レビュー
発売直後から価格.comのランキング上位をキープする注目モデル

どちらが買い? iFi Audio「ZEN DAC/CAN」の無印モデルとSignatureモデルを比べてみた

おうち時間やテレワーク需要などによって、一躍ヒットモデルとなったiFi AudioのDAC内蔵バランス・ヘッドホンアンプ「ZEN DAC」と単体バランス・ヘッドホンアンプ「ZEN CAN」。よく考え込まれて取捨選択された絶妙なパッケージングに加え、iFi Audioならではの良質なサウンド、それでいてデスクの上でもかかさばらないコンパクトさも両立。さらに、2万円というコストパフォーマンスの高さも持ち合わせていることもあってか、いまだにバックオーダー状態が続く人気の高さを保ち続けている。そんな「ZEN DAC」「ZEN CAN」に、早くもシグネチャーモデルが登場した。

ifi-Audio「ZEN DAC Signature」(写真下)と「ZEN CAN Signature」(写真上)

ifi-Audio「ZEN DAC Signature」(写真下)と「ZEN CAN Signature」(写真上)

「ZEN DAC Signature」「ZEN CAN Signature」という名前からわかる通り、それぞれ「ZEN DAC」「ZEN CAN」のシグネチャーモデルではあるが、実際にはやや性格の異なるモデルとなっている。というのも、「ZEN DAC」は単体でUSB DAC機能とプリアンプ機能、4.4mmバランス・ヘッドホンアンプ機能を持ち合わせている多機能製品であったが、「ZEN CAN」と組み合わせた場合にヘッドホンアンプ機能が無駄になってしまうジレンマがあった。

対して「ZEN DAC Signature」では、DACやプリアンプ機能はそのままに、ヘッドホンアンプ機能や「TrueBass」などの音質調整機能が省かれている。要するに、「ZEN DAC Signature」は単体での利用は可能ではあるものの、「ZEN CAN Signature」と組み合わせて活用することが想定されている製品となっている。

フロント部分にあったPowerMachやTrueBassの切り替えボタン、ヘッドホン出力などがなくなり、すっきりとしたデザインに

フロント部分にあったPOWER MATCHやTrueBassの切り替えボタン、ヘッドホンジャックなどがなくなり、すっきりとしたデザインに

とはいえ、単体製品である「ZEN CAN」のヘッドホンアンプ出力は、「ZEN DAC」のそれに比べて格別のクオリティと駆動力を持ち合わせているので、筆者のように2製品を組み合わせて利用している人間にとっては、とても効率のよいパッケージングといえる。また、すでに他社製のお気に入りヘッドホンアンプを所有している人にとっても、理想的なバリエーションの登場になったことだろう。

「ZEN DAC Signature」の外観は「ZEN DAC」のそれとひと目で見分けられるほど異なっている。ケースのデザインはまったくといっていいほど変わりないが、天板部分がブラックからダークブルーに、フロントパネルがシルバーからブラックに変更されたほか、ヘッドホン関連のジャックや操作ボタンがなくなり、ブルーに彩られた大きなボリュームダイヤルが中央に配置されるのみとなった。かなりシックな、好感の持てるカラーコーディネートだ。

フロントパネルがシルバーからブラックに変更され、かなりクールな装いとなった

フロントパネルがシルバーからブラックに変更され、かなりクールな装いとなった

外観はかなり大きく変わっているが、いっぽうでヘッドホンアンプ機能以外はまったく変わらず、DACの対応フォーマットもリニアPCMが384kHz/32bitまで、DSDが11.2MHzまでとなっている(元々十分以上のスペックは備えていた)。新たにMQAレンダラー機能が加わったが、こちらは無印「ZEN DAC」も今回マイナーアップグレードされたようで、まったく同等のスペックとなっている。ちなみに、無印「ZEN DAC」の初期型ではMQAレンダラー対応だったため、MQAコアデコード機能を持つ再生ソフト(AudirvanaやRoonなど)を組み合わせないとフルデコード再生ができなかった。

加えて、RCAと4.4mmバランスという2系統のライン出力や、ライン出力のフィックス/バリアブル(音量調整のありなし)切り替えも同じ。そのいっぽうで、数値以外の部分、音質面ではいくらか手が加えられており、基板素材やフルバランス回路のコンデンサーなどがアップグレードされている。

バックパネルのインターフェイスは無印「ZEN DAC」とほぼ共通だ

バックパネルのインターフェイスは無印「ZEN DAC」とほぼ共通だ

基板の素材やフルバランス回路のコンデンサーなど、内部回路はアップグレードされている

基板の素材やフルバランス回路のコンデンサーなど、内部回路はアップグレードされている

「ZEN CAN Signature」も、基本的に機能面では無印「ZEN CAN」と大差ない。同じく「デュアルモノ・トゥルー・ディファレンシャル・バランス回路」を搭載し、基板素材の変更やパナソニック製OS-CON、エルナー製Silmlic IIコンデンサーなどのパーツを新規に採用することで、さらなる音質向上が押し進められている。

外観も色合いは大きく異なるが、機能面ではそう変わらず、フロントパネルには入力切り替え(RCA/3.5mmステレオ/4.4mm5極バランスの3系統)とPowerMachと呼んでいるゲイン切り替え(0dBから18dBのでの4ポジション)、6.3mmステレオと4.4mmバランスのヘッドホンジャックなどがレイアウトされている。

「ZEN CAN Signature」のフロントパネル。入力切り替えやPowerMach、ヘッドホンジャックなどが並ぶ

「ZEN CAN Signature」のフロントパネル。入力切り替えやPowerMach、ヘッドホンジャックなどが並ぶ

「ZEN CAN Signature」のバックパネルのインターフェイス

「ZEN CAN Signature」のバックパネルのインターフェイス

「ZEN CAN Signature」も、基板のパーツなどに細かなアップグレードが実施されている

「ZEN CAN Signature」も、基板のパーツなどに細かなアップグレードが実施されている

ただひとつ、ActiveEQと呼ばれる機能が新たに採用されている。こちら、特定のヘッドホンに合った特別なEQカーブを用意したもので、「ZEN CAN Signature」には「Massdrop × Sennheiser HD 6XX」専用のActiveEQが装備されている。Massdrop製品を手に入れるためには直接海外から輸入するしかないため日本ではあまりなじみがないかもしれないが、一般的なモデルのゼンハイザー「HD650」にも対応したモードなので、多くの人が重宝するはず。なかなか思い切った仕様といえる。とはいえ、こちらをオンにしなければ数多のヘッドホンに幅広く対応してくれるので、「HD650」ユーザーでなくても魅力が減って見えることはないだろう。

フロントのヘッドホンジャック脇に設けられた切り替えボタンから、「Massdrop × Sennheiser HD 6XX」専用のActiveEQを設定できる

フロントのヘッドホンジャック脇に設けられた切り替えボタンから、「Massdrop × Sennheiser HD 6XX」専用のActiveEQを設定できる

ということで、ここからは肝心のサウンドをチェックしてみる。比較対象は手元にある初期型の「ZEN DAC」「ZEN CAN」の組み合わせだ。「ZEN DAC Signature」はUSBから、「ZEN CAN Signature」は付属のACアダプターで電源を確保。両製品はiFi Audio製の「iFiの4.4mm to 4.4mm cable」で接続している。そのほかの機器は筆者のデスクトップシステムそのもの、Windows PC(LG gram)やJBLのパワードスピーカー「104-BT-Y3」を使用している。また、ヘッドホンに関しては「HD650」に加えて、聴き慣れているオーディオテクニカ「ADX5000」やfinal「D8000 pro」などデモテストした。

無印「ZEN DAC」と「ZEN CAN」、「ZEN DAC Signature」と「ZEN CAN Signature」の接続には、iFi Audio「iFiの4.4mm to 4.4mm cable」を使用した

無印「ZEN DAC」と「ZEN CAN」、「ZEN DAC Signature」と「ZEN CAN Signature」の接続には、iFi Audio「iFiの4.4mm to 4.4mm cable」を使用した

まず驚いたのが「ZEN DAC Signature」のSNのよさだ。基本的な音色はそう変わらず、ほぼ新品である「ZEN DAC Signature」が最初はかなりボーカルがハスキーだったが、次第にこなれてくると、SNの良好な、とてもリアルな印象のサウンドが再生されてきたのだ。ダイナミックレンジの幅も少し広がってくれたようで、メリハリもよくなり一段と躍動的な表現となった。いい音でありながら迫力もある、絶妙なバランスのサウンドだ。

続いて、「ZEN CAN Signature」のサウンドをチェックしてみる。実は、無印「ZEN CAN」の音も「ADX5000」や「D8000 pro」を組み合わせるかぎり気に入っていて、特に「ADX5000」との相性は抜群といえるもので、それもあって「ZEN CAN」を導入した経緯もある。しかしながら、「HD650」との組み合わせは悪くはないが気に入らない、といったマッチングで、どこかヌケが悪いというか、抑揚の平たい音に感じていた。それが「ZEN CAN Signature」(と「ZEN DAC Signature」の組み合わせに)に変更すると、途端にバランスのよい、上質なサウンドに一変してくれるのだ。倍音成分の整いがよいのか、ピアノの音も伸びやか。特徴的なのがAimer「春はゆく」で、こちらを聴くとエコー成分がいつもより豊かな、幻想的なサウンドを聴かせてくれる。

「ADX5000」の組み合わせでも格段にフォーカス感の高まった、ダイレクトなサウンドを聴かせてくれた。わずかに残る歪みっぽさも霧散して、クリアなのに聴き心地がよいという絶妙なサウンドを楽しませてくれるようになった。いっぽう、ヘッドホンアンプに高い実力を求める「D8000 pro」もなかなかに心地よいサウンドを聴かせてくれるようになった。この価格帯で「D8000 pro」を“もうひと息”と思えるクオリティまで引き上げてくれる「ZEN DAC Signature」の実力の高さには、驚くばかりだ。

このように、「ZEN DAC Signature」「ZEN CAN Signature」の組み合わせは、オリジナルのクオリティを大きく凌駕する、高い実力を持ち合わせた製品となっていた。これから「ZEN DAC」と「ZEN CAN」を組み合わせて購入しようという人には間違いなくSignatureセットのほうがおすすめだし、現在無印セットを所有している人にも、ぜひアップグレードを検討してもらいたい。一度そのサウンドを聴けば、間違いなく気に入ってくれるはずだ。

とはいえ、無印に価値がないというわけではない。これからデスクトップ用DAC(ヘッドホン)アンプを導入してみようという人には「ZEN DAC」単体で導入するのも大いにありだ。イヤホンがメインという人には、無印「ZEN CAN」の音質調整機能に価値を見いだすかもしれない。なかなか、悩ましい選択肢といえる。

とはいえ、筆者は「ZEN DAC Signature」「ZEN CAN Signature」の組み合わせへのグレードアップを画策中で、遠からずシステムを入れ替えたいと考えている。

野村ケンジ

野村ケンジ

ヘッドホンなどのオーディオビジュアル系をメインに活躍するライター。TBSテレビ開運音楽堂にアドバイザーとして、レインボータウンFM「みケらじ!」にメインパーソナリティとしてレギュラー出演。音元出版主催のVGP(ビジュアルグランプリ)審査員も務める。

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