電源効率が悪く小型化しにくいいっぽうで、歪みの少ない高品位なサウンドでオーディオファンの心をつかんで離さない純A級アンプ。そんな純A級動作のヘッドホンアンプを搭載した、片手サイズのハイレゾポータブルオーディオプレーヤーが登場した。据え置き型のオーディオシステムを中心に手がけている、中国のQuestyle Audio Technologyがリリースした「QP1R」だ。価格.com最安価格は12万円前後(2016年2月19日時点)だが、この価格帯であっても、コストパフォーマンスの高さで評判を呼んでいる。
Questyle「QP1R」。本体カラーがゴールドとシルバーの2色がラインアップされている
2012年に立ちあがった新進気鋭のガレージメーカーであるものの、社長はやり手のオーディオマニア。製造は世界最大のEMS(エレクトロニクス機器の受託生産)であるフォックスコンが受け持つ。経営再建中のシャープの支援に名乗りをあげた鴻海精密工業は、そのフォックスコングループの中核をなす会社だ。国内での知名度はこれからのQuestyleだが、クオリティーは大手の1級品に負けない安心感がある。
QP1Rは、同社がはじめてリリースしたポータブルプレーヤーで、DSD128(5.6MHz/1bit)やPCM 192kHz/24bitのネイティブ再生に対応したハイレゾ対応モデルだ。コンパクトなポータブルプレーヤーとしては珍しい純A級動作のアンプを採用するのが特徴で、同社では業界初とうたっている。
A級アンプは歪みの少ない素直なサウンドを楽しめるが魅力のひとつといわれている。そこを最大限に引き出すために、アンプ部にはあえて、汎用のICチップは使わず最適なトランジスタをひとつずつ組み合わせたフルディスクリート構成を採用。低ノイズ化やチューニングを詰めることで、さらなる高音質化を狙ったこだわりの設計だ。音質に関してくわしくは後述するが、オーディオ的な魅力のある音になっている。
いっぽうでA級動作のアンプでは発熱や消費電力といった電源効率が悪い面もある。そのためA級アンプは据え置き型が主流だ。QP1Rでは、Questyleがこれまで培ってきたオーディオ技術のノウハウを生かし、独自の電流コントロール技術を開発。これにより効率面での問題をクリアした。連続再生時間は10時間(内蔵バッテリーの容量は3300mAh)を実現しており、2時間ほど連続再生したくらいでは大きな発熱も見られなかった。
QP1Rの内部基板
ボディは全体的にしっかりとした作りで滑りにくくキズも目立ちにくいもの。アルミ削り出しの一体成型ボディで表面はサウンドブラスト風の加工が施されている。前面と背面にはキズに強いゴリラガラスを採用した。指紋も目立たずビジュアルも悪くない。本体サイズは65(幅)×133.5(高さ)×15(奥行)mmで、親指と中指がギリギリ届くくらいの胴周りで、手にスポリと収まるような絶妙な大きさだ。重量は214g。電車に乗って吊り手を持ちながらでも、本体をしっかりホールドしつつ操作できると思う。
選曲や設定といったメインの操作は表面のホイールで行う(液晶はタッチパネル非対応)。ユニークなのはこのホイール部に無色透明のシートが付属する点。これを貼り付けることで指にピッタリとフィットするような感じがあり、操作しやすくなる。これは日本で展開するにあたってはじめて行われた取り組みで、海外モデルにはない仕様だ(今後海外モデルでも採用していくとのこと)。また、ホイールの4隅に配置してあるアイコンはタッチボタンで、触るとバイブレーションでレスポンスを返してくれるギミックもある。操作している感覚がダイレクトに伝わってくるのはわかりやすい。
本体表面は、上段に画面、下段にホイールが配置されている。ガラス部はゴリラガラスだ
本体裏面は、全面ゴリラガラス仕様になっている
電源ボタンは右側面(ボリュームノブの下側)に配置されている
再生画面
音量調整は上面のボリュームノブで行う。トルクは軽めだがクリック感のあるタイプで、カバンにしまったとき誤操作がおこらないよう、両サイドに囲いが付いている。ちなみに、後述する新ファームウェアにアップデートすることで、ボリュームロック機能(オン/オフ切り替え可能)、ボリュームノブの回転方向(左周り/右周り)を選べるようになり、2段階のセーフティーが設けられている。
ボリュームノブのトルクは軽めだが、クリック感のあるタイプとなっている。両サイドには囲いが付いており、カバンにいれても誤って動かないよう配慮がなされている
2月4日に公開された最新ファームウェアにアップデートすることで、機能面が大幅に強化されるのも特徴だ。主なトピックとして以下のようなものがあげられる。
・32bit(int/float)ファイルの24bitダウンコンバート再生
・ライブラリの表示曲数の拡大(5800曲から10000曲)
・ISOファイルの再生対応
・200GBのmicroSDの動作確認(ストレージ容量の最大は432GB。内蔵は32GB)
このほか、日本語メニューの表記見直し、AIFFファイルの再生不具合の改善、データベースの最適化による内部ストレージのアクセススピード向上など、使い勝手が大幅によくなっている。
OSはLinuxベース。搭載するDACはCirrus LogicのCS4398。THD+Nは0.0006%。出力インピーダンスは0.15Ωで、最大300Ωまでの機器に対応。オーディオ出力は2系統で、3.5mmヘッドホン端子、ラインアウト&オプティカルアウトのコンボ端子。
音声出力端子の周囲はくぼみを設けており、太いコネクタでも接続できるようになっている
microSDカードスロットは2基。イジェクトしやすいように装着時でもカード全身が隠れないようになっている(カードの挿入口周辺をくぼませており本体からはみ出さないつくり)
対応する音楽ファイル形式はWAV、FLAC、ALAC、APE、AIFF、ADPCM、LPCM、MP3、WMA、WMA Lossless、OGG、AAC、DFF、DSF。付属品は、クロスバッグ、充電用USBケーブル、3.5mm変換ケーブル、オプティカル端子アダプター、取扱説明書、VIPカードとなっている。
主な付属品
使用したイヤホンは、1964EARSの6ドライバー搭載のカスタムインイヤーモニター「V6 Stage」で、付属の標準ケーブルで試聴している。
モニターライクな傾向の音が多いポータブルプレーヤーの中で、淡白さを感じさせない中低域の表現が大きな魅力だ。とくにドラムスやウッドベースの低音、打ち込み系の重低音は、それぞれの密度を損なうことなくメリハリよく音を出している。決して演出がすぎるような嫌味な低音ではない。また、ボーカルは低音に負けないくらいしっかり出ており、かつ素直。性別を問わずありのままの声をそのまま伝えてくれる。フォーカス感もよく、歌い手とマイクの距離感が伝わってくるような息遣いも感じられた。高音はスカッと抜けるというより、艶のある響きが特徴的だ。
ホールのような大きな空間はそこまで感じられないが、背後にある音を描き分けており、ハイレゾ音源でなくても情報量の有無をしっかり実感できる。ボトムがしっかりしているためサウンドプロポーションも、メリハリよく決まっている。
QP1Rは、初めてポータブルを手がけたメーカーとは思えないほど、出来のよいモデルとなっている。ボタンやホイールのレイアウトこそ見るからに中国製のDAPらしい作りだが、実際に操作し音を聞いてみると、どちらもレベルが高い。特に音質面ではフラットによりすぎない芯のハッキリとしたチューニングで、同じDACを搭載しかつ同価格帯に位置するAstell&Kernの「AK100II」より、力強さを感じることができるだろう。
気になるのはホイール部の操作が少し滑らかすぎるのと、その周囲にある4つのタッチボタンが敏感に反応すること。ホイールを操作しているときに誤ってタッチボタンに触れてしまい、何度か画面が切り替わってしまうことがあった。プレイリストを使わず頻繁に選曲する人は、少し気になるところだ。
また、ちょっと残念なのは、ファイル形式が異なる曲を連続して再生すると、曲が切り替わるタイミングにプツッとしたノイズが一瞬混ざること。新ファームでもそのままだが、代理店の担当者によれば、そこについても対応を検討しているという。
だが、そうした気になるところを差し引いても、音質の高さには目を見張るものがある。価格.com最安価格は12万円で、この価格でもコストパフォーマンスが高いと評価されているのは、音のクオリティーが高いことに尽きる。純A級アンプでしか楽しめないサウンドを持つポータブルプレーヤーだ。