エントリークラスのおすすめとして紹介した「S500」と同じメーカーの製品で、ハウジングが金属製でドライバーがダイナミック型というところは共通。しかしデザインもサウンドもまったくの別系統。メーカーとしての幅広さを感じられる。
ハウジングは、ミニマルなデザインの「S500」に対してこちらは有機的な曲線でボリューム感も出している。この曲線は金属粉末射出成形という成形技術によるものだ。素材もあちらはアルミなのに対し、こちらはステンレスという違いがある。
通常モデルのほか、リモコン&マイク付きモデルも用意され、さらにカラバリとしてブラックモデルも追加された
技術的には「デュアルコイルダイナミックドライバー」が最大の特徴。イヤホンの駆動力の源、電磁力を生み出すコイルを、通常は1つのところ、同軸の外側に高域側用、内側に低域側の用の2つを搭載する。これによって超効率的な駆動を実現した。また、イヤーピースを装着するノズルの先端部分はそこに仕込まれている音響フィルターごと交換可能。「リファレンス」「ベース」「トレブル」のフィルター交換でユーザーが音質を調整できる。
このパーツがスクリュー式で交換でき、高域強調の「トレブル」と低域強調の「ベース」にチューニングできる
その音の印象は…ジェントリー!
低域の量感は「ATH-CKS1100」にも劣らない。
しかし低域の質は別物だ。ゴツい感触のあちらに対してこちらは柔軟性、しなやかさ、豊かさ、そういった表現をしたくなるタイプの低音。そのやわらかな感触は低域だけでなく、たとえば全体の空気感も暖かくやわらかい。ウォームであるとかジェントリーであるとか、オーディオにおいてそう表現されるようなタイプの音調だ。
「…ということは?」と不安に思った方もいるかもしれないが、安心してほしい。それでいてボーカルがくもったり、シンバルやギターの鋭さが失われたりもしていない。
ハイエンドではあるが「尖った」「攻めた」「振り切った」という音作りではなく、チューニング機構で幅も持たされているので、ハズレになりにくいモデルかもしれない。
アンプを強化すれば、普通にそれに応えて全体的に音が底上げされるタイプ
バランスド・アーマチュア型ドライバー(BA型)1発!という、近年のハイエンド機では「逆に攻めてる」感じのドライバー構成をあえて採用した最新モデル。従来的な「シングルBAっぽい音」を想像して聴くと「え?」となるかもしれない。それほど進化している。
スクリューヘッドをあえて見せるなど、メカニカルなかっこよさを漂わせるデザイン
まず見た目の印象としては、ロボットの肩パーツのような独特の金属ハウジングが目立つ。しかしそのハウジングの外観にも現れている金属加工技術、実は音の面でも大きなポイントになっている。このハウジングの内部には精密な金属加工技術による内部音響構造が搭載されており、それによって従来の構造ではBAドライバーから引き出し切れていなかった高域側と低域側の伸び、それを引き出すことに成功しているのだ。その効果で、シングルBAならではのナチュラルさはそのままに、周波数帯域の広いダイナミック型に比べてもおくれをとらないシングルBAらしからぬワイドレンジさも獲得した、今までにないシングルBAサウンドが実現されている。
リケーブル端子はもっとも採用例の多いMMCXなのでリケーブルの選択肢も広い
その音の印象は…クリア!超クリア!
BAシングルらしからぬワイドレンジさとは言っても、ダイナミック型やマルチBAと比べれば低域側の深みや厚みではやはり負ける。しかし低域の透明感やスピード感は圧倒的だ。
もちろん、透明感やスピード感だけならこれに匹敵するものもあるにはあるだろう。それこそシングルBAの得意分野だ。しかしそのシングルBAの透明感やキレはそのままにある程度の深みや太さまで兼ね備えているからこそ意味がある。たとえばバスドラムのアタックのタイトなキレと低音の豊かな空気感。そのどちらもこのモデルなら感じ取れる。中高域は…もちろんすばらしい。女性ボーカルのサ行のシャープさやタ行のアタックといった成分をしっかり出しつつそれを耳障りにせず、歌の息遣いを心地よく届けてくれる。
とはいえシングルBAモデルではあるので、中低域の厚みや、重みをともなう力強さといったところがほしい方にはやはり向かない。そこは割り切れるという方ならぜひ検討してみてほしい。
スマホ直結でも実力を発揮できるタイプだが、アンプを強化すればその分よくなる余力も備える
ということで今回はハイエンドイヤホンの意義、その製品選び方のサンプルになるモデルを紹介させていただいた。高価な製品であるのでじっくり慎重に、年単位で愛用していけそうなモデルを見つけ出してほしい。