レビュー

重厚かつ高S/N! オンキヨー最高級AVアンプ「TX-RZ70」レビュー

2023年夏、オンキヨー&パイオニアからフラッグシップAVアンプが登場した。市場想定価格437,800円前後のオンキヨー「TX-RZ70」と同470,800円前後のパイオニア「VSA-LX805」である。

2023年1月にはオンキヨー「TX-RZ50」とパイオニア「VSX-LX305」の試聴レポートを書かせてもらったが、今回2モデルは、それぞれの上位機種という位置づけになる。ここでは「TX-RZ70」を、続く明日公開の記事では「VSA-LX805」を、順にレビューしていこう(2023年9月6日追記:「VSA-LX805」レビュー記事を公開しました)。

パイオニア「VSA-LX805」(上)とオンキヨー「TX-RZ70」(下)。本稿では「TX-RZ70」をレビュー。「VSA-LX805」のレビュー記事も明日公開予定

パイオニア「VSA-LX805」(上)とオンキヨー「TX-RZ70」(下)。本稿では「TX-RZ70」をレビュー。「VSA-LX805」のレビュー記事も明日公開予定

もう一度振り返る、オンキヨーとパイオニアブランドの現在

そのレポートの前に、オンキヨー、パイオニアのAV機器がここにいたる経緯について軽く触れておこう。

以前両ブランドの商品を開発・販売していた「オンキヨーホームエンタテインメント」社が2022年5月に倒産、両社の製品に長年親しんできた筆者は、日本を代表する老舗オーディオ・ブランドの灯が消えるのかと気をもんでいたが、その前年度2021年9月、オンキヨー、パイオニアの家庭用AV機器のビジネス存続に向けて手を上げていた会社があった。スピーカーブランドのクリプシュなどを傘下に収める米国のオーディオ企業体「Premium Audio Company(PAC)」である。

「Premium Audio Company(PAC)」が保有するブランド一覧。Integra(インテグラ)はオンキヨーのホームシアターインストーラー向けAVアンプブランドで、ELITE(エリート)はパイオニアの欧米向け製品ブランドのこと

「Premium Audio Company(PAC)」が保有するブランド一覧。Integra(インテグラ)はオンキヨーのホームシアターインストーラー向けAVアンプブランドで、ELITE(エリート)はパイオニアの欧米向け製品ブランドのこと

同社はシャープとの合弁で「オンキヨーテクノロジー」社を発足、旧オンキヨー、パイオニアのエンジニア約80人を集め、AV機器開発を再スタートすることにしたわけである。

かくして商品企画はPAC(米国)、設計開発はオンキヨーテクノロジー(東大阪市)、生産はシャープのマレーシア工場、そして日本国内の販売はティアックが受け持つという構図ができあがったわけだ。その体制でのAVアンプ第2弾モデルとして登場してきたのが、オンキヨー「TX-RZ70」とパイオニア「VSA-LX805」ということになる。

設計にはオンキヨーの伝統的手法がふんだんに盛り込まれている

それでは、オンキヨー「TX-RZ70」についてレビューしていこう。冒頭のとおり、パイオニア「VSA-LX805」のレビューは明日公開の予定だ。

「TX-RZ70」をAVラックにセット。試聴は「6.1.4」システムで行った

「TX-RZ70」をAVラックにセット。試聴は「6.1.4」システムで行った

11chパワーアンプを内蔵し、サブウーハー出力を2系統搭載した本機は、Dolby Atmos再生時に最大で「7.2.4」構成が可能。すなわちサブウーハーを2基使用する7.2chのフロアスピーカーにオーバーヘッド(トップ/ハイト)スピーカーを4本加えた構成だ。

435(幅)×480(奥行)×201(高さ)mmというビッグサイズで質量は22kgのヘビー級。シーリングパネルを閉じたフロントパネルのデザインはスマートだが、全体にいかつい印象は否めず、瀟洒(しょうしゃ)なリビングルームに置くというよりは、マニアのホームシアターにこそふさわしいルックスだ。

リアパネルのHDMI入力端子6系統はすべて40Gbps(4K/120Hz、8K/60Hzパススルー)対応。最新ゲーム機との接続性も担保されていることを訴求する

リアパネルのHDMI入力端子6系統はすべて40Gbps(4K/120Hz、8K/60Hzパススルー)対応。最新ゲーム機との接続性も担保されていることを訴求する

企画担当者によると、最終の音決めは米国のPACの担当者と共同で行ったというが、資料を読むと、オンキヨーがアンプ設計で長年培ってきた技術を発展させて、くまなく盛り込んできた印象を受ける。

その設計思想の源になっているのは「動特性の追求」だ。すなわち時々刻々と変化していく音楽や映画の音の表情を的確に描写するダイナミックなサウンドを目指すということだろう。

その根幹を成すのが「ハイカレントアンプ設計」。つまり時間軸に忠実なダイナミックなサウンドを実現するためには、ハイパワー追求だけでなくスピーカーに対する瞬時電流供給能力を高める必要があるということだ。

そこでアナログリニア電源回路に大容量のブロックコンデンサーや銅バスプレートを採用、スピーカーへの信号経路を太く短くするなどのほか、出力段に3段インバーテッドダーリントン接続を採用している。これは安定に電流増幅率を大きくできるオンキヨーアンプの伝統的手法だ。

本機専用のカスタムブロックコンデンサーを搭載するほか、銅バスプレートを使ってグラウンドの強化を図っている

本機専用のカスタムブロックコンデンサーを搭載するほか、銅バスプレートを使ってグラウンドの強化を図っている

オンキヨーのハイグレードアンプでおなじみの3段インバーテッドダーリントン構成を採用。右図のとおり、出力段とインバーテッドドライバー段で構成され、出力段の電圧を安定させてインピーダンスを低く抑える効果がある

オンキヨーのハイグレードアンプでおなじみの3段インバーテッドダーリントン構成を採用。右図のとおり、出力段とインバーテッドドライバー段で構成され、出力段の電圧を安定させてインピーダンスを低く抑える効果がある

また、オンキヨー伝統の高音質設計手法としてもうひとつ、「VLSC(Vector Linear Shaping Circuitry)の採用をあげておきたい。これはD/Aコンバーター後段のローパスフィルターに比較器とベクトル発生器、積分器の3つを追加してノイズを含まないアナログ信号を生成する回路だ。アナログの減衰器であるローパスフィルターを使うと、どうしてもパルス性のノイズが残ってしまうため同社は以前からこの「VLSC」を積極的に採用してきたのである。

オンキヨー製品でおなじみの「VLSC」イメージ。ノイズを可聴帯域外の高域へ追いやってローパスフィルターをかける、という簡単な方法を使わず、独自の回路でアナログ信号を生成してノイズを除去するという

オンキヨー製品でおなじみの「VLSC」イメージ。ノイズを可聴帯域外の高域へ追いやってローパスフィルターをかける、という簡単な方法を使わず、独自の回路でアナログ信号を生成してノイズを除去するという

サラウンドフォーマットについてはDolby Atmos、DTS:Xの最新イマーシブサウンドに対応、Auro-3Dについては最新ファームウェアアップデートによって対応済みとのことだ。

また「TX-RZ50」同様にネットワークオーディオ機能を持ち、最大で192kHz/24bit(PCM)、11.2MHz(DSD)まで再生可能。もちろんAmazon Music(ハイレゾ再生も可能)など各種ストリーミングサービスにも対応する。

Chromecast built-in対応のため、各種アプリが使えるほか、本体のみでAmazon Music、Spotifyの再生も可能。Amazon Musicではハイレゾだけでなく、ファームウェアアップデートでDolby Atmos再生に対応したばかり。さらに2023年秋に音楽再生/管理の総合ソフトRoon対応(Roon Ready)のアップデートが予定されていることも特筆される

Chromecast built-in対応のため、各種アプリが使えるほか、本体のみでAmazon Music、Spotifyの再生も可能。Amazon Musicではハイレゾだけでなく、ファームウェアアップデートでDolby Atmos再生に対応したばかり。さらに2023年秋に音楽再生/管理の総合ソフトRoon対応(Roon Ready)のアップデートが予定されていることも特筆される

それから、AVアンプにとって重要な自動音場補正機能は、「TX-RZ50」同様、ヨーロッパ発の「Dirac Live」を採用している。

これはスウェーデンの音響技術会社が提案した自動音場補正機能で、テスト信号を発生させて部屋固有の音響上の問題を精査、周波数特性を整えるとともに、各チャンネルの音が立ち上がるタイミングを揃えるインパルスレスポンス較正(こうせい)機能が盛り込まれている。

「TX-RZ70」の自動音場補正機能は「Dirac Live」。部屋の反射音も含めた位相管理を行うことが特徴だ。この機能はインターネットへの接続が前提になっているため、オフラインで使える「AccuEQ Advanced」という補正機能も併存している

「TX-RZ70」の自動音場補正機能は「Dirac Live」。部屋の反射音も含めた位相管理を行うことが特徴だ。この機能はインターネットへの接続が前提になっているため、オフラインで使える「AccuEQ Advanced」という補正機能も併存している

メインの音場補正機能は「Dirac Live」

「TX-RZ70」のテストは筆者の部屋で行った。最初にわが家のサラウンドシステムについて触れておこう。

メインのL/Rスピーカーは、15インチウーハーと4インチコンプレッションドライバーを用いたJBL「Project K2 S9900」、サラウンドスピーカーとオーバーヘッドスピーカーにはLINNの「CLASSIK UNIK」を主に用いた「6.1.6」構成を採っている。

ひとりでホームシアターを楽しむこの部屋ではセンタースピーカーの必要性を感じないし、実際うまく設置するのが難しいので、センタースピーカーはなし。L/Rスピーカーにセンター成分を振り分けている。サブウーハーは、イクリプス「TD725SW」。ここでは6.1chにトップスピーカーを4本(トップフロント、トップリア)使用する「6.1.4」構成でテストしてみた。

テストを行った自室はセンタースピーカーのない「6.1.6」構成。普段はオーバーヘッドスピーカーを6本使っているが、「TX-RZ70」のオーバーヘッドスピーカー最大数は4本のため、「6.1.4」構成とした

テストを行った自室はセンタースピーカーのない「6.1.6」構成。普段はオーバーヘッドスピーカーを6本使っているが、「TX-RZ70」のオーバーヘッドスピーカー最大数は4本のため、「6.1.4」構成とした

リスニングポイント前方の天井にあるのが「トップフロント」で、後方にあるのが「トップリア」スピーカー

リスニングポイント前方の天井にあるのが「トップフロント」で、後方にあるのが「トップリア」スピーカー

今回は「Dirac Live」用の別売マイクを使ってテストトーン(20Hz〜20kHzのスイープ信号。約30秒)を発生させ、マイクの位置を変えながら音響測定を行う。最大17か所での測定が可能だが、今回は5か所で測った。測定場所が多ければ多いほどより正確なインパルス応答が得られるという。

また、本機には有料となるが、全チャンネルの低音成分を包括的に補正する「Dirac Live Bass Control」機能が使えるようになった。

「Dirac Live」の利用は付属のマイクでも可能だが、今回はminiDSPの「UMIK-1」という別売のマイクを利用した

「Dirac Live」の利用は付属のマイクでも可能だが、今回はminiDSPの「UMIK-1」という別売のマイクを利用した

「UMIK-1」を使う場合はPCでの操作が必須となる点には注意

「UMIK-1」を使う場合はPCでの操作が必須となる点には注意

有料オプションで、「Dirac Live Bass Control」という機能にも対応する。これはサブウーハーの管理を最適化するもので、フロントスピーカーとサブウーハーの位相を合わせて、あらゆる測定場所での低域のレベルを一定できるという。特に、複数のサブウーハーを使う場合に有効とされている

有料オプションで、「Dirac Live Bass Control」という機能にも対応する。これはサブウーハーの管理を最適化するもので、フロントスピーカーとサブウーハーの位相を合わせて、あらゆる測定場所での低域のレベルを一定できるという。特に、複数のサブウーハーを使う場合に有効とされている

弟機ではわからなかった微細な音が引き出される

まずはリスニングモードを「Pure Audio」として、「Dirac Live」の補正効果を使わない「素」の状態の音を聴いてみよう。プレーヤーとして使うのはパナソニックの最高峰Ultra HDブルーレイレコーダー「DMR-ZR1」。本機とHDMI接続での試聴だ。

まずCDでブラジルのベテラン女性シンガー、マリア・ベターニアのボーカルを聴いてみた。滑らかで色艶のよい声、よく伸びるベース、流麗に広がるストリングス、驚くほど美しく立体的なサウンドだ。これなら同価格帯の2chプリメインアンプとよい勝負をするのではないかと思う。

ブルーレイ「坂本龍一 Playing the Orchestra2014」は、坂本がサントリーホールで東京フィルハーモニック管弦楽団を弾き振りで自作曲を披露した作品で、192kHz/24bitの2chリニアPCM音声が収録されている。

この音が実にすばらしかった。弦5部のハーモニーは分厚く、しかもそれぞれのセクションの音を見事に解像してくれるのである。ホルンやコントラバスのよく伸びた澄明な低音のインパクトも凄い。

ピンク・フロイド「狂気」の50周年記念ボックスに収められていたブルーレイオーディオ盤を再生してみよう。このディスクにはDolby Atmos音声が収録されている。ひと言で言えば、とても情報量の多いサウンド。「TX-RZ50」レビュー時に再生したときには気づかなかったサウンドエフェクトがふっと浮き上がってきて、面白いことこのうえない。

「走り回って」では足音が半円球状に移動し、人の笑い声があちこちから聴こえ、飛行機の爆発音がとどろく。そして「タイム〜ブリーズ(リプライズ)」では時計の音が、「マネー」ではレジスターの音が四方八方から流れ出す。本機でこのディスクを再生すると、弟機「TX-RZ50」のテストでは聴き取れなかった微細な効果音が掘り起こされていき、リスナーを興奮状態へと誘っていくのである。

「Dirac Live」は音の整いが向上し、サラウンドが立体的になる

次に、スピルバーグ版「ウエスト・サイド・ストーリー」のUltra HDブルーレイで「Dirac Live」のオン/オフによる違いを検証してみた。リスニングモードは「Direct」。冒頭の口笛の定位感が驚くほど変わるのが興味深い。この口笛はサラウンドからトップフロント方向へと移動していくのだが、「Dirac Live」をオンにすると、その音像がいっそうくっきりと描かれるのである。音の整いも向上し、サラウンド音場がより立体に迫ってくる印象だ。

ただし、「Dirac Live」オン状態では、オフ状態と比べるとオーケストラサウンドのハイレベル方向の伸びが抑えられ、少し窮屈な印象となる。

「Dirac Live」のオン/オフはリモコンで簡単にできるので、再生コンテンツに応じて好きなほうを選べばよいだろう。こういう自動音場補正機能は、波長の長い低音再生が難しい狭小空間でこそ威力を発揮することも覚えておいていただきたい。

マイクと自照式のリモコンが付属する。リスニングモードや「Dirac Live」の切り替えもこのリモコンで簡単に行えるので、ぜひ積極的に試してみてほしい

マイクと自照式のリモコンが付属する。リスニングモードや「Dirac Live」の切り替えもこのリモコンで簡単に行えるので、ぜひ積極的に試してみてほしい

最後にDolby Atmosの3次元立体音響の面白さが満喫できるUltra HDブルーレイ「NOPE/ノープ」を再生してみた。雨の夜、主人公の兄妹の家に謎の飛行物体が表れる場面。ここはオーバーヘッドスピーカーを活用して、音だけでその存在を強く意識させ、移動していくさまをリアルに描写してみせるのだが、本機でこのシーンを再生すると、その不気味な物体の移動がより生々しく実感できる。コントラバスとパーカッション、人の声を巧みにミックスした音楽の不気味さ、その怖さもひとしおだ。

なお、「Dirac Live」で自動設定されたクロスオーバー周波数は写真のとおり。フロントL/Rの大型スピーカーも70Hzの周波数で設定しているあたりに特徴がある。なお、有料オプションである「Dirac Live Bass Control」を利用する場合、クロスオーバー周波数の変更はできないことに注意。位相管理を含めた数値設定のためだろう

なお、「Dirac Live」で自動設定されたクロスオーバー周波数は写真のとおり。フロントL/Rの大型スピーカーも70Hzの周波数で設定しているあたりに特徴がある。なお、有料オプションである「Dirac Live Bass Control」を利用する場合、クロスオーバー周波数の変更はできないことに注意。位相管理を含めた数値設定のためだろう

オンキヨーテクノロジーのエンジニアと米国PACの企画担当者が渾身の力を込めて完成させた「TX-RZ70」。新生オンキヨーブランドのフラッグシップモデルとしての魅力が横溢(おういつ)していることは間違いない。スピーカーを駆動するドライバビリティの高さと細かな環境音を掘り起こすSN比のよさ。このあたりの本質的な魅力が、弟機の「TX-RZ50」を大幅に上回ることが実感できた取材だった。

山本浩司

山本浩司

AV専門誌「HiVi」「ホームシアター」の編集長を経てオーディオビジュアル(AV)評論家へ。JBL「K2 S9900」と110インチスクリーンを核としたホームシアターシステムで、最高の画質・音質で楽しむAVを追い続けている。

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