今回紹介するカセットテーププレーヤーは、ドウシシャがORIONブランドで販売するビッグラジカセタイプの「SCR-B9」と、フランスのWe Are Rewindが手掛けるポータブルプレーヤー「WE-001」
「カセットテープ」……昭和レトロな香り漂うその音楽記録メディアが、昨今のアナログブームで再び脚光を浴びている。実際、ここ数年はカセット再生に対応する機材の新製品を毎年見かけるし、好きなミュージシャンの限定CDボックスなんかを購入すると、カセットテープ収録版が同梱されていることも多くなった。
今も現役でポータブルCDプレーヤーを生産し続けている東芝(AUREX)では、カセットプレーヤーも現役。2023年にはバーチャルサラウンド機能を搭載する「AUREX AX-W10」を発売している。写真は本体色ホワイト(左)とクリア(右)
FiiOから2024年4月に発売されたばかりのポータブルカセットプレーヤー「CP13」も、発表当時から話題になっていた
40代・リアルカセット世代の筆者からすると、昨今のそんな風潮はほんのり頼もしい。……半面、かなり昔にカセット再生できる機材を手放してしまったので、「今カセットを手に入れても再生できないんだが……」と切なさを感じる事態になっている。
価格.comマガジン編集部・柿沼氏から「よいカセットデッキがある」との連絡があったのは、そんなときだった。
「自宅で開封されないまま眠っているカセットテープ、ここらで成仏させませんか?」
というわけで今回は、柿沼氏と筆者の間で開催された、「アラフォーが手持ちのカセットテープに陽の目を見せる会」の模様をお届けしよう。
2024年4月下旬のとある日、筆者は柿沼氏に呼び出され、三軒茶屋付近の公園を訪れた。ゴールデンウィークを目前に、すでにあたりにはさわやかな初夏の雰囲気が漂っている。そんななか、なんだか暑苦……熱い感じの男性の姿が。
「お疲れさまーっす」
今どきフランク・ザッパのTシャツを着ている人はそこまで多くないと思うし、10mくらい離れたところから姿が見えた時点で、間違いなく柿沼氏だとわかった。そして同時に、彼が成仏させたいカセットテープはどうやらアレらしい、と悟った。
とりあえず座らせて話を聞いてみる
大きなCDラジカセを肩に担いで登場した柿沼氏は、すでにまあまあチルっておられる様子。再生しているカセットテープは、1973年に撮影されたフランク・ザッパ&ザ・マザーズのロキシー・シアターでのライブを収録したものである。同ライブ映像のブルーレイが世に出る際、CDなどと一緒に限定ボックスに同梱されたカセットテープだ。ちなみに本人が着用しているザッパTシャツも、この限定ボックスに付属していたそう。
「2015年に発売されて手に入れた限定ボックスだったんですが、カセットテープだけ再生する機会がないまま9年経過してたんですよ。今回、ようやく開封できてうれしいです。ついでにTシャツのことも忘れていて、今回初めて着用しました……」
しみじみと語る柿沼氏の雰囲気をよそに、気になるのが、今回の取材で同氏がセレクトしたCDラジカセである。なんかサイズ、大きくない……??
聞くと、家電事業で有名なドウシシャがORIONブランドで販売しているCDラジカセの最新モデル「SCR-B9」とのこと。本体サイズは約670(幅)×155(奥行)×275(高さ)mm(突起物を除く)、重量は約6.8kg(乾電池を除く)という、80年代感にあふれた“ビッグラジカセ”だ。30mmツイーター+135mmウーハーによる2ウェイスピーカーをステレオで(2本分)内蔵し、定格10W+10Wのアンプで駆動される。
CD、カセットテープ再生機能を持った“ビッグラジカセ”「SCR-B9」。80年代を彷彿とさせる見た目とは裏腹に、Bluetooth機能やmicroSDメモリーカード/USBフラッシュメモリーによるMP3データの再生/録音機能なども搭載
肩担ぎスタイルを実現するには、単一電池8個が必須。結構ハード。据え置きで使うなら、コンセントから電源をとればOK
本製品、肩担ぎスタイルを実現できるのも含めて、とにかくノスタルジーにあふれている。しかし、いくら思い入れのあるカセットテープを再生できたとはいえ、出会い頭にここまでデキあがるものか……? ずばり、久しぶりにカセット再生してどこに魅力を感じているのか、柿沼氏に尋ねた。
「カセットの再生音って、適度なナローレンジで、チルするのにちょうどいいんじゃないですかね。あと、これくらいCDラジカセ本体がデカいと、L/Rスピーカー間の距離が取れるから、しっかりステレオ感も出るのがナイスです」
フランク・ザッパTシャツなのにオールドスクールのヒップホップスタイルを意識したらしい、エモーション重視のカオスな見た目の印象とは裏腹に、理にかなった的確なコメントが返ってきた。
ついでにボックスセットに同梱されていた「ロキシー・ザ・ムービー」のCDも再生する柿沼氏。「CDアンチショック機能付きなので、肩に担いでも音切れしないんですよ」。いやー、確かにそれも大事
その説得力に流されて、筆者も持参した大滝詠一「A LONG VACATION」のカセットテープを再生させてもらうことに。
こちら、大滝詠一が1981年3月21日に発表したアルバム「A LONG VACATION」の発売40周年を記念して、2021年3月21日にリリースされた限定ボックス「A LONG VACATION 40th Anniversary Edition」に収録されていた復刻版カセットテープだ(カセットのオリジナル版も1981年に発売されている)。
要するに、コンテンツは違えど、状況は柿沼氏とほぼ同じ。筆者もこのボックスに同梱されていたCD、ブルーレイ、レコードは今まで自宅や取材先で再生していたが、唯一カセットテープだけはまったくその機会がなく、開封すらされぬまま3年経過していた。最近はこういうパターン、結構多いのではないだろうか?
さて、さっそく開封した「ロンバケ」のカセットテープを「SCR-B9」にセットして再生してみると……
いやマジでエモかった。そのナローなサウンドは、狭い帯域に“積み重なっている感”があって独特だ。なんというか、解像感より空気感。これぞ、「エモい」という表現が最適なサウンドだと思う。
あまりノスタルジーに浸りすぎるのもはばかられるが、筆者が十代の時分に自宅で鳴らしていたのはまさにこういう音だった。レンタルCDショップで借りたCDを、夜な夜な自宅のラジカセでカセットテープにダビングしていたあのころの空気がよみがえる。むしろアラフォー世代である自分にとって、「エモい」の原体験はカセットテープ再生だったのではないか……? そんな発見を得た。
それに、合計20Wの定格アンプ出力を誇る「SCR-B9」は、低音を増強する「X-BASS」機能も搭載されており、屋外で鳴らしてもノリよく楽しめる。音楽再生中の音量に合わせてVUメーターが動くのも、懐かしい気持ちを増幅させてくれて魅力的であった。
当時を偲ばせるVUメーター。ちゃんと動く
ちなみに「SCR-B9」はオートリバース機能非搭載なので、片面の再生が終わったら手動でひっくり返す必要がある。「あー、オートリバース機能欲しいな〜」という感情を抱いたのも何十年ぶりだろう
そんな感じでいつの間にかチルしちゃってる筆者を見て、満足げな様子で柿沼氏は言った。
「実は今回、わざわざ三軒茶屋に来たのは理由があるんです。この近くに、もうひとつ僕が注目してるカセットプレーヤーを売ってるお店があるんですよ」
続いて我々が訪れたのは、三軒茶屋から下北沢方面に歩いた場所にある「マンモスビル」。飲食店やアパレルショップ、レコード店など個性的なショップが点在する奥三茶エリアにおいて、レトロな装いが目を引くお店だ。
昼間はコーヒースタンド「HAPPYEND BEANS」、夜は「幸福STAND」という立ち飲み屋として営業している「マンモスビル」。その個性的なルックスに惹きつけられ、多くの人々が集まる
店内には、懐かしのカセットテープやカセットプレーヤーがずらり。店主さんのカセット好きがあふれている!
マンモスビル
〒154-0004 東京都世田谷区太子堂5丁目17-17
三軒茶屋駅から徒歩10分
下北沢駅から徒歩15分
https://mammothbld.theshop.jp/
ここで「僕が注目してるのがコレです」と、柿沼氏が示したのが、フランス発のポータブルカセットプレーヤーWe Are Rewindの「WE-001」だ。「2020年にKickstarterのクラウドファンディングで企画がスタート、製品化されたものなんです。現在、日本における正規代理店となっているのがこのマンモスビルで、ここの店舗でも販売しているので、今回来てみました。注目している理由は、とにかくそのエモい見た目です」。
これがWe Are Rewindの「WE-001」。デザインがめちゃめちゃかわいい! 本体色はこの「Grey」のほか、「Blue」や「Orange」をラインアップ。ちなみに「マンモスビル」の店主さんも本製品のクラウドファンディングに参加していたひとりで、その縁で正規代理店になったのだとか
本体の天面・側面に、早送り/巻き戻しボタン、ヘッドホン出力、音量調整ホイール、オーディオ入力が装備されているあたりは、我々がよく知るポータブルカセットの仕様。しかし本体には充電式リチウムイオンバッテリーを内蔵し、最大12時間の駆動に対応している。そしてBluetooth機能も搭載するなど、現代的なブラッシュアップが加えられているのが特徴だ。
しかしそれ以上にエモいのが、本体のデザインコンセプトからあふれてくる先達へのリスペクト精神なのである。実物を手に持ってみると、アルミニウム素材を採用した筐体のズッシリと冷たい質感に、ソニーの初代ウォークマン「TPS-L2」の影がチラつく。そんな製品を販売するメーカーの名前が「We Are Rewind」とは、めちゃめちゃシャレているではないか……! ウォークマン時代を生きた日本人としては、グッと来てしまう。
本体天面に操作ボタンが並ぶ
側面に音量調整用ホイールや3.5mmステレオのヘッドホン出力など。Bluetoothイヤホン/ヘッドホンも接続できる。なお、USB Type-C端子は充電用
さっそく、持参したカスタムIEM(イヤホン)「UE Reference Monitor」を本機の3.5mmヘッドホン出力端子に接続し、「ロンバケ」のカセットをセットして再生してみる。カセットテープらしい“積み重なっている感”のあるサウンドが頭の中いっぱいに広がり、改めてエモい。音数の多いナイアガラサウンドは、レコード再生でもデジタル再生でも聴きどころが多いが、解像感より空気感なカセットテープ再生だと、楽曲が持つセンチメンタル感がより強くなる印象だ。
なお「WE-001」は、内部の搭載パーツにもこだわって開発されたとのことで、実際にテープの回転が安定しているし、再生中の細かいノイズにも不快感がなくとても心地よかった。
マンモスビルの軒先をお借りしてチル
ちなみに製品のパッケージにはエンピツが同梱されているという。そう、カセット世代にはおなじみ、カセットテープのお供といえば(テープのたるみを巻き取るための)エンピツだ。こういうところもシャレがきいている。
最後に価格に触れておくと、この「WE-001」の販売価格は2万円超え。試さずに購入するのはなかなか勇気がいるので、ぜひマンモスビルの店頭で実物を手に取って見ていただきたい。実際今回も、我々の取材中にひとりの男性が購入していった(!)ので、実物に触れてその魅力に惹かれる人は多いようだ。
というわけで、今回は編集部の柿沼氏と共に、お互いの自宅に眠っていたカセットテープを再生する企画をお届けした。我々のザッパと「ロンバケ」が無事に開封されたことが、何よりも喜ばしい。
40代・リアルカセット世代の筆者的には、昔の音楽メディアにあえて戻る感もあったし、実際に懐かしさでテンションが上がった。だが取材を終えた今思うのは、そういうノスタルジーをいったん置いて、カセットテープは「カセットにしかないサウンドのおもしろさ」を味わえる魅力的なガジェットのひとつになっているということだ。今、あえてこのアイテムに惹かれる人が多いことにも、納得した次第である。
今回取材させてもらったORION「SCR-B9」やWe Are Rewind「WE-001」も含め、プレーヤーの選択肢も増えているし、ぜひ今こそカセットテープでチルしてほしい。