レビュー
大型ボリュームダイヤルを大胆にレイアウトした個性的なボディにも注目!

小型デスクトップオーディオの新たな選択肢、IRIVER「Astell&Kern ACRO L1000」を聴く

ハイレゾ対応のポータブルプレーヤーをはじめ、イヤホンやヘッドホン、CDリッピング用プレーヤーなど、幅広いオーディオ製品を展開するIRVERのAstell&Kernブランドから、「ACRO L1000」というユニークなヘッドホンアンプが登場した。

Astell&Kern ACRO L1000

Astell&Kernらしいというべきか、ギリシャのパルテノン神殿をモチーフにしたという「ACRO L1000」の外観は、手前に30度傾いたキューブに大型のボリュームダイヤルを大胆にレイアウト。加えて各所にLEDを配置するなど、既存のオーディオ製品とは一線を画す洒落たデザインにまとめ上げられている。それでいて、サイズは約112(幅)×112(奥行)×160(高さ)mmとなかなかコンパクト。普段からよく目にする、またスペースに限りのあるデスクに置く製品としては、絶妙なデザインとサイズ感だといえる。

大型のボリュームダイヤルを大胆に配置した個性的なデザインに注目しがちだが、デスクトップに直接設置したときも操作しやすいようにボリュームダイヤルを手前に30度傾けるなど、デザイン性だけでなく使い勝手についてもこだわっているという

重厚感のある金属製の大型ボリュームダイヤル。適度なクリック感があり、かなり気持ちいい操作感だ。ボリュームダイヤルの周りを囲むように配置されたLEDでボリュームを直感的に把握できるとこも地味にうれしい

いっぽうで、姿形もさることながら、機能的にもユニークな内容を持ち合わせているのも特筆すべきポイントとなっている。まず、ヘッドホンアンプとしては、ボディ左側面には6.3mm、3.5mm、2.5mmバランスのヘッドホン出力を用意。加えて、背面にXLR 4pinのバランス出力も用意され、さまざまなヘッドホン端子に対応している。それだけでも充実した内容といえるのだが、さらに、背面にはスピーカー用の出力端子も用意されており、ヘッドホンだけでなく、スピーカーでも音楽を楽しむことができるようになっているのだ。これは、画期的なアイディアといえる。

以前、筆者はChord「Hugo」のヘッドホン出力をスピーカーに繋げてみる、というデモンストレーションを見たことがある。そのデモの時は、小型のフルレンジスピーカーを接続していたのだが、かなりの音量でスピーカーが鳴っていたし、音質的にも悪くなかった。このように、高い駆動力を持つヘッドホンアンプであれば、コンパクトスピーカーを十分に鳴らすことができるパワーを持ち合わせていて、それをうまく活用して製品化したのがこの「ACRO L1000」なのだろう。しかも、スピーカー出力は最大15W×2(4Ω)という、デスクトップ用のスピーカーであれば必要十分なスペックを有している。120mm四方程度の専有面積で、ヘッドホンもスピーカーもOKなのは、スペースの限られるデスクトップ環境ではありがたい限りだ。

ヘッドホン出力は3系統が左側面に配置されている。狭い配置だと端子がパソコンなどに当たる可能性があるが、そのとき本体を斜めに置くという手もある。コンパクトな筐体ならではの対処方法だ

背面には、XLR 4pinのバランス出力、ヘッドホン出力が並ぶ。スピーカー出力は最大15W×2(4Ω)だ

背面には、XLR 4pinのバランス出力、ヘッドホン出力が並ぶ。スピーカー出力は最大15W×2(4Ω)だ

いっぽう、入力はmicroUSBによる1系統に限られている。これはズバリ、「AK70MKII」や「A&ultima SP1000」など、IRIVER製のDAPを接続して活用することを前提としているのだと思うが、当然ながらパソコンやOTG接続(USB)対応の他社DAPも接続することができる。もちろん、アナログ入力とまではいわないまでも、2〜3系統のデジタル入力と切り替え機能があったらなお嬉しいところだが、机の上でも邪魔にならないコンパクトなボディサイズの恩恵もあって、手動での接続ケーブル切り替えもそれほど面倒ではない。普段はAKシリーズかパソコンを繋げっぱなし、時々機器を替える程度であれば、まったく不便だとは感じないはずだ。

入力は本体背面のmicroUSBの1系統のみ。IRIVER製のDAPはもちろん、パソコンやOTG接続(USB)対応の他社DAPとの接続も可能だ

当然のごとく、音質面でもかなりのこだわりが投入されている。音質の要となるDACは、旭化成エレクトロニクス社の32bitプレミアムDAC「VERITA AK4490」をLR独立で搭載。加えて、32bit処理をおこなうCPUを採用することで、32bit音源であってもそのままのクオリティでDACまで伝送し、理想的なサウンドを引き出すことができるようになっている。対応するスペックは、リニアPCMで最高384kHz/32bit、DSDで最高11.2MHzまでと、充分以上の内容を持つ。さらに、アンプ部についても、専用のバランス出力回路を再設計して搭載するなど、徹底した低歪化や音質向上を推し進めているという。

DACは、AKシリーズ第3世代モデルでもおなじみの「VERITA AK4490」を、L/R独立して1基ずつ搭載する。ちなみに、アンプ回路は「ACRO L1000」のために専用設計したものが使われているという

ちなみに、「ACRO L1000」にはゲイン切り替えが用意されていないものの、その代わりに“サウンドモード”なる設定が用意されている。こちら、ニュートラル、バスブースト、ハイゲインの3つから、好みのモードを選択できるというもの。実際に試してみたが、どれも極端な設定ではないため、「ACRO L1000」本来のサウンドをマスクすることはなかった。あくまでも、好みや組み合わせるヘッドホン/イヤホンに応じて、使い分ける程度がよさそうだ。

気になるサウンドは? イヤホン・ヘッドホン・スピーカーそれぞれでくわしくチェック

さて、肝心のサウンドはいかがなものか。まずはイヤホンから試してみることにする。比較的鳴りやすいFitEar「fitear」からかなりの駆動力を求めるDITA「Dream」まで、特徴的なクセもなく素直に鳴らしてくれる。音色傾向的には、ややエッジの尖ったキレのあるキャラクターにも感じられるが、イヤホン本来のよさは充分に引き出している。2.5mmバランス接続はダイナミックレンジが幅広くなるのか、メリハリのある抜けのよいサウンドになってくれるようだ。解像感も2.5mmバランスのほうが有利となるため、できれば2.5mmをメインにしたいところだ。

さらに良好だったのがヘッドホンだ。ゼンハイザー「HD800」を6.3mmで接続してみると、抑揚のしっかりした彫りの深いサウンドを聴かせてくれた。低域のフォーカス感が高いため、ベースのリズムが鮮明に聴こえ、ドラムのバスドラやタムも立ち上がりや収束がよく、結果としてグルーブ感の高い演奏に感じられる。中高域もクリアで、見通しのよい音場を持つサウンドを楽しむことができた。続いて、XLR 4pinのバランス出力に付け替えてみると、これがまたいい。メリハリのよいダイナミックな表現はそのままだが、SN感が高まっているのだろう、チェロのビブラートの襞ひとつひとつまで感じられるかのような、細かいニュアンス表現までしっかりと伝わってくる。とても良質な、リアルさ溢れるサウンドだ。

続いてAKG「K701」改(「K701」をminiXLR 4pin出力に改造+リケーブル可能としたもの)でバランス接続を試してみたが、こちらもピュアな音色で広がり感の大きい、「K701」ならではのサウンドを聴かせてくれた。特に女性ボーカルとの相性がよく、とても美しい、伸び伸びとした、いつまでも聴いていたくなる素敵な歌声を聴かせてくれた。

ソニー「MDR-Z1R」も3.5mmで試してみたが、こちらとの相性もなかなか。驚いたのが、パイオニア「SE-Master1」を試してみたときだ。何を隠そう、「SE-Master1」はヘッドホンアンプをかなり選ぶ傾向があり、ベストマッチする製品はそうそうないのだが、「ACRO L1000」だと中高低バランスの整った、ジェントルなサウンドを聴かせてくれる。メリハリはしっかりしているのに、高域は変に尖らず、ピアノの基音と倍音の重なりがスムーズだったりと、中高域の繋がりが良好でとても聴きやすかった。「SE-Master1」ユーザーにとっては、なかなか貴重な選択肢となりそうだ。

最後に、スピーカーを繋げてみることにした。ちなみに、背面の切り替えスイッチを変更すると、スピーカーから音が出るようになっている。まず、ELAC「BS72」を接続すると、元気のよい、生き生きとしたサウンドが聴こえてきた。広がり感はそれほど大きくないが、その分エネルギー感の高い、熱気溢れるサウンドを楽しむことができる。解像感もしっかり確保されており、ボーカルをはじめ、各プレーヤーの様子はしっかりと伝わってくる。小型のブックシェルフであれば、充分鳴らしきってくれるようだ。

イヤホン・ヘッドホンに続いて、スピーカーでのサウンドをチェックしてみる

続いて、高級ブックシェルフスピーカーELAC「BS312」を接続してみることに。こちらは、帯域バランスにクセが出てくるようで、最低域と最高域に伸びのないかまぼこ形の音になってしまう。ついでにと、トールボーイスピーカー(AAD「E48」という旧モデル)も試してみたが、こちらもウーハーユニットが鳴りきらず、バランスを欠いたサウンドになってしまった。

このように、「ACRO L1000」は組み合わせるスピーカー製品は多少選ぶものの、フルレンジ、または2ウェイのコンパクトスピーカーであれば、充分に鳴らしきってくれる駆動力を持ち合わせていることは確認できた。何よりも、ヘッドホンアンプとしての実力の高さが魅力だ。ほんの少し高域側にハリを持つ、エッジの鋭い音色傾向ではあるのだが、低域のフォーカス感や駆動力の高さから、幅広いキャラクターのヘッドホンやイヤホンに対応することができる。メインはヘッドホンだが時々スピーカーも使いたい、できればコンパクトな一体型製品が欲しい、という人には、かなりの有力候補といえるだろう。

野村ケンジ

野村ケンジ

ヘッドホンなどをはじめ幅広いジャンルで活躍するAVライター。ハイレゾ音源についても造詣が深く、アニソンレーベルのスーパーバイザーを務めるほか、TBSテレビ開運音楽堂「KAIUNハイレゾ」コーナーではアドバイザーとしてレギュラー出演している。

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