オンキヨー&パイオニアから、新たに小型のハイレゾ対応DAPが登場した。それが、オンキヨー「rubato DP-S1」(以下、DP-S1)とパイオニア「private XDP-30R」(以下、XDP-30R)である。
オンキヨーブランドのrubato DP-S1(左)とprivate XDP-30R(右)
同社が初めて手がけたリファレンスクラスのハイレゾ対応DAP「DP-X1」「XDP-100R」、音質を徹底追及したスマートフォン「GRANBEAT DP-CMX1」に続く、第3のハイレゾ対応プレーヤーとして登場したDP-S1とXDP-30Rだが、デザイン的にはこれまで発売された製品と共通する部分が多々見られるものの、ボディサイズが格段に小さくなっているなど、既存モデルとはそもそもの成り立ちが大きく異なっていることが分かる。そう、DP-S1とXDP-30Rは、既存製品でいえばソニーの「ウォークマンA」シリーズのような、幅広い音楽ファンへのアピールもターゲットに据えた、比較的カジュアルな製品にまとめられているのだ。
DP-X1A(左)とDP-S1(中央)とXDP-30R(右)。DP-X1Aに比べてだいぶコンパクトになった
とはいえ、そこはオンキヨー&パイオニアが手がけるプレーヤー。音質やユーザビリティなどに関しては、かなりのこだわりが投入されている。まず、音質面については、2モデル共通でDACにESS社製「ES9018C2M」、アンプに「SABRE9601K」を2基ずつ搭載。LR独立回路構成としたほか、DP-X1など既存モデルで好評を博した2.5mm4極のバランス・ヘッドホン出力も採用されている。
DP-S1とXDP-30Rには、3.5mmのアンバランス出力に加え、2.5mm4極バランス出力も用意
正直いって、これだけ見ても、4万円前後(DXP-30Rの想定価格)のプライスタグからは望外といえるハイスペック/ハイクオリティぶりだ。また、対応するハイレゾ音源も192kHz/32bitまでのリニアPCMに加え、5.6MHzまでのDSDも再生可能となっており、スペック的には充分以上の内容を持ち合わせている。
さらに、バランス出力では一般的な「BTL駆動」と「ACG(アクティブコントロールGND=揺らぎのない理想的なGNDをキープすることで更なる高音質を実現するもの)駆動」を搭載しているほか、ロックレンジアジャスタ、デジタルフィルター切り替え、10バンド・イコライザーなどの音質調整機能も備わっている。同社のハイレゾ対応DAPとして、機能性やアイデンティティを余さず盛り込んだ内容となっており、下位モデルとしての妥協は一切ない。
同社のハイレゾDAPでおなじみの各種チューニング機能もフルで搭載
いっぽうで、ユーザビリティの面においてもDP-S1とDXP-30Rは要注目だ。まず、ボディサイズは両機種とも63(幅)×94(高さ)×15(奥行)mmと、既存モデルに対して大幅なコンパクト化を実現している。実際、男性の手にすっぽりと収まるサイズ感なので、いつでも何処でも手軽に活用することができる。ちなみに、このサイズを実現するためもあってか、これまでのAndroid OSではなく、LINUXベースと思われる独自OSを採用している。
手のひらにすっぽりと収まるコンパクトサイズを実現。このサイズ感の製品にフルバランス回路を搭載しているというのだから驚きだ
加えて、BluetoothとWi-Fiも搭載。Bluetoothの対応オーディオコーデックはSBCのみながらワイヤレスヘッドホンが活用できる。また、Wi-Fiを使ってradiko.jpなども楽しむことができる。DLNAは非対応となっているため(Wi-Fi系の)活用はある程度限定されるものの、同社が運営するハイレゾ音源配信サイト「e-onkyo music」からの直接ダウンロード機能が今後実装予定となっており、利便性はなかなか高そうだ。
楽曲ファイルの再生のほか、Wi-Fi機能を使えば、TuneIn Radioやradiko.jpなどを楽しむことができる
内蔵メモリーについては、普及価格帯モデルゆえ、16GBとハイレゾ対応DAPとしては心許ない容量ではあるが、200GBまでのmicroSDメモリーカードスロットを2基搭載しているため、使用上で不満が生じることはないはず。DP-X1の時にも感じたが、2スロットを装備してくれているのは、とても重宝する。
microSDメモリーカードスロットは、200GBまでのmicroSDXCメモリーカードに対応。内蔵メモリーと合わせて最大416GBまで容量を拡張できる
ちなみに、DP-S1とXDP-30Rでは、外観デザインに加えてサウンドチューニングも異なっており、さらに市場想定価格も差がある。市場想定価格では、DP-S1が5000円程度高額になっているのだが、両者の内部パーツ的な違いについては特にアピールされていないため、詳細は不明だ。それが音質的なクオリティ差に影響しているものなのか、今回はそれも含めて試聴を行ってみた。
デザイン面では、本体背面が異なっており、DP-S1はシボ加工、XDP-30Rはツルツルとした仕上がりになっている
それでは、ここからは両製品の音質の違いなどを含めたファーストインプレッションをお届けしよう。ちなみに、今回取り上げた2機種は、そのサイズ感からも分かる通り、ポータブル環境での利用がメインになる。そのため、今回はイヤホンを組み合わせて試聴を行った。使用したイヤホンは、iriver「Michele」と、DP-S1やXDP-30Rと同時にパイオニアブランドから発表された2.5mm4極バランス対応の「SE-CH5BL」だ。
パイオニアブランド初のハイレゾ対応イヤホンとして発売されたSE-CH5BL。2.5mm4極バランス対応モデルながら、1万円を切る価格を実現している
ということで、パイオニアブランドのXDP-30Rから試聴してみた。まず、製品そのものの話ではないが、“private”というペットネームにグッとくる。30年ほど昔、パイオニアは“プライベート”シリーズというミニコンポをラインアップしていたのだが、それがかなりの高額製品であったことや、CMキャラクターとして人気絶頂期の中森明菜を起用していたことなどもあって、大いに注目を集めていた憧れの製品であった。ハイレゾ対応DAPという、大きく形を変えた製品とはいえ、“private”の名前が復活してくれたのは嬉しい限りだ。
とはいえ、肝心なのは使い勝手とそのサウンド。心の底から湧き上がるバイアスをいったん押さえ、XDP-30Rを手にする。先ほどもちらっと紹介したが、手にしたサイズは大きすぎず小さすぎず、ほどよいサイズ感がある。また、ボディ右側が斜めにカットされている部分のおかげで、右手で持ったときに馴染みやすく、この点ではオンキヨーブランドのDP-S1よりも好ましく思った。2.4インチのタッチパネルも、オリジナルUIの優秀さもあってか、操作感はなかなかに良好。動作の俊敏さも、サクサク、とまではいえないものの、十分なレベルにあると感じた。
XDP-30Rは背面がゆるやかに盛り上がったデザインになっているため、手にしたときの収まりもかなりいい
さて、肝心のサウンドを確認しよう。まずは、一般的な3.5mmアンバランス出力から。メリハリのある、勢いのある音。ボーカルがグッと前に出てきて、その後ろでドラムのスネアがキレのよいリズムを刻んでいる。鳴りっぷりがよく、時に奔放すぎる嫌いもあるが、グルーブ感の高いサウンドだ。
続いて、2.5mmバランス出力に替えると、グッと解像感が向上。細かいニュアンス表現が伝わってくるようになり、音楽がとてもリアルに感じられるようになった。兄貴分のXDP-300Rに対しては、ダイナミックレンジの幅広さ、SN感などのクオリティ面で結構な差が感じられるが、ハイレゾらしさを充分に味わえる良質さはしっかり持ち合わせている。ハードロック、Jポップ好きな人は、2台のなかでもこちらがオススメだ。
バランス接続のイヤホンとセットにしても約5万円というのだから、コストパフォーマンスはかなり高い
続いて、オンキヨーブランドのDP-S1をチェック。まず、手に持った感じはこちらの方がずっしりとしていて、高級感を感じた。重さとしては、120gのXDP-30Rに対して130gと大差はないのだが、表面の処理の違いや重心バランスの問題もあるのだろう。DP-S1のほうが重量感のあるイメージ、イコール、(ほんの少しだが)上位モデルであるかのように感じた。なかなか興味深いポイントだ。もしかすると、スクエアなボディデザインなどが関係しているのかもしれない。
DP-S1の重量を計測。microSDメモリーカードを装着しない状態だと、実測で127gだった
肝心のサウンドは、一般的な3.5mmアンバランス出力についてはXDP-30Rとはずいぶんキャラクターが異なっていた。奔放な鳴り方をする XDP-30Rに対して、DP-S1は秩序のあるジェントルなイメージ。ひとつひとつの音を丁寧に、しっかりと再現してくれている。そのため、2.5mmバランス出力とのキャラクター的な差が少ない。解像感が向上しつつ、空間的な表現が広がったイメージだ。おかげで、小編成のクラシックなどを聴くと、コンサートホールのベストポジションで聴いているかのような、リアル感のある演奏が楽しめる。アコースティック楽器がメインの音源では、こちらの方が相性はよさそうだ。
また、DP-S1とXDP-30Rでは、聴感上のSN感がやや異なっているように感じた。質的にはDP-S1の方がやや上で、もしかすると電源まわりなどにひと工夫が盛り込まれているのかも、と感じた。
このようにオンキヨー「rubato DP-S1」とパイオニア「private XDP-30R」は、コンパクトなサイズ、手の届きやすい価格設定ながら、ハイレゾ音源ならではの魅力を十分に楽しめる、良質なサウンドを実現していた。機能面を含め、コストパフォーマンスを考えるとなかなかのレベルといえる。これまで「ウォークマンA」シリーズが孤軍奮闘で頑張ってきたカテゴリーだけに、国内メーカーの対抗馬登場は嬉しい限り。“最初の1台”としてベストな、スタンダードクラス高音質DAPというポジションの、今後の盛り上がりを大いに期待したい。
ヘッドホンなどのオーディオビジュアル系をメインに活躍するライター。TBSテレビ開運音楽堂にアドバイザーとして、レインボータウンFM「みケらじ!」にメインパーソナリティとしてレギュラー出演。音元出版主催のVGP(ビジュアルグランプリ)審査員も務める。