電話だけでなくSNSや情報ツールなどとして、日常生活に欠かせない存在となっているスマートフォン。音楽プレーヤーとしてもメインのひとつとなっているのは皆さんもご承知の通りだが、そういった事情のなかにあっても、根強い人気を保ち続け、次々と新製品が登場しているのが音楽専用のポータブルプレーヤー、DAP(デジタルオーディオプレーヤー)と呼ばれる製品達だ。
DAPのメリットはさまざまあるが、まず第一に音がいいことがあげられる。さまざまな機能性を詰め込まなければならないスマートフォンに対して、音質を最優先できるDAPは、当然ながら格段に音をよくできるし、同時にコストパフォーマンスも優位となる。屋外でBluetoothイヤホンを使い環境音楽的に楽しむ、という使い方だったらスマートフォンでも十分役割を果たしてくれるが、屋外屋内問わず音楽に集中して存分に楽しみたい、という人にはDAPが絶対オススメだ。
第二に、使い勝手のよさがあげられる。スマートフォンの音楽再生アプリも使い勝手は悪くないが、音楽再生“のみ”に特化した専用DAPは、タッチパネルはもとより、ボリュームなどのハードウェアキー含めて音楽再生のために作り込まれているので、使い勝手は格段によい。
さらに、ハイレゾ再生に関してはスマートフォンだと敷居が高くなってしまう傾向もある。近頃のAndroidスマートフォンは標準プレーヤーでハイレゾ音源も再生できるようになってきたが、再生できるサンプルレートやビットレートに制限があったり、DSD形式が再生できなかったりと、まだまだ、かなり詳しい人でないと使いこなせない状態にある。その点、DAPはシンプルで、デフォルトのままでも幅広いタイプのハイレゾ音源が再生できる。
なお、近年はストリーミングアプリへの対応も注目されていて、Apple MusicやSpotifyはもちろんのこと、Amazon Music HDやmora qualitas(モーラ クオリタス)、Tidalなど、ハイレゾ音源を提供する新サービスが登場してきているので、それらに対応している点もひとつの魅力ポイントとなっている。そのため、2019年に登場したDAPは、Google play対応のスタンダードなAndroid OSに専用プレーヤーを組み合わせた、一見するとスマートフォンとあまり変わらない製品も登場してきている。
もちろん、バッテリーの持続時間も見逃せない。スマートフォンで音楽を聴くと多少なり消費電力が高まるため、いざ電話したいときにバッテリー切れになってしまうことも考えられる。モバイルバッテリーを持ち歩いて対処する方法もあるが、音楽プレーヤーをスマートフォンと分けることでこういった心配は激減するし、逆に、ハイレゾ対応DAPもモバイルバッテリーから充電できるため2台使いはとても便利だ。また、最新DAPではUSB端子もUSB Type C採用の製品がほとんどとなってきたため、別途Micro USBケーブルなどを用意する必要もなく、スマートフォン用の環境をそのまま活用できる。
このように、音楽再生に関しては何かと有利なDAPだが、特にここ1年の期間に登場した製品は、音質のよさと使い勝手のよさを両立させることに注力されているように感じた。そんな、最新モデルのなかから、イチ押しモデルと注目モデルを、2万円前後、4万円以下、6万円以下、10万円以下、10万円以上と、細かく価格帯を分けて紹介させていただこう。
HiBy「R3Pro」
中国に本拠を構えるHiByは、これまで数多くのDAPをOEM/ODM生産を手がけており、特にDAP用OSやミュージックアプリ「HiByMusicPlayer」などの優秀さに注目が集まっているポータブルオーディオブランド。この「R3Pro」も、自社製のOSが搭載されたエントリーモデルで、無印「R3」に対して音質面でいくつかの刷新が行われたモデルとなっている。
まず、アルミ削り出しの本体、2.5mmバランス出力の採用はそのまま。HiBy OSの採用も変わらない。とはいえ、本体はしっかりとした作りや上質な印象が価格を感じさせないと好評を博しているし、HiBy OSもMSEBという独自の音質調整機能があったりAirplayやDLNAに対応していてWi-Fi経由で音楽再生やインポートができたり、電子書籍や万歩計の付加機能があったりと、なかなか多彩な機能性を持ち合わせている。
変化したのはDACを中心とするオーディオ回路部分だ。「R3」で採用されていたESS社製「ES9028Q2M」シングルDAC構成から、シーラスロジック製「CS43131」のデュアル構成に変更されている。11.2MHzまでのDSDネイティブ再生と32bit/384kHzまでのPCM再生に対応している。また、DAC内蔵のヘッドホンアンプ回路を使用することで、連続再生時間もほぼ倍増の最大20時間となった。このほか、Bluetoothも4.2から5.0へと改良され、コーデックもLDACやaptX、AAC、SBCに対応することとなった。
さて、肝心のサウンドはというと、「R3」に対してダイレクト感が高まり、同時に静粛性も増して、一段と良質なサウンドを聴かせてくれるようになった。もともと良質なサウンドだった「R3」だが、「HiBy R3Pro」ではさらにグレードアップ。エッジの効いた抑揚表現、クリアネスなボーカルなど、この価格帯で入手できるのが驚きの良質サウンドを持ち合わせている。また、DSD11.2MHzの再生がスムーズにもなっている点もありがたい。完成度の高い、圧倒的なコストパフォーマンスを誇る製品だ。まさに、この価格帯イチ押しの製品といえる。
FiiO「M5」
この価格帯で注目モデルとして紹介したい製品が、中国FiiOが展開する幅広いDAPラインアップのなかでも、いちばんのエントリーモデルである「M5」だ。45.3(幅)×42(高さ)×13.7(奥行)mmという超コンパクトなボディサイズながら、AKM製DAC「AK4377」を搭載することで384kHz/32bitのPCMとDSD28のハイレゾ音源に対応している。いっぽうで、Bluetoothレシーバー&トランスミッター機能を持ち合わせていて、しかも送信時にはLDACに、受信時にはLDACとaptX HDの高音質コーデックに対応していて、良音質のサウンドを楽しむことができる。加えて、タッチパネルによる操作感はなかなかにシンプルでわかりやすい。この価格帯では、飛び抜けた存在といえるだろう。
SHANLING「M0」
昨年登場の製品となるが、FiiO「M5」誕生のきっかけとなったライバル、SHANLIG「M0」も注目モデルとしてあげておこう。こちら、中国のオーディオメーカーSHANLINGが発売したエントリーモデルで、40(幅)×45(高さ)×13.5(奥行)mmという類のない小型軽量ボディが特徴。ESS社製「Sabre ES9218P」DACなどが採用されていて、自然な音色と厚みのある歌声を楽しませてくれる。Bluetoothレシーバー&トランスミッター機能も持ち合わせており、スマートフォンと連携して、ストリーミングサービスを楽しむといったことも可能だ。
iBasso Audio「DX160」
4万円以下のクラスは、良質な製品がいくつも登場してどれを取り上げるか大いに悩んだものの、まずはイチ押しとしてiBasso Audioの「DX160」を紹介させていただこう。こちら、同社ラインアップではミドルクラスに位置する製品で、「DX150」の後継にあたるモデル。とはいえ、アンプ交換機能はなく標準で4.4mmバランス出力を搭載(もちろん3.5mmステレオ出力もある)し、Android 8.1採用によってストリーミング系のアプリも利用できるようになり、さらに外観も(同ブランドとしては)スマートなデザインに変更されるなど、機能性も見た目も、まったく別のモデルに仕立てられている。
音質の要となるDACには、音質のよさで定評を持つシーラスロジック製「CS4398QFN」をデュアルで搭載。384kHz/32bitのリニアPCM、11.2MHzのDSDネイティブ再生に対応している。また、Android 8.1の採用によって、各ストリーミングサービスのアプリも使用できようになっていて、先日のファームウェアアップデートでは(Androidで)ダウンコンバートされてしまうことが問題となっていたAmazon Music HDの高レート再生が行えるようになっているという。このほか、DAC機能、Bluetoothレシーバー&トランスミッター機能、フルHDの5インチタッチパネルなど、機能性については充実した内容を誇っている。
実際に製品を手にしてみると、大型のタッチパネルは反応もよくて扱いやすい。アルバムジャケットが大きく表示されるのも嬉しいかぎり。USB Type C端子が上、2つのヘッドホン出力が下側にレイアウトされているのは珍しいかもしれない。内蔵メモリーは32GBなので、microSDメモリーカードの利用がメインとなるだろう。
とはいえ、iBassoの最大の注目ポイントは、ポータブルアンプ開発のノウハウに基づく良質なサウンド表現だろう。ひとことで表現するならば、iBassoらしいメリハリに富んだ表現を基本としつつも、クリアさやディテール表現も追求した、バランスのよいサウンドというイメージ。チェロはゆったりとした音色を奏で、ピアノは落ち着きのある音色の、やわらかいタッチの演奏を聴かせてくれる。とはいえ、ヌケの悪さはなく、音色は煌びやか。ボーカルも自然な声色の、伸びやかな歌声を楽しませてくれる。
今回、機能性に関しては確認しきれなかったが、こと音質に関しては、この価格でこのクオリティは望外といえる。とてもコストパフォーマンスのよい製品だ。
ソニー「ウォークマン A100 NW-A105」
高い人気を保ち続けているソニー・ウォークマンAシリーズ。その最新世代となるA100シリーズも注目モデルだ。今世代からAndroid OS(9.0)を搭載した“ストリーミングウォークマン”として生まれ変わり、ハイレゾ音源だけでなく、ストリーミングアプリも活用できるようになっている。機能性については、384kHz/32bitのリニアPCMと11.2MHzのDSDネイティブ再生に対応していたり、「DSEE HX」「バイナルプロセッサー」「DCフェーズリニアライザー」「クリアオーディオプラス」など独自のサウンド調整機能を持つなど、人気の機能性はそのままに、Google Play ストアに対応しさまざまなストリーミングサービスのアプリが使用できるようになった。また、NFC対応のBluetooth機能は、これまでのSBC/LDAC/aptX/aptX HDに加えて、新たにAACコーデックにも対応。どんな製品であっても、最良のサウンド楽しめるようになった。また、ノイズキャンレリング機能も持ち合わせていて、対応イヤホンを使って手軽に騒音を回避できるのも嬉しい。
Android OS採用となっても、拍子抜けするくらいAシリーズの良音質は健在だった。さらにSN感が向上、ボーカルやメイン楽器などフロントラインの演奏がよりダイレクトに伝わるようになった。
マイナスポイントはバッテリーの持続時間くらい。それでも約21時間(FLAC 96kHz/24bit、デジタルノイズキャンセリング機能OFF)の連続再生が可能となっているので、まったく不満はない。先代A50シリーズも完成度の高い製品だったが、多機能という面でより魅力を増した製品といっていいだろう。
SHANLING「M6」
6万円以下も、良製品がひしめくクラス。そのなかで今回はSHANLINGの「M6」をイチ押しモデルとさせてもらった。
こちら、中国深センに本拠を書くSHANLINGの最新フラッグシップモデル。Android OS(7.1)を搭載し、APKPureを利用してさまざまなアプリをインストール可能。ストリーミングサービスのアプリなども使用できるようになっている。Amazon Music HDのハイレゾ再生(ダウンコンバートの回避)にも対応している。
SHANLINGならではのクリック付きダイヤルボタンは健在で、このほか再生停止、曲送り、曲戻しボタンが左側にレイアウト。さらに左側には蓋付きのmicroSDメモリーカードスロットも配置されている。ヘッドホン出力は、3.5mmステレオに加え、2.5mm、4.4mm両方のバランス出力が搭載されている。このあたりは、FiiO「M11」の影響もあるかもしれない。
本体は左上の角を丸めたSHANLINGらしいデザインだが、Android OS採用のためか、かなり大柄となった。その分モニターは4.7インチタッチパネルが採用され、画面が見やすくなっている。
Bluetoothは、レシーバーとトランスミッターの両機能を持ち合わせていて、コーデックはSBCとLDACが双方向、aptX、aptX HD、HWA LHDCが送信のみで対応している。
音質の要となるDACはAKM製「AK4495SEQ」をデュアルで搭載。ローパスフィルターのTI社製「OPA1612」、アンプのADI「AD8397」もそれぞれデュアルで搭載するなど、音質に関しては変わらずのこだわりを盛り込んでいる。
まったくの新品だったので少々不安に思いつつも、そのサウンドをチェックした。とにもかくにも、ダイレクト感の高さ、解像感の高さに驚くばかり。チェロはボーイング時の細かい響きまでしっかりと伝わってくるし、ピアノは広がり感のある、煌びやかな音色を楽しませてくれる。女性ボーカルはやや擦過音が付帯するが、声色自体はとても自然で、生き生きとした歌声を聴かせてくれる。低域はしっかりとした量感を持つが、フォーカス感が高いため、中域を邪魔しないしグルーヴ感もしっかりしている。
何よりも、空間的な広がり感のよさ、定位の確かさがすばらしい。空間的な広がりはそれほど大きくはないものの、位相管理がしっかりしているのだろう、ふらつきのない確固たるステレオイメージが感じ取れる。
これまでの製品で何度も書いているが、こちらも価格を凌駕する良質なサウンドを持つ1台といえる。機能面もさることながら、こと音質に関してはとてもコストパフォーマンスの高い製品だ。
HiBy「R5」
6万円以下の注目モデルはHiByのミドルクラスDAP「R5」だ。上位モデルの「R6」と同じくAndroid OSを採用しているが、バージョンが8.1となっていることから、さまざまなストリーミングアプリも楽しむことが可能となっている。先日のアップデートで、Amazon Music HDのハイレゾ再生(ダウンコンバートの回避)にも対応した。実際に再生を試してみたが、良音質でスムーズに再生できた。
DACは、シーラスロジック製「CS43198QFN」を左右独立でデュアル搭載。そのほかにも、パナソニック製電解コンデンサーやPOSCAPコンデンサー、NDK(日本電波工業)社製水晶発振器を採用するなど、こと音質に関しては徹底したこだわりを見せる。
比較的コンパクトなサイズの本体は、サイドがラウンドしていることもあって、とても扱いやすい。ヘッドホン出力は、3.5mmに加えて4.4mmバランスも採用されているので、こちらもありがたい。ちなみに、当然のごとくWi-FiもBluetoothも搭載され、BluetoothはaptX、aptX HD、LDAC、HWAなどのコーデックに対応している。
さて、実際のサウンドはというと、ダイレクト感の高い音というべきだろうか、輪郭のハッキリしたクリアなサウンドを楽しむことができた。おかけで、チェロもピアノも本来の演奏のニュアンスがしっかりと伝わってくる。アコースティック楽器ととても相性のよいサウンドといえる。いっぽう、女性ボーカルはかなり近距離で明瞭な歌声を聴かせてくれる。また、かなりボリュームを下げても歌声がしっかりと伝わってくるのも嬉しいポイントだった。音楽に集中して楽しむことも、音量を下げてBGMとして楽しむことも可能だ。もちろん、「HiByMusicPlayer」が採用されているので、好みに合わせてサウンドキャラクターを調整することも可能となっている。とても使いやすい製品だ。
ソニー「ウォークマン NW-ZX507」
幅広い人気を誇ったミドルハイクラスのウォークマン、「ZX300」の後継に位置するモデル。Android OS(9.0)を搭載し、Google playストアのアプリダウンロードにも対応。ハイレゾ音源だけでなく、ストリーミングアプリなども活用できる“ストリーミングウォークマン”としてまったく新しく生まれ変わっているのが最大の特長といえる。
いっぽうで、外観デザインは「ZX300」のイメージを踏襲しつつ、下側が丸められて持ったときの感触がよくなっていたり、ボタンのカーブがボディ一体となってよりスマートな印象になっていたりと、専用アプリとなったプレーヤーの画面表示も含め、別物といっていいほどに印象は変わった。
機能面では、Android OS採用による汎用性の高さが特徴だ。特に、Google playストアに対応することで、多くのアプリが難なく活用できるのがいい。中華DAPの多くがGoogle playストアのアプリが使えない(ストアにアクセスできてもインストールできなかったりする)ので、この点は大きなアドバンテージといえる。そのいっぽうで、Amazon Music HDやO
nkyo HF Playerなどのハイレゾ再生に対応していないなど、最新バージョンOSならではのマイナスポイントがある。このあたりは、他のメーカーがやり始めているように、バージョンアップ等で対応してほしいものだ。
そのほか、384kHz/32bitのリニアPCMと11.2MHzのDSDネイティブ再生に対応していたり、「DSEE HX」「バイナルプロセッサー」「DCフェーズリニアライザー」「クリアオーディオプラス」など独自のサウンド調整機能を持つなど、機能性は先代ほぼそのまま。OSが変わっていることを意識させられないほどだ。また、NFC対応のBluetooth機能は、これまでのSBC/LDAC/aptX/aptX HDに加えて、新たにAACコーデックにも対応していて、どんな製品でも最良のサウンド楽しめるようになった。
そのサウンドは、先日の単体レビューにも書かせていただいた通り、かなりのクオリティレベルを持ち合わせている。先代に対して確実な進化が押し進められていて、特にSN感、音のクリアさが高まっている。なかでも3.5mmアンバランスは、SN感がグッと高まり、歪み感が抑えられた見通しのよい表現となった。また、4.4mmバランスもSN感のよさが向上したおかげで、キレのよい、グルーヴ感あふれる演奏が楽しめた。Android OSの採用による音質的なデメリットをいっさい感じさせない、絶妙なサウンドチューニングといえる。
しかしながら、気がかりなことが。というのも、とある機会に市販品の「ZX500」を2台ほど(別の場所で)聴いたのだが、ややクセのある音色なうえ、音数が少し整理されたようにも感じられ、これまで(3台ほど)聴いた「ZX500」の試聴サンプルとは随分違う印象に思えたのだ。OSのバージョンなのか、鳴らし込み時間の問題なのか判断できないのだが、音も機能も優秀な製品だけに、先々、筆者も製品を購入し、じっくりと聴き込んで判断したいと思っている。
いずれにしろ、機能性と音質の両面で大いに満足できる製品であることには間違いない。持ちやすいサイズ感も含めて、完成度の高い製品といえる。
Astell&Kern「A&ultima SP2000」
10万円以上のクラスは、ポータブル製品とは思えないほど良質なサウンドを持ち合わせる製品がいくつも登場した。そのなかでももっとも注目を集めているのが、ハイレゾ対応ポータブルDAPのブームをけん引したブランドのひとつ、Astell&Kernの新フラッグシップモデル「A&ultima SP2000」だろう。
旭化成エレクトロニクス社の最新フラッグシップDAC、AKM「AK4499EQ」をいちはやく、しかもデュアル構成で搭載し、最大768kHz/32bitのリニアPCM、22.4MHzのDSD(DSD512)ネイティブ再生に対応。また、新しいオーディオ回路とアンプ部の設計により、さらなる高出力化(バランス6Vrms/アンバランス3Vrms)と低歪・高S/N化の両立も実現したとアピールする、超弩級の製品だ。
Stainless steelモデルとCopper、2つのボディバリエーションを用意するのは先代「SP1000」と同様。USB 3.0(Type-C)のサポートにより急速充電&高速データ転送(最大10Gbps)に対応。加えて、MQA音源の再生、「Open APP Service」機能により音楽ストリーミングサービスアプリ(Open APK)の活用、USB-DAC機能とUSB-AUDIO出力などの機能性もそのまま。これに加えて、新たに動画共有サービス閲覧機能「V-Link」が搭載されることとなった。
ひとことでいえば音質のグレードアップがメインの「SP2000」だが、実際にそのサウンドはフォーカス感がより高まり、抑揚表現も一段と幅広い、クッキリとしたとてもクリアなサウンドへと進化している。解像度の高さもかなりのもので、オーケストラ演奏を聴いても1人1人の演奏が手に取るように感じられる。フラッグシップモデルのポジションに相応しい、とても良質な製品だ。弱点は、高価なことと、とても重いくらいだろう。
Astell&Kern「KANN CUBE」
この価格帯のAstell&Kernには、注目モデルがいくつもあるが、個人的には「SP2000」と同等かそれ以上、と思っているのが「KANN CUBE」だ。
ポータブルDAPというにはあまりに大きいため、使い勝手の面で人を選ぶためあえて注目モデルとしたが、こちらもなかなかのモデルだ。
約87.75(幅)×140(高さ)×31.5(奥行)mmという、ポータブルDAPとしては完全アウト!なボディサイズのなかには、ESS社の最高級8ch DAC「ES9038PRO」が左右独立のデュアル構成で搭載され、384kHz/32bitまでのリニアPCM、11.2MHzまでのDSDのネイティブ再生に対応している。据え置き型の高級AVアンプ用DACをポータブルに、しかもデュアル搭載するなんて、それだけでもかなり突き抜けた製品となっているのがわかる。また、 Mini XLR 5-pin端子を搭載していて、こちらのバランスライン出力によってホームオーディオに接続することもできる。ポータプルDAPとしては何から何まで型破りな製品となっている。
当然、音質もとてもすばらしい。超解像といっていいとてつもなくきめ細やかなサウンド表現によって、演奏のすべてが把握できる。これほどまでに、ピュアなサウンドを聴かせてくれる製品はそうそうないだろう。その代わりに、持ち運びしづらかったり等、オススメしきれない点はいくつかある。また、個人的にも「KANN」に対してSDメモリーカードスロットが省略されてしまったのは残念でならない。
とはいえ、このサイズ感が許容範囲であれば、とても満足度の高い製品だといえる。
FiiO「M11pro」
とても良好なサウンドを聴かせてもらえるものの、原稿執筆時点(11月末)で価格も決まっておらず、Bluetoothなどの無線もオンにならないため、番外編として紹介させていただこうと思っている製品がひとつある。それがFiiO「M11pro」だ。
良質なサウンド、Androidベースの独自OSによる使い勝手のよさ、そして2.5mmと4.4mmの両方が搭載されたバランス・ヘッドホン出力などによって、大いに人気を集めた「M11」のアッパーモデルで、事実上「X7」の価格ポジションに位置するフラッグシップモデルとなっている。
DACはAKM製「AK4497EQ」をデュアルで搭載。384kHz/32bitまでのリニアPCM、11.2MHzまでのDSDをネイティブ再生する。3.5mmステレオに加え、2.5mmと4.4mmのバランス出力端子を搭載するのは「M11」と同じだが、フルバランス構成のヘッドホンアンプ回路は「THX AAA-78」と名付けられた、THX対応のバージョンが搭載されている。また、MQAフルデコーダー機能も搭載。Bluetoothレシーバー/トランスミッターとしても利用可能な点など、機能性も多彩となっている。
いくつかの音質パートがグレードアップしているだけあって、そのサウンドは「M11」に対してグッとクオリティアップした。定位感がしっかりしたおかげで、揺るぎのない、広がり感のあるサウンドを楽しむことができるようになった。いっぽうで、特に中高域の解像感も高まっていて、口調のしっかりしたボーカルの、ハキハキとした元気な歌声を聴かせてくれる。歌声自身は、カラッとした、やや高域成分強めの傾向といえる。いっぽう、低域はしっかりとしたフォーカス感が確保され、メタルやハードロックを聴いてもノリのよいドラム&ベースが楽しめる。機能も音質も、なかなかに良質な製品といえるだろう。
このように、2019年は昨年以上に良質なDAPが次々と登場してくれた。特に、中華DAPの対等とウォークマン主力製品のリニューアルという2つが重なったため、どの価格帯も魅力的な製品であふれかえっている。既存製品も含めると、その数は膨大、購入を検討している人は大いに悩むことになるかもしれない。これを機会に、気になる製品を片っ端から試聴して、是非ともお気に入りの1台を見つけ出してほしい。
ヘッドホンなどのオーディオビジュアル系をメインに活躍するライター。TBSテレビ開運音楽堂にアドバイザーとして、レインボータウンFM「みケらじ!」にメインパーソナリティとしてレギュラー出演。音元出版主催のVGP(ビジュアルグランプリ)審査員も務める。