サブウーハーがセットになったサウンドバー「SR-B40A」
ヤマハが2023年8月に発売した「SR-B40A」は、サウンドバーと別体型のワイヤレスサブウーハーがセットになった2ピースタイプのモデル。注目すべき特徴は、3次元立体音響フォーマットのDolby Atmos再生に対応していること。いまや実売2〜3万円台の身近な価格のサウンドバーでもDolby Atmos再生は可能なのだ。
しかも、しっかりとした重低音が楽しめるサブウーハーもセットなので、リビングなどで迫力のあるサラウンドが楽しめる。そんな注目のモデルを自宅にお借りしてじっくりと聴いてみた。
サウンドバー本体は横幅91cmで、サイズ感としては50V型から60V型くらいの薄型テレビとマッチする。ボディ全体はファブリック素材で仕上げられており、フォルムもシンプルなので落ち着いた印象だ。薄型テレビの手前に置いてもよくなじむ。サブウーハーは前面がファブリック仕上げで、本体と見た目のイメージが揃えられている。フレア形状のバスレフポートが光沢仕上げとなっているのも洒落ている。
ユニット構成は、46mmコーン型ドライバー(chあたり2基)と25mmドーム型ツイーターによる2ウェイ仕様。これがサウンドバー左右に配置されている。最大アンプ出力は50W+50W。比較的安価なモデルなのでシンプルではあるが、しっかり2ウェイ構成となっているのがなかなか本格的だ。別体のサブウーハーは側面に160mmコーン型ドライバーを搭載し、最大アンプ出力は100W。
別体のサブウーハー。側面に160mmユニットを備え、バスレフポートは前面にある
テレビとの接続はeARC対応のHDMI端子で行うのが基本。Bluetoothにも対応しており、スマホなどの音楽をワイヤレスで再生することも可能だ。
別体のサブウーハーとはワイヤレス接続で、余計な操作は必要なし。電源をつなげば自動的にスタンバイ状態になり、本体のサウンドバーと自動で接続する。使い勝手はシンプルで簡単だ。
本体背面の入力端子。eARC対応のHDMI端子と光デジタル音声入力がある。USB端子はアップデート用だ
サブウーハーの背面。ワイヤレス接続なので入力端子などはない。あるのは電源端子と接続状態を示すインジケーターのみ
本体操作ボタンなどもシンプルで、電源ボタンと入力切り替え、音量調整ボタンがあるだけだ。これに加えて、前面のインジケーターで、入力信号の種類を表示する。このインジケーターは音量調整時に点灯して音量の大小を表示する働きもする。
各種操作は、付属のリモコンのほかスマホ用アプリ「Sound Bar Remote」(無料)でも行える。アプリを起動するとBluetoothでサウンドバーを探して自動接続する。接続後は電源オン/オフや入力切り替え、音量調整のほか、音質調整などの設定が可能だ。
前面にあるインジケーター。入力切り替え表示は白色で、Dolby Atmos信号の入力時は右端のインジケーターが緑色に点灯する
上面にある操作ボタン。アイコンのみのシンプルな配置だが、電源ボタンはスピン加工されたメタル素材となっていて質感を高めている
付属のリモコン。こちらでも基本操作のほか、サブウーハー音量の調整、サウンドプログラムの切り替えなどが行える
自宅の試聴室にてテレビ台にセット。組み合わせた薄型テレビは55V型のREGZA「55X9900L」
まずはテレビ放送番組のステレオ音声を試してみた。ニュースなどを見てみると、アナウンサーの声が明瞭で聴きやすい。中域に厚みのあるバランスで声に厚みが出るし、くっきりとした音質なので音量が小さめでもきちんと聴きとれる。このあたりのバランスのよさはさすがヤマハ。
ドラマ番組などで「サウンドプログラム」を試してみると、「ステレオ」は余計な加工をせずにそのままストレートに鳴らすイメージ。音の広がりはあまりなく、印象としてはテレビの内蔵スピーカーの音質がグレードアップした感じになる。音が明瞭でしっかりと聴こえる分、テレビ画面の下から音が出ている感じも強まってしまうのが少し気になった。
「スタンダード」に切り替えると、音の広がりが増し音場自体も少し上に上がって画面から音が出ている感じに近づく。音の広がりはステレオ再生に近い。変にサラウンド感を強調するような違和感がなく、聴き心地がよい。普段のテレビ視聴ならば「スタンダード」が合うだろう。
「映画」と「ゲーム」は名称どおりのコンテンツを楽しむときに選ぶもので、ステレオ音声でもサラウンド再生っぽい空間感が出る。たとえばテレビドラマなどでは屋外の車の走行音や周囲の人の話し声が部屋全体に響く感じになり、包まれるような音場になる。雨音が上から降っている感じになるなど高さ方向の再現もよくできる。
「ゲーム」はより個々の音をはっきりと出すイメージでステレオ音声では左右のみだが方向感も強まる。ステレオ音声のサラウンド化でも不自然さは少なく、気持ち良く音に包まれるような感じになるのが好ましい。このあたりはAVアンプなどで自然に音場を“創成”する「シネマDSP」技術を持つヤマハならではの巧みさだ。
「Sound Bar Remote」のメニュー画面。各種音質調整はアプリを見ながら行うと便利だ。左はトーンコントロール(高音/低音のイコライザー)とサブウーハーの音量調整。右は「サウンド設定」。声を聴き取りやすくする「クリアボイス」と低音を増強する「バスエクステンション」は好みに応じて選択しよう
左の「サウンドプログラム」はいわゆる音質モードのこと。「ステレオ」「スタンダード」「映画」「ゲーム」の4種類が選べるので、コンテンツや好みで選び分けよう。右の「設定」画面では、システムやアプリのバージョン確認、インジケーターの明るさ調整が可能だ
さらに、サブウーハーが思っていたよりも力強く、厚みのある低音が出る。サウンドバー本体との音のつながりもスムーズで、ボコボコと低音だけが目立ってしまうようなこともない。
サブウーハーの音量だけを上げることもできるが、初期値の状態でも十分にパワフル。大音量で鳴らすときには少しサブウーハーの音量を下げてもよいと感じたくらいだ。この充実した低音のおかげで、テレビドラマなどの音楽が力強いし、サスペンスドラマなどの緊迫感もしっかりと伝わる。
音楽番組を「スタンダード」で聴くと、メリハリのくっきりとした再生になる。ボーカルはきちんと目の前に定位するし、伴奏の楽器の音色なども自然な感触だ。低音がしっかりとしているのでオーケストラのスケール感が出て、パワフルと言っても過剰な響きや量感がなく軽快な鳴り方なのも好ましい。ボーカルの細かなニュアンスや楽器の質感などを求めると物足りない部分も多少はあるが、このあたりは価格的にも仕方がないところだろう。
映画はジャズを題材としてコミックが原作のアニメ「BLUE GIANT」のブルーレイを見た。音楽が主役とも言える作品で、アニメではまだまだ数が多くないDolby Atmos音声を採用しているのも立派だ。試聴では、テレビ(TVS REGZA「55X9900L」)にブルーレイプレーヤー(パナソニック「DP-UB9000 Japan Limited」)をHDMIで接続し、その音声をHDMI(eARC)経由でサウンドバーに送っている。
概要で紹介したとおり、「SR-B40A」は2.1ch構成でバーチャル技術によるサラウンド再生となる。だが、それを感じさせない立体的な空間が再現された。たとえば、上京してきたばかりの主人公が初めて東京のジャズクラブに行く場面。
外では雨が降っていて、女主人はジャズのレコードを再生する。その演奏が自然で豊かに再現されるだけでなく、あまり広くないジャズクラブの室内でレコードを再生しているという響きがよく出ている。そのいっぽうで右の窓越しに雨が降っている様子が描かれると、雨音が右側から聴こえてくる。この方向感というか実際にジャズクラブにいる感じがよく出ているのだ。
リアルスピーカーを使ったサラウンド再現ではないものの、「SR-B40A」は立体音響技術Dolby Atmosのデコードに対応していることがポイント。DTS音声デコードには対応していないが、DTS音声を再生したい場合はプレーヤーやテレビでPCMに変換して出力すればサラウンド音声を楽しめる
バーチャル技術によるサラウンドは、細かな音の再現の部分で実際に試聴位置後方や天井にスピーカーのある再生とは差が出てしまう。ただし、バーチャル再生にもよいところはある。
それは空間のつながり、音のつながりがよいことだ。本格的なサラウンド装置でもフロントスピーカーに比べてサラウンド(リア)スピーカーは小型のものにしていることは少なくないだろう。
ステレオ再生においては、右と左のスピーカーを別メーカーのものやサイズの違うもので組み合わせることはない。音がつながらないからだ。厳密に言えばサラウンドでも同様のことが起こる。だから、スピーカー選びでは同じメーカー製で同じシリーズであるとか、なるべく音の傾向の近いものを組み合わせるわけだ。バーチャルサラウンドの場合、当然すべて同じスピーカーで鳴らすわけだから音のつながりという点では理想に近い。
「SR-B40A」の音には、そういうよさがある。空間がきれいに出て、その場所の広さや屋内か屋外かといった音の響きの違いが明確に再現される。
それがよくわかるのは、ジャズクラブ「ソー・ブルー」での演奏だ。広い空間で客席が多く、観客のざわめきが四方から聴こえてくるだけでなく、広さ感もよく伝わる。テナーサックスの力強い鳴り方と目の前で吹いている感じの実体感がたっぷりの音だ。
ブルーレイ版のロスレス音声(Dolby TrueHD)のDolby Atmosということで情報量も十分で、楽器の質感も出る。圧巻なのはドラムソロ。このあたりは物語的にも感動的なのだが、バスドラムの力強い鳴り、スネアのリズム感、シンバルのキレ味と見事なほどドラムソロをリアルに再現している。
自然な音色をきちんと再現できることも立派だし、ステージの臨場感がよく伝わる空間再現もよくできている。価格を考えれば、満足度は十分に高い。もちろんこれは、予算の制約が厳しい価格帯でしっかりと音を仕上げたヤマハの技術と経験によるところが大きい。安価なモデルほど、メーカーやモデルによって音質の差は大きいので、事前にしっかりと検討したい。ヤマハの「SR-B40A」は有力なおすすめ候補のひとつになるだろう。
「SR-B40A」に限らないが、昨年あたりから低価格帯でのDolby Atmos対応サウンドバーが増えてきた。
Dolby Atmosに対応しようとすると10万円を超えるようなサウンドバーもあるが、お手軽とは言いにくいしAVアンプを使った本格的なシステムも視野に入ってきてしまう金額だ。「SR-B40A」の価格ならばテレビの買い替えに合わせて「一緒にサウンドバーも新調しようかな」という感じで購入できるし、それでDolby Atmosを楽しめるようになったのはとてもよいことだ。
ネット動画でもDolby Atmos音声はかなり増えているし、特に海外の予算のある劇場公開映画はDolby Atmosが標準と言えるほどになっている。よくできたDolby Atmos音源は一般的な5.1ch音声よりも空間の再現性や表現力が格段に向上しているので、比較的安価なシステムでも5.1ch音声との違いが実感できるはずだ。
自宅にホームシアターはおおげさだし、大音量と本格的なシステムでDolby Atmosを楽しむのは映画館だけで十分という人は少なくないだろう。しかし、手ごろな価格でDolby Atmosを楽しめるとなれば、その考えは変わるのではないかと思う。自宅でのDolby Atmos再生を諦めていた人に、ぜひともヤマハの「SR-B40A」に注目してほしい。