スピーカーリスニングのメリットは、空間を音楽で満たせることに加えて「広がり感」、すなわちステレオ再生らしい定位と方向を表現できることにある。いっぽう、人気のワイヤレス/Bluetoothスピーカーは扱いやすさで有利なものの、LRのドライバーを1つのエンクロージャーに格納したものが多く、コンパクトさと引き換えに広がり感がスポイルされてしまう。スピーカーのセッティングでは常識の、左右ユニットの距離や向きを調整するといった小技も使えない。ワイヤレスであっても「LRがセパレート」したスピーカーを志向するエンドユーザーが多いのも当然だろう。
今回取り上げるEdifier「M60」は、まさにその点を意識したワイヤレス/ワイヤード兼用のアクティブスピーカー。エンクロージャーは100(幅)×147(奥行)×168(高さ)mmとコンパクト、小柄な製品が多いブックシェルフタイプの中でも最小の部類だ。小柄ながらもAC 100V対応の電源ユニットを内蔵、ACアダプターを必要としないぶん配線がスッキリする利点もある。
Edifier「M60」。ブラック、ホワイト、クラシックオークの3色がラインアップされており、今回はクラシックオークを試用した
フロントパネルには、1インチのシルクドームツイーターと3インチのロングスローストロークアルミミッドバスドライバーが並ぶ
入力はBluetoothとUSB-C、AUX(3.5mmステレオミニ)の3系統。内部処理はTI製D級デジタルアンプが担い、DSPを経て最終的なオーディオ出力を行うという設計だ。BluetoothはオーディオコーデックにLDACをサポート、対応するサンプリングレート/ビット深度は最大96kHz/24bitで、この点はUSB入力も同様。なお、日本オーディオ協会が定めるワイヤレス/ハイレゾワイヤレス両規格の認証も取得している。
リアパネル。マスター(R)側にUSB-CやAUX(3.5mmステレオミニ)が配置されている
LRユニット間は、付属のスピーカーケーブルを利用した有線接続。ケーブル長は端子込みで約183cmとやや短いが、直径約6mm(実測値)と太めで安定感があり、端子はキャノンメス/4ピンでしっかりホールドされるから抜けてしまう心配がない。
LRユニット間はキャノンオス/4ピンの太めのケーブルで接続される
筐体の質感は存外にいい。合板の上に突板を貼り仕上げたキャビネットは、アクティブスピーカーにありがちなスイッチ/ノブ類が見当たらず、シンプルそのもの。電源オンオフや入力切り替えなどの操作は天面のタッチセンサーで行うが、人感センサーが搭載されており、普段は表示オフだが手をかざすとふっと浮かび上がる仕組みだ。突板の仕上げもていねいで、貼りムラや周縁部のズレは見当たらず、高級感すら漂う。
天面にはタッチ式の操作パネルを搭載。人感センサーで反応し自動的に浮かび上がる
肝心のスピーカーユニットはミッドバスユニット(18W)とツイーター(15W)の2ウェイ、LR計66Wとサイズ感からしてはなかなかの出力。オーバル型のバスレフポートはリアパネル上部に設けられ、インシュレーターはゴム製の4点支持だ。仰角15度の専用スタンドはアルミ製、デスク設置時の反響音抑制を期待できる。
インシュレーターはゴム製の4点支持
アルミ製の専用スタンドも付属している
さっそく、LDAC対応のAndroid端末とペアリングを済ませ、念のため設定アプリ「EDIFIER ConneX」で確認してみると、「M60」の入力が「44.1kHz/48kHzのサンプリングレート」に設定されていることが判明。これを「96kHz」に変更し、Amazon Musicなどストリーミングアプリをソースに試聴を開始した。
専用アプリ「EDIFIER ConneX」が用意されており、イコライザーや音量の調整、Bluetoothコーデックの切り替えなどを手元から操作できる
パット・メセニー・グループ「Dream of the Return」を再生すると、予想を上回る低域の量感、特にベースラインが際立っていることに気づく。バスレフとDSPを駆使したEDIFIER流の音作りなのだろうが、続けて聴いたアメリカの「Ventura Highway」も同様の傾向、軽やかなカッティングギターは心地いいけれどベースが少々目立つ。これはこれで悪くないけれど……。
ところが、ボリュームを(ConneXアプリ上の)8から7、6へ下げてみると、ちょうどいいバランスに。一般的に、オーディオは小音量で聴くと低域が痩せてしまいがちだが、その不足分を補うかのようにほどよい塩梅となる。リアバスレフ型なだけに、壁からの距離も少し広げてみた。ノートPCを挟む形で設置しボリューム6でしばらく聴いたが、今度は各帯域のバランスも申し分なく、中高域のクリアネスと明確な定位感で聴き心地がいい。
付属のスタンドもよく考えられている。仰角15度はニアフィールドスピーカーとしての用途を考慮したものだろう、ノートPCのやや後方に置くとちょうど耳に向く設計だ。角度は固定だが、エンクロージャーとジャストサイズ、接地面とスピーカーと接する面に滑り止めのゴムが貼られるなど仕事が細かい。
「MacBook Air(M2)」と接続し、USBスピーカーとしても使用してみた。Amazon Musicアプリでは問題なく端末の性能が24bit/96kHzと認識され、Bluetooth接続時より明らかに情報量の多いサウンドとなった。有線接続とはなるものの、アップル「iPhone」「iPad」シリーズなどLDAC非対応のスマートフォン/タブレットと組み合わせて使うにはいい選択肢だ。
「MacBook Air(M2)」の両脇に設置
「MacBook Air(M2)」との組み合わせでは、24bit/96kHzのUSBデバイスとして認識された
この「M60」、とにかくコストパフォーマンスが抜群。LRセパレートでコンパクト、LDACのサポートとUSB DAC内蔵で有線/無線ともにハイレゾ対応、ジャストサイズのアルミ製スピーカースタンドまで付属する。使わないときは表示されないタッチセンサーなど、ユーザーインターフェイスも洗練されている。この仕様で2万円台というプライスタグには驚きしかない。
最初は低域の量感に違和感を覚えたが、リアバスレフなだけに壁から離すなど位置を調整すれば印象はだいぶ変わる。むしろこのサイズでこれだけの低域が出る事実のほうが刮目すべきこと、長所を生かしたセッティングを心掛けたい。
気になる点を強いてあげるなら、デフォルトの設定か。低域を意識したチューニングのせいか、楽曲のジャンルによっては違和感を覚えることもあるが、「EDIFIER ConneX」でイコライザーを「モニター」(初期値は「音楽」)に変更すると、幾分ニュートラルな印象に変わる。音の傾向がアプリの設定に依存するという点は、説明書等でていねいに説明してほしいものだ。
とはいえ、世に数多あるBluetoothスピーカーを思えば、エントリークラスの小型スピーカーでDSPによるチューニングはメーカーとして合理的な判断といえる。そこを逆手に取って自分なりにデジタル(EQ)のカスタマイズを行うのが賢い消費者と考えるが、いかがだろう?