レビュー
1997年の発売開始から約20年、300台限定でついに復刻

オープンエアー型ヘッドホンの名機! ゼンハイザー「HD600」の魅力に改めて迫る

先日、突然ながらゼンハイザーを代表する開放型ヘッドホン「HD600」の最終生産モデルが登場した。300台の数量限定の販売だったこともあって、巷ではあっという間に売り切れてしまったようだが、これまでHD600を2台買い続けてきた(1台は壊れ1台は置き引きされてしまった)筆者としては、「新品のHD600を入手できるのは最後のチャンス」とばかりに迷うことなく購入に踏み切り、無事に1台確保することができた。

ゼンハイザー HD600

実のところ、そこからが長かったりする。確保した製品を取りに行くのに約2か月、受け取った後も(いろいろと忙しく)1か月以上箱すら開けることなく放置したまま。というのも、一生ものとして大事に大事に使い続けるつもりで入手したものだったので、場合によっては数年後の開封でもいいや、とのんびり構えていたのだ。

300台限定で復刻販売されたHD600のパッケージ

300台限定で復刻販売されたHD600のパッケージ

ところがある日、価格comマガジンの編集部から「HD600買ったんですってね、じゃあレビュー書きましょう!」なんて話が来たため、慌ててエージングをはじめ、比較試聴用として「HD650」(編集部遠山氏の個人所有物)を借り、今回のレビュー記事に備えた次第だ。

実は、10月に発表されたばかりの「HD660 S」も借りられれば比較しようと思ったのだが、残念ながら日本に試聴用のサンプル機がなく、今回はHD600とHD650との比較のみにフォーカスさせていただくことにした。HD660 Sに関しては、機会があれば記事を書かせてもらえればと思う。

20年前からまったく変わらないHD600のスゴさ

さて、まずはHD600について概要を紹介していこう。

1998年に発売されたHD600は、開放型のハウジングを持つモニターヘッドホン。ゼンハイザーの設立50周年記念モデルとして登場し、同時に上級モデル「HD580 Jubilee」の量産バージョンとして位置付けされている製品だ。発売後、まずはプロユースを中心に活用され、徐々にリスニング用としても人気を集めていき、いつのまにか多くの人から名機と賞される存在となっていた。その後、2003年にHD650が登場し、メインの販売はそちらに移っていったものの、根強い人気に支えられ、その後も生産は続けられていた。

今回の再生産/限定発売も、そういった人気に応えたものなのだろう。実際、欧米のレコーディングエンジニア、特にクラシック系をメインにしているエンジニアは、いまだにHD600を使い続けている人も少なくないという話を聞く。そう、HD650ではなく、HD600を使い続けている人が少なからず存在しているのだ。そういった人々、特にプロフェッショナルユーザーに対するフォローとして、今回の限定販売が行われたのだろう。さすがはゼンハイザーというべきか、なかなか粋なことをしてくれる。

ちなみに、HD600とHD650は、外観上はほとんど同じに見える。マーブル模様のHD600に対してHD650はガンメタリック調のカラーに変化し、それにあわせてイヤーパッドの色合いも微妙に変化しているが、楕円形のパンチングメッシュ・ハウジングや着脱式の2pinケーブルなど、同一デザインが採用されている。とはいえ、部分的な改良はいくつか見られ、ヘッドバンドのスポンジがハンガーに掛けやすい“中央が凹んだ”タイプに変わっていたり、着脱式ケーブルのコネクター部分が付け外ししやすいカタチに変更されていたりする。あまりの人気のためにHD600が継続生産されたためやや曖昧になったものの、もともとHD650がHD600の後継として作り上げられたのは間違いなさそうだ。

HD600(写真左)とHD650(写真右)。HD600はマーブル模様のデザインが印象的だ

HD600(写真左)とHD650(写真右)。HD600はマーブル模様のデザインが印象的だ

HD600のイヤーパッド部。このクラスのヘッドホンなので、もちろん取り外し&交換可能だ

HD600のイヤーパッド部。このクラスのヘッドホンなので、もちろん取り外し&交換可能だ

HD650にも受け継がれている楕円形の特徴的なパンチングメッシュ・ハウジング

HD650にも受け継がれている楕円形の特徴的なパンチングメッシュ・ハウジング

ヘッドバンドのスポンジ。HD650は中央1点のみ凹んでいる形状で、スポンジが頭部全体に密着するようになっているのに対し、HD600は4つに分かれたスポンジで支えるような形になっている

さて、ここからは入手したHD600を見ていこう。まず、外箱を見て驚いたのが箱に貼られたハイレゾマークだ。多分、今回購入したユーザーは、まったくもってそういった期待はしていないと思うが、20年前に作り上げられた製品ながらハイレゾマークを取得できる実力の持ち主だったということを証明できた事実には、大いに価値を見いだしたい。ということで、過去に(箱に)ハイレゾマークなしのHD600製品を買ったユーザーも「ふふふ、うちのHD600たんはどんな音源でもオッケーだぜ!」と、引き続きさまざまな音源を楽しんで欲しい。

パッケージの表面に堂々と輝く金色のハイレゾロゴ

パッケージの表面に堂々と輝く金色のハイレゾロゴ

続いて、縦長方向に開くハードケースを開けて、HD600とご対面。当たり前のことだが、以前所有していたもの全く同じデザイン、佇まいのHD600が収まっていた。本体はもちろんのこと、付属品の着脱式ケーブルも一緒。ヘッドホンR側に赤い端子が採用され、アンプ側に6.3mmのようで実は3.5mm+変換アダプターを採用している部分まで寸分違わず同じだったりする。逆に、ここまで一切変わらず20年作り続けてきてくれたことに、感謝したいくらいだ。

着脱式ケーブルも1997年発売当時のままのデザインだ

着脱式ケーブルも1997年発売当時のままのデザインだ

モニターヘッドホンとして素晴らしい完成度

さて、肝心のサウンドについて紹介していこう。エージングがまだまだなので、いまひとつ広がり感に平たさが残っているが、サウンドキャラクターは(当然ながら)HD600そのもの。聴き心地のよさよりも正確さに重きを置いたオーソドックスなサウンドキャラクターで、ボーカルの特徴、楽器の特徴、全体のバランスがとても分かりやすい。ゼンハイザーらしい音色というべきか、女性ボーカルはほんのちょっとハスキーだが、ハイが鋭すぎることもなく、肉感のある歌声を楽しめる。逆に、ウィスパーボイス系の女性シンガーは、素直な声質のうえ付帯音が強すぎることもないため、とても聴きやすい。いっぽう、楽器ではバイオリンが美しく可憐なサウンドを奏でてくれるのが特徴。HD650だと、もっとハリのある煌びやかな音になるが、音色の自然さという点ではHD600のほうが多少なり優位に思える。

HD600とHD650を比較試聴

HD600とHD650を比較試聴

チェロの音色に関しては、意見が分かれそうだ。筋肉質のゴリゴリな低域ではないため、演奏によっては音がにじんだように感じる人もいるだろうが、あくまでも自然な響きの範疇に収まっており、違和感はない。同じく、ハードロックのエレキベースもやさしい音色に感じられる傾向にあるが、演奏のグルーブを阻害することなく、音源そのままのノリのよさは感じられる。

ちなみに、今回比較試聴したHD650はというと、こちらはHD600に対して解像度が高まり、より鮮度感の高いサウンドキャラクターにシフトした印象。高域が鋭く突き抜け、強弱表現もワイドなため、メリハリのよい、エネルギッシュなサウンドが楽しめる。解像感向上の恩恵か、空間的な描写もクッキリハッキリして、十分な広がり感をもつ音場表現となっている。

スピーカーに例えると、ソフトドームを搭載するオーソドックスなブックシェルフ型のHD600に対して、HD650はチタンなど金属素材のドームツイーターを搭載し、能率のすぐれたウーハーを組み合わせた現代的なスピーカーといったイメージがある。クリアでハイスピードだが、どちらかというとリスニング向けのHD650に対して、HD600は音源を素直に再生するサウンドのため、音源チェック用途ではHD600のほうが圧倒的に分かりやすい。また、長時間聴き続けようと思ったときにもHD600のほうが圧倒的に楽だったりする。多くのプロフェッショナルが、HD650でなくHD600を選び続けてきた理由がとても理解できる。もちろん、それは善し悪しではなく、あくまでも用途によって求める音色が違うということだが。

今回、久々にHD600をじっくり聴き込んだが、印象はまったく変わらず、モニターヘッドホンとして素晴らしい完成度を持つ製品だと再確認させてもらった。20年前に登場したモデルがこの実力を持ち合わせていることに、改めて驚かされた次第だ。

やっはり、新品&最終生産のHD600を入手できてよかった! 今後は、壊したり盗まれたりすることのないよう、大切に大切に使い続けたいと思う。

【関連リンク】
《2018年》おすすめヘッドホン14選! 高音質が魅力の注目人気モデル

野村ケンジ

野村ケンジ

ヘッドホンなどをはじめ幅広いジャンルで活躍するAVライター。ハイレゾ音源についても造詣が深く、アニソンレーベルのスーパーバイザーを務めるほか、TBSテレビ開運音楽堂「KAIUNハイレゾ」コーナーではアドバイザーとしてレギュラー出演している。

記事で紹介した製品・サービスなどの詳細をチェック
「価格.comマガジン」プレゼントマンデー
ページトップへ戻る