同じプリメインアンプでも機能はさまざま。USB DACとして使えたり、音楽ストリーミングサービスに対応していたり、目的に合わせて選び分けられます
映画も音楽もストリーミグで楽しむのが当たり前の昨今、テレビがひとつあればストリーミングで映画も音楽も楽しめるようになっています。つまり、テレビの音がよくなれば、映画も音楽もより楽しめるということ。
そこに着目したメーカーから、テレビと連携するためのHDMI端子を持ったオーディオ機器がAVアンプ以外にも多数登場していますし、価格.comマガジンでもたびたび製品を取り上げています。そこでここでは、テレビの音質を手軽に、しかも劇的に改善するための本格オーディオシステムとして、HDMI端子を搭載したプリメインアンプをまとめて紹介します。
ARC対応HDMI端子を搭載したプリメインアンプはどのような人が選ぶべきなのでしょうか。まずは同じようにARC対応HDMI端子を持った各種オーディオ製品――プリメインアンプのほか、サウンドバー、アクティブスピーカー、AVアンプ――の特徴を確認してみましょう。それぞれにメリット、デメリットがありますから、自分の本当のニーズが見えてくるはずです。
●メリット:好きなスピーカーを選べるうえ、高音質を狙える
●デメリット:スピーカーとアンプをそれぞれ買う必要がある
ARC対応HDMI搭載プリメインアンプとARC対応テレビをHDMIケーブルで接続。これだけでテレビ放送やテレビで再生したネット動画などを好きなアンプとスピーカーで楽しめます
アンプとスピーカーを別で用意する、本格的なオーディオシステムは高音質を狙えることが何よりのメリットです。アンプとスピーカーをスピーカーケーブルでつなぐ必要がありますが、実はそこさえクリアすれば、構造としてはサウンドバーとほぼ同様。図のようにテレビと連携して使う限りはテレビのリモコンさえあれば基本操作はまかなえます。
サイズや外観など、多様な製品の中から好きな(パッシブタイプの)スピーカーを選べることがメリットですが、裏を返せばスピーカーを選ばなければならないとも言えます。アンプに加えてスピーカーも買わなければならないため、初期投資が必要なこともネックになるかもしれません。
しかし、アンプを内蔵していないスピーカーはあまり故障するものではありません。大切にすれば“一生モノ”として使うこともできますから、長く使うならばコストパフォーマンスにもすぐれていると言えます。
●メリット:手軽で選択肢が多く、製品によってはサラウンド再生もできる
●デメリット:音質面では不利なことが多い
最新のサウンドバーならばARC対応のHDMI端子は標準装備と言えます。プリメインアンプの接続図と比べるとわかるとおり、サウンドバーとは、アンプとスピーカーが一体化した製品なのです
テレビの音質を補足する定番としてすぐに思い出されるのは、いわゆるサウンドバーではないでしょうか。最新サウンドバーの多くはARC(ないしはeARC)対応のHDMI端子を搭載しているため、テレビとサウンドバーをHDMIケーブル1本でつないでおけば、とても簡単に音質改善を図れるのです。
2〜3万円の製品でもDolby Atmosの立体音響再生が可能な製品もありますし、とにかく選択肢が広いことも特徴です。
ただし、画面の下に置く一体型の「バー」であることから、画面の下から音が聴こえるという映像と音の不一致を避けることが難しくなります。また、一般的なスピーカーに比べると左右のスピーカー(Lch/Rch)の音の分離を保つことも難しくなりがちです。
●メリット:手軽さと音質を両立できる
●デメリット:選択肢が少ない
一般的なアクティブスピーカーにもHDMI端子を持った製品があります。左右のスピーカーが分離したサウンドバーだと思ってほぼ間違いありません。左右のスピーカー間はスピーカーケーブルでつないだり、無線でつないだりする場合もあります
サウンドバーの弱点である画面の下から音が発せられるという問題を根本から解決する方法が、画面の左右にスピーカーを置くというものです。左右(Lch/Rch)が分離したアクティブスピーカーにARC対応のHDMI端子を付けることで、サウンドバーとまったく変わらない利便性と、音質を両立した製品が登場しています。
このスタイルの製品は弱点がなさそうですが、現状では製品数が非常に限られています。比較的手の届きやすい製品としてELACの「Debut ConneX DCB41」やKEFの「LSX II」「LS50 WirelessII」「LS60 Wireless」があげられますが、サウンドバーと比較すると高価ではあります。
●メリット:安価な製品があるうえ、プリメインアンプ同等の使い勝手
●デメリット:本体が大きくなりがち
プリメインアンプの代替として検討できるのがAVアンプです。最新のAVアンプには必ずHDMIが付いていますし、もちろんARCにも対応しています
ARC対応HDMI搭載プリメインアンプは魅力的でも、価格がネック……という人はAVアンプを検討するとよいでしょう。AVアンプは5.1chなどのサラウンドをするためのアンプをたくさん内蔵しています。そのため、サラウンドをしない場合はアンプがあまりますが、困ることもありません。それでいて3万円台から製品がありますから(2024年12月6日現在)、実は高コスパを狙える選択肢だと言えます。
ARC機能を使ってテレビとの連携だけをするならば、使い勝手は基本的にプリメインアンプと同じ。デメリットは基本的に本体が大きいこと。上記のとおりアンプがあまるほか、機能が多すぎて使い方に混乱する可能性もあります。また、同じ価格の製品ならば、プリメインアンプのほうが音質的には有利だと思ったほうがよいでしょう。
むだなく、できるだけシンプルにテレビの高音質を実現する方法がARC対応HDMI端子を搭載したプリメインアンプを使うことです。ここからは、2024年12月6日現在購入できる製品をまとめて紹介します。特にことわりがない限り、ここで紹介する製品はARC対応HDMI端子だけを持ち、HDMI「入力」は非搭載です。
アメリカに拠点を置くLinkPlayテクノロジー社の家庭用オーディオブランドがWiiM(ウィーム)。安価でも高機能なネットワークオーディオプレーヤーなどが人気ですが、「WiiM Amp(ウィームアンプ)」はアンプも内蔵したネットワークオーディオプレーヤー兼プリメインアンプ。
本記事で紹介する製品の中でも特に小型で安価。横幅190mmの本体にTI製D級増幅アンプモジュールを収め、60W(8Ω)出力を確保しています。SpotifyやAmazon
Musicのほか、日本に上陸したばかりの音楽ストリーミングサービス「Qobuz(コバズ)」の再生にも対応しています。
発売からしばらく経っているものの、価格.com「プリメインアンプ」カテゴリの「人気売れ筋ランキング」でも10位(2024年12月6日現在)の定番製品。SpotifyやAmazon Musicなどのストリーミング再生にも対応しています。また、テレビとつなぐためのARC対応HDMI端子だけでなく、HDMI入力を5系統持っているため、ブルーレイレコーダーやAmazon「Fire TV」シリーズなども接続できます。
パッと見る限りはAVアンプのアンプ数が減っただけのようですが、ちゃんと内部は2ch(ステレオ)アンプに最適化されているのがポイント。アンプが減った分、レイアウトを最適化、カスタム品の大きなコンデンサーなどを搭載して音質を強化しています。アンプは定格75W(8Ω)出力のAB級ディスクリート(単体パーツで構成された)仕様。
横幅215mmのいわゆるハーフサイズというコンパクトさが魅力の「AI-303」。アンプは定格25W(8Ω)出力のD級増幅。Hypex社の「Ncore」というアンプモジュールを搭載しています。出力値が控え目に見えるかもしれませんが、一般的な使い方ならば音量が不足することはまずないでしょう。
USB Type-C端子を装備し、USB DACとして使えることが大きな特徴です。PCだけでなく、スマホやタブレットをつないで「AI-303」を音声の出力先にできます。このUSB DAC機能では11.2MHzのDSD、384kHz/32bitのPCMなど、ハイスペックなハイレゾ音源の再生にも対応しています。
サウンドバーやスマートスピーカーが人気のSonosも、ARC対応のHDMI搭載プリメインアンプを展開しています。
Sonosのほか製品と同様、独自アプリでSpotifyやAmazon Music、さらにApple Musicのストリーミング再生に対応します。このスムーズさは他社製アプリではなかなか得られないレベルです。アンプ単体で音楽をストリーミングしたいのならば、有力な候補になるでしょう。アンプは125W(8Ω)出力のD級増幅。クアルコム社の「DDFA」というアンプモジュールを搭載しています。
「RCD-N12」は、CDプレーヤーまで一体になったプリメインアンプ。言ってみれば往年のミニコンポと同じ形です。現在もミニコンポスタイルの製品は発売されていますが、HDMI端子を持ったモデルはとても珍しい存在です。CDをたくさん持っている人にはうってつけの製品と言えるでしょう。
アンプは定格65W(4Ω)出力のD級増幅。4ch分のアンプを内部でBTL接続し、高出力を得るという凝った構造を採っています。
「NR1200」や「STEREO 70s」など、マランツのHDMI端子付きプリメインアンプが人気であるいっぽう、姉妹ブランドであるデノンからは同種の製品が発売されていませんでした。そこで登場したのがこの「DRA-900H」です。アンプは定格100W(8Ω)出力のAB級ディスクリート(単体パーツで構成された)仕様。
HDMI入力を6系統持ち、そのうち3系統が4K/120Hz、8K/60Hz映像信号のパススルーに対応。最新ゲームとの相性を考えられたスペックは、下で紹介する「STEREO 70s」と同等。「NR1200」にはない、このスペックを担保しておきたい人は「DRA-900H」と「STEREO 70s」が有力候補になります。両機の、違いは音質と本体サイズ。2024年9月末からは「DRA-900H」の価格.com最安価格がグッと下がり、お買い得になっています。関連記事も参考にどうぞ。
「DENON HOME AMP」は、横幅217mmの小型ながら音質にもこだわったモデル。上で紹介したCDプレーヤー一体型の「RCD-N12」の“CDなし”バージョンのように見えますが、中身がまったく異なります。デノンが高音質だと考えるパーツを投入したほか、オランダのAxign(アクサイン)と共同開発したD級増幅アンプモジュール4ch分を使い、内部でBTL接続。100W(8Ω)の大出力を実現しました。
小型のアンプをすっきりと置きたい、でも音質には妥協したくない、という人にぴったりの製品です。
SpotifyやAmazon Musicの再生にも対応しているので、アプリからの音楽再生もスムーズ。いっぽうでフロントパネルには入力切り替えなどを登録できる3つのプリセットボタン、ボリュームボタンがあるため、アプリを使わずに音楽再生することもできます。
「MODEL M1」は、「DENON HOME AMP」と双子のモデルと言える存在です。この小さなアンプ(とスピーカー)さえあれば、テレビの音質を強化しつつ、SpotifyやAmazon Musicを自在に楽しめます。
100W(8Ω)のD級増幅アンプなど主要部分は「DENON HOME AMP」と共通していますが、「MODEL M1」のほうがパーツのグレードが高く、それが価格にも反映されています。フロントパネルにプリセットボタンがないことも選択のポイントになるでしょう。そのほか、表面仕上げなども異なりますが、いちばんの差は音質。できれば、双方を見て、聴いてどちらを購入するか判断したいところです。
「POWERNODE EDGE」は、カナダのオーディオブランドBluesoundのネットワークプレーヤー一体型プリメインアンプ。219(幅)×193(奥行)×44.5(高さ)mmというサイズはここで紹介するモデルの中でも特にコンパクトです。アンプは定格40W(8Ω)出力のD級増幅。
独自開発のOSで動くことが特徴で、Sonos同様、スムーズに音楽ストリームサービスにアクセスできます。なかでも注目すべきは、近日中の日本でのサービス開始が告知されている「Qobuz(コバズ)」に対応していること。同サービスを使えば、ハイレゾを含むさまざまな音楽を自在に再生できるようになります。
「POWERNODE」は、「POWERNODE EDGE」の上位モデル。OSは共通で、やはりネットワークオーディオ機能の充実が特徴です。アンプは定格80W(8Ω)出力のD級増幅。
「POWERNODE EDGE」と比べると出力が強化されているほか、同社製のアンプやスピーカーを足すことでワイヤレスサラウンドシステムに発展できるという変わった機能も追加されています。より音質を求める人、将来的にサラウンドシステムへ発展したい人向けのモデルと言えるでしょう。
マランツ「NR1200」が人気であることは上記のとおりですが、「STEREO 70s」は「NR1200」の約4年後に発売された最新版です。
デノン「DRA-900H」の項目でも説明したようにHDMI入力を6系統持ち、そのうち3系統が4K/120Hz、8K/60Hz映像信号のパススルーに対応します。アンプは定格75W(8Ω)出力のAB級ディスクリート(単体パーツで構成された)仕様。これは「NR1200」と同じ数値ですが、主にプリアンプ部に改良が加えられ、音質も大幅に向上しています。
ARCAM(アーカム)は、1976年に創業されたイギリスのブランド。音量(アンプ出力)に応じてA級増幅とAB級増幅を使い分ける「G級増幅」アンプを得意としていて、「SA30」にもその技術が投入されています。出力値は130W(8Ω)と、本記事で登場する製品中では大出力のモデルです。
さらに特徴的なのは自動音場補正機能「Dirac Live」に対応すること。マイクを使った測定をしたうえで、音質を最適化する機能です。音響を整えていない一般的な部屋でよい音を得るためには効果的なことが多く、リビングルームなどで使う場合に特にぴったりと言えます。
メーカー希望小売価格は330,000円(税込)ですが、2024年12月6日時点の価格.com最安価格は125,000円(税込)。非常にお買い得度の高い製品です。なお、ストリーミングでの音楽再生はAirPlayおよびChromecast built-inで対応しています。
「R-N1000A」は、ヤマハ独自の自動音場補正機能「YPAO」を搭載したモデルです。この技術はながらくAVアンプで培われたもので、付属マイクでの測定で部屋に応じた音質の最適化を図ります。特に音質のための調整をしていないリビングなど「普通の部屋」で生きる機能ですから、テレビのお供にはちょうどよいと言えます。
そのほか、SpotifyやAmazon Musicの再生に対応するネットワークオーディオ機能に加え、11.2MHzのDSD、384kHz/32bitのPCMの入力に対応するUSB DAC機能も持つなどさすがの高機能。アンプは定格100W(8Ω)出力のAB級ディスクリート(単体パーツで構成された)仕様です。
ここから紹介する製品は価格がグッと上がり、設計も本格的なオーディオ然としてきます。最終的に何が違うかと言えば「音」ということになりますので、できるならば一度試聴してみるとよいでしょう。
「R-N1000A」の上位モデルとして「R-N2000A」という製品も用意されています。このプリメインアンプは「フラッグシップモデルで培った高音質技術を継承」したと説明されているように、ヤマハの高級モデルで培われた技術がふんだんに使われています。
自動音場補正機能「YPAO」を搭載しますが、「YPAO」の補正に頼ったセッティングをするのではなく、部屋の調整までを見越したユーザーが購入すべき高級品です。アンプは定格90W(8Ω)出力のAB級ディスクリート(単体パーツで構成された)仕様。
「SU-GX70」はパナソニックが手掛けるオーディオブランドTechnics(テクニクス)の製品です。以前からTechnicsのアンプに採用されていたフルデジタルアンプ技術「JENO Engine」を使いつつ、HDMI伝送におけるノイズの低減に努めています。このあたりがテレビやブルーレイレコーダーの現場でHDMIに精通したパナソニックならではの手当と言えます。
ネットワークオーディオ機能でSpotifyやAmazon Music(ハイレゾの再生は非対応)の再生に対応するほか、USB DAC機能で11.2MHzのDSD、384kHz/32bitのPCMの入力に対応するなどやはり高機能。アンプは定格40W(8Ω)出力でもちろんD級増幅仕様です。
「NR1200」「STEREO 70s」とは異なり、HDMI「入力」を持たないマランツのプリメインアンプで、HDMIはARC対応端子1系統のみです。これは、「MODEL 40n」がマランツにおける「Hi-Fi」ライン寄りの製品であるということに由来しています。
とはいえ、SpotifyやAmazon Musicなどにはしっかり対応。音楽の高忠実度再生を基調としつつ、現代のさまざまなソースを再生することに応えた製品だと言えます。アンプは定格70W(8Ω)出力のAB級ディスクリート(単体パーツで構成された)仕様。
ほぼ同じ内容で、HDMIやネットワークオーディオ機能非搭載のシンプルなプリメインアンプ「MODEL 50」という製品もラインアップされています。
マランツ「MODEL 60n」は、「MODEL 40n」と「STEREO 70s」の“間”を埋めるプリメインアンプです。「MODEL 40n」と同じように「Hi-Fi」寄りの製品として企画されているため、HDMIの「入力」は非搭載。HDMIはARC対応端子のみに絞り、2ch音源の再生能力向上に注力した製品だと言えます。
SpotifyやAmazon Music再生に対応するのはマランツ(と姉妹ブランドのデノン)製品に共通した仕様。ただし、上位モデル「MODEL 40n」よりも後に発売された製品とあって、11.2MHzのDSDファイル再生に対応するなど、スペックアップした部分もあります。アンプはAB級増幅で、出力は60W(8Ω)。