アナログブーム再燃中と言われる今、なんと自分で組み立てられるレコードプレーヤー「SPINBOX」(スピンボックス)が登場しました。その本体は、まさかの“紙”! 一体どんなものかと驚きますが、先に結論を言うとコレ、組み立てるのがめちゃめちゃ楽しい。そして予想を超えるサウンドが鳴るんです。
今回は、実際の組み立てからスタートし、さらに完成品の音質をオーディオ評論家に真剣レビューしてもらいました。音楽好きの人も工作好きの人も、ご注目ください。
というわけで世界初の、組み立てられるレコードプレーヤー「SPINBOX」(型番:SBX)。価格.comでの販売価格は16,200円(税込・2018年7月29日時点)です
しかし「自分で組み立てる」と言葉にするのは簡単ですが、アナログの世界は回転するレコードから針で物理的に信号を拾います。デジタルの世界と比べて、物理的要素がサウンドに大きく影響するので、本来かなり難しいはず。……と思っていたら、公式サイトには「約20分で組み立てられる」と書いてあります。いやいや20分て! ここでさっそく度肝を抜かれました。
それでは以下から、SPINBOXの現物を見ていきましょう。ターンテーブル・モジュール、サウンド回路基板、電源回路基板などのほか、アンプ回路基板やスピーカーユニットなどを同梱。スピーカーを内蔵するタイプのレコードプレーヤーを作れます。
外箱も小さめで、思いのほかコンパクトなキット。開けるといろいろなパーツが出てきます
こちらがパーツ類です。これらが入っている外箱が耐水性のある紙素材でできていて、そのままレコードプレーヤー本体のシャーシやトップカバーになります
上の写真にある通り、内部基板はできあがったものが入っているので、ハンダ付けは一切不要。さらに、組み立てるためのドライバーもしっかり同梱されているので、ユーザー側は道具を揃える必要が全くありません。
くわしくは後述しますが、組み立てには必ずこの付属ドライバーを使いましょう
ターンテーブル部を固定するパーツとしてバネとネジが入っています。特にバネは形が崩れると音質に影響が出てしまうので、最初にていねいに取り出しておきます
付属の説明書を見ながら作成していきます
以下、何となく作業工程をイメージできるよう、手順に沿って写真付きでレポートしていきましょう。ステップは大きく3つです。
まず組み立てるのは、トップカバー。ここが、ターンテーブルを取り付ける土台となります。紙素材なので、ちょっとした負荷がかかると崩れてしまう恐れがあるため、力を入れすぎないよう注意しながら組み立てました。
パーツ類が入っていた紙素材の外箱がそのまま本体シャーシやホルダーになります。キリトリ線に沿って形を作っていきます
最初の難関がココ。トップカバーとその裏に配置するホルダーを両面テープで貼り合わせるのですが、これを失敗するとゲームオーバーなので、かなり緊張しました
重心のバランスをとって安定させるための重りを、トップカバーの内側に貼り付けます。こういった、音に影響を与える細かいポイントはわりと押さえられている印象
トップカバーの土台ができたら、そこにターンテーブル・モジュールをはめ込んでいきます。初めに取り出したネジとバネで取り付けていくのですが、その際に必ず付属ドライバーを使うのがコツ。
というのも、本格的なドライバーを使うと力がかかりすぎて、紙素材の本体を壊してしまう恐れがあるから。付属ドライバーはグリップがコンパクトな作りなので、逆に力が入りすぎず、ちょうどよい加減でネジを締められるんです。
トップカバーの土台に、ターンテーブルパーツをはめ込んでいきます。ターンテーブル側のネジ穴を、トップカバーのネジ穴に差し込むようにしてセット
ターンテーブルに付いているトーンアームを壊さないよう、トップカバーごと立てて作業するのがマストです。ターンテーブルをトップカバーに固定する際は、付属ドライバーを使うのがコツ。また、各ネジ穴を平均して同じくらいのトルクで閉めないと、バネのテンションが変わってしまいます。締めすぎると、ネジ穴がグシャッと潰れてしまうかもしれないので注意
続いては、本体のベースとなるフレームシャーシを組み立てていきましょう。入力端子のボードやスピーカーユニット、アンプ基板などの重要パーツを取り付ける土台となる部分です。
こちらも、キリトリ線に沿って土台の形を作成。フレーム内部に、底板プレートをセットします。ここまでは簡単
4か所の脚部、入力端子のプレート、スピーカーユニットなどのパーツ類をグイグイ取り付けていきます。こちらはプラスチック製のネジで留めていくのですが、ここも付属のドライバーを使うことでちょうどよい力加減で締められます
内部の配線も、そのままソケットに差し込むだけなので簡単。LchとRchの差し込み口を間違えないよう、ちゃんと記載されているのも親切です
最後に、トップカバーをフレームシャーシの上にかぶせて合体させれば完成です!
トップカバーに取り付けたターンテーブルと、フレームシャーシに取り付けたアンプ基板を付属のケーブルで接続し、トップカバーをフレームシャーシにかぶせます
最後にターンテーブルシートを置いてフィニッシュ
というわけで、無事にSPINBOXができあがりました。見た目はボール紙感がスゴいのですが、細かい部分で本物のレコードプレーヤーに通じるギミックもあって、そのバランスが何とも言えません。それに、自分で作るとものすごく愛着が湧きます。
紙素材むき出しのデザインが、逆にオシャレ説!
トーンアームを上げ下げするレバーがちゃんと付いています。オートストップ機能付きで、しかも回転数は33 1/2、45、78回転の3種類に対応しているのもイイ
底面を返すとステレオスピーカー部が見えます
ちなみに電源はUSB駆動。なので、モバイルバッテリーでも駆動します(モバイルバッテリーは別売)。この手軽さもかなりポイントだと思いました。
電源部としてmicro USB端子を搭載しています。そのほか、入出力端子として3.5mmヘッドホン出力やLINE IN入力も装備
なんか音がよくなりそうな気がするので、ハイエンドオーディオブランド「Mark Levinson」のロゴが入ったモバイルバッテリーを接続してみました
それではさっそく、自分で組み立てたSPINBOXでレコードを聴いてみましょう。どんな音がするのか、そもそもちゃんと音が出るのか? ワクワクします。
ここが最後にしてそこそこ大きな注意点。カートリッジのプラスチックカバーが多少硬めなので、外すのにちょっと集中力が必要です。針を折ったりしないよう、最新の注意を払いましょう
ドキドキ……。「針が降りる瞬間の胸の鼓動」というプリンセス・プリンセスの歌詞を思い出しますね(古い)
紙感満載のSPINBOXから、裏拍で始まるけだるいギターとベースが流れ出した瞬間、筆者の心には「スゴい! 本当にレコードが聴ける!」という驚きに近い感情が湧きました。はっきり言って、自分が作ったレコードプレーヤーから音が出てくるだけで、感動します。
本当に音が出た! ……といっても写真ではサウンドが伝わらないのが残念。しかし、こんなシンプルなシステムで手軽にレコードを鳴らせるというのだからびっくり。もちろん、ちゃんとした再生のためには水準器で水平を取りましょう
しかも、ずっと聴いていくうちに、意外とサウンドの雰囲気がイイことに気付き、さらに驚きました。バンドサウンドを流すと、低域のベースがちゃんと分離して聴こえます。ただのおもちゃではなく、音楽を楽しめるアイテムと言えるでしょう。“自分で作る”という体験と、ちゃんとしたサウンドを両立しているのがスゴい!
正直、もっとチープな音がするかと思っていたのでうれしい衝撃でした。上の写真はシングル盤レコードを再生したところ
また、SPINBOXは3.5mmステレオミニ出力を備えているので、ヘッドホンはもちろん、外部スピーカーを接続して音を出すこともできます。システムを拡張して音質アップを図れるのもうれしいところ。
3.5mmステレオミニ出力端子から、筆者手持ちのアンプ付きスピーカーとつなげてみました。SPINBOX本体側のボリュームを最大限にし、スピーカー側のボリュームノブで音量調整します
せっかくなのでぜひプロの意見も聞きたいと思い、オーディオ評論家の土方久明氏を召喚! 氏の愛聴盤レコード、ソニー・ロリンズ「ニュークス・タイム」をSPINBOXで再生していただきました。土方氏は開口一番、「想像よりちゃんとした音でびっくり」とコメント。
▼土方久明氏評
「SPINBOXは、ジャズらしいグルービーな雰囲気で聴かせてくれますね。テナーサックスの抑揚表現があるし、音に色ツヤも感じられます。ジャズを楽しむのに大事な中域もしっかり出ているし、1つひとつの音も分離している。
内蔵スピーカーから再生しても雰囲気のよい音がしますが、小型でもイイので今回試したような外付けスピーカーを接続すると、一気に音質が上がりますね。今のところ特に針飛びもないし、これが紙素材の自作キットというのはスゴいと思います。おもしろい!」
「どこか懐かしさをおぼえる感じの音がイイですね」と、思わず笑みがこぼれる土方氏
さて、冒頭で少しお伝えしましたが、SPINBOXは「約20分で作れる」とされている件、実際はどうなのでしょうか?
結論から言うと、普段からプラモ製作や簡単な工作に慣れていればイケるかもしれませんが、初心者が20分で完成させるのは大変。プラモ製作をした経験がほとんどない筆者は、完成までに2時間近くかかりました。途中で撮影などしていた時間を差し引くと、1時間半弱といったところでしょうか。
「コレどっちの面を貼り付けるの?」「留めるネジってコレであってる?」という感じで、経験がとぼしすぎていかんせんコツがわからないのです。今回は途中から、オーディオ評論家でありプラモオタクである土方氏に助けていただき、無事に完成にこぎつけました。本当は試聴のために同席したはずの土方氏ですが、最終的に「正直、僕もコレに愛着が湧いてます」とコメントするレベルに手伝ってくださいました。
ただ、「両面テープで貼り合わせる」「ネジで留める」など、作業自体は難しいわけではありません。説明書をゆっくり読んでやれば、誰でも楽しく組み立てることができるはず。簡単すぎてもつまらないし、これくらいのやりがいがちょうどイイ! ハンダ付けも一切しないので危険性も少なく、夏休みの工作にもよさそうです。
ちなみに使用していないときは、付属のソフトカバーをかけておけばホコリが積もるのを防げます
本体側面に取っ手が付いている設計も特徴的で、手軽に持ち運ぶことも可。専用のハードカバーか外箱を自作すれば、そのまま外に持っていけそう
最後に。土方氏もコメントしていましたが、SPINBOXは作り上げたあとの愛情の湧き具合がハンパないです。「これが母性かな」と思うレベル。“DIY・自作派”の楽しみを体験できた気がします。そして、完成したSPINBOXで初めてレコードをかけたときの満足感は、何とも言えないものがありました。
そう、SPINBOXには楽しい“組み立て体験”がまずあり、完成後には好きな音楽の再生装置として“使える”のが魅力です。プラモ好きや工作好きな人はもちろん、ぜひレコードが好きな人に作ってみてほしい一品です。