家電選びでは、性能や機能だけでなくデザインも重要なポイント。性能や機能がすぐれていても、外観はもちろん、細かい部分のデザインにピンとこないと購入する気にならない筆者が、「これは!」と思った家電を紹介します。
今回目に留まったのは、日立の冷蔵庫「Chiiil(チール)」です。
近年、“セカンド冷蔵庫・冷凍庫”と呼ばれる小型の冷蔵庫や冷凍庫を購入する家庭が増えています。ひと昔前は「ザッツ・電化製品」というような垢抜けないデザインのものがほとんどで、筆者は、シートを貼り付けたり、塗装したりして、自分好みにデコっていたこともありました。しかし、最近は設置場所の多様化に合わせ、インテリア性の高い製品が続々と登場しています。
そのなかでも「Chiiil」のデザインは秀逸。家具でよく使われる木材に合わせることを意識して開発したとのことですが、木目調デザインを採用せずに、空間との高い調和性を実現したところは特に高く評価したいポイントです。
「Chiiil」が登場したのは2022年4月。今でこそ、高い性能と機能を備えた家具っぽいデザインの小型冷蔵庫はほかにもありますが、「Chiiil」はいち早く“デザイン家電”に挑んだ冷蔵庫と言えるでしょう。冷凍機能は搭載されていませんが、今見てもデザインや設計の考え方が好みです
木目調を採り入れずにインテリアとなじませるために、こだわったのが色彩です。最近の新築マンションのフローリングがオフホワイトやグレーといったカラーリングが主流であることや、躯体のモルタル壁をそのまま内装材として取り込んだリノベーションなどが増えてきていることを考慮してカラーを検討。さらに、家具でよく使われるオークナチュラルやウォールナットなどと相性も加味して、10色のカラーバリエーションを用意したそう。いずれも北欧の暮らしからインスパイアした、彩度を抑えたグレイッシュなカラーを採用しています。
写真上のホワイト、ノルディック、ダークグレーの3色はベーシックカラー。写真下はカスタムカラー(受注生産品)で、グラファイト、モス、グレージュ、トープ、オーク、ブリック、ウェンジの7色を用意
これらカラーは、ライフスタイルショップ「ACTUS(アクタス)」と共同で考案されたもの。どの色も個性的であるにも関わらず、どのようなテイストの空間でも違和感なく調和する“マジックカラー”だと思います。
写真左がトープで、写真右がダークグレー
また、質感も本物感、高級感があります。「Chiiil」の筐体は一般的な冷蔵庫と同じように鋼板や樹脂で成形されていますが、そうした素材が持つ無機質な感じはありません。プラスチック感がほとんど出ていないから、家具と並べても浮きにくいのでしょう。
そして、内装がブラックなのもいい! 一般的な冷蔵庫と同じように内装が白色だったら、生活感が出てしまいますが、ドアの裏面や縁まで黒で統一された「Chiiil」は高級なキャビネット家具風で好感が持てます。
これなら来客に冷蔵庫の中が見えても恥ずかしくありません
容量は73Lで、温度帯は「冷蔵(約2〜6度)」と「セラー(約8〜16度)」で切り替え可能。棚の高さが変えられるほか、中段の棚は手前半分を取り外して奥側に重ねられるので、最下段に一升瓶のような高さのあるものも入れられます。
家具との調和性を高めるには、形状やサイズ感も重要です。極力シンプルにすることを意識し、たどり着いたのが、直線的でフラットなキューブ状。ドアハンドルは上面に配置されており、正面からは見えません。
メーカーロゴも正面から見えないように、ドア上面に配置
さらに、家具と並べた際に出っ張らないように奧行きを420mmに抑えるとともに、通常、背面にある放熱口を本体下部に配置することで本体背面を壁にピタッとくっつけて設置できるようにしています。左右には5mm以上の放熱スペースが必要ですが、小型冷蔵庫は左右2cm以上、上面10cm以上、背面5cm以上の隙間をあけなければならない製品も多いので、「Chiiil」は目立つ隙間を作らずにレイアウトできるのも魅力。こうした仕様と本体サイズ、そして質感やデザインが相まって、パッと見て冷蔵庫とは気づかれないでしょう。
背面は壁にぴったりくっつけて設置可能。左右は5mm以上の隙間が必要ですが、小型冷蔵庫の中ではかなり省スペースです
本体サイズは559(幅)×420(奧行)×750(高さ)mm。「Chiiil」が発売された2022年当初は、これほどコンパクトなサイズの冷蔵庫は市場にありませんでした。背が高くないので、カウンターテーブルの下に設置したり、天面に物を置いたりするのにもちょうどいい感じです(耐熱温度60度、荷重25kgまで)
さらに、2台の「Chiiil」を横に並べて設置、または縦に重ねて設置できるのも面白いところ。フラットな形状なので設置のまとまりがいいのはもちろんですが、色の組み合わせで個性を発揮できます。それは、まるでモジュール家具のよう。コーディネートを楽しめるのもほかにはない魅力です。
右開き、左開きのモデルを並べて設置すれば観音開きの冷蔵庫のようなスタイルで使えます。どの色を組み合わせても上品で、家具っぽさも損なわれない印象
キッチンで使うものだった冷蔵庫を好きな場所で使えるようにした「Chiiil」は、現在、好きな場所で“心地よく使う”を新たなコンセプトとして進化しようとしています。すでに、家具メーカー「カリモク家具」と共同開発した家具と融合した「Chiiil」のプロトタイプがお披露目されていますが、「Chiiil」の仕様は変えずに家具の組み合わせでリビングやベッドルーム、ダイニング、オフィス、ホテルといったシーンに合わせた雰囲気に仕上げられていました。異なる素材をうまく融合させながら、「Chiiil」らしさも損なわれていません。今後、冷蔵庫だけに留まらず、こうした暮らしに自然となじむ“家具家電”が増えていけばもっと心地いい暮らしができそう。
2024年5月に発表されたカリモクの家電と融合した「Chiiil」のプロトタイプ