目次
└ 北米のスバリストたちの熱い要望に応えた「S209」
└ 「S209」のデザインは、かつての「22B」をほうふつとさせるデザインをイメージ
└ 「S209」の最高出力は、歴代STIモデルで最もハイパワーな「341HP」
└ 北米専用モデルの「S209」日本での発売は!?
北米で開催されたデトロイトモーターショー2019で発表された、スバルのワークスブランド「STI」のコンプリートモデル「S209」
日本では、スバルのワークスブランドとして高い知名度やブランドバリューを持つ「STI」。だが、スバルのメインマーケットである北米市場においては「グレード名のひとつ」というくらいで、認知度はさほど高くないと言うのが実情だ。
しかし、北米の熱狂的なスバルファンたちは日本の情報を随時チェックしており、特に台数限定のSTI渾身のコンプリートモデル「Sシリーズ」が登場するたびに「また日本だけかよ!!」と言う不満が数多く寄せられていたそうだ。
ちなみに、4年前に開催された「ニューヨークオートショー2015」で、STIは北米市場の拡大を発表。その後、「BRZ tS」と「WRX STI TYPE RA」がそれぞれ500台限定で発売されている。だが、この2台はスバルが企画してSTIが開発サポートを行ったモデルであり、純粋なSTIモデルではない。
「北米にもスペシャルモデルを導入してほしい!!」そんな北米からの強い要望を受け、STIはSシリーズの海外展開を決定。それが、今回デトロイトショー2019で披露された「S209」なのだ。
北米市場向けの「S209」は、最強のSシリーズを目指すべく開発された
S209は、「Sシリーズ初の北米市場向け」であると同時に「最強のSシリーズ」でもある。もちろん、歴代Sシリーズの血を受け継いでいるものの、開発目標は「S203」以降のSシリーズとは若干異なりパフォーマンスが重視されている。ちなみに、開発目標のひとつはアメリカのミッドオハイオにあるサーキット「BIR(バージニア・インターナショナル・スピードウェイ)」で量産セダン最速のキャデラック「ATS-V」のタイムを超えることだったと言う。
STIコンプリートモデル「S209」のエクステリアデザインには、数々の専用アイテムが装備されている
エクステリアは、前後のワイドフェンダーやフロントフェンダーエアアウトレット、バンパーサイドのカナードなど、S209専用のアイテムを数多く採用。STIの平川良夫社長は「デザイナーに『22B』をイメージさせるデザインをお願いしました」と語るように、ノーマルとは明らかに違う“特別感”がプラスされている。ちなみに全幅はノーマルの1,795mmに対して、+44mmアップの1,839mmだ。
STIコンプリートモデル「S209」のインテリアは細部の変更にとどまるものの、レッド加飾などSTIモデルであることがしっかりと刻み込まれている
インテリアは、シルバーステッチ+シルバーアクセントのレカロシート(電動)やチェリーレッドの加飾パネル、シルバーステッチのセンターコンソール加飾パネル、S209ロゴ入りのサイドシルプレートなど、細部の変更が中心となっている。
STIコンプリートモデル「S209」のエンジンは、EJ25ターボエンジンを元にチューニングが施されており、歴代STIモデル最強のスペックを誇る
エンジンは、海外モデルに搭載される「EJ25ターボエンジン」をベースに、専用チューニングを実施。専用の大径ターボチャージャーや専用ECU、新設計された吸気系/排気系の採用により、最高出力は歴代STIモデル最高の341HP(開発目標値)を実現している。
ちなみに、モータースポーツユースも考慮されたEJ20ターボに対し、EJ25ターボは信頼性が気になるところだが、鍛造ピストンや鍛造コンロッドの採用により、激しい走行でもへこたれない量産エンジンとしての信頼性もしっかりと確保。EJ20ターボのように高回転まで一気に回る爽快感はないものの、全域で力強いエンジン特性に仕上がっているそうだ。
シャシー系は、より安心感のあるリアスタビリティと旋回性能のために、専用アイテムを数多く投入。車体は、STI定番アイテムとなりつつあるフレキシブルタワーバー、フロントのフレキシブルドロースティフナーに加え、リアシートバック付近へ新たにリアのフレキシブルドロースティフナーを採用。これは、ニュルブルクリンク24時間耐久レースに参戦するレースカーにも使用されているアイテムで、リアの安定感をより高める効果があるそうだ。開発当初は、リアのフレキシブルドロースティフナーなしでセットしたのだが、思うような性能が出せず苦労したと言う。だが、辰己英治STI総監督の提案で使用してみると効果てきめん、即採用となったのだそう。また、軽量化のみならず走りのフィーリングもよくするドライカーボンルーフも採用される。
フットワーク系は、ビルシュタイン製ショックアブソーバーと専用コイルスプリング、強化ブッシュを採用。さらに、歴代STIモデル最大幅となる265/35R19サイズの「ダンロップSPスポーツMAXX GT600A」(S209専用チューニングタイヤ)が使われる。そのタイヤへ組み合わされるBBS製鍛造アルミホイールは、S207/S208用を水平展開していると思いきや、リム幅9Jの専用品。ブレーキはS207/S208から水平展開される、ブレンボ製のモノブロック対向6ポッド/2ポットが採用されている。
STIコンプリートモデル「S209」の走行イメージ
走りの味付けはパフォーマンス重視とは言うものの、開発を担当した高津益夫さんは「コンセプトはそう掲げていますが、STIのテクノロジーを盛り込んでいますので、結果として快適性や質感などもレベルアップしています。量産車開発をしていたときから『スポーツ性能を上げれば上げるほど、クルマは快適になっていく。そのためには、人間の操作に遅れがなく応答すること』が一貫した考えでしたが、量産の域を超えるひと手間かけた開発をすることで、より高いレベルに持っていけたと自負しています」と語る。個人的にも、「S207」や「S208」、そして「RA-R」との乗り味の差が非常に気になるところだ。
ボディカラーは、WRブルーパール+マットグレーホイールと、クリスタルホワイトパール+マットゴールドホイールの2種類を用意。価格は未定だが、2019年内に発売予定だ。台数は限定で200〜250台前後になるようだ。ちなみに、製造には従来のSシリーズ以上に手間がかかるそうで、1日2台の生産が限界だそうだ。
STIコンプリートモデル「S209」の走行イメージ
多くの人が気になるのは「S209は日本でも発売されるのか?」だろう。結論から言うと、S209は北米専売モデルとなる。筆者も悔しい気持ちがないと言えば嘘になるが、今回はSシリーズが世界へ羽ばたくスタートを素直に祝いたいと思う。それでも、欲しい人には“逆輸入”と言う手段もあるが……。
最後に、平川社長は「S209は日本への導入はしませんが、しかし……」と言う意味深な発言を残している。おそらく、S209の先にS210、S211と言ったようなモデルがスタンバイしているのは間違いないだろう。日本市場へ導入される新たなSシリーズの登場を、楽しみに待ちたい。