昨今のAV機器は映像/音声ともにHDMIを使って伝送するのが基本だが、AVシステムの音質強化を考えたときに、さらにシンプルな方法がないわけではない。それがアナログ接続だ。
そこで、今回はアナログ接続でテレビの脇で使えそうなアクティブ(アンプ内蔵)スピーカーFOSTEX(フォステクス)「PM0.3BD」をレビューしてみたい。アナログ接続すればテレビ脇で、USB接続すればPC脇で……と使い勝手のよい小型モデルだ。
アナログ/デジタル音声入力を持つFOSTEXのアクティブスピーカー「PM0.3BD」。寸法は110(幅)×133(奥行)×212(高さ)mmとかなりコンパクト
ずっとAV機器の取材をしていて感じるのだが、アナログ接続は本当にわかりやすい。HDMIでの接続も現在では非常に安定してはいるものの、映像が切り替わる際に途切れたり、遅延が発生したり、伝送がうまくいかなかったりすることがないわけではない。
その点アナログ接続は安定している。気になるような遅延は発生しないし、物理的にしっかりつながっていれば音が途切れるようなこともほぼないのだから。そのため、「テレビの音質を簡単&劇的に改善する3つの方法!」という記事でもテレビの音質改善方法として有力な候補としてあげられているわけだ。
そこでFOSTEXの「PM0.3BD」である。価格.comでの最安価格は3万円台(2023年10月20日現在)と、サウンドバーを購入する場合のコスト感と似通ったところだと言えるだろう。
それではわざわざ「PM0.3BD」を選ぶ理由は何かと言えば、スピーカーが左右に分かれているからこそ得られるステレオ感に尽きる。
サウンドバーの弱点として一般的に指摘されるのは、音が画面の下から聴こえることに違和感があること、左右の音の分離が悪いことだろう。置き方によるところはあるが、「PM0.3BD」のようなステレオ(左右の分離した)スピーカーを使えばそれらを根本的に解決できるわけで、サウンドバーに満足できない人にぜひ検討していただきたい方法だ。
「PM0.3BD」をテレビの脇に設置してみたところ。今回は「PM0.3BD」をテレビ、PC双方の組み合わせて試してみることにした
まずは「PM0.3BD」の概要を確認しておこう。オフィシャルの説明文には「Bluetooth&USB接続に対応したデスクトップスピーカーの新機軸」とあるアクティブスピーカーだ。アナログ/デジタル音声入力を持っていて、Bluetooth接続のほかUSB Type-C端子を使ったPCとの接続に対応する。
Bluetoothのバージョンは5.0で、対応コーデックはSBCとAAC。USB入力では96kHz/24bitのハイレゾ信号も受け付ける。最高スペックではないが、必要最低限の機能とスペックが揃っているという印象だ。
宣伝文句のとおりにPCとUSB接続すれば簡単にデスクトップシステムが完成するし、左右分離型のBluetoothスピーカーとして使ってもよいだろう。今回はテレビのヘッドホン出力と「PM0.3BD」のアナログ音声入力を接続して、テレビのスピーカーとしても使ってみている。
スピーカーとしては実にシンプル。19mmのドーム型ツイーターと75mmコーン型ウーハーによる2ウェイ・バスレフ型システムで、アンプ出力は15W×2。
Rchスピーカーに電源、入力切り替え、音量調整ノブが並ぶ。テレビとアナログ接続する場合、電源は付けっぱなし、音量は固定(テレビで調整)、オートスタンバイ機能は使わないのが基本という想定だ
接続端子は片方(Rchスピーカー)に集中しているタイプ。USB端子はType-Cで、その右にある「AUX」がアナログ音声入力(3.5mmステレオミニ)。Lchのスピーカーへは専用の付属スピーカーケーブル(1.5m)で接続する。なお、いちばん左のディップスイッチでは無信号時に電源を切るオートスタンバイモードの切り替えとリスニングモードの切り替え(VOICE/MUSIC)も可能だ。ただし、オートスタンバイに入った後、信号を入力しても自動で電源は入らないことに注意
付属品は、左から電源アダプターと電源ケーブル、スピーカーケーブル、アナログ音声ケーブル(3.5mmステレオミニ→RCA変換)、USBケーブル(Type-A→USB Type-C)。付属スピーカーケーブルは1.5mだが、長いケーブルが必要な場合はオプションで3m品「ET-PM3.0SP」の購入もできる
「PM0.3BD」を58V型テレビの両脇に設置。「PM0.3BD」には音量調整機能があるが、これは7割程度の位置で固定。上記のとおり、日常的な音量調整はあくまでテレビで行い、電源は入れっぱなしという使い方を想定した
まずは今回の主眼であるテレビとの組み合わせを試してみる。プレーヤーはテレビにHDMI入力した「Apple TV 4K」。Amazonプライム・ビデオやApple Musicで各種コンテンツを再生し、テレビからのヘッドホン出力(アナログ音声出力)を「PM0.3BD」へ入力している。
試聴前からわかっていたことだが、何のコンテンツを再生しても、最低域の音は出ない。75mmウーハー、公称の再生周波数帯域は100Hz〜というスペックを考えれば当然のこと。コンパクトスピーカーの限界はあるので、「PM0.3BD」を検討する人はここには留意しておくべきだろう。
どうしても最低域不足が気になる人は、サブウーハー出力を使い、サブウーハーを組み合わせるとよいだろう。そのためにFOSTEXでは小型サブウーハー「PM-SUBmini2」などもラインアップしている。
Alabama Shakesの「Sound & Color」を再生すると、冒頭のバイブの響きや広がりはしっかりと再現するいっぽう、ドラムのアタック感や沈み込みは期待できないのだ。
しかし、それでも音楽の“形”は十分にわかる。レイヤーとしてはドラムやベース帯域にボーカルが重ねられ、それを取り囲むようにバイブやストリングスなども配置される。さらにバイブなどの響きが上下左右に広がっていく。
細かな再現力が抜群にすぐれているわけではないのだが、こういうステレオ感をしっかりと味わえることが「PM0.3BD」の魅力なのだと強く感じさせる。映画作品では、セリフが画面中央に定位する気持ちよさをすぐに感じられるはず(テレビの真正面で視聴する限りだが)。写真よりも高さを上げれば画面との一体感はより高まるだろう。
もちろん、テレビを挟むように左右にスピーカーを置いているから、という原理的な優位性が大きなポイント。画面中央の定位と左右の広がり(ステレオ感)は、サウンドバーではなかなか体験できないのだ。
そのほか、Cautious Clayの「Yesterday’s Prince」ではサックスの音色がややクセっぽくはあるものの、トランペットの響きはそこそこ抜けていくし、聴き応えは確保されている。The Beach Boysの「Pet Sounds」を聴くと、リバーブ感や空間感が気持ちよいが、先に感じたクセっぽさがやや目立ち、終始シャリっとした響きにはなってしまう。
再生する楽曲との相性もあることだが、このあたりに見えるコスト的限界に納得できるかどうかが本機を選ぶポイントになりそうだ。
多くのテレビに備わっているヘッドホン出力(3.5mmステレオミニ)を使い、「PM0.3BD」のアナログ音声入力と接続。音量調整はテレビのリモコンで行うシステムなので、使い勝手は良好だ。今回の接続方法のためには、3.5mmステレオミニ⇔3.5mmステレオミニのケーブルを自分で用意する必要があることには注意
なお、リスニングモードについては「VOICE」と「MUSIC」を変えても基本的な音質傾向が変わるわけではない。特に中低域の帯域バランスが異なるようで、「MUSIC」モードは中低域が持ち上がり、シビアに音楽を聴くにはややファットに過ぎる印象だった。名称はともかく、「MUSIC」は迫力を優先したい映画コンテンツなどにフィットすると感じた。
ディップスイッチが背面にあるため、実際の運用としてはどちらか気に入ったほうのモードに固定することになるかもしれない。筆者としてはよりフラット志向の「VOICE」モードを常用したいと思った。こちらのほうが何を聴いてもバランスがよいからだ。
テレビスピーカーとして固定して使うとなると、せっかくのデジタル音声入力がむだになってしまいそうだが、Bluetoothでスマホとつなぐのもよいし、Soundgenicのような「オーディオサーバー」(NAS)をUSB端子につないでおき、ネットワークオーディオを楽しむのもよいだろう。入力切り替えは本体前面のスイッチを押すだけなので、それほど難しさはない。
テレビ脇に「PM0.3BD」というシステムは利便性が高いし、対価格満足度も高いと思う。
「Macbook Air」と「PM0.3BD」をUSBケーブルでつなぎ、「ミュージック」アプリでApple Musicの音源を再生する
さらに本来的な使い方ということで、USB DAC機能を使ったデスクトップシステム用途での実力も検証してみよう。
結果から言うと、音質的にはこちらのほうがより充実したリスニングを楽しめた。テレビに音量調整とD/A変換を任せないこと、スピーカー間の距離を縮めたこと、このふたつが大きな要因だろう。「Macbook Air」の両サイドにスピーカーを設置し、ツイーター間の距離を測ったところ、約90cm。58V型テレビ脇(1.5mの付属ケーブルが届くギリギリの幅)では音場の広がりを訴求していたサウンドに、ボーカルやセリフの実在感、厚みが加わる。
音に厚みや凝縮感が出て、音量も無理に上げなくて済むため、テレビ横で感じていた高音のクセも相対的に感じづらい。デスクトップで使うと、机からの反射で自然に中低域が持ち上がることも影響しているだろう。
やはりリスニングモードは「VOICE」が好ましく、フラット志向なこちらのモードでも先ほどよりリッチなサウンドになった。
デスクトップですっきりと聴きたいならば、本体と机の間にある程度高さのあるインシュレーターを挟むか、デスクトップ用の低いスピーカースタンド(台)を用意するなどを検討するとよさそうだ。
本体底面にはゴム脚がついていたので、今回はテレビ台、机それぞれに直置き。シビアにセッティングしようと思うならば、高さ調整も兼ねて、本体と台の間にインシュレーターを挟むのもよいだろう
さて、今回わかったのは……
●「PM0.3BD」をテレビスピーカーとして使う方法はなかなか便利
●「PM0.3BD」のL/Rスピーカー間は100cm前後にしておくべき
という2点。テレビのヘッドホン出力とアクティブスピーカーのアナログ音声入力をつなぐ方法は音質的には不利な部分はあるものの、利便性が高く、改めて有用であると確認できた。
テレビとHDMIケーブル1本でつなぐだけでOKのサウンドバーも魅力的だが、音質のことを気にするならば、ステレオスピーカーを使う方法もぜひ検討していただきたい。
「PM0.3BD」のスピーカー間の距離は今回の約140cmよりは短いほうが望ましく、テレビサイズで言えば43V型(横幅約96.2cm)前後のモデルと組み合わせるのが適当だろう。
より緻密な解像感やワイドレンジな音を求めるならば、もう少し予算が必要になりそう。同程度の予算でもJBL「305P MkII」など業務用のいわゆるモニタースピーカーを使うという方法もあるが、スピーカーは大きくなり、電源も左右のスピーカーそれぞれに必要など、少々大げさになってしまう。自宅の状況に合わせて、以下アクティブスピーカーのレビュー記事なども参考にしていただきたい。
「PM0.3BD」は幅110mmというコンパクトさも魅力のひとつ。サイズ、音質、価格が実に“ちょうどいい”バランスの取れたエントリーモデルだと思う。