“おいしいごはん”を探求する米・食味鑑定士が、気になる炊飯器を自宅でじっくり使って味わいと使い勝手をチェック。今回セレクトしたのは、土鍋を内釜のタイガー「THE 炊きたて JPX-A101」(以下、JPX-A101)だ。JPX-A101は最新モデルではなく1つ前のモデルとなるが、非常に仕上がりがいいので紹介しておく。最新モデル(JPX-102X)のレビューも後日お届けするので、両機のどちらを選ぶかで迷っている人は参考にしてほしい。
サイズは265(幅)×233(高さ)×309(奥行)で、炊飯容量は5.5合(1.0L)
JPX-A101の炊飯方式は、加圧と減圧を行う「可変W圧力」。炊きあげ時に1.25気圧まで内部気圧を高めて米の粘りや弾力を引き出し、炊き上げ直後には1.05気圧まで減圧して釜内温度を約280°まで高めることで、ごはん粒を炊き締める。
そして、JPX-A101で忘れてならないのが土素材の内釜(土鍋)だ。三度焼きされた表面6層コートの内釜は高い蓄熱性と高火力を有するほか、上部を絞ることで“蒸気のフタ”を生み出し、熱が逃げないようにするという。さらに、内釜をセットするかまど部分は従来よりも大型化され、釜全体を効率的に加熱する。
口部分を絞った「口絞り構造」の内釜では、発生した蒸気が内蓋と内釜の間に滞留する。その蒸気がフタのような役割を果たすため、熱が外に逃げにくい
かまどにも内釜同様に土素材が使われており、土壁構造を再現。さらに、遠赤釉薬を採用することで遠赤効果が従来より24%アップした
可変W圧力をしっかり行うために、内蓋には密閉できるパッキンが付いている
内ぶたに配置された大小2つのボールにより、1.25気圧と1.05気圧をコントロール
白米を炊くコースとして用意されているのは、旨味や粘りを引きだす「極うま白米」と節電重視の「エコ炊き」、そして30〜43分で炊きあがる「早炊き」の3つ。食感の炊き分けは「極うま白米」コースでのみ行え、「標準」「しゃっきり」「もっちり」から選ぶことができる。さらに、「極うま白米」コースには3段階で調整できる火かげん設定も用意。白米以外の炊飯コースとしては玄米、炊き込み、おこわ、雑穀、おかゆがあるほか、本モデルより麦めしに対応した。
炊飯時間の目安は「極うま白米」コースが42〜68分、「エコ炊き」コースが52〜62分、「早炊き」コースが30〜43分
ちなみに、JPX-A101の操作部は通常消灯している。モーションセンサーが搭載されているので、人が近づくと点灯するのだ。あとはタッチパネルを操作するだけなので、使い方に困ることはないだろう。
いくつかの炊飯コースがあるが、普通に炊く=「極うま白米」コースと認識してもらってかまわない。そこで、もっとも利用頻度が高いであろう「極うま白米」コースの味をチェック。火かげんと仕上がりを変えて、味わってみた。
火かげんの設定により、おこげの濃さも変わる。目盛り1つが「弱」なのだが、それでもおこげは薄く付くそう
まずは、「極うま白米」コースの火かげん「1」、仕上り「しゃっきり」で炊いたごはんを見てほしい。
JPX-A101で炊いたごはんの中で、もっとも白度が高い印象
底もまったく焦げておらず、固くもなっていない。火かげん「1」でもおこげがうっすら付くと取扱説明書には明記されていたが、今回は付かなかった
続いて、「極うま白米」コースの火かげん「3」、仕上り「もっちり」で炊いてみた。
ふたを開けた瞬間に香ばしい香りが広がる。おこげが出来ている予感! ごはんの上部もわずかに黄色みががっている
しゃもじを入れてみると、底面にはおいしそうなおこげが!
おこげのあるおにぎりというのも、なかなかの味わい。おこげの香りが豊かなので、塩だけで十分だ
火かげん「1」では底面におこげはできなかったが、「2」にすると一部に焦げめが付き、「3」では見事なおこげができた。仕上りは全体に硬めで、「もっちり」に設定した時も粒感はしっかりとしている。特筆すべきは、ごはんの香り。昔ながらのごはんの香りが強く感じられたのが印象的だった。
その他の白米の炊飯コースも試したので、味わいをお伝えしておこう。試したのは、「エコ炊き」コースと「早炊き」コースだ。
エコ炊き
「極うま白米」コースと比べると、香り、甘みともに弱く、ごはんも少し硬めに炊ける。取扱説明書によると「極うま白米」コースより17〜44%ほど少ない消費電力量で炊けるとのことだが、そのメリットは感じなかった。
早炊き
「極うま白米」コースの約半分の時間で炊けるのが利点。「エコ炊き」コースよりもさらに甘みや旨みが弱くなる印象だ。表面は艶やか、だがわずかに芯が残ったような硬めの食感でもあった。急にごはんが必要になった時には重宝するが、おいしさの面ではワンランク落ちる。
最後の試食は、業界でもいち早く専用の炊飯コースとして搭載した「麦めし」。白米と大麦を一緒に炊くコースとなる。炊飯コースを用意しただけではなく、麦めし用の軽量カップを付属するといった本気の仕様だ。
「麦めし」コースの炊飯時間は約53〜65分
手前にある2つが麦めし用の軽量カップ。白米に対して大麦を1割または3割にするかで、軽量カップを使い分ける
押し麦を入れて炊いてみた。香ばしい香りが漂い、ごはんも押し麦も非常に柔らか。ごはんの合間にプチプチとした押し麦の食感が楽しめる
ごはんを炊いたあとに必ず行わねばならない後片付けをチェックしておこう。内釜のほかに洗浄するパーツは、内蓋と蒸気が溜まるスチームキャップの2つだけ。
内蓋はボタンひとつで取り外しできる。パッキンなど、外さなければならないパーツはない
スチームキャップには蒸気のほか、おねばも溜まっているので毎回洗浄しよう
内蓋の上部には圧力ボールがあり、汚れが溜まりやすいので注意。また、スチームキャップは分解できるようになっているので、必ず分解して洗う
近年の炊飯器のトレンドとなっている食感の炊き分け機能は3段階と少ないが、土鍋の特徴を生かしたストレートなごはんの味で勝負しているところがいい。土鍋は非常に高い温度で炊飯できるため、炊きあがったごはんの香りが強く、昔ながらのごはんらしい味わいを楽しめる。おこげが味わえるのも魅力だ。また、麦めしや炊き込みごはんなども香りや風味が豊か。細かい設定はせずに、濃厚なごはんをおいしく炊きたい人に向いているだろう。
今回、炊きたてのごはんの味をチェックしてきたが、保温機能も特徴的なので紹介しておきたい。JPX-A101は保温するか否かを炊飯の前に設定できる。常に「保温あり」にしておけばいいじゃないかと思われるかもしれないが、筆者が試した印象では保温には適しているとはいい難い。火かげん「1」で炊いたごはんも保温時間が12時間経過すると、色味やニオイが強くなった。炊きあがり時のおいしさを残念ながら維持できないので、都度炊いて食べることをすすめたい。
内釜にかぶせる蓋が付属しているので、おひつとして利用することも可能。ちなみに、蓋にも内釜同様の素材が採用されている