似て非なる「Bluetoothスピーカー」と「ワイヤレススピーカー」。公式な定義はないが、前者のオーディオ伝送経路はBluetoothのみ、後者はWi-Fiを中心とすることが一般的。現状のBluetoothオーディオはロッシーであり、Wi-Fiはロスレス再生が可能なぶん音質的に有利とされている。
そしてもうひとつ、Wi-Fi/ワイヤレススピーカーに利があるのが「ストリーミング」。自律的にインターネット接続が可能なため、PCやスマートフォンを経由せず(AirPlayやキャストを使わずに)ストリーミングサービスにアクセスできるのだ。家族間共有を前提とする場合、誰かの端末に縛られないメリットは大きい。
DENONの「HOME」シリーズは、そのようなWi-Fi/ワイヤレススピーカーとしての基本を踏まえつつ、ほかにない独自性を打ち出している。それがオーディオ特化型ネットワークモジュールの「HEOS(ヒオス)」であり、HEOSがサポートする機能群だ。
今回取り上げる「DENON HOME 350」は、シリーズ最新のフラッグシップモデル。Amazon Musicなどのストリーミング周りの機能改善もあり、Wi-Fi/ワイヤレススピーカーとしての使い勝手は向上している。その実力のほどを探ってみよう。
ワイヤレススピーカー「DENON HOME 350」
「DENON HOME 350」の使用感を述べる前に、そのスペックをかんたんに紹介しておこう。
スピーカーユニットは、φ20mmドームツイーターとφ50mmミッドレンジが各2基という2ウェイ/ステレオ構成に、φ165mmのウーハーが前面と背面に各1基置かれる。それらを6基のClass-Dパワーアンプが独立して駆動する、という凝った仕様だ。
「DENON HOME 350」の正面。スピーカーユニットは、φ20mmドームツイーターとφ50mmミッドレンジが各2基という2ウェイ/ステレオ構成
オーディオ再生系はHEOSが担う。HEOSはハードウェア的に見れば“モジュール”だが、SoCが搭載されLinuxベースのOSが駆動するという小さなコンピューターだ。ハイレゾ音源(PCM:最大192kHz/24bit、DSD:最大5.6MHz)の再生やLAN上のサーバのネットワーク再生、BluetoothやAirPlay 2のサポート、各種ストリーミングサービスの再生といった処理はここで行われる。
「DENON HOME 350」背面の端子部。 IEEE 802.11a/b/g/n/ac対応のWi-Fiのほか、有線LAN接続にも対応する
天板はタッチ対応、軽く触れた時だけ光る仕様
音質面におけるポイントのひとつは、エンクロージャーだ。380(幅)×180(奥行)×229(高さ)mm/重量6.7kgという大きさは、機動性という点ではマイナスだが、ツイーターとミッドレンジを角度を付けて設置できるのはエンクロージャーのサイズあってこそ。角度があるからステレオ感を出せるわけで、ここがコンパクトモデルが主流のBluetoothスピーカーとは異なる点だ。
中央部に据えられたウーハーも重要なポイントといえる。φ165mmという口径もさりながら、前後に対向配置することで、強力な磁気回路が生み出すドライバーの振動エネルギーやそこから生じる歪みの打ち消しを狙う。パッシブラジエーターやバスレフでは生み出せない、“量感あるクリーンな低音”が期待できそうだ。
初めて見る「DENON HOME 350」の佇まいは、どこか無骨な印象だ。ブラックとホワイトのカラーバリエーションのうちホワイトを借り出したが、正直6.7kgという重量はずっしりくるし、38cmという横幅も場所をとる。この点、見た目が爽やかなホワイトモデルといえど、サイズ感と機動性が売りのBluetoothスピーカーとはまるで違う。
しかし、セットアップ開始時点から印象は一変する。HEOSアプリを起動して「デバイスの追加」を開始すれば、Wi-Fi接続からデバイスの検索までほぼ自動的に行われる。ストリーミングの利用にはHEOSアカウントが必要になるため、その行程でやや手間取るが、感覚的にはBluetoothのペアリングよりやさしく直感的に理解しやすい。筆者の場合、すでにHEOSアカウントを所有していたので、画面の指示に従い何度か画面をタップし、Wi-Fiパスワードを入力する程度で準備完了となった。
セットアップはHEOSアプリで行う
セットアップの途中で壁に寄せるか離すかたずねられる
HEOSアプリで曲操作やストリーミングサービスの切り替えが行える
音を出し始めると、さらに印象が変わる。ドミニク・ミラーの「What You Didn't Say」は、箱鳴りが実に自然。弦を爪弾いたあとの余韻をしっかり感じさせつつも濁らず、ハーモニクスは伸びやか。輪郭が鮮明で、コードストロークも音離れがよくすっと収束する。途中から加わるパーカッションには、かなり低い音も含まれるのだが、それをこもり感なく聴かせるところがいい。どうやら、対向配置された2基のウーハーがいい仕事をしているらしい。
Bonobosの「Cruisin' Cruisin'」は、全体のバランスがいい。楽曲構成的にも演奏技術的にも聴きどころ満載な、すべての楽器が巧みに配置された曲だが、ボーカルが前面に出つつもベースの存在を確と感じさせ、過不足がない。音量を上げてもバランスは崩れず、流麗で繊細なタッチのギターソロも、残響音をあえて強調した演出のクラッシュシンバルも、加減算なくありのままに再生される。スピーカーが分離独立しているミニコンポのような音場の広さも、一般的なBluetoothスピーカーと違うところだ。
HEOSアプリの地道な改良もポイント。試聴はAmazon Musicを中心に実施したが、以前はできなかった(自作の)プレイリスト再生が可能になっているじゃないか! Amazon Musicトップ画面にある「プレイリスト」ではなく、「楽曲一覧」→「プレイリスト」を選ぶというわかりにくさはご愛嬌だが、これでAmazon Musicアプリの自作プレイリストが使えるようになった。Amazon Musicは日本で利用できる数少ないハイレゾ/ロスレス対応のサブスクサービス、ほかのデバイス/アプリとプレイリストを共有できるかできないかは重要なポイントになる。
HEOSアプリでAmazon Musicの自作プレイリストを利用できるのはうれし
ほかにも、2台用意して1組のステレオシステムとして利用したり、複数台でマルチルーム再生したり、といった使い方が可能な「DENON HOME 350」。「DENON HOME SUBWOOFER」を導入しホームシアターシステムとして使う、といった離れ業も可能なこのワイヤレススピーカー、音楽なしでは暮らせないタイプの人間にとってかなり気になる存在となるはずだ。
IT/AVコラムニスト、AV機器アワード「VGP」審査員。macOSやLinuxなどUNIX系OSに精通し、執筆やアプリ開発で四半世紀以上の経験を持つ。最近はAI/IoT/クラウド方面にも興味津々。