薄型テレビを購入したら、次に欲しくなるのは“高音質なサウンド”。そこで今回紹介するのは“テレビ用アンプ選び”という、個人的に今年考えていたマニアックなテーマを取り上げたいと思う。
今回のテーマは少々マニアックな“テレビ用アンプ”の選び方
まずは、なぜアンプ選びなのかという前置きから語っていこう。薄型テレビの高音質で最初に考えるのは“もっといいスピーカーを外付けしよう”という発想だ。価格.comマガジンにも「テレビにつなげるスピーカーの種類まとめ! 4つのスタイルの魅力と選び方」というすばらしいガイド記事が公開されている。
普通のテレビの高音質化なら「テレビにつなげるスピーカーの種類まとめ! 4つのスタイルの魅力と選び方」を参照
薄型テレビを高音質化するもっとも手軽で合理的な方法はサウンドバーを導入であることにまったく異存はない。だが、僕の家のリビングにある有機ELテレビの「レグザ65X930」(2019年モデル)は、最近の薄型テレビのデザイントレンドにならってスタンドの背が低く、サウンドバーを置くと画面が隠れてしまう。故に左右に独立する左右独立した2chのスピーカーを設置するしかない。
テレビ用に2chのスピーカーを付ける方式は「テレビにつなげるスピーカーの種類まとめ! 4つのスタイルの魅力と選び方」のパターン2。なかでも記事中で解説されている別途アンプが必要なパッシブタイプのスピーカーは、Hi-Fiオーディオ、ピュアオーディオ用のスピーカーそのもの。これは音にうるさいマニアの僕としては、音質重視の観点から魅力的だ。
薄型テレビ中心となるとAV環境なのだから5.1ch、さらにはドルビーアトモスの7.4.2chといった多スピーカー環境を構築するべきでは? というツッコミもあるが、最近はケーブル配線が邪魔なサラウンド路線を捨てて“ステレオ2chに予算を集中させて高音質を追求した方がよくない?”という脱サラウンドも流行りだったりする。
テレビ横にステレオスピーカーを設置、これを駆動するアンプ選びが今回のテーマだ
導入するスピーカー選びは今回のテーマではないので簡単に紹介すると、デンマークのスピーカーブランドDALIの「OBERON 5」というトールボーイ型のスピーカー(ペア税別115,000円)を選んだ。高さ83cm、重量10.8kg。テレビ台の上に設置するには大きいが、高音質にはサイズが必要だ。
そんな長い前置きを経て、ここからはテレビ用のアンプ選び解説していこう。音質やサイズなどを検討する以前に、テレビ用アンプとして真剣に検討すべき条件が2つある。
ひとつは「テレビのリモコンで音量を操作できる」ということ。もうひとつは、「テレビとの電源連動ができること」。テレビの電源を切ると自動でスタンバイに落ち、テレビの電源を入れると自動でスタンバイから復帰(こちらが重要)することだ。
これはつまり、音量操作も電源連動もできない、光/同軸デジタル接続は除外されるということ。テレビ側で操作を完結できないアンプは、家族からもあまりに不評だし、結局面倒になって使わなくなってしまう(経験談)からだ。
そんな条件に合った製品を今回は3つ候補としてあげてみた。ぜひ参考にしてほしい
テレビ用アンプとして、実勢価格1万円台前半で購入できる小型アンプがFOSTEX「AP15mk2」だ。15W+15Wの小型デジタルアンプで、入力端子は背面のRCA端子、前面ステレオミニジャックのみ。テレビとの接続はテレビ側のヘッドホン端子(レグザのX930では音声出力)で接続する。
小さくて価格もお手頃な「AP15mk2」
薄型テレビ側は通常ヘッドホン接続に利用する音声出力端子を利用
テレビのヘッドホン端子はアナログだが、音量調整可能な接続方法だ。なお、「AP15mk2」にも音量ダイヤルがあるが、適当な位置に合わせておいてテレビ側のリモコンで実用的な範囲で上下させる使い方になる。
前面のステレオミニ、背面のRCA端子の接続のみとミニマム
FOSTEX「AP15mk2」の重要なポイントがアナログ音声入力のオートスタンバイ機能(自動電源OFFだけでなく、OFFからONへの復帰も動作)対応。オートスタンバイ設定は底面のディップスイッチでON/OFFと、スタンバイまでの移行時間を1分/12分で設定可能だ。実際に試してみてもテレビの電源を落とすと設定した時間(今回は1分)でスタンバイに移行し、電源オンで瞬時に復帰してくれた。
背面のスイッチでオートスタンバイの設定が可能
接続の際には、レグザはアナログの音声出力の設定をヘッドホン/外部スピーカーで切り替え可能(レグザでは、ヘッドホン出力だけでなく外部スピーカーの設定でも音量可変が可能)。「AP15mk2」ではRCA入力とステレオミニ入力を利用できるが、接続の検証も兼ねて全パターンの音質をチェックすると、テレビ側を外部スピーカーに設定、アンプ側はステレオミニジャックにつなぐ組み合わせがもっとも高音質だった。
薄型テレビ設定は音量可変にできるなら外部スピーカーの方がベター
さて、実際にテレビの音声をFOSTEX「AP15mk2」で聴いてみたが、組み合わせているDALI「OBERON 5」の音の特性もあって誇張感なくナチュラル系の高音質。テレビ内蔵スピーカーからの音質向上は大きく、歌番組、CMの曲までしっかりと音楽として楽しめる。テレビの人の声の情報も無駄によく出てしまって、Hi-Fiオーディオ的な面白みがある。ただ、正直言って容積のあるDALI「OBERON 5」の駆動には若干パワー不足も感じた。
小型でもだいぶがんばってくれたFOSTEX「AP15mk2」
FOSTEX「AP15mk2」はサイズも予算もお手頃。面倒なことを考えずに小型スピーカーをテレビに外付けしたい人はぜひ候補に入れておきたい1台だ。
テレビ用アンプ選びというテーマにピッタリのアンプがマランツ「NR1200」。2019年10月発売の発売以来、プリメインアンプで1位のヒットモデルだが、元々イレギュラーな立ち位置の製品でもある。
マランツのHDMI端子プリメインアンプ「NR1200」
マランツ「NR1200」は75W+75W出力のステレオアンプで、価格.comでも分類上はHi-Fiオーディオ用のプリメインアンプ。だが、テレビと接続できるHDMI端子を搭載している。AVアンプのようだがあくまで2ch専用だし、サラウンドにも対応しない。いっぽうで、Wi-Fi内蔵など音楽リスニング機能は豊富だったりと、多機能なAVアンプが脱サラウンドしたようなコンセプトだ。ちなみに、類似する他社製品はほとんどない。
プリメインアンプだがHDMI端子搭載でARCも利用可
マランツ「NR1200」とテレビとの接続はもちろんHDMI端子。HDMI端子はARC(オーディオ・リターン・チャンネル)の普及が進んでいて、テレビ側のHDMI ARC端子と「NR1200」のモニター出力(ARC)端子をHDMIケーブルでつなぐと、外部スピーカーとして認識される。HDMI接続なので操作の連動は完璧で、音量操作も電源ON/OFFも設定ナシで完璧に同期する。
テレビ側はHDMI ARCと表記されている端子を利用
さて、実際にマランツ「NR1200」でテレビ音声を聴いてみると、オーディオ用のプリメインアンプらしくとても高音質だ。アナウンサーの人の声の解像感と共に、マランツ伝統のシルキーなやわらかさのある美音が届く。HDMI ARCのデジタル伝送なので音の帯域バランスが整っていて、音楽を聴いていてもアナログにあった荒削りさがなく、ハイからローまで帯域のつながりがとてもいい。テレビ画面を超える音空間の広がりもステレオで十分過ぎるほどに再現してくれた。
プリメインアンプをテレビとHDMI端子のデジタル接続(ただしサラウンド路線ではなく2ch)ができるマランツ「NR1200」は、音質重視の観点ではテレビ用アンプ選びのひとつの理想形と言えそうだ。
マランツの「NR1200」はHDMI端子搭載のプリメインアンプというイレギュラーな存在だったが、では本来の正統派であるAVアンプを接続してどう違うのだろうか。そこで最後に用意した機種が、マランツが今年7月に発売したAVアンプ「NR1711」だ。
マランツによる7ch最新AVアンプ「NR1711」
マランツの薄型スリムサイズのAVアンプシリーズにあたる「NR1711」は、50W+50Wの7chフリディスクリートアンプを内蔵。三次元音響のドルビーアトモス、DTS:Xや、4K/8K放送向けのMPEG-4 AACのサラウンドまで対応する多機能モデルだ。
7ch分のアンプ搭載でスピーカー端子の数も膨大
最初からステレオスピーカー2本で行くと路線で考えているとアンプを7ch分も内蔵するAVアンプは音質的に無駄ではないか……と考えてしまうが、価格も近い同じマランツの「NR1200」「NR1711」で比較してみたという訳だ。
マランツ「NR1711」はAVアンプなので、GUIを表示して内蔵アンプの割り当ての変更も可能(2chしか利用しないが)。他にもマイクで音を出して音を最適化する「Audyssey MultEQ」を搭載し、スピーカー距離やサイズを設定できたりと、サウンド一本で勝負する「NR1200」とはだいぶ文化が違う。
アンプのUIからスピーカー構成も設定できるが、今回利用するのはフロント2chだけ
テレビとの接続はHDMI端子によるARC接続。「NR1711」では最新世代の「eARC(Enhanced ARC)」も対応しているので、テレビや、テレビに接続したプレーヤーでマルチチャンネルのロスレスオーディオやオブジェクトオーディオもHDMI ARCを通じて正しく伝送してくれる。もちろんテレビのリモコンによる音量連動、電源ON/OOFFも完璧だ。
マランツ「NR1711」でテレビ音声を聴くと、音質的にもなかなか優秀。デジタルらしい帯域のつながりよく整えられた音だが「NR1200」とは傾向が違っていて、人の声も押し出しが強いし、低音と高域もメリハリを効かせている。たとえば、テレビCMで音楽を流れるだけでも躍動感があるし、音も広がりだけでなく、奥行き方向にも立体的に感じられる。ただし、人の声についてはクッキリハッキリしているが、純粋に人の声の精細なニュアンスや情報量を基準に考えると「NR1200」の方が高音質だった。
いっぽう、マランツ「NR1711」でAVアンプにしかできない再現性を見せたのがサラウンドの対応だ。ドルビーアトモス対応のプレーヤーを接続すれば「NR1711」までドルビーアトモスで伝送されるので、2chスピーカーでも映画館の広い空間を彷彿とさせるサウンドフィールド、そして高さ、後ろまで存在する音の雰囲気がしっかりと味わえる。また、eARC対応のテレビとの組み合わせでは、テレビ内蔵NetflixアプリからHDMI eARCを通してドルビーアトモスの信号が「NR1711」に流れる点も魅力的。テレビ側の時点でステレオ音声になる「NR1200」と、AVアンプでドルビーアトモスのオブジェクトオーディオのまま解釈する「NR1711」では、やはり「NR1711」の方が上だ。
AVアンプらしくサラウンド対応で実力を発揮
ドルビーアトモス対応コンテンツもしっかりと楽しめる
マランツ「NR1711」は、2chステレオ環境に導入してもやはりAV的なサラウンド再現では有利。将来スピーカーを追加できる発展性も含めて、AV環境の正統派システムを構築したい人にはこちらが有力な選択肢と言えそうだ。
PC系版元の編集職を経て2004年に独立。モノ雑誌やオーディオ・ビジュアルの専門誌をメインフィールドとし、4K・HDRのビジュアルとハイレゾ・ヘッドフォンのオーディオ全般を手がける。2009年より音元出版主催のVGP(ビジュアルグランプリ)審査員。