TWS(True Wireless Stereo)イヤホンの快進撃が続いている。日本では「完全ワイヤレス」とも呼ばれるこのジャンル、文字どおり左右のユニットをつなぐワイヤーすらなく、バックやポケットの中に入れても"混線"しない扱いやすさが人気の理由だ。
しかし、オーディオ機器として見たときのTWSイヤホンには制約が多い。ハウジング内部にはアンテナやBluetooth SoCなどの基板/受信部、リチウムイオンバッテリー、操作用のタッチセンサーやボタンなど機構部のスペースを確保しなければならず、結果として音に直結するドライバー/振動板にしわ寄せがくる。
この問題を解決するのが「TWSリケーブル」だ。左右はBluetoothレシーバー部のみ、イヤホンはMMCXなどのコネクターにより接続する。イヤホンはコネクター形状が一致すれば自由に交換できるので、TWSの利便性と自分好みの音質の両方が手に入るという寸法だ。当然ポータブルオーディオファンの注目度は高く、2019年春にFOSTEX 「TM2」が発表されるや否や話題をさらったことは記憶に新しい。
そのTWSリケーブルにもフォロワーが登場し始め、手ごろな価格で入手できるようになってきた。今回は、DAPなどポータブル分野で勢いに乗る中国のオーディオメーカー「FiiO」と「iBasso Audio」の2製品を借り出し、TWSリケーブルとしての実力を探ってみよう。
FiiO(フィーオ)の「UTWS1」は、ある意味割り切ったTWSリケーブルといえる。TWSイヤホンには必ずといっていいほど付属する充電ケースは省略され、直接USB micro-Bケーブルをつなぎ充電する。左右独立構造のためケーブルは2本必要になるが、二股に分かれたmicro-B(反対側はUSB-A)ケーブルが添付されており、それでふだんの充電を賄うスタイルだ。
FiiOのTWSレシーバー「UTWS1」
充電ケースはなく、先が二股のmicro-B端子となったUSB-Aケーブルで充電する
片側約6.5gのレシーバー部は、細長い楕円からコネクター部が伸びたような形状。コネクター部分はFiiO製品らしくLは青、Rは赤で色分けされており、イヤホンを付け替えるとき迷わず済むのはありがたい。いっぽう、ワイヤーは針金なしの形状記憶型で少々硬め。その分フィット感が強く、耳の裏側にあたる印象があるものの、歩き回ってもズレにくいところはいい。
ワイヤーは少々硬めだが、多少体を動かしてもズレないほど耳にフィットする
試聴に利用したのは、MMCX採用イヤホンでは定番中の定番、Shure「SE215(Special Edition)」。長年聴き慣れたイヤホンであればレシーバー部のキャラクターをつかみやすいだろう、との意図からあえてのチョイスだ。なお、Bluetoothトランスミッターには、aptX対応のAndroidスマートフォン「Xperia XZ2」を選んでいる。
その音は、SE215の音であることは確かだが、心なしか控えめだ。スネアアタックには張りと鋭さがあり、アコースティックギターのアルペジオに肌理細やかさを感じるものの、低域にあと少しはつらつさとスピード感が欲しいところ。念のためiPhone 11につなぎ変えてもサウンドキャラクターに大きな変化はなく(コーデックはAACに変わるが)、自分の記憶の中のSE215と照らし合わせるとやや違う印象。
ただし、機動性はバツグン。厄介なケーブルがないことはもちろん、充電機能がないので収納ケースはコンパクト、連続再生時間は8時間と充電ケーブルなしでも通勤・通学のお供にできるほどのバッテリーパワーもある。このコロナ禍、混雑した駅ホーム・改札付近での接続テストはできていないが、屋内でaptX接続時にDAPから3m離れて再生を続けても音途切れはなく、通信安定性は確保できているようだ。
なんといっても、UTWS1の目玉は「価格」。実売価格は8千円台と、コストパフォーマンスは圧倒的だ。しかも、同価格で0.78mm/2ピンコネクターのバージョンも用意されている。TWSイヤホンを購入するつもりはないが、手持ちのMMCXイヤホン、0.78mm/2ピンイヤホンを生かせるのなら試してみたいというポータブルオーディオファンにとっては、格好の"スタートアップ・キット"になるはずだ。
0.78mm/2ピン版も用意される
iBasso Audio(アイバッソオーディオ)の製品に聞き覚えがなくても、予約開始早々に売り切れ店が続出した超弩級DAP「DX220Max」は知っている、というポータブルオーディオファンは少なくないはず。そのメーカーが世に問うTWSレシーバーが「CF01」だ。
iBasso Audio「CF01」
CF01のレシーバー部は、実測値で13.4(幅)×41.2(高さ)×10(厚さ)mmとやや大きめな印象を受けるが、重さは片側約6gとライト級だ。個人差はあるだろうが、耳の裏側にある出っ張り(乳様突起)と耳介との空間にうまく収まり、頭を左右に振っても動かない程度に安定する。形状記憶型のワイヤーもしなやかに曲がるため、耳上部にかかる負担は少なく、装着感はすこぶる軽い。
形状記憶型のワイヤーがしなやかに曲がるため、装着感はすこぶる軽い
試聴には、FiiO UTWS1のときと同様、聴き慣れたSE215とXperia XZ2の組み合わせをチョイス。CF01とUTWS1は、いずれもクアルコムのBluetooth SoC「QCC3020」を採用しているが、環境を揃え試聴すれば微妙なサウンドキャラクターの違いがわかるかも...という狙いだ。
いざ試聴を開始してみると、これが予想以上に違う。CF01のほうが低域に余裕があり、よりしなやかさが感じられる。疾走感と立ち上がり/立ち下りの速さがあり、メリハリがあり重心低めというSE215本来の(ワイヤード接続時の)音に近い印象だ。この点は、QCC3020から独立したアンプを搭載しているCF01の強みであり、出力レベルの違いにも現れている(CF01は9mW@32Ω、UTWS1は5mW@32Ω)。よりモニターライクな設計のイヤホンに換装すれば、このサウンドキャラクターの違いはより鮮明に現れることだろう。
それにしても、付属の充電ケースはよく考えられている。大柄なイヤモニを装着した状態でも余裕で入る約25mmの深さに加え、内部の天面と底面にはクッション性のあるシリコンシートが貼られており、イヤホンがやさしく・しっかりホールドされるしくみなのだ。実際、ケースを振ってもカタカタいわず、それはSE215のように比較的小柄なイヤホンでも変わらない。チャージの方法がType-Cとワイヤレス(Qi)の2系統あることもうれしい。
充電ケース内部の天面・底面には、クッション性のあるシリコンが貼られている
MMCXコネクターもしっかりしている。パイプに十字のスリットを入れることでバネ性を持たせた結果、適度なテンションが生じるため、イヤホンがかっちりはまる。耐久性は従来品と比較して約4倍というから、頻繁に交換しても安心だ。
パイプに十字のスリットを入れたMMCXコネクターを採用、耐久性は従来品と比較して約4倍とのこと
中国DAPメーカーでは1、2位を争う知名度の両社、同じ製品ジャンルで発売日が近く、しかもBluetooth SoCには同じクアルコムのQCC3020を採用と共通項が多いだけに、明確な違いを感じ取れるかどうか不安だったが、実際に試してみると杞憂に終わった。確かに、aptX対応などスペック面や通信安定性/音途切れの少なさはほぼ同水準だが、明らかに目指す方向が異なる製品だ。
UTWS1は、どちらかといえばカジュアルにTWSを使いたいユーザ向け。充電ケースが省略されている分価格が手ごろで、多少荒っぽい使いかたをしても許されそうな部分がある。しかし、aptXがサポートされるほか、0.78mm/2ピン版も用意されるなどマニア心をくすぐる仕掛けもある。正直、micro-Bを挿し込む充電スタイルは面倒だが、MMCXコネクターなど作りもしっかりしており、総じて満足度は高い。
いっぽうのCF01は、音に妥協しないがTWSの長所を理解しているユーザ向けだ。QCC3020から独立したアンプを搭載しているだけに駆動力は高く、このイヤホンはこんな音だっけ? といったワイヤレス化に伴う違和感が少ない。試作の際にはフックの角度やワイヤーの長さを繰り返し調節したというだけあって、装着感も自然だ。特筆すべきは内部構造が凝った充電ケースで、リケーブルを楽しむユーザのニーズをよく研究している。
似ているようで結構違うこの2製品、それぞれに明確な"キャラ"があり、競合しそうだが競合していないユニークな関係だ。用途と予算という目線だけでなく、自分の好みで選んでいただきたい。
IT/AVコラムニスト、AV機器アワード「VGP」審査員。macOSやLinuxなどUNIX系OSに精通し、執筆やアプリ開発で四半世紀以上の経験を持つ。最近はAI/IoT/クラウド方面にも興味津々。