感じられて相性がよいと感じました
いくらおいしいとは言ったって、普段から料理をしない人や低温調理器になじみのない人は、「ほかにも何か作れないの?」って感じですよね。
そのあたりも抜かりなく、「ポケットシェフ」の専用サイトにはオリジナルレシピが20種以上掲載されています。まぁ今のところ、主に肉で、魚と野菜のメニューが少しずつですが。今後のメニュー拡充に期待しましょう。
「ポケットシェフ」専用のレシピページ。眺めているだけでお腹が減ります
低温調理メニューのメジャーどころ「サラダチキン」で言えば、基本レシピに加えて、味噌、ジェノベーゼ、ラー油&鶏ガラなどのアレンジ版も掲載されています。
そこで見つけてしまったのが「サラダチキン(梅しそ)」。梅しそ味が大好物の筆者は、気づいたらカリカリ梅と青じそを刻んでいました。こんなおいしそうなアレンジメニュー、作るに決まっているじゃないですか。
梅しそが好きなので、もうこの時点でつまんで食べたいのを我慢しています
刻んだカリカリ梅と青じそ、めんつゆで鶏むね肉を漬け込んだものを耐熱袋に入れ、水圧で脱気。温度と時間の設定は、プレーンのサラダチキンと同様の80度、120分でセットしました。よく作るメニューの設定とか、1度覚えちゃえばもっと楽になりそう。
ちなみに、鶏むね肉の厚みは3cm以内が目安です。鶏むね肉が大きい場合は、火の通りをスムーズにするために、調理前にあらかじめカットしておきましょう。
先ほどローストビーフでやったように、水を張ったボウルに袋を入れて脱気しました
あとはローストビーフのときとまったく同じように放置しておくだけで、梅しそ味のサラダチキンが完成!
完成して取り出した様子。梅の色が抜けて、むね肉がまだらに色づいていました。もうちょっとちゃんとならしておけばよかった……
食べてみたら、ヤバうまい。ハチャメチャにうまい。しっとりムチッとした歯応えの鶏むねと、酸っぱ爽やかな梅しそ味がすばらしくマッチしています。ダイエット中でも、これさえ食べていれば満足できるなーというレベル。
どうですか、このしっとり感。むね肉のパサつきが苦手な人でも、これは間違いなくおいしく食べられるはず
肉が連続したので、野菜も試したいところ。……なのですが、野菜の場合は、大体は調味酢と合わせておけばおいしく仕上がりました。
たとえば、キュウリやパプリカを酢・砂糖・塩で漬けて、温度75度、時間60分でセットすれば、おいしい自家製ピクルスが完成。大根や長芋で作ってもおいしかったです。
自家製ピクルスはサラダ代わりにはもちろん、おつまみとしても最高です。もし調味料を量って混ぜるのが面倒なら、市販の寿司酢や調味酢をそのまま使うだけでもOK
ローストビーフ、梅しそ味のサラダチキン、ピクルスと、低温調理3種盛りの完成! 調理時間はトータルで5時間以上かかっていますが、そのほとんどは放置タイムです。楽勝!
本当に正直な話をすると、ポーチに入れるタイプの低温調理はあまりにも簡単すぎるので「きっとどこかに落とし穴があるに違いない」と疑っていました。
なので、記事の最後に「でもここは残念なポイントでした」みたいな話をすることになるだろうと予想していたんですが……うーん、何の問題もなかったですね。簡単な手順で、きちんとおいしく調理できました。
唯一、1度に調理できる量が少ないというのはありますが、1人分を作ることが目的の人であれば不満にはならなさそう。
調理・片付けともに手間がかからず、しかもバッチリうまい! 文句なしです
何より、片付けがほぼ不要というのがすばらしい。調理に使った密封袋を捨てたら、それで終了。もしポーチ本体に汚れを付けてしまったらウェットティッシュなどで拭くぐらいで、もうそれ以上のケアは必要ありません。
手間をかけずにおいしいものが食べられて、手間をかけずに片付けが完了。こんなの、ジダラキング的に「ガチで最高でした」としか言いようがありません。