PDA博物館
「au oneガジェット」が誕生するまで

ガラケー時代にもウィジェットはあった。KDDIに聞く「au oneガジェット」が目指していたもの


スマートフォンには、「ウィジェット」という機能がある。Androidの場合、ホーム画面にあるウィジェットから天気やニュース、メールなどの最新情報をチェックしたり、Google検索を行ったりする。iOSのウィジェットは、それとは少し異なり、ホーム画面を横にスライドして、ウィジェット画面を表示する仕組みになっている。

かつて、auの携帯電話に実装されていた待ち受け画面情報サービス「au oneガジェット」は、どちらかといえば、Androidのウィジェットに近い。しかし、au oneガジェットがAndroidのウィジェットを真似たのではない。なぜなら、Androidのウィジェットは、2008年8月に発表された「Android 0.9」から実装されているが、auはその前年に、この機能を実現している。つまり、Androidより先に、ウィジェット機能を実装していたのだ。

今回連載に登場するのは、当時au oneガジェットの開発に携わっていた、KDDI コンシューマ営業本部 コンシューマパートナー開発部マネージャーの戸村健一氏と、Opera Software International AS アカウントディレクターとしてau oneガジェットの開発をサポートしていた久保芳之氏。Androidに先がけて、携帯電話の待ち受け画面で情報を表示する仕組みを実現した、当時の状況について話を聞いた。

戸村氏が「au oneガジェット」でかなえたかった、2つのポイント

au one ガジェットとは、au携帯電話の待ち受け画面上に、さまざまな情報を表示したり、ワンタッチで使えるツールを提供したりするサービス。アプリには、「ブログ更新情報」、「テレビ番組」、「天気予報」、「乗り換え情報」などがあり、最新情報を自動的に受信して表示したり、「ミニゲーム」や「時計」、「カレンダー」、「検索」などを操作したりすることができた。

いずれも、現在のスマートフォンでは当たり前となっている機能だが、当時、これらを実装している携帯電話は、ほかに存在していなかった。その後、同様のウィジェット機能として、NTTドコモから「iウィジェット」、ソフトバンクモバイル(※当時)から「モバイルウィジェット」などのサービスが提供されている。

au oneガジェットを表示した画面例。ブログの更新情報や天気予報、検索窓などが配置されている

au oneガジェットを表示した画面例。ブログの更新情報や天気予報、検索窓などが配置されている

KDDI コンシューマ営業本部 コンシューマパートナー開発部マネージャーの戸村健一氏は当時、au one ガジェットの開発に携わったメンバーのひとり。au oneガジェットを開発していくうえで、戸村氏がこだわった点は2つあった。そのひとつが、ユーザビリティである。

「ユーザーがストレスなく使えるということを重視しました。当時の携帯電話は、メニューボタンを押してメニューを開き、そこからアプリを選んでまたボタンを押す、という操作が必要でしたが、これはユーザーに対してあまり親切ではない。そうではなく、待ち受け画面にアプリを配置し、パッと見て情報を確認したり、ワンアクションで操作したりするようにしたかったんです」(戸村氏)。

戸村氏は、もう1点、アプリの開発環境にも配慮が必要と考えた。

「au oneガジェットを便利に使ってもらう肝(きも)は、さまざまなアプリを取りそろえること。そのため、より多くの開発者がau oneガジェットのアプリ開発に参加できる仕組みがなければと考えました。それまで、携帯電話のアプリ開発は、個人参入が難しかったのですが、au oneガジェットでは、誰でもアプリ開発できるオープンな開発環境を用意しよう、アプリのエコシステムを構築していこうと考えたんです」(戸村氏)。

KDDI コンシューマ営業本部 コンシューマパートナー開発部マネージャーの戸村健一氏

KDDI コンシューマ営業本部 コンシューマパートナー開発部マネージャーの戸村健一氏

この2つのこだわりを実現するために、戸村氏は「Web技術に詳しい人物の協力がなければ」と考え、Webブラウザーを提供するOperaにサポートを打診したという。

「それまでの携帯電話アプリ開発は、キャリアごとにプラットフォームが異なるため、それぞれの言語や仕様を学ばなければなりませんでした。しかし、これでは開発者の負担が大きいため、au oneガジェットのアプリは、HTMLなどWeb標準に準拠した技術で開発できるようにしたい。そこで、HTMLやCSS、Ajaxなどに詳しいOperaさんに相談してみることにしたんです」(戸村氏)。

当時、OperaのSoftware International AS アカウントディレクターであった久保芳之氏は、戸村氏の提案を聞き、 au oneガジェットに興味を持ったという。

「携帯電話事業者が先頭に立ってアプリを開発するのではなく、プログラマーたちが気軽に参加できるようにしたいという戸村氏の話を聞き、まるで、Palmの普及期のようだと思いました。そこで僕が思ったのは、開発コミュニティを作って、腕のいい開発者をたくさん集めようということ。そうすれば、Palmのときのように、さまざまな楽しいアプリが生まれるだろう。そういう場を提供できるのであれば、ぜひやってみたいと思ったんです」(久保氏)。

Opera Software International AS アカウントディレクターとして当時、au oneガジェット開発をサポートしていた久保芳之氏

さらに、au oneガジェットのプラットフォームにOperaの技術を使えば、au oneガジェット用に開発したアプリをほかのデバイスにも展開できる。久保氏は、これもau oneガジェットの強みになると考えた。

「アプリ開発者からすれば、せっかく作ったアプリを携帯電話だけにしか提供できないのはもったいない。Operaウィジェットは、Opera 9ブラウザーのエンジンを利用して動作するため、ひとつのアプリを開発すれば、それがOperaウィジェットに対応するPCや携帯電話上でも実行できます。それは、きっと開発者にとっても、うれしいはず」(久保氏)。

久保氏の「Operaウィジェット上で動くau one ガジェット」という提案が受け入れられ、その後、ともに開発していくことになった。

待ち受け画面に情報を表示するため、クリアしなければならなかった課題

ところが、携帯電話の待ち受け画面上に、最新情報を表示する機能を開発するうえで、思わぬ落とし穴が待ち受けていた。

「au oneガジェットの肝である、“待ち受け画面上に情報を表示する”機能を実現するには、RSSリーダーのように、更新情報を定期的に受け取り、常に最新情報を受け取れるような仕組みがあればいい。さほど難しいことではないと思っていたのですが、とんでもなかった。実際にやってみると、確かにリアルタイムで最新情報は表示されるものの、バッテリーが1日もたない。常にネットにアクセスしている状態なのだから、考えてみれば当たり前のこと。ついでにパケット料金もかさみ、1か月間で非常に高額な請求額になってしまう。そんな状態では、誰も使ってくれません」(戸村氏)。

Web技術のプロである久保氏も、これには驚いたという。

「実際に試してみるまで、この落とし穴には、まったく気がつきませんでした。ともあれ、これを何とかしなければいけない。そこで、auとOperaの技術者、ハードウェアメーカーが額をあわせ、バッテリーの持続時間や液晶パネルの寿命を延ばすために、できることを模索しました」(久保氏)。

そこで見つけたのが、タイマーを仕込み、間隔を空けて、インターネットにアクセスするように制御するという方法。確かにそうすれば、バッテリー消費やパケットを抑えることができる。しかし、新たな課題が出てきた。

「インターネットにアクセスする頻度や間隔は、ユーザビリティに影響する部分。間を空ければ、空けるほど、情報の鮮度は落ちる。かといって、間隔を狭くすると、バッテリーがすぐになくなってしまう。ちょうどいい塩梅(あんばい)が、なかなか見つかりませんでした。そのうえ、『リアルタイム情報が必要だから、あまり間をあけないでほしい』などいう、ベンダーさんの要望もある。ひと筋縄ではいきませんでした」(戸村氏)。

情報の量と通信間隔のバランスを慎重に検討しつつ、ハードメーカーも交えて何度も検証を繰り返し、ようやく「これが最適」という設定が見つかった。そこで、アプリ開発のガイドラインを作成し、アプリ開発者に配布。ガイドラインに基づいて、アプリを開発してもらうことになった。

「au oneガジェットの開発は、バックグラウンド通信とバッテリーの関係をどうするかという課題を考えるきっかけになりました。このとき関わったアプリ開発者やハードウェアメーカーにとっても、いい経験になったと思います。現在のスマートフォンアプリを開発するうえでも、これと同じ課題を考慮しなければならないはず。我々が作ったガイドラインも、なんらかの参考にはなっているのではないでしょうか」(久保氏)。

au oneガジェットの対応機種。(写真左から)「W54SA」(三洋電機)、「W54S」(ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ※当時)、「W56T」(東芝)

垣根を越えたアプリストア「ホールセール・アプリケーションズ・コミュニティー」

もうひとつ、戸村氏が目指したのは、「窓の杜」や「Vector」のような、PCソフトのダウンロードサイトの携帯電話版を作るということ。現在のスマートフォンではすでに、アプリストアが当たり前になっているが、当時は自分で開発したアプリを登録したり、ユーザーがダウンロードしたりするような仕組みは用意されていなかった。

「ところが、今やアップルの『App Store』やグーグルの『Google Play』には、世界中のアプリ開発者がアプリを提供している。やはり、アプリストアが必要という考えは間違っていなかったということだと思います」(戸村氏)。

その後、アップルやグーグルという2大勢力と対抗できるアプリストアを作る動きもあったという。

「この2社に対抗するために、世界中の携帯電話の通信事業者24社が手を組み、2010年に設立したのがWAC(ホールセール・アプリケーションズ・コミュニティー)という民間団体。同団体が実現しようとしたのは、オープンプラットフォームで、キャリアの垣根を越えてアプリを配信しようという試みでした。このとき、事実上、キャリアの垣根を越えたエコシステムは構築できたのですが、残念ながらすでに威力を発揮していたアップルやグーグルには勝てませんでした」(久保氏)。

「ユーザーがモバイルに求めるものは、ずっと変わらない」

au oneガジェットの開発から10年経った今、戸村氏は、現在のモバイル環境を見て、「非常に満足している」と言う。

「ユーザーにとって重要なのは、どこでもすぐに情報が手に入ること。このモバイルに対するニーズ自体は、今も昔も変わりません。ただし、テクノロジーが進化することで、やり方や手法は変わっていくし、見せ方も変わっていく。サービスは、時代のニーズにあわせ、現在のテクノロジーにあった形で提供するのが重要です。私は当初、デジカメやPDAの存在を携帯電話で超えることが目標でしたが、スマートフォンでは、それらが普通にできている。ですから、現在のスマートフォンにとても満足しています」(戸村氏)。

戸村氏が愛用するiPad。単身赴任時代、家族とのコミュニケーションに役立ったという

戸村氏が愛用するiPad。単身赴任時代、家族とのコミュニケーションに役立ったという

最後に、戸村氏に愛用のモバイル端末を見せてもらった。

「私が愛用しているのは、iPad。これを使っていて、まったく不満はありません。単身で駐在していたときも、Skypeで会話したり、Facebookで交流したりしていたから、孤独ではありませんでした。これが、自分にとってのモバイルニーズを満たす最適なスタイルだったのだと思います」(戸村氏)。

取材を終えて(井上真花)

革新的なデザインが当時大きな話題となった、auの携帯電話「INFOBAR」(写真左)。2018年11月下旬、そのデザインを踏襲した新モデル「INFOBAR xv」(写真右)が発売される予定だ

auの携帯電話と言えば、私は「INFOBAR」が好きでした。調べてみると、2003年に発売されたようです。4色のカラーバリエーションがありましたが、なかでも一番人気は「NISHIKIGOI(錦鯉)」。洗練されたデザインは見れば見るほど魅力的で、何度店頭に足を運んだことか。あれから15年。この秋、INFOBARの新モデル「INFOBAR xv」が発売されるとのこと。NISHIKIGOI(錦鯉)デザインのかっこよさも健在で、製品写真を見るとため息がでます。今度こそ、私はあこがれのINFOBARを手に入れることができるのでしょうか。

オフィスマイカ

オフィスマイカ

編集プロダクション。「美味しいもの」と「小さいもの」が大好物。 好奇心の赴くまま、良いモノを求めてどこまでも!(ただし、国内限定)

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