以前、価格.comマガジンで注目のスピーカーブランドとして紹介した英FYNE AUDIO(ファイン・オーディオ)から新世代モデルが登場した。従来製品の型番末尾に「S」が付いた新世代モデル「F500S」だ。
同軸ユニットを搭載した2ウェイブックシェルフ型スピーカー「F500S」。2025年6月時点での希望小売価格はペアで195,800円(税込)
FYNE AUDIOの中核となっていた「F500」がリニューアルされ、しかも価格は従来よりも少し抑えられているという。「F500S」をさっそく聴いてきたところ、やはり万能で使いやすそう。「F500」シリーズなどが順次末尾に「S」が付く新モデルに入れ替わっていくとのこと、注目モデルとして早々に紹介しておこう。
本体色は写真の「ピアノグロス・ブラック」(左)と「ナチュラル・ウォールナット」(右)のほか、光沢のない木目の黒「ブラックオーク」が用意される。すべて価格は同じ
関連記事でも紹介しているように、FYNE AUDIOの基幹技術は3つ。広い指向特性の同軸ユニット「IsoFlare(アイソフレアー)」、固有周波数共振を低減するエッジ形状「FyneFlute(ファインフルート)」、そして底面バスレフポート「BassTrax(ベース・トラックス)」だ。
基幹技術のすべてが投入されながら、価格を抑えたコストパフォーマンスモデルとして展開されているのが「F500S」シリーズだと言える。
以前からの主な変更点は、同軸ユニットのツイーター部の改良とのこと。従来は振動板にチタンを使っていたところ、素材を変更。軽量で高い剛性を持つマグネシウムを採用している。それに合わせて、という意味合いもあるのだろう。指向性をコントロールするためのウェーブガイドの形状も改められている。
「F500S」の同軸ユニット「IsoFlare」の分解イメージ。中央に高域担当の25mmツイーター、その周辺が低域担当の150mmウーハーになっている
こちらが実際のユニット。中央のウェーブガイドの形状が変更されている。ユニット周辺に斜めに入った溝が「FyneFlute」。固有周波数共振を減らし、不要な音の色づけを避ける工夫だ
「BassTrax」イメージ。下向きにバスレフポートが設けられているため低音のエネルギーが360度方向に分散される。これには設置場所を問わず扱いやすいというメリットがある。「F500S」では開口部をキャビネットと一体にすることで堅牢性が増しているという
従来モデル「F500」。「BassTrax」の開口部が本体とは別建てのようになっているのがわかる。「F500」は最終的にペア220,000円(税込)で販売されていたため、195,800円(税込)の「F500S」は改良が加えられたうえ値下げされたということになる
試聴を行ったのは、輸入元アクシスの試聴室。理想的な環境だ
それでは、「F500S」の音は実際にどんなものか? 輸入元であるアクシスの試聴室にうかがって聴いてきた。音源は日本に上陸したばかりの音楽ストリーミングサービスQobuzを使って再生している。手軽によい音を楽しめる方法なので、詳細は以下関連記事を参照いただきたい。
再生してすぐに感心するのは、奥行きの深さ。理想的な環境も相まってのことだと思うが、バンドアンサンブルの楽器をはっきりと描くだけでなく、音の前後関係までも明瞭なのだ。位相制御を徹底したたまものなのだろう。ツイーターの改良はこの空間再現性に表れているのかもしれないとも感じた。
低音の再現も立派なもの。同軸一発のコンパクトな見た目に反して、しっかりとした量感でベースやキックドラムの形を描く。もちろん、深く沈み込むタイプの低音は出ない。質感がやわらかく、タイトになりすぎないことはむしろポジティブに評価すべきで、おおらかな聴き心地のよさにつながっていると感じた。
シャイ・マエストロのピアノソロ「Solo : Miniatures & Tales」のような作品も聴き応えがある。シンプルな演奏だけに、ストレートでクセのない高性能ぶりがよくわかるのだ。ピアノの響きがややきらびやかな気もしたが、音離れのよさは従来モデルゆずりだし、総じて気持ちよく音楽を聴けた。
スピーカー端子はバイワイヤリング対応。端子近くに「PRESENCE」というスイッチがあり、2.5〜5kHz帯を-3dB / +3dBに調整できる。帯域としてはちょうどボーカルにかかるところ〜その上くらい。+3dBにすると、帯域バランスが変わるというよりは、ボーカルが前に出てくるような効果を得られた。部屋の特徴や試聴位置に応じて試したい機能だ
以前紹介した「F500」と同様、「F500S」も汎用性の高いスピーカーだ。「BassTrax」による設計が設置場所の選択肢を広げてくれるだけでなく、クセのない音は音楽にも映画にもフィットするはず。
設置場所についてはしっかり周囲の空間をとってこそ、奥行きの深さを味わえるはずではあるが、これはどんなスピーカーにも言えることだ。
低音再生に安定感があるので、厳しい低音の入ったAV用としても使い出がありそうだ。今後は末尾に「S」が付いたモデルが順次登場するはずなので、今後は価格も抑えられたこちらを狙うのが順当だろう。
なお、直近の新製品には「Vintage Five」(写真)という家具調の高級品もある。「F500S」よりも口径の小さい125mmウーハーと19mmツイーターによる同軸ユニットを搭載しており、希望小売価格はペアで858,000円(税込)。こうしたラインアップの広さもFYNE AUDIOの魅力だ
最後に、「F500S」シリーズで気になることと言えば、センタースピーカーとしても使えそうな「F500S LCR」が導入されるかどうか。従来の「F500」シリーズではあくまでセンタースピーカーとして「F500C」が用意されていたが、本国のサイトを見るに「F500 LCR」は様子が異なる。「LCR」という名前のとおり、L(左)、C(センター)、R(右)など、どのチャンネルにも使える……という前提のようで、本体の後ろには壁掛け用金具が付いているのだ。
元々FYNE AUDIOの製品はサラウンドシステムに対しても配慮されていたが、Dolby Atmosを含むサラウンドスピーカーとしても使いやすそう。本気でDolby Atmosに取り組みたいマニアは注目しておくとよいだろう。