ここでレビューするのは、FOSTEX(フォステクス)の「PM0.1BD」。入力は3.5mmステレオミニジャックとBluetoothのみ、というシンプルなアクティブスピーカーです
モバイルプロジェクターやiPad、PCなど、手軽に質の高い映像が手に入るようになると、やがて音に物足りなさを覚えるもの。でも、大げさなオーディオシステムは置きたくないし……シンプルにつなげて、できれば数万円で効果抜群なスピーカーはないものか? というわけで、2万円台のアクティブスピーカー、FOSTEX(フォステクス)の「PM0.1BD」を取り上げます。
入力は3.5mmステレオミニジャックとBluetoothのみ。アナログとデジタル音声入力それぞれ1系統ずつのシンプル設計で、いろんなソース、いろんなシーンで聴き倒してみようという趣向です。
やってみると「そうそう!オーディオって機器をとっかえひっかえしてお金をかけることばかりじゃなく、こうやって工夫しながら楽しむんだったよな!」ってことを思い出させてくれます。
真四角に近いエンクロージャー。ユニット保護用のサランネットも付属しています
フォステクスは、オーディオマニア、特にスピーカー自作派なら知らない人はいない日本のスピーカーメーカーフォスター電機の自社ブランド。2023年には創立50周年を迎え、最近はヘッドホン「TH808」、プロ向けでも定番ヘッドホン「T50RPmk4」が発売されたばかりで、モニタースピーカー「NF06」の発売も予定されています。
FiiO(フィーオ)のヘッドホンアンプ/DAC「K11」のレビュー記事では、アナログRCA出力を使って「PM0.4c」と「PM0.5d」を組み合わせ、「K11」の美点であるマイルドなタッチを生かしながら、フォステクスらしい奥行き感のあるサウンドを楽しめたのも記憶に新しいところです。
これまでの「PM」シリーズと言えばアナログ入力主体でしたが、昨年登場した「PM0.3BD」にはUSB入力が付きました。今回の「PM0.1BD」は、USB入力もないシンプル設計で、さらに安価。機能としてはいわゆるBluetoothスピーカーと言えるもので、左右に分かれたステレオスピーカーが始めからセットになっています。
ここでは、「PM0.1BD」で音楽を聴くだけでなく、映像コンテンツに合わせるデスクトップスピーカーとしても活用してみます。
「PM0.1BD」の主なスペック
●型式:アンプ内蔵フルレンジスピーカーバスレフ型
●使用ユニット:75mmコーン型ウーハー
●内蔵アンプ:15W+15W
●周波数特性:100Hz〜20kHz
●入力端子:アナログ音声入力1系統(3.5mmステレオミニ)
●Bluetooth:5.0(対応コーデック:SBC)
●寸法:110(幅)×150(奥行)×153(高さ)mm
●重量:2.4kg(ペア)
Rchのフロントパネルには、電源(オン:緑/スタンバイ:オレンジ)、入力切り替え(Bluetooth/AUX:アナログ)、ボリュームノブを搭載
こちらはリアパネル。Rch側にプリとパワーアンプ部が内蔵されており、Lchに付属のスピーカーケーブルで電流を送る仕組み。スピーカーケーブルの両端はきちんとハンダ処理されていましたが、1m程度と短いので、もしも大型テレビの両脇に置くなら別途用意を
Rch端子部をよく見ると、左端に電源オートオフの設定も用意されています。隣が3.5mmステレオミニ入力。電源の供給はこちら側のみでOK
ACアダプターは小さめのアイスバーくらいのサイズ
デスクトップ使用時のイメージ。中央はiPad
まずは試しに、「MacBook Air」(M2、2022)のヘッドホン出力をつないで、シンプルに素性をチェック。ステレオミニケーブルでRchスピーカー背面にある3.5mmステレオミニ(AUX)入力に接続して、Apple Musicを再生してみます。
机に“ポン置き”してケーブルをつないだだけなのに、想像していた音質&エネルギーの2倍以上。「おおお!」と声を上げること請け合いです。クラシック音楽のエレーナ・ウリオステ&トム・ポスター夫妻「Estrellita」は、滑らかで暖かい妻ウリオステのヴァイオリンと寄り添うような夫のピアノにうっとり。ウリオステの吐息や弦の震えが詳らかに聴き取れます。ヒラリー・ハーンによるバーバーのヴァイオリン協奏曲は、オーケストラのスケール感こそさすがに本格オーディオシステムにはかないませんが、ヘッドホンでは再現が難しい奥行き感、そして何よりフルレンジスピーカーらしい精確で美しい旋律が印象的です。
次に、ボーカルやラップが前面に出た、打ち込み中心の洋楽を聴いてみましょう。ポスト・マローンがモーガン・ウォーレンと挑んだ初のカントリー「I Had Some Help」は、唾が飛んできそうなほど男声がリアル。ギターはさっぱり爽快&切れ味抜群でフルレンジスピーカーのよさが出ています。テイラー・スウィフト「Fortnight」は、テイラーの声に重畳的なバックコーラスが加わる後半、時折入る高域のアレンジもシャリシャリと下品になることなく、キラリ印象的に輝きます。
いっぽう、テート・マクリー「Greedy」のような低音のきいた打ち込み系では、ウーハーがブンブン震えて頑張っているのが見えるものの、そこは75mmフルレンジゆえの限界も。もっとも、キレはよいので、ニュアンスをよく伝えてくれる「PM0.1BD」の素性のよさを生かしつつ、曲によってはイコライザー(周波数特性の補正)も駆使して自分の中にある曲のイメージに近づけてみるとよいでしょう。これらを使いこなして、もっと音楽を楽しみましょう!
PCをプレーヤーにする場合、アプリのイコライザー(写真のApple Musicの場合は「イコライザ」)を使うのもよいでしょう。音質劣化は少なく、打ち込み系なら「R&B」は過剰ですが「Deep」あたりはなかなか使えました
次に、プロジェクターと組み合わせて大画面を楽しみましょう。
備え付けのホームシアターシステムがある人ならAVアンプを核にしたサラウンドシステムを組んでいる人も多いでしょうが、モバイルプロジェクターをお使いの人はいずれ内蔵スピーカーに満足できなくなるはず。そこでサウンドバーに目が行きがちなのですが、筆者は相談を受けたらスピーカー2本のステレオ再生からスタートするよう進言しています。
プロジェクターの大画面に合わせる場合、画面(スクリーン)の外に置くとスピーカー間がかなり広くなってしまいます。そこで、図のように視野角に合わせた「デスクトップ上」に「PM0.1BD」を置くことを提案します。こうすれば手元で本体の音量調整ができますし、小型フルレンジスピーカーらしい精緻な表現力を損なわず、大画面映像に組み合わせ可能です
プロジェクターと接続するには、ヘッドホン出力やBluetooth機器との接続機能があればよいのですが、ここでは基本的な能力を探るため、ソニーのUltra HDブルーレイプレーヤー「UBP-X800M2」とBluetooth接続してみます。
ソニーのUltra HDブルーレイプレーヤー「UBP-X800M2」とBluetoothで接続
Ultra HDブルーレイ「トップガン マーヴェリック」では、重低音こそないものの、かなりの音量(時計の2時の方向くらい)まで結構頑張ってくれます。メカがカシャカシャいう金属音、戦闘機のキーンやゴーという通過音を繊細にとらえ、方向感が抜群。また、ボイシング、特に男声のニュアンスが生々しいのがいかにもモニタースピーカーっぽい。
加えて、ダークスターが夜明けに超音速で空を駆けるシーンでは、コックピットの閉塞感と、緊張の面持ちでメンバーが見守る司令室の緊張感、墜落後の田舎のバーのやわらかい環境音と、各シーンの空間の音を描き分け、音場は不思議とスピーカーの外側までワイドに広がります。続くケイン少将に呼び出されるシーンでは、マーヴェリックの心情を代弁するかのようなカチカチという時計の音がよく聞こえます。
ライブBD「SOUND STAGE Peter Cetera with Amy Grant」では、やや低めでハスキーなエイミーの女声の特徴がよく表れています。ここでも、美麗に包み込むサウンドと言うよりも、ボーカルとともに各楽器はかなり前のめりに張り出し、プロ用モニタースピーカーらしい生々しさです。会場が適度な響きを持った中規模のホールであることも印象づけます。
音楽作品は、Bluetoothのほうが先ほどまでのアナログ入力より若干クールで抜けがよい印象。2.4GHz帯ですが、筆者の家ではノイズが入ったり途切れたりすることはまったくありませんでした。
こうしたセリフと空間の表現力は、iPadと組み合わせたデスクトップシアターには余りあるほど。BluetoothでiPadとつないで再生するAmazonプライム・ビデオ「沈黙の艦隊」も同様に魅力的です。
「PM0.1BD」は、モニタースピーカー的なサウンドが特徴の超ハイコストパフォーマンスアクティブスピーカーです。テレビの両脇に置くよりも、手の届くデスクトップ上に置いて楽しむのがよいと思います。手の届くところで音量調整できますし、このように指向性が強めのフルレンジスピーカーでは左右2本のスピーカーを開けすぎるといわゆる“泣き別れ”になりがちだからです。
iPadとBluetooth接続。「Fostex PM0.1BD」を選びます
さて、最後にできるだけお金のかからない使いこなしあれこれについて触れたいと思います。実はこれまで視聴してきた過程でも、都度、あれこれ試していたことがあり、それらをまとめて記します。
スタジオの“卓”(コンソール)のように、スピーカーを耳と同じ高さに置けないなら、仰角を付けてスピーカー軸上に耳が来る位置に合わせるとよいでしょう。スピーカーを耳(顔)の方向に向ける形です
まずセッティング。利用した机は、年季の入った北海道民芸家具で、30mm厚の無垢のカバ材で組まれています。強度は十分だと思いますが、その分、机の奥側に置くと低音の反射もキツい。
そんなときは、少し仰角をつけるのがマスト。特にスピーカーユニットの軸上に耳が来るところまであおると、ヘッドホンもビックリなほど定位もしっかり出てボーカルやセリフが生々しく聴き取れるいっぽう、背景の音場も自然でフワリと広がります。まさにフルレンジの魅力にあふれており、ベテランのオーディオファンも納得のサウンドが堪能できると思います。
スピーカーを“内振り”にするとリアルに精密さが出て、面一にすると音が拡散される方向に変化します。シチュエーションや好みに合わせて、その都度調整してもよいでしょう
スピーカーの振り角も同様。正三角形に近づくように内振りにしていくと、リアルなモニター調になり、逆にそこから画面と面一まで戻していくとボーカルやセリフの鋭さが和らぎリラックスして聴けます。
100円ショップで購入したドアストッパーで仰角をつけてみた状態
次に、フット。本体には四角い樹脂系と思われる4つ脚が付いているだけですが、脚としてほかのものをあてがうと、当然ながら音が変わります。
もちろんスピーカースタンドに載せるのがベストでしょうが、2万円台のスピーカーに数万円のスタンドや数千円もするアクセサリーを使うのはバランスが悪いので、100円ショップで買えるグッズをインシュレーター代わりにしてみたいと思います。
100円ショップで購入したのは、ドアストッパー、コルクプレート、木のキューブ、天然石
近所の100円ショップチェーン店を3か所回り、かつて某月刊誌の企画でよくやったように使えそうなものを購入。誰もが思いつく木のキューブ、コルクはあるものの、材料費高騰の折、金属製のものは皆無。当時津 修先生があげてくださったダイソー「ミニ剣山」はありませんでした。
ちょっと期待外れだったのでお遊びの結論だけ記すと、底面中心にコルクプレートを2重に敷き(100円)、ドアストッパー(100円×4)にベタ置きで仰角をつけ、間に天然石(100円)をまくのが、筆者の環境には心地よかったです。このようにチューニングしてあげると、机の反射が抑えられる分ボーカルが引っ込んで全体的になじみ、石で音が拡散してちょっと響きも加わりいい塩梅。ヘッドホンをリケーブルしたりイヤーパットを交換するのに似ており、こうしたカスタマイズが好きな方はぜひ挑戦してみて。
「PM0.1BD」は、ヘッドホンオーディオから始めてスピーカーでのステレオ再生に踏み出そうとする人に最初に手に取ってもらいたい製品です。私自身も小学生のころ、ウォークマン「WM-D6」のヘッドホン端子をデンオン(現在のデノン)のアクティブフルレンジスピーカー「SC-C1」につないだのがステレオ再生の始まりでした。
もっとも、「PM0.1BD」はシンプルでS/Nもよくフルレンジらしい指向性とモニター調の音色を備えているので、オーラトーンのキューブスピーカーのように、ベテランのオーディオファンがあれこれチューニングしながら使っても大いに楽しめる優秀な製品でもあります。