DAC内蔵ポタアンや対応スマートフォンでハイレゾ音源を試し、その良質なサウンドを本格的に楽しみたいと思い立った人に、真っ先にオススメしたいのが10万円前後の価格帯のハイレゾ対応DAP(デジタルオーディオプレーヤー)だ。
現在、ハイレゾ対応DAPは成長期まっただ中の状況にあって、2万円から始まって50万円を越えるまでの幅広い価格帯に、国内外のブランドから多数の製品がリリースされている。予算や音の好みに応じて選び放題という、ユーザーにとってはかなり幸せな状況となってはいるが、その分、これから本格的に始めようとする人にとっては、どのあたりの製品が自分にとってベストなのか判断しづらい状況に感じられるかもしれない。そんな人たちはもちろん、初心者からエキスパートまで幅広い層に太鼓判を押してオススメできるのが、10万円前後のハイレゾ対応DAPだ。実はこの価格帯、いまいちばん“オイシイ”ゾーンとなっているのだ。
というのも、Astell&Kernやウォークマンなどから超高級モデルがリリースされているためすっかりインパクトがなくなっているが、実は3〜4年前まではこの価格帯が“ハイエンド”クラスだったわけで、さらに最新モデルならではの音質向上が加わって、音質的にもコストパフォーマンスとしてもかなり優秀なモデルが数多くそろっているのだ。
もちろん、10万円前後という値段は絶対的に見ると決して安くない。しかしながら、この価格帯であれば対応しているハイレゾ音源のスペックも高く、5年以上に長期にわたってメインモデルとして使い続けることができる。また、たとえ気になる新製品が登場してそちらに買い替えたいと思っても、ある程度のリセールバリューが確保されている製品が多く、下取りや売却など、買い替え時の予算の足しにもなってくれる。
もちろん、いちばんのセールスポイントはハイレゾ音源のハイクオリティさを存分に楽しめる音の良さだが、コストパフォーマンスや買い替え時のメリットも含め、予算的に可能であれば、真っ先にオススメしたい価格帯であることは確かだ。ということで、今回は10万円前後というプライスゾーンに位置するハイレゾ対応DAPのなかから、特に注目の7製品を紹介していこう。
紹介機種
・ONKYO「DP-X1A」
・FiiO「FiiO X7」
・COWON「PLENUE M2」
・iriver「Astell&Kern AK300」
・ソニー「NW-WM1A」
・Questyle Audio「QP1R」
・LUXURY & PRECISION「L5 PRO」
2015年、ハイレゾ対応DAP界に多大なるインパクトを与えたオンキヨー「DP-X1」。その後継モデルとして登場したのが「DP-X1A」だ。Android OS、4.7型タッチパネル、スクエアデザインのエレガントな外観デザインはほぼそのままに、内蔵メモリー容量を64GBにアップグレード。また、ESS社製DAC「ES9018K2M」とオペアンプ「SABRE 9601K」を各2基ずつ搭載して2.5mmバランスヘッドホン出力を用意するという機能性は維持しつつ、導電性ポリマーを用いたコンデンサーを新採用するなど、音質的にもさらなる向上を推し進めている。
ONKYO DP-X1A
また、バランスヘッドホン出力は一般的な「BTL」接続のほか、COLD側アンプの増幅能力を使ってGNDをアクティブにドライブするというオンキヨー独自の「ACG(アクティブコントロールGND)駆動」も用意。ロックレンジアジャストやアップコンバートなどのデジタル調整機能も備える。ハイレゾ音源はもとより、MQA再生や(androidアプリを使って)各ストリーミングサービスにも対応する柔軟性を持ち合わせている点も大きな魅力だ。また、装備面ではmicroSDカードスロットが2基用意されていることも嬉しい。
「この価格帯で2.5mmバランスヘッドホン出力を搭載」「倍のプライスタグがつけられていても不思議ではない音質のよさ」など、多くの人から好評を得た機能性と良音質は健在。それどころか、さらなる進化が推し進められ、さらにピュアな、上質なサウンドへと進化している。おかげで、ボーカルなどは歌声のリアルさが向上し、目の前で歌ってくれているかのような生々しさを感じられるようになった。また、ピアノの演奏などは、高域の倍音成分がしっかりと届いてくる、ストレスのない伸びやかな音色となった。機能性の高さといい実売価格のお手頃感といい、このクラスのなかにあっては最有力候補といえる製品だ。
■主な仕様
リニアPCM:最大192kHz/24bit
DSD:最大11.2MHz(リニアPCM変換)
内蔵メモリー:64GB
外部メモリー:microSDカードスロット×2(最大200GB×2)
連続再生時間:約16時間(FLAC 96kHz/24bit、アンバランス再生時)
本体サイズ:75.9(幅)×129.0(高さ)×12.7(奥行)mm
重量:約205g
中国に本拠を構えるFiioは、ポタアンのイメージが強いブランド出会ったが、近年はハイレゾ対応DAPも積極的に展開。現在は2万円未満の「X1 2nd generation」からフラッグシップモデルの「X7」まで、4モデルもの製品をラインアップしている。そのうち、今回紹介するX7は、Fiio製DAPのなかでも唯一Android OSを採用するモデル。音質の要となるDACはESS社製「ES9018S」を採用する。また、オーディオ再生に特化したPURE MusicモードというOSセッティングを用意(Android向けのアプリを活用できるAndroidモードに切り替え可能)することで音質を向上させているほか、ヘッドホンアンプ部が交換可能な専用システムを採用。ハイパワーや高音質、バランスヘッドホン出力対応バージョンなど、自分のイヤホン/ヘッドホンにベストなヘッドホンアンプユニットをチョイス&交換できるのも大きな特徴となっている。
Fiio X7
ヘッドホンアンプユニットをいくつか聴いてみたが、標準の「AM1」アンプで聴くサウンドは、どちらかというとジェントルな方向性というべきか、端正で整いのよい音。音離れのよさやパワー感はしっかり確保されているものの、木目の細やかさで情緒的な聴かせることを優先させているイメージ。その分、音楽ジャンルを選ばない懐の深さがある。
続いて試した「AM3」は、2.5mmバランス出力を用意している。基本的な音色傾向はAM1に近いものの、エッジの効いた勢いのあるサウンドを聴かせてくれる。さらに「AM5」を試してみると、こちらは打って変わって躍動的な、熱気感溢れるサウンドに。ハードロックやジャズの演奏などが、最高のグルーヴ感で堪能することができる。聴く音楽ジャンルにもよるが、ポップスやロック系がメインの人はAM5が特に向いていそうだ。
■主な仕様
リニアPCM:最大384kHz/32bit
DSD:最大5.6MHz
内蔵メモリー:32GB
外部メモリー:microSDカードスロット×1(最大128GB)
連続再生時間:約9〜10時間
本体サイズ:64(幅)×130(高さ)×16.6(奥行)mm
重量:約220g
COWONは、iriverと同じくMP3時代からポータブルプレーヤーを手がけ続けている韓国のオーディオメーカーだ。ハイレゾ対応DAPのリリースをスタートさせたのは2014年と後発ながら、現在ではエントリーモデルの「PLENUE D」からDSD256のネイティブ再生に対応するフラッグシップモデル「PLENUE S」まで、幅広いラインアップを取りそろえている。
COWON PLENUE M2
なかでもこの「PLENUE M2」は、ミドルクラスに位置する製品となっていて、ベースとなった「PLENUE M」からSN比120dB、THD+N(ひずみ率)0.0007%、クロストーク-130dBという高い数値を実現した基本スペックを継承しつつ、外観デザインとサウンドチューニングを刷新。内蔵メモリーも128GBへとアップグレードされている。
正直な話をすると、COWON製の低価格〜ミドルクラスDAPは、数値的なスペックのよさが音楽そのものの魅力を引き出すまでに至っていなかった印象だった。しかしこのPLENUE M2ではまとめ上げに関してツボを心得たのか、大きく化けてリアリティのある躍動的なサウンドを聴かせてくれるようになった。そうなると、持ち前のスペックのよさが大きく活かされるようになり、雑味の少ないピュアな音色がとても心地よく感じる。ボーカルはややハスキーながらも心地よい音色で歌ってくれ、ピアノの音も美しくのびのびとした演奏にきこえる。優等性がちょっとだけ着崩したかのような、なかなか馴染みのいいサウンドといえる。
■主な仕様
リニアPCM:最大192kHz/24bit
DSD:最大5.6MHz(リニアPCM変換)
内蔵メモリー:128GB
外部メモリー:microSDカードスロット×1(最大128GB)
連続再生時間:約8.5時間(FLAC 96kHz/24bit時)
本体サイズ:64.5(幅)×114.3(高さ)×13.4(奥行)mm
重量:約170g
ハイレゾ対応DAPの世界で欠かせない存在となっているiriverのAstell&Kern。「AK100」から始まり、「AK100II」などの第2世代シリーズを経て、第3世代となる「AK3xx」シリーズのスタンダードモデルとして登場したのが、この「AK300」だ。
Astell&Kern AK300
コンパクトさと音質の高さを巧みに融合させた注目モデル「AK70」が、それほど期間を空けずリリースされたため、互いに対比されがちな製品同士となっているが、それによって両者の違いが分かりやすく、AK300ならではのメリットもいくつか見つけられたりするから面白い。
なかでも、最大の特徴といえるのが旭化成エレクトロニクス製DAC「VERITA AK4490」をメインに据えたサウンドの構築だ。DACはシングル搭載となるが、VCXO(電圧制御水晶発振器)などの高品位パーツを惜しげなく投入することとあわせて、上位モデル「AK320」「AK380」と同じ流れをくむサウンドキャラクターに仕立てられている。また、ヘッドホンアンプ「AK380 AMP」やXLRバランス出力を搭載する「AK380クレードル」、本格的なポータブルレコーダー機能を持つ「AK Recorder」などのオプション製品が活用できる点もAK70にはない魅力だ。
なお、こちらはAK70とも共通する機能ながら、スマホからのコントロールやNAS/PC内の楽曲が再生可能なDLNA機能「AK Connect」や、DSD11.2MHzまでのデジタル出力が可能なUSB DAC機能(対応外部DACが必要)、最新のaptX HDに対応するBluetooth機能など、いろいろと便利に活用できる部分も魅力だ。
そのサウンドはなかなかにピュア志向。自然な音場や抑揚表現をあわせ持つあたりが持ち味といえる。SNがいいのだろう、ディテール表現がAK70よりもずいぶんきめ細やかに感じる。さらに、低域と中域で解像度感に違いがなく、一体感のある音色傾向に感じられるなど、とても素直なサウンドだ。そのため、さまざまなジャンルの楽曲がどれも違和感なく再生される。自然な音色傾向が好みで、AK3xxシリーズならではのメリットを存分に享受したいひとにはベストな製品かもしれない。
■主な仕様
リニアPCM:最大192kHz/24bit
DSD:最大5.6MHz(リニアPCM変換)
内蔵メモリー:64GB
外部メモリー:microSDカードスロット×1(最大128GB)
連続再生時間:約8時間(FLAC192kHz/24bit時)
本体サイズ:75.15(幅)×112.4(高さ)×15.45(奥行)mm
重量:約205g
名門ウォークマンのハイグレードモデルで、事実上「ZX2」の後継に位置している「NW-WM1A」。シグネチャーシリーズと銘打ったフラッグシップモデル「NW-WM1Z」と基本構成/ボディデザインは同じものの、筐体(アルミ切削ボディを採用するNW-WM1Aに対してNW-WM1ZはOFC銅切削&金メッキ!)と一部内部パーツのグレードが異なっている。
ウォークマン NW-WM1A
また、ウォークマンのサウンドの要といえるフルデジタルアンプ「S-Master HX」は、11.2MHzまでのDSD再生、384kHz/32bitまでのリニアPCM再生に対応した。さらに、4.4mm5極端子による新規格バランスヘッドホン出力端子も搭載。出力も従来比約4倍と大幅に向上させている(アンバランス接続時60mW+60mW(16Ω)、バランス接続時250mW+250mW(16Ω))。
操作面では、4.0型タッチパネル液晶を搭載しつつ、メニュー体系を一新。本体側面のハードウェアボタンも充実させるなど、操作性に関しては十分な配慮が為されている。
音の艶やかさやエネルギー感の高さなど、クオリティ面では(2.5倍以上高価なだけあって)フラッグシップのNW-WM1Z に分があるが、ニュートラルな帯域バランスや演奏全体のまとまりのよさに関しては、こちらのNW-WM1A」がかなり優秀だったりする。とにかく、これまでの「S-Master」のイメージを一新させる、自然かつきめ細やかな抑揚表現が素晴らしく、アコースティック楽器の演奏が耳に心地よく感じられる。いっぽうで、音のキレのよさについては「S-Master」ならではの特徴を最大限に引き出していて、テンポの早いテクノなどはキレッキレのサウンドを楽しませてくれる。ウォークマンとして格段の進化を実現したモデルだ。
■主な仕様
リニアPCM:最大384kHz/32bit
DSD:最大11.2MHz
内蔵メモリー:128GB
外部メモリー:microSDカードスロット×1(最大128GB)
連続再生時間:約30時間(FLAC 96kHz/24bit時)
本体サイズ:72.9(幅)×124.2(高さ)×19.9(奥行)mm
重量:約267g
中国・深センに本拠地を置く新進気鋭のメーカー、Questyle Audio社が作り上げた同社初のハイレゾ対応DAPが「QP1R」だ。厚みを抑えた、持ちやすい幅のボディサイズを実現しつつ、音質に一切の妥協内こだわりのパーツや回路構成を搭載しているのがアピールポイントとなっている。
Questyle Audio QP1R
なかでも、最大のトピックといえるのがヘッドホンアンプ部だ。オペアンプなどはいっさい使わず、トランジスタを組み合わせて構成するディスクリート回路を独自に開発。しかも、音質的にメリットの大きいA級動作アンプをチョイスしているという。また、電力消費の大きい純A級動作アンプを採用しつつも、3,300mAhサイズの大容量バッテリーと適切な電流コントロール技術により、約10時間という連続再生時間を両立している点も素晴らしい。いっぽう、音質の要であるDACはシーラスロジック「CS4398」を搭載。リニアPCMが192kHz/24bitまで、DSDが5.6MHzまで対応する。
ちなみに、ディスプレイは非タッチパネルで、操作はホイールとその周りのタッチパッドを活用して行うようになっている。また、標準の内蔵メモリーは32GBと少なめだが、microSDカードスロットが2基用意されているので容量的な不満がでることはまずないだろう。
とにかく、ヘッドホンアンプ部の駆動力の高さが驚き。AKG「Q701」ばかりか、パイオニア「SE-Master1」やゼンハイザー「HD800」などの据置型ヘッドホンアンプが必須の製品であっても、それなりに良質なバランス&クオリティのサウンドを奏でてくれるのだ。いっぽう、イヤホン系に関しては、カスタムIEMよりはダイナミック型ドライバー搭載モデルや、ハイブリッドモデルとの相性がよく、それらはキレのよい勢いのあるサウンドを聴かせてくれた。個人的にはハイブリッドイヤホンや、ヘッドホンをメインに所有している人に使ってほしいモデルだ。特に、屋外でさまざまなヘッドホンを楽しみたいという人にとっては、唯一無二の選択肢といいたくなるくらい相性のいい製品だ。
■主な仕様
リニアPCM:最大192kHz/24bit
DSD:最大5.6MHz
内蔵メモリー:64GB
外部メモリー:microSDカードスロット×2(最大200GB×2)
連続再生時間:約10時間
本体サイズ:65(幅)×133.5(高さ)×15(奥行)mm
重量:約214g
LUXURY & PRECISIONは、ハイレゾ対応DAP黎明期にColourfly「COLORFLY C4」などを作り上げた開発チームのメンバーが、さらなるハイクオリティDAPを作りあげるべく独立、新規ブランドとして設立した会社だ。その最初の製品となった「L5」を(日本市場向けに?)、各部クオリティアップさせた製品がこの「L5 PRO」である。
LUXURY & PRECISION L5 PRO
DACは旭化成エレクトロニクス製「AK4490」を搭載し、192kHz/32bitまでのリニアPCM、5.6MHzまでのDSD音源についてはネイティブ再生に対応している。手に馴染みやすいほどよいサイズのボディは、ハイレゾ対応DAPとしては珍しく、エッジの効いたデザインが採用されている。また、背面パネルとしてリアル木材、紫檀材を使用している点も興味深い。
なお、基本操作はタッチパネルから行うが、右サイドのボタンを併用するなど独特の操作感となっている。このあたりは慣れるのに多少の時間が必要となる。慣れれば、それほど違和感はないのだが。また、筐体上部にショートカットキーが、用意されている点もユニークだ。
サウンドは、エッジの鋭いスピード感溢れるチューニングだ。ボーカルなどの中域は張りがあって、パワフル&ダイナミックな歌声が楽しめる。また、エレキベースの音もいつもより尖って感じられるなど、他に類を見ないほどのフォーカス感の高さが目立つ。そういった傾向によるものか、ハードロックやメタル、ジャズなどのジャンルにはピッタリで、普段よりもグルーヴ感に富んだノリノリの演奏を楽しむことができる。甘さや曖昧さの一切ない、パワフル&ストレートなサウンド傾向が好きな人は、大いに気に入りそうだ。
■主な仕様
リニアPCM:最大192kHz/32bit
DSD:最大5.6MHz
内蔵メモリー:16GB
外部メモリー:microSDカードスロット×1(最大128GB)
連続再生時間:約12時間
本体サイズ:60(幅)×114(高さ)×15.2(奥行)mm
重量:約165g
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ヘッドホンなどのオーディオビジュアル系をメインに活躍するライター。TBSテレビ開運音楽堂にアドバイザーとして、レインボータウンFM「みケらじ!」にメインパーソナリティとしてレギュラー出演。音元出版主催のVGP(ビジュアルグランプリ)審査員も務める。