群馬県太田市に移住して1年と3か月。群馬の食文化を堪能中のライター、マリオ高野です。
群馬県民となり、好きになった群馬の郷土食はたくさんありますが、今回はとりわけ熱中してハマっている「おきりこみ」について紹介します。
まず「おきりこみ」とはどんな料理かと言いますと、ごく簡単に言えば「群馬風の煮込みうどん」です。パッと見は、山梨県の「ほうとう」のようであり、名古屋の「きしめん」のようでもある、幅広に打った小麦粉の麺を、野菜たっぷりの味噌または醤油味の汁に直接入れて煮込んだもので、「おっきりこみ」とも呼ばれます。
こちらが「おきりこみ」です
麺を単独で茹でる手間がないため、とにかくお手軽に作れるのが魅力。その昔は、養蚕業で忙しかった群馬の主婦に重宝されたのも納得の簡単さとおいしさです。具材次第では栄養価も満点の“万能食”と言えるでしょう。特に冬場は最高です。
そもそも群馬県は、古くから畑作と水田裏作による小麦栽培が盛んな土地。地形的な制約から畑地の開発が多かったことに加え、日照時間の長さや、「からっ風」と呼ばれる冬の乾燥した冷たい風が小麦の栽培に適しているので、粉物の食文化が発展しました。群馬県の渋川伊香保温泉エリアでは、日本三大うどんのひとつ「水沢うどん」も大人気です。
赤城山を遠くに望む、群馬県の小麦畑
味付けは、群馬県内でも地域ごとにさまざまで、山間部では味噌ベース、平野部では醤油ベースとする傾向が強いとのこと。また、呼び名も地域によって異なり、「おきりこみ」「おっきりこみ」のほか、「きりこみ」「ほうとう」「煮ぼうとう」「にぼうと」「煮込みうどん」などこちらもさまざまです。
なお、本稿では便宜上「おきりこみ」で統一することにします。
一般的なうどんは、コシを出すために麺を打つときに塩を入れますが、本来の「おきりこみ」では塩は入れない、またはごく少量にとどめるので、それが一般的なうどんとの大きな違いです。場合によっては小麦粉だけでなく、そば粉、トウモロコシ、大麦などを混ぜることもあるようです。
また、一般的なうどんのように、いったん茹でて冷水で締める作業をせず、乾麺、または半生麺の状態で鍋に投入するため、麺が出汁のきいた汁をたっぷり吸うことになります。鍋に麺の小麦粉の粉が入ることで、汁にとろみがつくのも特徴です。冬場はより温まる料理になりますし、寄せ鍋などの鍋料理のシメとしても最適でしょう。
さらに、残った分を一晩置いておくと麺がさらに汁を吸って独自の味わいが増したり、ご飯を混ぜて雑炊にするなど、家庭ごとに楽しみ方があるのです。
「おきりこみ」に酷似するものとして、群馬県桐生市の郷土料理として知られる「ひもかわうどん」があります。「ひもかわうどん」も、別途茹でずに具材を煮込んで味付けをした鍋に直接投入すると「おきりこみ」と呼べるものになるので、実質、同じものと考えてよいでしょう。
同じ群馬名物の幅広麺「ひもかわうどん」
「ひもかわうどん」は釜揚げのつけ汁でいただいたり、冷やしたりもしますが、「おきりこみ」は鍋で煮込むのみ。ちなみに「おきりこみ」は、群馬県の選択無形民俗文化財にも指定されております。
そんな「おきりこみ」をタイプや値段別に通販で購入し、試食してみました。セレクトしたのは「おきりこみ」または「おっきりこみ」としてネット販売される4種類。いずれも個性豊かで食感なども微妙に異なりますので、「おきりこみ」選びの参考になればと思います。
いずれの製品にも共通するのですが、「おきりこみ」をおいしくいただくポイントは以下の3つ。
●しっかり茹でる(10〜15分)
「おきりこみ」は一般的なうどんよりも茹で時間(煮込み時間)が長いと認識してください。コシの強さを求めて茹でる時間を短めにすると、麺の食感が粉っぽくなってしまいます。個人の好みにもよりますが、煮込みすぎる分にはあまり問題ありません。煮込む途中、麺の内部に気泡のようなものが浮かぶことがありますが、一定以上煮込むとこれが目立たなくなり、そうなると食べごろです。
●鍋で麺同士が固着しないよう注意
一般的なうどんのように別途茹でる作業をせず、野菜や肉などの具材がたっぷり入った鍋に直接投入するので、投入直後は麺が重なって固着しやすくなります。しっかり煮込めば芯までふやけるのであまり問題になりませんが、麺が重なって固着した部分は食感が粉っぽくなってしまうので、ご注意ください。
●汁の味付けはやや塩分控えめに
本来の「おきりこみ」は麺を打つ際に塩を入れないのですが、現在売られている製品の多くは少し塩分が含まれています。一般的なうどんのように別途茹でないので、麺の塩分がそのまま汁に投入されることを想定した味付けをしましょう。
かつての群馬県太田市で栄えた中世の武家、新田氏が支配した荘園「新田荘」の中心部に店舗を構える和食店「新田乃庄」が販売。絹から精製した成分、きび粉、山伏茸、シルクプロティンなどを練り込んだ高級麺で、贈答用としても人気があります。
幅広で厚みのある麺は、乾麺と半生の中間タイプ。しっかり時間をかけて茹でると、鍋の汁をたっぷり吸って、主食として食べ応えのある状態になります。麺そのものの味も甘味があって濃厚。やや値が張るのも納得の、総合力の高さが実感できます。
新田氏の先祖は京都の武家で、おきりこみは新田氏が群馬に持ち込んだ宮中料理のひとつだったとの説もあります。伝統の味は店舗でも味わえます(群馬県太田市寺井町896-1)。
醤油、味噌、カレーなどつゆの味の選択肢が豊富。贈答用としても格調高い雰囲気です
100gずつ3束に分けて収められています。おおむね、1人前100gが量の目安に。東久邇宮文化褒賞受賞
乾麺より水分があり、半生麺よりは乾燥した雰囲気。麺そのものも格調高い感触です
茹で上がるのに特に時間がかかりますので、投入後は麺同士が固着しないよう注意します
長めに煮込んでも麺は煮崩れせず、どんどんおいしくなるイメージ
今回使った具材は、大根、人参、しめじ、春菊、鶏肉など
付属のタレをベースに、お好みで醤油や麺つゆを足すなどアレンジできます
茹で時間:15分程度
群馬県・邑楽館林産のプレミアム小麦粉「百年麦」を100%使用した「百年ひも川」。麺そのものは「ひもかわうどん」と呼ばれる干し平麺で、製品の袋には鍋で8〜9分茹でて冷水で揉み洗いするといった説明が書かれていますが、それを省いて直接投入しても問題なくいただけます。
醤油スープ20gx4袋のほか、国産煮込み野菜300gが付属するので、具材を刻んだりする手間が省けます。
煮込んだ麺の食感は、厚みはやや薄めでしっとりとした感覚。麺そのものの味はさっぱり目で、比較的、一般的なうどんに近い感覚でした。
やや大きめの箱に入っています(左)。レトルトの具材が付属(中央)。100gずつ分かれた麺が2パッケージ用意されます(右)
麺は完全に乾燥したタイプ。硬度が高いので、熱湯でいったん茹でてから鍋に投入する指示にも納得です
麺単体を茹でるとこんな感じ。余計な小麦粉が流れるため、ほかの製品でも、鍋の汁にとろみをつけたくない場合は別途茹でるとよいでしょう。
干し平麺のまま鍋に投入しても問題ありませんでした。このほうが本来の「おきりこみ」らしいと言えますが、汁のとろみは濃度が高くなる印象です
付属の具に、野菜などを追加していただきました
茹で時間:10分程度
群馬県が誇る「上毛三山」のひとつ、赤城山の名水を使ったこだわりの自家製麺。小麦粉は群馬県産で、うどんや細うどん、冷や麦など、おきりこみ以外の麺類も人気のブランドです。タレなどは付属せず、乾麺のみというシンプルな製品。平らな棒のような独自の形状が個性的です。
麺の幅はやや細めなので、比較的、名古屋のきしめんに近い雰囲気もありますが、煮込むと厚みが増し、「おきりこみ」らしい無骨さはしっかり味わえます。
パッケージはきわめてシンプル。質実剛健な雰囲気です
平たい棒状の乾麺もきわめて個性的。煮込む量の調整がしやすいのも特徴です。鍋のサイズによっては半分ほどに折って鍋に投入すると煮込みやすいです
カチカチの乾麺がみるみるやわらかくなり、たっぷり汁を吸って適度な硬さになります。汁をかなり吸うので、汁はやや多めにして煮込むのがよいでしょう
茹で時間:10分程度
380gで600円弱というコスパの高さが魅力。半生タイプで、煮込む時間は短めでもおいしくいただけるので、時間のないときでも「おきりこみ」が楽しめます。
約4人前で600円弱とお買い得。群馬県の名産を幅広く扱う商社が販売しています
麺の幅はやや細めながら、長さは最大級。半生タイプなので茹でる(煮込む)際の作業性がよく、使う量の調整がしやすいのも美点です。煮込む時間が短めで済むので、たとえば豚汁に少しだけ投入するなど、ほかの料理への応用がききやすいメリットもあります
投入後、5分ほどで食べられる状態に。もちろん、おきりこみらしくしっかり煮込んでもあまり煮崩れせず、おいしくいただけました
茹で時間:5分程度
「おきりこみ」は、いずれの麺を使っても、調理が簡単で、老若男女を問わず誰にでも好まれやすい料理であることを実感しました。味付けや具材は、工夫次第でいかようにも変えられますし、冷蔵庫にあまった食材を消費するのにも向いています。
一般的なうどんと異なり、調理後時間が経ってもおいしくいただけるなど、使い勝手のよさも抜群。群馬県民のみならず、幅広い地域で冬の献立に最適であるとおすすめします。