筆者が愛用中のGENELEC(ジェネレック)の「8331A」。デスクトップスピーカーとして「これ以上はないだろう」と思い購入したその理由とは……
高級なエレクトロニクス製品はできるかぎり長く使いたい、そう思って購入するのが人情というもの。一般的な家電なら10年使えれば御の字という気もするが、オーディオ製品となれば話が違う。特に高級品であれば、「長く」どころか「一生モノ」として付き合いたいと思うことも珍しくないだろう。
ここでは、筆者がまさに「一生モノ」だと思って購入したGENELEC(ジェネレック)のスピーカーを紹介したい。オーディオ製品は高級なものが多いが、言葉の綾ではなく「一生」付き合えるものもある。人によってスピーカーに求める要素は異なるとはいえ、満足度の高い選択のための指針としていただければと思う。
150p幅のデスクで使うために導入した「8331A」。壁に近い場所に設置する必要があり、この場所でパフォーマンスを発揮できることが購入の条件だった。ジェネレックのガイドラインによれば、「8331A」の設置には背面に5p以上のスペースがあればよいという
オーディオ/AV業界歴18年ほどとそれなりに長くなってしまった筆者は多くのオーディオ製品を使ってきたが、実はなかなか「一生モノ」と出会う機会がなかった。そんななか、ついにこれは「一生モノ」かも、と思って購入した製品がある。デスクトップスピーカーとして購入したGENELEC(ジェネレック)のアクティブ(アンプ内蔵)スピーカーだ。
非常に高価な製品なのだが、思っていたとおりに満足度が高く、購入から1年ほど経った今もとにかく「買ってよかった」と日々感じている。この満足度の高さは、単に音のよさからくるものではない。ジェネレックのスピーカーは筆者がデスクトップスピーカーに求める要素をすべて満たしていたことに由来しているのだ。
購入の決め手は大きく以下の4つ。筆者の場合は自宅でのサブ的な扱いのデスクトップスピーカーだったという事情はあるとはいえ、長く使えるスピーカーを探している人にはおおむね共感していただけるポイントだと思う。
・コンパクトで音がよい
・見た目がよい
・すぐれた補正機能を利用できる
・修理体制が万全である
早い話が、これらをすべて満たすのがジェネレックの「GLM」(詳細は後述)に対応するスピーカーだった。
「見た目がよい」という点についてはほぼ100%主観(好み)なので、どうにでもなるのだが、そのほかの要素が揃っている製品を探してみるとなかなかないもの。「小さくて音も見た目もよく、環境を問わずに最適な音を出せる補正機能も持っているうえ、何かあれば長く修理してくれるので、ユーザーが安心できる」そんなスピーカーが欲しいというわけだ。そんなもの存在する? というレベルの勝手な要求なのだが、ジェネレックのスピーカーはそれがしっかり満たされていると実感している。
サイズ違いでいくつかのモデルがラインアップされるジェネレック「The Ones」シリーズ。それぞれの違いは主に音圧(SPL)と最低域がどこまで沈むか(出典:株式会社ジェネレックジャパン)
ここからは4つの要素を順に追っていこう。まず条件として重要だったのは「コンパクトで音がよい」こと。この条件は、検討していたのがデスクトップ用のサブシステムであったことに由来する。デスクトップ周りはスペースが限られているため、できるだけコンパクトにしたいと考えていたのだ。
コンパクトななかでも最良の音質を実現するスピーカーとしてはじめから有力視していたのが、アクティブ(アンプ内蔵)モデル。スピーカー筐体の中にアンプも搭載しているので、省スペース効果があるだけでなく、スピーカーとアンプの設計を相互に最適化できるわけで、音質的なメリットも見いだせる。
実際は「見た目」や「補正機能」なども複合的に検討してはいるが、とにかく「コンパクトで音がよい」という点を突き詰めて考えて最後まで候補に残ったのがジェネレックの「The Ones」シリーズ最小モデル「8331A」だった。
「The Ones」シリーズの大きな特徴は非常にコンパクトな3ウェイスピーカーであること。大きさの異なるモデルがラインアップされ、最も小さな「8331A」でもフルレンジをモニターできる性能が担保されている。周波数特性のスペックは45Hz〜37kHz(-6dB)。この手の数値はあまり参考にならないことも多いが、そこは業務用製品として信頼の厚いジェネレック。聴感上も測定上もスペックどおりと思わせる低音が出ている。
小型スピーカーだと、低音はしっかり聴こえずとも「見えれば(≒なんとなくわかれば)」よい、という考え方もありうるだろう。試聴する前は「8331A」もそういうチューニングがされているのかと思っていたのだが、その予想はしっかり裏切られた。スペックの額面どおりの音が聴こえると感じられたし、測定してみると数値上もそうなっているのだ。しかも、そこに無理をしているような怪しい挙動はみじんもない。
「The Ones」シリーズの分解イメージ。中央にツイーター+ミッドレンジの同軸ユニットがあり、その上下に楕円形のウーハーを2基備える3ウェイ構成。剛性の高いアルミニウム製のキャビネットもフルレンジ再生を支える重要な要素だ
もちろん、同シリーズの大きなモデルと聴き比べれば低域再現性の違いは明らかだが、どのモデルでも「似たような」音が出る。そこも「The Ones」シリーズを選んだ大きな理由だ。大きいほど価格が高くなっていくのだが、基本的な音質自体は同じまま、再現のスケールが大きくなっていく印象なのだ。より大きな「The Ones」シリーズは、上位モデルというより(もっと大きな部屋で大きな音圧が必要など)用途の違うモデルなのだろう。環境に応じて適切なモデルを選べるのだから、ユーザーにとってはありがたい。
一般的なメーカーのスピーカーでは、最上位モデルがいちばん音がよく、しかも大きいというパターンはよくあることだ。最上位モデル同等の技術が投資された小型モデルが欲しい……という場合、選択肢がないことも珍しくない。ジェネレックの場合、「The Ones」シリーズに搭載される凝縮された3ウェイシステム構造は基本的に同じ。それ以外の2ウェイ構成の製品を見ても、非常に似た外観であり、一貫して同じコンセプトで作られていることがよくわかる。
家庭用スピーカーとして展開されている「G」シリーズ(写真)なども含めて、アルミニウム製のキャビネットは共通の仕様。最も小さな「G One」でも安っぽさはない。ただし、高価なモデルでも質感は変わらず、とにかく華美なところがない
実際、ごく狭い環境で使うデスクトップスピーカーであれば、最小モデル「8331A」はまさに必要十分。音量・音圧に不満はないし、小型スピーカーにありがちな低域不足を感じることはまずない。設置した際に圧迫感がないところも非常に気に入っている。音質的にもサイズ的にも、環境に対してベストな選択だったと思っている。
「The Ones」シリーズ(「8331A」「8341A」「8351A」)のカスタム・カラー・オーダー(有料)が始まり、120色の中から好きな色をオーダーできるようになった。詳細はオフィシャルサイトを参照のこと
次に重視したポイントは「見た目がよい」こと。これは自分が気に入るかどうかにほかならない。ジェネレックのスピーカーの「見た目がよい」かどうかは個人の好み次第。個人的には、いかにも業務用然とした形、必要から生まれた機能美とも言えるシェイプを以前から好ましく思っていた。
さらに、2020年には「RAW(ロウ)」フィニッシュが登場。あえて無塗装(生)の状態をカラーバリエーションとして加えたのだ。塗装をしないので環境負荷が少ない、というようなことをオフィシャルでは説明されているが、気に入っているのはその無骨な見た目。ムラのあるアルミニウムの質感がたまらなくよい。
「RAW」フィニッシュはさらに好みが分かれそうなところだが、2026年4月からは「The Ones」シリーズ(「8331A」「8341A」「8351A」)のカスタム・カラー・オーダーを開始。なんと120色の中から自由に色を選び、オーダーできるサービスだ。「あまり無骨なのはちょっと……」という向きはこちらに注目するとよいだろう。一般的なスピーカーではありえないようなカラーリングもオーダー自在だ。
あえて無塗装のままを製品として発売した「RAW」フィニッシュ。地の表情が一つひとつ異なるため、それをオンリーワンの魅力ととらえる人向けと言える
なんだかんだ言っても、「見た目がよい」ことは何にも代えがたい魅力だ。筆者は仕事柄スピーカー選びについて聞かれることがあるが、「最終的には見た目で選ぶのがいいんじゃないか」と真剣に答えることが多い。明確にどんなスピーカーが、どんな音が欲しいと決まっている人にはそれなりのアドバイスもあるが、そうでない人にとって支配的な要因となるのは「ひと目でわかる」外観の魅力だろう。
それに、現在一般的に流通しているスピーカーで極端にクオリティの低いものなど見つけるほうが難しい。あまり小さな違いをあれこれ言うよりも、大いに気に入った点があるならば、それを大事にしたほうが満足度が高いのではないかと思う。スピーカーはいつも目に入る場所にあるもの。誰にとっても見た目は大事なのだ。
外観に関わる部分で地味にうれしいポイントだったのが、同軸ユニット左側のインジケーターを消せること。ディスプレイ脇に置く場合、表示がまぶしいと気になってしまうことがあるが、これならばAV用途でも安心だ
「SAM」システムでジェネレック独自のソフトウェア「GLM」を利用するためには、ネットワークアダプターとマイクがセットになった「GLM Kit」(別売り)が必要になる
3つ目のポイントは「すぐれた補正機能を利用できる」こと。これはアクティブ(アンプ内蔵)スピーカーを選んだからこその機能と言える。アンプ内蔵スピーカーは周波数特性補正などの機能を持っているものが多く、その内容はさまざま。この手の補正に対するメーカーの考え方が表れる部分でもあるため、あるほうがよい、というものでもない。
しかし、先述のとおり我が家の場合はとにかくスペースが限られている。スピーカーの設置場所を動かしてベストな場所を探る……という余裕はないため、ほぼ「ここに置く」と決めた場所で勝負するほかない。そのなかでのベストな結果を得るためのソリューションが「すぐれた補正機能」なのだ。
この点、ジェネレックはDSPを内蔵した「SAM(Smart Active Monitor)」システムを展開しており、それらは「GLM(Genelec Loudspeaker Manager)」というソフトウェアでコントロールできる。このソフトウェアは家庭用オーディオユーザーにもわかりやすく、しかも非常に効果的だ。
PCと「GLM Kit」のネットワークアダプターを接続すると、「GLM」経由で測定・補正を実行できる。測定は1分足らずで終わり、すぐに効果を試せる
補正機能を使うには専用のネットワークアダプターをPCにつなぎ、PC上で「GLM」を操作すればよい。テストトーンを計測して周波数特性や位相、レベル(音量)、リスニングポジションまでの音の到達時間(位相)を整えてくれる。とは言っても、無理な補正はしないのが現代的であり、実に効果的だなと思わせる部分だ。主にピーク(周波数の出っ張り)を削ってくれるため、やりすぎた補正にありがちな物足りなさを感じることはまずないだろう。
左chの測定グラフ。赤が実測値で、青がフィルター、緑がフィルターを適用したターゲットカーブ。大きなピーク(山)だけを削っていること、ターゲットがフラットにすぎないところもよくわかる
「GLM」の使いやすさや効果は取材などを通じて知っていたが、自宅で向かい合ってみるとその使いやすさが身に染みる。さらに感心したのは「GRADEレポート」という測定結果の分析レポートを出力できることだ。「GLM」から「GRADEレポートの注文」を実施すると、ほんの数分でPDFが(メールで)送られてくる。残響時間や初期反射音などの状態をレポートされているほか、改善すべき部分があればそれを指摘してくれるし、その方法まで記載されているという細やかさ。
よりよい音のためには補正機能に頼りすぎないほうがよいので、レポートを参考に物理的な状況を改善していくのも趣味としての楽しみになる。改善が必要な部分は色分けで明確に知らせてくれるのだが、これがなかなか画期的だなと思う。
どんなにすぐれたオーディオ機器も部屋の特性ありきで耳に届くわけで、部屋の状態がよくなければ、よい音質が実現できないかもしれない。このレポートはオーディオ機器本来の実力を発揮できる環境かどうかを診断してくれているのだ。要改善と診断されていないならばそのまま使えば安心だし、改善すべき点があるならばそれを手当てすることでよりよい音質を望める。ちょっとマニアックな機能に思えるかもしれないが、実に親切だし、一般オーディオユーザーにもありがたいサービスだと感じた。
なお、補正機能は「Dirac」などのサードパーティーに頼るという選択肢もありうるが、やや煩雑になることは避けられない。もし補正機能のないスピーカーを選ぶならば、こうしたサードパーティー製ソフトに活路を見出す方針はありだろう。
「保証について」もぜひ確認しておきたい。ユーザー登録さえすれば、5年間の保証を受けられる(出典:株式会社ジェネレックジャパン)
購入の最後の一押しになったのが「修理体制が万全である」というポイントだ。一般的な家電メーカーであれば、生産終了後数年経過した時点でその製品の修理は考えないこともある。ジェネレックは音響スタジオなどにも納入されるプロ用スピーカーでもあり、この点の考え方や対応が根本的に異なる。プロの現場で信頼されているのは、単に音質がすぐれているからではなく、修理体制が万全という理由もあるだろう。
そもそも製品登録を行うと5年間の保証を受けられるのだが、ジェネレックのオフィシャルサイトを参照すると以下のように記載されている。
「現在でも1980年代初頭に製造された製品の修理やスペア・パーツに関する要望が寄せられており、そのほとんどへの対応を行なっております。私達は長い歴史の中で製造された全てのモデルのスペア・パーツの在庫を確保しております。」また、「適切なスペア・パーツを調達できる限り常にサービスをご提供します。」とも。
以前の取材時にもうかがったことだが、ジェネレック初の製品「S30」(1978年発売)の修理も可能な限り検討してくれるという。プロの制作現場では、音の基準器とも言えるスピーカーをそうは入れ替えられないという都合があると思われるが、一般ユーザーにとってもこの絶対的な安心感は非常にありがたい。それでこそ、多少高価なスピーカーでも思い切って購入できるというものだ。
「デスクトップスピーカー」とはいえ、「8331A」は床置きのスピーカースタンドに設置している。振動がデスクに伝わるのを避けるためには、この置き方は必須と考えたほうがよいだろう
早いもので、「8331A」を購入して1年ほどが経ってしまった。セットアップした当初から期待していたとおりの実力を発揮してくれている。
コンパクトな本体から周波数レンジの広い音が出るだけでなく、狭い場所で、しかもデスクの前(しかも間にはディスプレイがある)というスピーカーにとってはベストと言えない環境であっても「GLM」がうまく補正してくれるメリットも非常に大きい。なかなか難しい環境にも関わらず、左右や上下、奥行きの情報もしっかりと再現してくれている。デスクトップスピーカーとして使ってみて、不満に思うことはひとつもないと言ってもよいほどだ。
プリアンプとして使っているのはSPLの「Director Mk2」。USB DAC機能も備えているが、あくまでメイン機能はアナログプリアンプ。ここにLlNNのネットワークオーディオプレーヤーやPCをつなぎ、オーディオハブ的に扱っている
しばらく使ってみて、よりひしひしと感じたのはフラットな再現性であることの安心感とありがたさだ。そのおかげですぐれた録音の音源はすぐにわかるし、それなりの音源はちゃんとそれなりに再現してくれる。筆者は音楽制作をしているわけではないが、「この音源は試聴用によさそうだな」みたいなことがすぐにわかるのは仕事上のメリットになっている。
いろいろな条件でフィルタリングして選んだスピーカーではあったが、結局のところ本質的な「8331A」の魅力は、そういう絶対的な品質の高さとフラットな音質に由来する安心感や信頼性に尽きるのかもしれないと感じている。これはジェネレック製品に共通した特徴だと言ってよいだろう。どれをとってもコスパは高い。
そのなかでも、やはり使いやすいのは「SAM」システム搭載の「GLM」対応スピーカーだと思う。3ウェイ構成の「The Ones」シリーズは高すぎる、という人には「スマート・アクティブ・2ウェイ・モニター」シリーズという製品もある。その名のとおりの2ウェイシステムで、最小サイズの105mmウーハー搭載モデル「8320A」を調べてみると、「GLM Kit」のバンドルセットが20万円弱で販売されていた(2026年8月19日時点)。
小型の2ウェイスピーカー「8320A」と「GLM Kit」ならば20万円前後で購入可能
デスクトップシステムから離れれば、大型スピーカーも魅力的だ。先般の「OTOTEN2026」で展示されていた38cmウーハー搭載モデル「8380A」など、すさまじい低音の再現力。いかにもスタジオ向きといった大型モデルだが、部屋の都合が許せば自宅に……と考えてしまうオーディオマニアもいるだろう。現に、某同業者とこんな世間話をしたばかり。『OTOTENのジェネレックブースで「8380A」を聴きました?』『ああ、あれはすごいスピーカーですね』『ペアで300万円くらいと意外と“安い”んですよね……』と。一般感覚からかけ離れているとは自覚しているものの、要は大型スピーカーのコスパも高いということ。それも一般的なデジタル機器とは違い、長く使える安心感も込みでの話。気になる人は「Genelecエクスペリエンスセンター Tokyo」で試聴できるはずなので、問い合わせたうえで、まずは実物に触れてみてほしい。
「OTOTEN2026」で展示されていたジェネレックの「メイン・モニター」シリーズ「8381A」(左)と「8380A」(右)
Mac版「GLM」から「GRADEレポートの注文」を実行してみた
最後に、「GRADEレポート」を使ったルームチューニングについて、付録として記しておきたい。ジェネレックのスピーカーはクセのない音質なので、趣味の製品としては物足りないのでは? と思う人もいるかもしれない。実際のところ、まったくそんな心配はいらないどころか、趣味としての楽しみを広げてくれる製品だと思う。
先述のとおり、「GLM」による測定とそれを元にした「GRADEレポート」を参照できるからだ。本レポートは環境についての改善点などを指摘してくれるサービスで、製品を登録したユーザーならばレポートの出力は12回まで無料。実際にこれを試してみた。
結果はほぼ予想どおり。レポート内容は多岐にわたるが、重要なのは改善すべき点を色分けで示した表だろう。黄色が手当てをするともっとよくなるかもというポイントで、赤色が要改善点。黄色や赤色がある場合は物理的なスピーカー移動やルームチューニングで解決したほうがよい、ということになる。
レポートのpdfは、表紙と目次を合わせて32ページ(英語)に及んだ。ここでは、色分けされた表だけを抜粋する。黄色の部分が要改善ポイントだ
この点だけを要約すれば、右chの初期反射レベルと200Hz以下のノッチ(周波数特性のくぼみ)に改善の余地ありということ。特に「そうだろうな」と思ったのは、初期反射レベルのこと。右chのスピーカーはかなり壁に近い位置にあり、リスニングポイントに対する一次反射面に何らかの対策(吸音など)をしたほうがよさそうだな……と考えていた。実際の部屋を見透かされたかのような感覚だ。
さて、環境の改善方法として提案されたのは以下のようなもの。
・スピーカーを前後に動かして壁に近づけるか、壁から離す
・リスニングポイントをずらす
・スピーカーを上下に動かして高さを変える
・音の一次反射面に吸音材や拡散材を設置する
・ヘルムホルツ共鳴を利用した吸音材を設置する
まず、上の3つは200Hz以下のノッチに関する対応だろう。スピーカーを前後に動かすこと、リスニングポイントを動かすことは、部屋の水平方向の反射のコントロール。上下に動かすのは垂直(高さ)方向の反射のコントロール。どちらもできる範囲で試してみたものの、計測値が大きく動く結果は得られなかった。元より環境(スピーカー位置など)はあまり動かせない前提ではあったので、これは仕方ない。
残りの2つは吸音材を使った対応。予想はしていたが、さらによい環境を実現するには、この調整は避けられない。そこで、前々から気になっていたArtnovion(アートノビオン)の吸音パネルをお借りして試してみることにした。
必要な処理は、一次反射面である右側の壁に吸音/拡散パネルを設置すること、200Hz以下の吸音をできるパネルを適切な場所に設置すること。ヘルムホルツ共鳴を使った吸音材を提案されているが、要は効率的に低音を処理せよ、ということだろう。そのために借用したのは「Siena W Bass Trap」という低音用のパネルだ。
Artnovionの「Siena W Bass Trap」。パネル3枚と専用スタンドのセットが販売されており、市場想定価格は231,000円(税込)、表面はつるっとしたパネルで、吸音と拡散の効果を期待できる
吸音特性グラフがこちら。低域だけでなく全帯域をカバーしてくれる。今回ターゲットとしている100〜200Hzよりさらに下の帯域がメインターゲットではあるが、一次反射面の手当てと低域の吸音、双方の効果を期待しての起用だ
Artnovionの製品はバリエーションが非常に豊富。吸音・拡散のパターンが異なるだけでなく、テクスチャーの異なるさまざまな表面パネルを選べることも特徴で、部屋の雰囲気に合ったパネルをオーダーできる。せっかく買うならば、こういうパネルを、と考えていたのだ。
今回吸音したかったのは100〜110Hzあたりだが、そこも含めて効果のありそうないわゆるベーストラップ「Siena W Bass Trap」をお借りしている。言ってみればパッシブラジエーターのような構造で、振動膜の動きで狙った帯域の効率的な吸音を狙うものだ。
本来の使い方とはちょっと異なることは理解しつつも、まずは一次反射面にパネルを置いて試聴・計測をしてみることにした。
レポートで指摘されていたのは、間違いなく右側の壁による反射。リスニングポイントとの間が一次反射面であり、この影響が強く出すぎていたのだろう。まずは気になる場所に1枚だけパネルをセット
結果から言うと、この一次反射面への手当てが最も効果的だった。聴感上の雑味がなくなり、すっきりと聴けるので、より音量を上げたくなる。この時点でパネルを1枚以上購入することは確定した。そう書きたくなるほどの音質向上を実感できた。
なお、計測上は周波数特性的に大きな変化はなかったが、右chのレベル(音量)補正が「0」になった。ノッチは解決できなかったものの、左右間での不均衡は少し緩和できてるようだ。
次に、スピーカー背面にパネルを1枚ずつ設置。さらにどう変化するか確認してみることにした。こちらも音がクリアになる方向で、音の広がりがより明瞭になる。右側の壁にパネルを1枚置いたときほどの劇的な変化は感じられなかったのだが、やはり同様の方向性の効果を実感できた。
スピーカーの背面にもパネルを1枚ずつ設置。計測値の大きな変化は見られなかったが、聴感上は好ましい変化があった
Artnovionのパネルを自宅で触ってみてよくわかったのは、作りがしっかりしていること。吸音パネルを実際に手にとってみると意外とシンプルな構造だった、ということは珍しくないが、「Siena W Bass Trap」はメカニカルに吸音を試みるパネルであり、非常に重量もある。それなりの価格もやむなしと思わせる説得力を感じた。
もちろん、それは吸音性能があってこそ。さまざまな場所やパターンで試しても悪さをするようなことがなく、安心して使えそうだと思えたのだ。ルームチューニングのコンセプトさえ決まれば、購入して間違いなさそうという実感を得られたのは大きい。
そうしていろいろと試した結果、200Hz以下のノッチを改善するには主に垂直方向の吸音が必要なのかも……と考えた。が、「Siena W Bass Trap」はかなり重量もあるため、天井への仮設置などは難しい。もっと軽量なヘルムホルツ共鳴を利用したパネルを試してみるか、Artnovion本国から適当な製品を取り寄せるか……むしろ悩みが深まった感じもあるが、どれを購入するか悩みつつ、改善を試みる、これ自体が趣味の楽しみなのでじっくりとやっていけばよいのだ。今回の記事はここまでだが、趣味としての手入れは終わらないだろう。
それはそれとして、(ほぼ)毎日のリスニングが非常に充実している、それが何より重要なことだ。考えに考えて選んだスピーカーがいつものデスクトップに鎮座していて、そこに座る度に「おお、今日もいい佇まいだな」と思う。実はそれだけでも結構満足しているのだが、音を出す度に「おお、やっぱりいい音だな」と思うのだ。