デノンのCDプレーヤー/プリメインアンプ一体型モデル「RCD-N12」を借用。大型アップデートを施された「HEOS」でのAmazon Music再生を改めて試してみた
先日、デノン「RCD-N12」と1か月暮らした記事の中で、「HEOS(ヒオス)」アプリからAmazon Musicがうまく再生されなかったことを紹介した。ちょうど、「HEOS」が大きくアップデートされたタイミングで「アプリの使い勝手がよくなるはず!」と大いに期待していただけに、落胆は大きかった。同じように感じた方が多かったようで、各所から反響があったそうだ。そこで今回は「HEOS」でAmazon Musicがうまく再生できない場合の対処法をデノンに伝授してもらった。これで、「HEOS」対応機がAmazon Musicのハイレゾ再生機の大本命になる! と意気揚々と検証に臨んだ。
結局のところ、無事にAmazon Musicをスムーズかつ快適に楽しむことができたのだが、そこに至るまでにはトラブルもあった。今回はその過程と対処法、改めて試した「HEOS」アプリのインプレッションを紹介する。同じ症状で悩んでいる方は、原因究明の参考にしていただきたい。
「RCD-N12」はCDプレーヤーとプリメインアンプが一体になった製品で、ARC対応のHDMI端子も持っているためテレビとも組み合わせられる。そのほか、「HEOS」対応製品はAVアンプやプリメインアンプなど幅広い
まずは結果から報告しておくと、最終的には「HEOS」アプリからAmazon Musicのアカウントを登録し、楽曲アイコンをタップしたところ、すんなりと音楽を再生できた。挙動がスムーズで音質も良好だ。
従来の「HEOS」アプリと大きく変わっているのがUIだ。機能のほとんどが「ホーム」と呼ぶメイン画面に集約された。ここには「ラジオ」「最近再生したコンテンツ」「お気に入りステーション」「ソース」など、カテゴリーごとにブロックで分かれて並ぶ。
そもそも「HEOS」とはD&Mホールディングスが展開するデノン、マランツブランドで主に使われる独自のネットワークオーディオ機能のこと。インターネットラジオやTuneInのほかSpotify、Amazon Musicなど複数の配信サービスを「HEOS」アプリで横断して楽しめる
このブロックの1つに「ミュージックサービス」があり、ここから音楽配信サービスのアカウントを登録する。テスト時に対応していたサービスは、Amazon Music、Spotify、SOUNDCLOUD、AWA、TuneInの5種類。ブロックにある「音楽サービスの追加」をタップすると、登録可能なサービスのアイコンが表示される。ここからサービスのアカウントでログインしたり、すでにインストールされているアプリと紐付けたりできる。
「音楽サービスの追加」のタップで左の画面に切り替わる。Amazon Musicをタップするとログイン画面に移動するので、ログインしたら登録は完了。右画面のように新着やおすすめから曲を選ぶことも、右下の「検索」から好きな曲を選ぶこともできる
アカウントに紐付いた楽曲やプレイリストはメイン画面に表示される。ここから楽曲やプレイリストのアイコンを選ぶと再生が始まる。Mrs. GREEN APPLEの「ライラック」はハイレゾ再生。音がパキッと明瞭で一聴して解像度が高いことがわかる。ハイトーンボイスは高域まで伸び、音像もエッジが明瞭だが刺さるような感じは一切ない。この高音質を、使い勝手のよいUIで気軽に楽しめるようになったことはうれしい限り。
再生中の楽曲表示。「ULTRA HD」のバッジがハイレゾの証し。拍子抜けするほどすんなり再生できた
「HEOS」アプリは複数のサービスを横断した検索にも対応する。画面下部の「検索」をタップすると検索画面に切り替わる。ここで、検索窓にアーティスト名や楽曲タイトルなどのキーワードを入れると、複数のサービスを横断して結果を表示してくれるのだ。
大型アップデート前の旧「HEOS」アプリでも複数のサービスを登録できたが、それぞれのサービスにいったん入ってから探す必要があった。また旧バージョンでは表示がプレイリスト主体で、とにかく聴きたい曲を探すのが大変だった印象が強い。
やはり、横断検索の便利さは複数のサービスをまたいで楽曲を探せることにある。曲によっては特定のサービスでしか配信されていないが、その点「HEOS」アプリなら簡単にどのサービスにあるかも含めて探せて便利。入力してから表示されるスピードも速く、ストレスもほぼない。
あまりにも扱っている楽曲数が多いため、カバー曲や同名の別曲など目当てではないものもずらっと検索結果に並ぶが、これが新しい曲との出合いにつながることもある。Amazon Musicの強みを生かして、よい音でいろいろな曲を手軽に楽しみたいなら、「RCD-N12」のような「HEOS」対応製品はうってつけと言える。
上部の検索窓にアーティスト名や曲名を入れると複数のサービスを横断して結果を表示してくれる。サンプルとしてちょうどよい表示がされる曲を探すのが難しかったので、ここで紹介するのは「アンガールズ」の検索例。ポッドキャストのコンテンツを探し当ててくれた
代表的な「HEOS」対応製品
●デノン
・「AVC-A1H」「AVC-X6800H」「AVR-X4800H」「AVR-X3800H」「AVR-X2800H」「AVR-X1800H」(AVアンプ)
・「DRA-900H」「PMA-900HNE」(プリメインアンプ)
・「DNP-2000NE」(ネットワークオーディオプレーヤー)
・「DENON HOME SOUND BAR 550」(サウンドバー)
・「RCD-N12」(CDプレーヤー/プリメインアンプ)
・「Denon Home 150 NV ST」(Bluetoothスピーカー・ワイヤレススピーカー)
●マランツ
・「AV10」「CINEMA 30」「CINEMA 40」「CINEMA 50」「CINEMA 70s」(AVアンプ)
・「MODEL 40n」「STEREO 70s」「MODEL M1」(プリメインアンプ)
・「SACD 30n」「CD 50n」(CDプレーヤー)
・「M-CR612」(CDプレーヤー/プリメインアンプ一体型)
上記のように便利に使える「HEOS」だが、はじめに取材した際にはうまくAmazon Musicを再生できなかった。ここからは、その原因を検証していく。まず、デノンから伝授してもらった、Amazon Music再生がうまくいかない場合に確認するとよいポイントは以下の3つ。
●DNS
ルーターの設定でPublic DNS(Google DNSなど)に設定すると接続がうまくいくケースがあるとのこと。
●IPv6
「HEOS」は今のところインターネット通信規格のひとつであるIPv6(後述)に対応していないとのこと。自宅の通信方法は手元のスマートフォンでも確認できる。
●ルーターのセキュリティ
ルーターにセキュリティソフト(マカフィーやノートンなど)が導入されている場合、干渉している可能性があるとのこと。
結局のところ、原因は2つ目のIPv6によるものだったようなのだが、まずは自宅での症状についておさらいしよう。「RCD-N12」では、「HEOS」アプリからデバイス設定や操作に対応するほか、SpotifyやAmazon Music、TuneInなど複数のストリーミングサービスを統合して操作できる。たとえば、「HEOS」アプリから楽曲を横断して検索し、シームレスに行き来しながら楽しむことが可能だ。
問題の症状はAmazon Musicを再生した際に起こった。アプリ上の「音楽サービスを追加」からAmazonアイコンをタップし、Amazonアカウントにログインする。すると、アプリ上にAmazon Musicのエリアが作られ、楽曲のアイコンが並ぶ。ここからは、直接楽曲を選べるほか、プレイリストやステーションなどを辿り、任意のプレイリストや曲を選択できる。
これらのアイコンをタップすると音楽の再生が始まるはずだが、なかなか音が出ない。数十秒待つと、「Amazon Musicから再生することができません。時間をおいてからもう一度お試しください。」または「タイムアウトのため実行できませんでした。」と表示され処理が止まる。何度も試すと、まれに再生が始まることがあるが、曲が切り替わると接続が切れてしまう。
選曲はできるものの、再生するとこのようにアラートが出て処理がストップしてしまっていた
ひと通りの取材後、2023年末に「HEOS」が大幅アップデートされたのを受け、再び「RCD-N12」をお借りしてアップデート後のバージョンを試した。しかし、Amazon Musicを再生できない症状は変わらず、問題に進展はなかった。こうした問題に悩んでいたところ、具体的な対応策とともに、接続実績のあるWi-Fiルーターをお借りできたので、これらをもとに改めて検証していく。
やり取りの中で、原因についてデノンに聞くと「ユーザーによって利用機器や環境が異なるため特定は難しい」という趣旨の回答をもらった。曲を探せるが、再生できない症状からも、インターネット自体はつながっており、途中の経路に何かあると想定できる。
筆者のネット環境は、回線がNTTの光コラボで、ONUはNTTの「PR-400NE」。回線の接続方式が「IPoE(IPv4 over IPv6)」のため、インターネット接続に対応ルーターが必要だ。筆者はバッファロー製Wi-Fiルーター「WSR-5400AX6S」を使い、ONUとLANケーブルで接続している。
バッファローのWi-Fi6対応ルーター「WSR-5400AX6S」。すでに生産終了しており、この後紹介する設定画面は、現行モデル「WSR-5400XE6」と異なる場合があるのでご注意いただきたい
「RCD-N12」と「HEOS」アプリをインストールした「Google Pixel 7a」(Androidスマートフォン)は、ともに「WSR-5400AX6S」にWi-Fi接続しており、この状態ではAmazon Musicを再生できない。
手始めに、今回の症状がネットワーク環境によって引き起こされているのか、スマートフォン側の設定やアプリが原因なのかを切り分けていこう。ここで、使うのがデノンからお借りしたWi-FiルーターのNEC「AtermWR9500N」である。
検証用にお借りしたNEC製Wi-Fiルーター「AtermWR9500N」。2011年10月発売と10年以上前のモデルで、IPv4にしか対応していない
「AtermWR9500N」は、背面スイッチでルーターモードに設定されている。この状態で「WSR-5400AX6S」のLAN端子と「AtermWR9500N」のWAN端子をLANケーブルでつなぎ、「RCD-N12」とスマートフォンを「AtermWR9500N」にWi-Fi接続する。インターネットへの接続は「WSR-5400AX6S」が、宅内のLANは「AtermWR9500N」が担うという形だ。
「AtermWR9500N」はルーターモードの「RT」に設定された状態で届いた。このままの状態で検証を実施
このつなぎ方は、2台のルーターを数珠つなぎにする、いわゆる「二重ルーター」状態であり、通信速度が遅くなったり、ルーター同士が干渉して通信が不安定になったりする恐れがある。今回は、「WSR-5400AX6S」のルーター機能に問題があるかを探るため一時的につないでいるが、通常は絶対に行わないでいただきたい。
このつなぎ方で、「HEOS」アプリからAmazon Musicのアカウントを登録し、楽曲アイコンをタップしたところ、すんなりと音楽が再生された。
ダブルルーター状態のだめ完全な解決とはいかないが、どうしても「HEOS」アプリでAmazon Musicのハイレゾ再生をしたい場合にはこの対処法が有効だ。同時に、「WSR-5400AX6S」側の処理に何らかの問題があるとわかった。次のステップからは、デノンに教えてもらったチェック項目を見ていこう。
ここで、伝授してもらった方法の1つであるルーターの設定から試していく。DNSサーバーにパブリックDNS(Google DNSなど)を指定することで改善したケースがあるという。DNSサーバーは、ドメイン名をIPアドレスに変換する役割がある。ブラウザーにURLを入力すると、DNSサーバーのデータベースをもとにドメイン名からIPアドレスを探して接続する。通常はプロバイダーのDNSが割り当てられるのだが、これを企業が公開する誰でも利用可能なパブリックDNSに変更することで、通信ルートを変更できる。
「WSR-5400AX6S」の場合、設定画面の「Internet」→「Internet」にある「DNS(ネーム)サーバーアドレス」にアドレスを入力する。今回は、パブリックDNSの中でも利用者が多い、「Google Public DNS」を設定した。
Google Public DNSを利用したければ、画面のようにプライマリー「8.8.8.8」、セカンダリー「8.8.4.4」を設定すればOK
設定後、「HEOS」アプリを開くと、楽曲の一覧が表示される。期待を込めて楽曲のアイコンをタップすると……タイムアウトで再生できなかった。ほかのパブリックDNSを利用したものの、どれもだめだった。
インターネットではネットワークに接続された機器にIPアドレスという番号が割り振られている。このIPアドレスを123.456.XXX.XXXのように、32ビットで表す通信規格を「IPv4」(Internet Protocol version 4)と呼ぶ。インターネット黎明期の1980年代前半に開発され、約43億通りのIPアドレスを設定できる。1990年代後半からのインターネットの普及とともに広く使われるようになったが、同時にIPアドレスを新たに設定できなくなる「枯渇」も問題となっていた。そこで、新たな規格として作られたのが「IPv6」である。このIPv6、128ビットで構成されIPアドレスを2の128乗個(約340澗個。澗は1兆の1兆倍の1兆倍)とほぼ無限に作れるというから驚きだ。
筆者が利用するネット環境は、先述のとおり「IPoE(IPv4 over IPv6)」+「DS-Lite(transix)」方式でインターネットに接続する。IPoEとは、「IP over Ethernet」の略で、IPv6を利用してインターネットに接続する方式のひとつ。IPv4 over IPv6という技術で、IPv6接続時に本来はアクセスできないIPv4のみに対応したサイトへの接続も可能となっている。
IPv6で通信しているかは、スマートフォンから確認可能だ。AndroidのWi-Fi設定画面から接続中のSSID横にある歯車をタップすると「ネットワークの詳細」画面が表示される。ここで「IPVv6」にIPアドレスが表示されていればIPv6で接続しているとわかる。
検証に使った「Google Pixel 7a」の「ネットワークの詳細」画面。IPv6は半固定IPのため、特定できないよう処理している
しかし、残念ながら「RCD-N12」がサポートする「HEOS」はIPv4 over IPv6を用いていたとしても、「IPv6の通信に対応できない」という。なるほど、原因の本質はIPv6で通信することでアクセスが阻害されていることにありそうだ。
解決が難しそうだが、ダメ元でルーターのIPv6設定を切り替えてみよう。設定画面の「Internet」→「IPv6」から「IPv6ブリッジを使用する」に変えてみるものの、残念ながら症状は変わらず。「IPv6を使用しない」も試したが、当然インターネット接続すらできなくなった。
IPv6の設定項目は、いずれも通信はIPv6が前提。ダメ元で変更したものの、やはり再生できなかった
デノンからは、ほかにも「ルーターにセキュリティソフトが導入されている場合に影響を受ける可能性がある」と情報をもらっている。筆者のルーターではセキュリティソフトが無効になっているので、今回は関係ないと考えてよさそうだ。
現時点では、原因はIPv6通信にありダブルルーターで孤立するIPv4環境(=IPV6接続しない)からアクセスすることで対処できるということのようだ。根本的な解決にはいたらなかったものの、原因とアクセス可能な対処法がわかっただけでも大きな進歩。
今後、「HEOS」がIPv6をサポートすることに期待しつつ、これで検証を終了することにした。最後に、複数回かつ長期にわたる製品貸し出しと検証に協力してくれたデノンの皆さま、そして価格.comマガジン編集部に感謝を申し上げたい。