レビュー
テクニクス試聴室にて聴き比べ

「MQA」対応で輝きが増したテクニクスの「SU-G30」を聴く

パナソニックがハイレゾ時代に復活させた、かつての名門オーディオブランド「テクニクス」。追い求める音楽性を、独自のデジタル技術で表現した製品群は、新時代の高級オーディオとして話題を集めている。今回紹介する「SU-G30」は「ネットワークオーディオアンプ」という新しいジャンルを打ち立て、昨年2016年4月にデビュー。品位と使い勝手の両立を求めた、オーディオの新しいカタチと言え、専門家の間で高い評価を得ている。

いっぽう、派手さがなく、登場から1年が経過し、記憶から薄れつつあるのも事実。そんな中、今年3月に話題の最新フォーマット「MQA」にアップデート対応。静かながら大幅に魅力をアップし、輝きを増している。今回は、テクニクスの開発拠点を訪問。製品関係者への取材交え、SU-G30がMQAに対応した意義を整理しつつ、試聴レポートをお届けする。

パナソニック門真事業所内のテクニクス試聴室にて取材を実施

パナソニック門真事業所内のテクニクス試聴室にて取材を実施

取材に応じて下さったパナソニック株式会社アプライアンス社の皆様。(向かって)右から、テクニクス事業推進室三浦浩一氏、音質担当顧問山崎雅弘氏、開発センター坂井剛氏、テクニクス商品企画担当柏井雅博氏

「SU-G30」はシンプルで高品位に音楽を愉しみたい「大人のアイテム」

SU-G30

SU-G30

SU-G30は、テクニクスブランドの中核を担う「グランドクラス G30シリーズ」に属するネットワークオーディオアンプ。ネットワーク再生機能とアンプを融合させた製品で、スピーカーを加えるだけでハイレゾ再生環境が整う。価格.com最安価格は432,000円(2017年5月17日時点)。

最新最高峰の技術が詰め込まれているが、敢えてそれを主張し過ぎない。純粋なオーディオマニア向けというよりも、シンプルで高品位に音楽鑑賞を愉しみたい「大人のアイテム」的な性格を持つ。数十年前にオーディオブームを体験した40歳代半ば以上の男性が、趣味のオーディオを再開するのにも好適だ。

技術的にも、ネットワーク再生部とフルデジタルアンプを同一筐体に収めて最短経路で結ぶことで、ピュアな高音質を得る狙いがあり、ハイレゾ音源の再生に最適化したスタイルと言える。

発売から約1年後の2017年3月にソフトウェアアップデートを実施し、話題のハイレゾフォーマット「MQA」に対応。柔軟なアップデートで絶えず進化させることができる設計思想も、ネットワーク時代に相応しいと言える。

「MQA」とは?

価格comマガジンで筆者がはじめてMQAを取り上げたのは、2015年3月掲載の「話題の「MQA」をメリディアン・オーディオのリファレンスシステムでじっくり聴いた」だった。MQAは、英メリディアン社がハイレゾ時代に新開発したデジタル音声圧縮技術。膨大になりがちなハイレゾ音源のデータ量を、従来のCDと同等以下のコンパクトサイズに折り畳むことができ、配信時の帯域節約、ストレージの節約に貢献する。また、エンコードされたデジタルデータは、従来のPCMと再生互換が保たれているなど、極めて合理性の高いものとなっている。そして最大の特徴は、神経工学に基づいた音質の改善。デジタル変換によって生じる「音の滲み」を解消すべく、エンコードとデコードの過程にメスを入れたのも画期的だ。

2年前の取材時、他媒体と比べても早い段階で試聴の機会を得たが、その生々しいサウンドに圧倒され、将来性を強く感じた。

その後、MQAデコード機能は、メリディアン社製品ほか、オンキヨーのハイレゾポータブルプレーヤーなどで採用され、コンテンツはe-onkyo musicでのダウンロード配信、「TIDAL」(日本でのサービスインは未定)でのストリーミング配信と広がりを見せ、存在感を高めてきた。今、オーディオ界隈で最も注目すべきトレンドのひとつと言って良いだろう。

「SU-G30」と「MQA」が融合する意味

今回、関係者への取材を思い立ったのは、SU-G30とMQAの融合によって、オーディオのさらなる飛躍を予感したからである。

一般的なデジタルオーディオは、音楽データをDACチップあるいはDAC回路でアナログ信号に変換した後、アンプで増幅してスピーカーを駆動する。アンプがアナログ方式であれば、音質はDAC回路やアンプの質で決まることになる。デジタルアンプの中でも、一般的なD級の場合、増幅の前処理として、DACでアナログ化された信号を再びデジタルに変換するA/D工程を経る。デジタルと言えどもアナログが介在し、D/AとA/D変換による劣化は免れない。

いっぽう、SU-G30の場合、ネットワーク再生機能を内蔵し、デコードしたデジタル音楽データは、同一筐体内で直結されたフルデジタルアンプに送られる。フルデジタルアンプの“フル”とは、D/AとA/D変換が介在せず、入力されたデジタル信号をデジタルのまま増幅するという意味。言い換えると、アンプがDACの機能も兼ね、原理的に鮮度の高い音が得られる方式である。

また、商品開発を統括した三浦氏によると、プレーヤー側のMQAデコードにはレンダリングと呼ぶ工程があり、MQAの高音質をフルに発揮させるには、再生機器のD/A変換特性(プリエコーやポストエコーのようなクセ)に応じて最適なパラメーターを与える必要があるという。その点、SU-G30においては、D/Aと増幅を兼ねる「JENO Engine」の特性を解析し、MQAレンダリングのパラメーターを専用に設定。MQA音源の音質が最高に発揮されるよう入念にチューニングされ、MQAも最終音質の確認を行うという。つまり、MQAの神髄を味わえるシステムのひとつが、SU-G30というわけだ。

パナソニック テクニクス事業推進室 三浦浩一氏

パナソニック テクニクス事業推進室 三浦浩一氏

サウンドチェック

テクニクス試聴室で音質をチェック中の筆者

テクニクス試聴室で音質をチェック中の筆者

実際の音質は、パナソニック門真事業所内に設けられた、開発過程でも試聴に利用される専用試聴室で行った。この試聴室は「石井式リスニングルーム」で著名な、石井伸一郎氏がテクニクス在籍時に設計したもの。吸音と反射を組み合わせた構造で素直な音再現が特徴だ。現在、パナソニックセンター東京・大阪内のそれぞれに設けられてテクニクス試聴室も、同様のコンセンプトで施工されている。

スピーカーは、テクニクスの新作「SB-G90」(2017年5月発売、希望小売価格249,000円/1本税別)を組み合わせだ。

【試聴その1】MQA ON/OFFで傾向を探る

まずはMQAファイル再生音質を確認。MQAでエンコードされたハイレゾファイルは、既にe-onkyo musicでダウンロード購入できる。今回は、ミュージックサーバー「ST-G30」にファイルを置き、ネットワーク経由で再生した。

SU-G30では、リモコンの「RE-MASTER」ボタンを長押しすると、MQAデコード再生と、高域を中心としたMQA成分とも言えるデータをカットした再生(ここでは通常再生と呼ぶ)の切り替えができる。なお、MQAによる追加データ分は、通常再生部分に畳み込まれているので、この試聴は、MQAと非MQAの厳密な比較とは言えないので留意頂きたい。

MQAは原則ONだが、SU-G30では特別にリモコンの「RE-MASTER」ボタンを長押しすると、MQAをOFFにすることができる。比較できるのはおもしろい

MQAほか、再生条件は本体表示画面で確認できる

MQAほか、再生条件は本体表示画面で確認できる

ファイルはMQAでエンコードしたクラシック曲で、データ形式はFLACの48kHz/24bit。バイオリンは余韻が鮮明で伸びやか。速弾きでも柔らかさを失わない。空間に奥行きが感じされ、弦の質感、倍音を含む余韻のそれぞれに独立した存在感があり、消え際まで混濁しない。また、演奏前の音、言い換えると、演奏者の“気”のような雰囲気と、遠くから音が飛んでくるような感覚も新鮮で、生演奏に立ち会ったような臨場感を覚える。ちなみに、同一ファイルでMQAをOFFにすると、音が平面的になり、当たりがキツく感じられた。

振り返れば、音源がデジタル化したことで、レンジの拡大やノイズ低減など、数値スペック的には大きく進化したが、よくよく考えると、無音の空間に突如として音が出現する違和感があることに気付かされた。

参考までに、同じ楽曲のハイレゾファイル(96kHz/24bit)も聴いた。マスタリングが同一条件ではない可能性があり、あくまでも雰囲気の確認に留めたが、微少音の再現性やレンジ感ではMQAを上回る。当然と言えば当然だが、いっぽうで、先述の“音が突然現れる”感が残り、余韻のハーモニーの美しさもMQAがすぐれているように感じた。

MQAはロスレス圧縮でデータ量の大きいハイレゾファイルに敵わないものの、“音滲みの排除”は絶対的な価値として認められる。映像に例えるなら、動画ボヤケ多い4K映像と、動画ボヤケのないフルHD映像の違いと言えるかもしれない。

SU-G30でのMQA再生は、そんなアドバンテージが明確に体感できるのだ。

【試聴その2】CD、MQA、ハイレゾを比較

次に、同一の女性ジャズボーカル曲で、CDをリッピングしたFLAC、MQA、ハイレゾファイルを用意し、比較試聴を行った。CDリッピングはミュージックサーバーのST-G30で行い、MQA、ハイレゾファイルと同じくST-G30のストレージに蓄積したものである。

最初にMQAファイル(FLAC 48kHz/24bit)を再生。ボーカルが有機的で、ブレスの生々しさは、従来のデジタルオーディオの枠を超え、アナログレコードが究極に達すればこうなるのでは? と思わせる雰囲気を感じた。

MQAデコード時の表示例。データはFLAC 48kHz/24bitだが、192kHzサンプリングおよびMQAエンコードされたデータであることがわかる

ハイレゾファイル(FLAC 192kHz/24bit)は解像度が高いが、迫り来るような実体感はMQAに及ばず、よくも悪くも「キレイ」な音に終始する。CDリッピングファイル(FLAC 44.1kHz/16bit)の音はマスタリングが異なる可能性が高いので参考までだが、聞き慣れた音として悪くない。比較試聴すれば解像度の低さは明らかだが、今から30年以上も前に規格化されたとは思えない完成度の高さに驚くばかりである。しかし、CDを聴いて改めて感じるのがMQA音質のアドバンテージ。同等のデータ量で、ハイレゾ音源に近い解像度と、有機的とも言える生々しい表現力は圧倒的だ。

長年テクニクス製品やAV機器の開発に携わり、現在はパナソニックAV機器の音質顧問を務める山崎雅弘氏。MQAの素性として、立ち上がりのキレのよさ、変化の分かりやすさを高く評価する

【試聴その3】CDでハイレゾ、MQA-CDを聴く

MQAは従来のPCMと互換性が保たれているのも大きな特徴。MQAエンコードされたデータを従来の一般的なDACに投入すると、通常のPCM音源として扱うことができ、難なくアナログ音声に変換できる。こうした互換性の確保は、配信時に受け手のシステムがMQA対応あるいは非対応でも問題が起こらず都合がよいが、CDに応用することができる点でも見逃せない。

世界初のMQA-CDは、2017年3月17日に、日本のOTTAVA RECORDSが発表した「A.Piazzolla by Strings and Oboe」(2,500円)。サラウンドサウンドの大家でハイレゾなど常に先進的な取り組みで業界を牽引するMick沢口氏が手がけた作品だ。

今回、本作品をCDプレーヤー「SL-C700」で再生し、同軸デジタルでSU-G30に接続。SU-G30がMQA 176.4kHzを示していることも確認できた。

「A.Piazzolla by Strings and Oboe」の1曲目「Oblivion」は、低域が澄んで余韻が美しく浮かび上がり、前後にも広がる空気感は、まさにハイレゾの世界。さらに、オーボエの音色にテクスチャと厚みが感じられ、ヒトが歌うような情緒感は、MQAならではと思えるものだ。

世界初のMQA-CD「A.Piazzolla by Strings and Oboe」を、SL-C700で再生

世界初のMQA-CD「A.Piazzolla by Strings and Oboe」を、SL-C700で再生

SL-C700からは同軸デジタルで入力。「MQA 176.4kHz」の表示が確認できた

SL-C700からは同軸デジタルで入力。「MQA 176.4kHz」の表示が確認できた

最後に

ソフトウェア開発を担当した坂井氏によると、MQAデコードには非常に高いプロセッシング能力が必要で、今回SU-G30がアップデート対応できたのは、高性能なSHARCプロセッサーを2基搭載するなど、基本性能の高さにあったという。また、商品企画担当の柏井氏によると、ハードウェア性能の高さを活かし、MQAに限らず、スポティファイ、インターネットラジオなど複数のアップデートを行うことで、SU-G30がますます魅力的になり、ユーザーの楽しみが広がったと自負する。

関連した話題としては、5月18日からドイツ・ミュンヘンで開催された「ハイエンドショー」で、MQAを利用したハイレゾストリーミングサービス「TIDAL Masters」をSU-G30でダイレクト再生をするデモを公開。高級オーディオ業界の中でもいち早い取組は注目に値し、日本で利用できる日が楽しみでならない。

新生テクニクスが目指す音楽性が、MQAや各種ストリーミングサービスと出会って昇華。今後のさらなる進化も楽しみだ。オーディオの新しい愉しをまたひとつ発見できた取材だった。

SU-G30のMQA対応アップデートソフトウェア開発を担当した坂井剛氏。MQAの技術陣との綿密なやり取りで相当の時間を要したという

テクニクス商品企画担当の柏井雅博氏。海外のマーケットトレンドにも精通し、テクニクスの新たな飛躍を模索する

鴻池賢三

鴻池賢三

オーディオ・ビジュアル評論家として活躍する傍ら、スマート家電グランプリ(KGP)審査員、家電製品総合アドバイザーの肩書きを持ち、家電の賢い選び方&使いこなし術を発信中。

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