低価格イヤホンの“定番中の定番”と言える製品のひとつが、フィリップスのカナル型イヤホン「SHE9700」シリーズだ。圧倒的なコストパフォーマンスでイヤホン入門者からマニアまで幅広く支持されており、キューナナの愛称で呼ばれている。初代機が発売してから8年経つが、リニューアルを続け、ついに3代目となる「SHE9720」が発売された。低価格イヤホン“良品コレクション”の第6回では、モデルチェンジを経て生まれ変わった、キューナナの最新版「SHE9720」の進化点を紹介する。
フィリップスのSHE9720
今回紹介するSHE9720は、SHE9710の後継モデルで、前モデルに比べて外観や仕様に大きな変更はなく、価格もほぼ据え置きとなっている。実売価格は約3,000円だ。なお、カラーバリエーションも前作と同様に、ブラック(SHE9720BK)、ホワイト(SHE9720WT)、ブルー(SHE9720BL)、レッド(SHE9720RD)の4色展開。前モデルでは、製品名の一桁目がカラーモデルを表していたのに対し、今作から4桁の数字の後ろにカラーモデルを表すBK/WT/BL/RDが付いている。
では具体的な違いは何か。まず見た目のデザインだ。ハウジングの形状や素材を変えず、表面のコーティングを変更している。ブラックとホワイトは従来のメタリック調から艶消しのマット調に。ブルーもマット調だが、前モデルから少し色見を変えているという。なお、レッドは従来と同じメタリック調だ。
さらに、ブルーとレッドにはそれぞれカラーケーブルを採用し、ハウジングと同系色に仕上げることでデザインを統一した。このほかの、ケーブルの長さや太さ、U字型の分岐、L字型プラグであることは従来と同じだ。
SHE9720BK。ハウジングは梨地のマット調にとなっている。
ハウジングとケーブルをつなぐ部分もマット調だ
付属品の中にケーブルキーパーが加わったのも新しい点だ。クリップではなく、ケーブルを巻きつけるタイプで、扁平な形状になっている。肌触りはラバー状でクネクネと折り曲げることができる、しなやかな素材だ。イヤーキャップ(全3種)、持ち運に最適なキャリングケースもこれまで通り付属している。
付属のケーブルキーパー。ラバーのような肌触りで、くねくねと折り曲がるしなやかな素材となっている
従来と同じU字の分岐ケーブル
プラグもL字だ
キャリングケースとイヤーキャップ(S/M/L)。こちらは従来モデルと同じものになっている
ドライバーについては従来同様の8.6mm口径のダイナミック型を採用。独自の低音の再現力を底上げする「ターボバス孔」もこれまでどおり備えている。
基本スペックについても、再周波数帯域は6Hzから23,500Hz、インピーダンスは16Ω、音圧感度は103dB/mW、最大入力は50mWと前モデルと同じだ。
試聴には、Astell&Kernのハイレゾ対応デジタルオーディオプレーヤー「AK Jr」を使用。イヤホンと直に接続して聴いてみた。
一言で言うと、低音の量感と、高音の空気感のバランスがよいサウンドだ。というとドンシャリを想像するかもしれないが、聴く限りではそういう低音や高音が多過ぎる要素はない。トーンバランスが独特で、S/Nや解像度は価格なりのところもあるが、SHE9710から品質が落ちていることはない。
基本的には、SHE9710の音質をキープコンセプトとしているため、大きな変更はないはずだが、聴き比べてみると低音の押し出し感が、わずかにアップしている印象がある。個体差もしくはエージング不足なのかもしれないが、特に打ち込み系の低音では、ディテールをぼかすことなく迫力が少し増している感じだ。ドラムスのキックやベースは、精細な描写とまではいかないが、勢いを損なわない程度にノリよく仕上げている。ボーカルは、男性より女性のほうが自然に聴こえる。中高域にかけては、線が細いながらも、のびやかだ。ボーカルは音像がよい音源だと、中心にまとまり、やや後ろにフォーカスされる。
上原ひろみのAlive(アルバム「Alive」から)では、明瞭度はいまいちだが、ピアノの音色は低価格帯の中ではきれいに再現されている。シンバルの鳴りっぷりも、そこまで潰れることなくほどよくでている。弦ベースは適度に強調されるため、ベースラインの安定感がグッと増す印象だ。
SHE9720は、前モデルのSHE9710から約2年のスパンでリリースされた。初代機のSHE9700が5年間発売されていたことを踏まえると、比較的短いスパンで新製品が出たことになる。製品の性能はほとんど変わっておらず、音質面での目に見えた進化がないのはやや残念という気もする。
ただ、SHE9710のマイナーチェンジモデルとしては、より見た目に配慮しながら付属品を増やしており、製品としての完成度を高めているのは確かだ。デザインについては好みが分かれると思うが、ケーブルとシェルのカラーをそろえたのは、よりビジュアルに配慮した結果と言えるだろう。また、価格はほぼ据え置きで、これまでなかったケーブルキーパーが付くなど、お得感も増している。キューナナシリーズのバランスのよい音色を変えるこなく、コストパフォーマンスを高めた点は好評価だ。