「炊飯器は使わない」というスタンスだった筆者が、あまりのおいしさに衝動買いをしてしまったのが愛知ドビーの炊飯器「VERMICULAR RICE POT(バーミキュラ ライスポット)RP23A」(以下、バーミキュラ ライスポット)。以前の記事では、その炊飯機能の優秀さについてレビューした(→「話題の炊飯器「バーミキュラ ライスポット」がやはりスゴい! 家電ライターも衝動買いした炊き具合とは?」)。
バーミキュラ ライスポットはホーロー鍋とIH調理器がセットになった製品だが、最大の注目点はその鍋に同社の人気ホーロー鍋「バーミキュラ」を使用していること。バーミキュラのホーロー鍋といえば、「これで調理するだけで料理がおいしくなる」と評判になり、一時は注文から製品到着まで1年以上待つ必要があった。しかも、工場の生産体制を強化した現在でも数か月待ちという人気の製品だ。そこで、今回はこの“ホーロー鍋の部分”をフィーチャーし、あえて本製品を“炊飯以外”の機能に注目して使ってみた。
バーミキュラ ライスポットはIH調理器(左)とホーロー鍋(右)がセットになった炊飯調理器。ホーロー鍋は機密性が高く無水鍋としても使用できる
基本的にはセットのIH調理器で調理するが、ホーロー鍋なのでコンロで使用することも可能。この自由度はなかなか嬉しいポイント
同社によると、ホーロー鍋のバーミキュラで作る料理がおいしい理由は、その密閉性。なんと0.01mm以下という高精度の加工が行われており、そのおかげで本体とフタをピッタリと閉じることができる。このため、食材の水分やうま味を逃がさず調理可能。そして、食材の水分だけで加熱調理ができる「無水調理」にも対応している。ただし「うま味を閉じ込める」ために、鍋やフタはなかなかの重量。バーミキュラ ライスポットは3.7Lサイズの鍋の重さだけで約4kgある。
また、鍋底には同心円状のリブを採用。底面に凹凸をつけることで、食材が鍋に触れる面積を少なくしている。このため、食材を下部だけでなく全面から包み込むように加熱しやすい。ただし、この凹凸のため、食材を「かき混ぜる」ときに同じ場所をガリガリとこすってしまうデメリットもあるので注意が必要。ホーローは表面塗装製品なので、同じ場所を強く継続的にこすると塗装がはげる可能性が高い。我が家でははげ防止のため、表面がやわらかい耐熱シリコン製のスパチュラ(ヘラ)を使用している。バーミキュラには「一生使う」ための再塗装サービスもあるが、修理なしで長く使いたいなら調理器具は選ぶ必要があるだろう。
フタと本体は0.01mmという驚くべき精度で加工されている。しかもテーパーがついているのでピッタリと密閉可能。ただし、この密閉度を実現するために本体とフタが接地する部分だけはコーティングがない。この部分は濡れたまま放置すると錆びるので注意が必要。我が家でも何度か錆びが発生したが、軽くスポンジで洗うだけですぐに除去できる。また、同社によるとこの錆びは人体には無害だそう
鍋底にあるリブで食材と鍋の接地面積を減らす工夫がされている。鍋内の蒸気で、食材を全面から加熱する
水分を逃がしにくい構造なので、具材が浸らない水分量で煮物も調理できる。「ぶり大根」も、鍋底1cmくらいの少ない水と調味料でおいしく炊き上がった
ホーロー鍋のバーミキュラは、食材の水分だけで加熱する無水調理が可能。ただし、無水調理は慣れるまで火加減が難しい。食材から水が出るまでは、ジワジワと弱火で加熱する必要があり、火加減を間違えるとすぐに鍋が焦げつくのだ。いっぽう、バーミキュラ ライスポットは鍋に最適化されたIH調理器がセットになっている。このため、火加減は「おまかせ」できるというメリットがある。コンロなどでは、極弱火などにしていると気がつかないうちに火が消えていることもあるが、IHならこういった問題もない。
調理モードなら炊飯以外の調理ができる。煮物はもちろん、なんと炒め物も可能だ。火加減は3段階プラス温度を設定する「保温」から選択可能
また、バーミキュラ ライスポットで個人的に気に入っているのが「保温」機能。なんと、本製品は30℃〜95℃まで、1℃単位で内部の温度をキープする機能があるのだ。このため、高温で加熱しすぎると失敗する料理も、絶対に失敗せずに加熱できる。これは、お客様が来る日や、高い食材を使用した場合などの「絶対に失敗できない」シチュエーションでかなり便利だ。
保温モードなら30℃〜95℃まで温度を設定して、鍋内の温度を一定に保つことができる。もちろん、タイマーも搭載している
ローストビーフなどの温度管理が難しい調理も、保温モードを使えば「中心だけ生焼き」「焼きすぎ」などの状態を防げる
筆者がバーミキュラ ライスポットで作ってほしい料理のひとつが「チャーハン」だ。「ホーロー鍋でチャーハン?」と思うかもしれないが、これが非常においしいのだ。作り方は簡単で、バーミキュラ ライスポットを中火で加熱。高温になったら油を入れて卵を投入。卵が固まる前にご飯を入れて混ぜ、塩こしょうなどで味を調えるだけ。水気のある具材や、焦げ目をつけたい具材がある場合は最初に投入しておく。反対に、ネギなどの火を入れなくていい食材は最後に投入するとおいしい。
個人的には、バーミキュラ ライスポットで作るチャーハンのおいしさの理由の半分は、バーミキュラ ライスポットで炊飯したご飯にもあると感じる。実は、バーミキュラ ライスポットを日々使っていて驚くのは、次の日の「冷やご飯」のおいしさ。炊きたてがおいしい炊飯器は数多くあるが、冷蔵庫保存をすると次の日は大抵ベチャッと食感が悪くなる。しかし、バーミキュラのご飯は、なぜか冷蔵した次の日もふっくらモチッとしているのだ。
また、多くの家庭では冷やご飯をチャーハンにするとき、1度冷えたご飯を電子レンジで温めてから調理する。そうしないとご飯がダマになって炒めにくいからだ。しかし、バーミキュラの冷やご飯は、なぜか常温のまま調理してもパラッと仕上がるのだ。
鍋温度はかなり高くなり、一気に調理する必要があるので、チャーハンを作る際の材料は最初に全部用意しておく。ご飯はバーミキュラ ライスポットで炊いた冷や飯を使うのがポイント
また、バーミキュラ ライスポットは加熱機能も優秀。火力は最大1300Wと高火力。今回は最初にウインナーを入れて加熱したが、あっという間に焦げ目がついた。加熱速度が早くて、卵やご飯、具材を次々と入れる必要があるので「食材を準備しながら調理する」のはちょっと難しいと感じたくらいだ。
もうひとつ、チャーハンを作っていて感じたのが、フライパンよりも調理がしやすいということ。まず、鍋が重いので鍋内の食材をかき混ぜる時に手で押さえる必要がない。片手で勢いよく内部を混ぜながら、あいている手で調味料を振り入れるといった「ながら」作業がしやすい。もうひとつが鍋の高さ。鍋の高さは12cmほどで、フライパンよりも底が深い。このため、乱暴にかき混ぜても具材が周囲にこぼれ落ちることがないのだ。
チャーハン調理中。フッ素加工などはされていないが、きちんと加熱すれば卵などの具材も底に貼り付きにくい。グイグイかき混ぜても鍋が動かないので作業性もよい
できあがったチャーハン。食感もパラパラでとにかくおいしい。材料さえあれば5分ほどで調理できるので、本製品を購入したら1度は作ってほしい料理だ
チャーハン程度なら、鍋への焦げつきも少なく、後片付けもあまり苦労しない。ただし、唯一感じたデメリットは、少量ながら油が飛ぶこと。テーブル周りに細かな油が飛ぶため、モノが少なく掃除しやすい場所での調理をオススメする。
バーミキュラ ライスポットならではの調理といえば、「沸騰温度以下」で加熱する低温調理だろう。たとえば、おいしいのに安価に作れる「鶏ハム」。これは塩をして1日寝かせた鶏胸肉を、ビニールなどに入れて70〜80℃のお湯で20分〜1時間ほど加熱する料理だ。非常においしいうえ、低カロリー高タンパクでヘルシーなのだが、調理は温度管理が面倒なのが難点。また、鶏胸肉は中心まで加熱しないと食中毒の危険があるが、高温になりすぎるとパサパサとした食感になる失敗も多い。
しかしバーミキュラ ライスポットなら「75℃で1時間」と設定しておけば手軽に失敗なく調理できる。しかも、本来鶏胸肉は「鍋に大量のお湯を沸かし、その中にビニールやラップで包んだ肉を入れて加熱」する。しかし、バーミキュラなら鍋内に熱を対流させるため、水を張る必要はない。なんと、最初に大さじ2杯分程度の水を入れるだけでいいのだ。
味付けをして1日冷蔵庫で寝かせた肉を、くるくると巻いた状態でラップする。ラップが剥がれないように輪ゴムで固定したらクッキングペーパーを入れた本製品にセット(写真上)。このとき大さじ2杯の水も入れる。あとは保温調理で完成する(写真下)
鶏胸肉なのに、中までシットリ。鶏ハムは材料費が安いのに高タンパク低カロリーでダイエットにも最適。パンやサラダに入れてもおいしいので、常備菜としてあると心強い
調理の失敗しやすさといえば、プリンや茶碗蒸しなどの「蒸し料理」もあげられる。これらの失敗のほとんどは「高温によるス(気泡)の発生」だ。スが入ったプリンや茶碗蒸しは、見た目も悪いが、何より食感がボソボソしておいしくない。スが入る理由は「急激に温度が上がる」「高温(95℃以上)での加熱」と言われている。そこで、今回は「80℃保温で45分」でプリンを調理した。できあがったプリンは、ゆっくりと加熱したためか、とにかくなめらか! いつもと同じ材料のプリンなのに、我が家至上最高のできあがりになった。
水を張ったバーミキュラ ライスポットに、プリンや茶碗蒸しを入れて蒸し料理も可能。プリンは急激な温度変化でスが入りやすいため、今回はプリンカップの下に布巾を敷いて80℃で45分保温加熱した。加熱後、まだ固まっていない場合は加熱時間を追加する
できあがったプリン、型抜きの時に外面がザラついてしまったが、断面を見ると非常になめらかなのがわかる
バーミキュラ ライスポット付属のレシピ集を見て、1度作ってみたいと思ったのは「ちぎりパン」。付属レシピはパン生地を2回発酵させるオーソドックスなレシピだが、この発酵も本製品で「35℃保温」することで行える。ひとつの調理器具でパン作りの全工程が行えるのが便利だ。できあがったパンは表面がパリッとしていて、中はふっくら。この「パンが焼ける」のも、バーミキュラの密閉度の高さによる内部熱対流で、鍋の内部が均一に加熱できるためだろう。
30℃から保温できるため、もちろんパンの発酵も本製品で可能。写真上が発酵前の状態で、写真下が発酵後だ。季節によってはヨーグルト作りなどの発酵調理もできそう
パンを焼くときは、鍋に焦げつかないように下にクッキングペーパーを敷く。弱火で20分加熱後、ひっくり返してさらに5分加熱。その後、余熱で15分間火を通せば完成
完成したパンを、バーミキュラ ライスポットで作った鶏ハムとあわせてオープンサンド風に。ミミがパリッと香ばしく、あとを引く味だ
バーミキュラ ライスポットには、「鍋が重い」「メンテナンスが必要」「調理後はフタが熱いので素手でフタを開けられない」といった、普通の鍋より面倒なポイントもある。しかし、筆者が実際に使っていて感じるのは、同じ食材でも「普段よりおいしく調理できる」ということだ。細かな「面倒さ」はあるものの、普段の料理のおいしさを重視する家庭なら、かなり満足度の高い製品だと思う。
また、IH調理機能があるため、最初に温度や時間を設定すれば放置できる料理が多いのも便利。温度を設定できるので、微妙な温度調整が必要な料理を、失敗なく作れる安心感も大きい。何よりコンロを使わないので、普段の料理に「もう一品」追加もしやすい。とはいえ、本製品で副菜を調理すると、炊飯器としてご飯が炊けないという二律背反的な問題にも突き当たる。このあたりは、料理の時間をずらすなどの工夫が必要そうだ。
パソコン雑誌編集者からドッグカフェオーナーという、異色の経歴を経た家電ライター。家電を活用することで、いかに家事の手を抜くかに日々頭を悩ませている。