初めてのアナログレコードプレーヤーにぴったりなFiiO(フィーオ)の「TT11」をレビュー
昨今、若者も興味津々というアナログレコードとカセットテーププレーヤー。昭和レトロブームにも乗って、雑貨店やレコード店でもよく見かけるようになった。もっとも、キュートだけれど肝心の使い勝手や音質が価格に見合っているか疑問と思われるものもある。
そこで今回は、ヘッドホンアンプやD/Aコンバーター(DAC)など、コストパフォーマンスが高いオーディオ製品を次々にリリースして勢いに乗る中国のオーディオメーカーFiiO(フィーオ)のアナログレコードプレーヤーとカセットテーププレーヤーを実際に使ってみた。いずれも、初めて使う人に対して真剣に向き合ってくれる、基礎体力がしっかりしたハイコストパフォーマンスな製品だ。
「TT11」はBluetoothにも対応するベルトドライブ式アナログレコードプレーヤー。アルミ合金製のトーンアームにオーディオテクニカ製MM型カートリッジ「AT3600L」が付属する
フォノイコライザーを内蔵するので、音声出力をアクティブ(アンプ内蔵)スピーカーに直接接続してもOK。内蔵フォノイコライザーをバイパスすることもできる
今回取り上げる「TT11」は、2025年に発売された「TT13」の弟分。異なるのは、オペアンプやBluetoothチップ、ベースシャーシやアームの素材、DC電源の有無など細かい仕様部分で、基本的には同じ回路設計を踏襲しており、搭載するカートリッジも同じだ。
3kg強と軽量ながら、テーブルに置くとピタッと貼り付くように安定する。拙宅のLINN 「LP12」(※編注:スコットランドLINNの1973年から続く定番の高級プレーヤー)と並べて置いても、オーディオに詳しくない人が遠目から両者の価格差を当てるのは難しいだろう。
左が「TT11」で、右が筆者所有のLINN「LP12」
セットアップは簡単。まずは本体を平坦で頑丈な場所に設置する。プラッターと呼ばれるレコードを載せる回転盤はアルミニウム合金製。それをスピンドルと呼ばれる回転軸に差し込み、隙間からベルトを指でのばして、モーターの駆動部に引っ掛ける。あとは電源ケーブルと、RCAオーディオケーブル(アース付き)をアンプにつなげばセットアップ完了だ。もしBluetoothしか使わないなら、電源をつなぐだけでOK。
ベルトドライブ方式なので、プラッターのゴムベルトをモーター駆動部に引っ掛ける必要がある。おそらく初心者が設置にあたって戸惑うのはこの点ぐらい
あとは出荷時に設定済みなので、基本的に難しい調整は必要ないし、レコードを載せ
てスタートボタンを押すだけで再生が始まる。もっとも、レコード針を別のものに交換可能など、レコードプレーヤーにすでに親しんでいる人のためにマニュアルで調整できるようになっている。初心者向けとはいえ、これひとつでベテランと同じひととおりの経験が積めるようになっている。これについては後述する。
端子部をよく見ると、内蔵フォノイコライザーを使うか外部のフォノイコライザーを使うかを選ぶスイッチ、再生ディスクのサイズ(12インチと7インチ)を選ぶトグルスイッチがある。USB端子はファームアップ用だ。なお、メガネ型電源ケーブルとRCAオーディオケーブルは付属していた
「TT11」はフォノイコライザーを内蔵しているが、まずは、背面スイッチを「PHONO」にして、プリメインアンプのPHONO端子とつなぎ(プリメインアンプ側のフォノイコライザーを使って)、一般的なレコードプレーヤーとして使ってみよう。搭載カートリッジがMM型なので、拙宅のプリメインアンプAccustic Arts「POWER I-MK3」のMM入力端子とつなぐ。
本体の電源ボタンを長押しすると、イルミネーションの点灯とともに電源が入る。このあたりの演出はいかにもFiiOらしい。このとき、アンプのボリュームは絞っておこう。
カートリッジ(針)はオーディオテクニカの「AT3600L」が付属している。「AT3600L」の適正針圧(標準)は3.5g
レコード針の先をクリーニングするには針下のクリアランスが少ないのはご愛敬。カートリッジ(針)は、オーディオテクニカ製レコードプレーヤーの同価格帯エントリーラインに使われているものと同等のいわゆるMM型(同社の言うVM型)「AT3600L」なので安心だ。
プラッターにRADWIMPSのLP「RADWIMPS 4〜おかずのごはん〜」を載せ、右端の「START/STOP」ボタンを押すと、ジーッとトーンアームが持ち上がって、ジーッとレコードの端に移動。動作は国産のレコードプレーヤーよりも少しゆっくりかもしれない。針が最内周まで辿り着いて演奏が終わると、アームは自動的に元の位置までジーッと言いながら戻る。完全フルオートだ。
肝心のサウンドは、生々しいボーカルがきちんとセンターに定位。左右のバランスも良好だ。オーディオテクニカらしい端正なサウンドを基調としながらも、時としてベースが太めにグルーヴするバンドサウンドが映える味わいで、MM型のよさが出ている。また、ターンテーブルの回転制御もなかなか安定していて、音揺れを感じることは一切なかった。
ヨルシカの45回転LP「創作」では、ボーカルsuisの斜め後ろにn-bunaがほのかにコーラスを被せてくるさま、特に「春泥棒」でリードギターのピッキングが印象的なイントロを経てバックが厚みを増し花びら舞うようなエモーショナルな盛り上がり、刹那的な若者の心情まで鮮やかに再現してくれた。
次に、背面スイッチを「LINE」に切り換え、プリメインアンプ側の入力も「LINE」入力につなぎ直す。つまり、「TT11」内蔵のフォノイコライザーを使って再生する。
拙宅のプリメインアンプ内蔵フォノイコライザーと比べると、FiiOらしい明瞭なクッキリ志向のサウンド。時折サ行がキツく出るのは致し方ないところだが、ギターのピッキングワークやボーカルはむしろ聞き取りやすくなり、ピアノのラインが目立つことからみて、得意な音域が少し高くなったという印象だ。
「TT11」はBluetoothイヤホン・ヘッドホンやスピーカーと無線で接続できる。対応コーデックはSBCのみ
続いて、主要な使い方と思われるBluetooth接続を試す。家で使っているFiiOのワイヤレスヘッドホン「Snowsky ANYTIME」をつないでみた。
ヘッドホンからスクラッチノイズが聞こえるのは新鮮だが、ボーカルと背後のバンドサウンドのバランスはスピーカーで聞いたときと変わらず、むしろ左右の定位感は明確でヘッドホンならでは。これもまた一興、十分に音楽を楽しめた。
昔ならミニコンポから始めなければならなかったところ、5,000円程度のヘッドホンと3万円弱のレコードプレーヤーで音楽を始められるなんて、素直にレコードを聴いてみたいという今どきの若者の味方だと思う。
「TT11」の「Bluetooth/PAIRING」ボタンを長押しして、ワイヤレスヘッドホンを接続。接続が確立すると、インジケーターが点滅から点灯になる
アナログレコードプレーヤーは手間を掛けて追い込むほどみるみるよい音になっていく。そういう趣味に備えた機能も、この「TT11」はしっかりと持っている。
まず、カートリッジ交換が可能なのは大きい。付属しているのは万能タイプの優等生なカートリッジなので、好みに応じて付け替えてみるのもよい。
また、次のステップとして、内蔵フォノイコライザーをバイパスして、外部フォノイコライザーを使いたい。それによって、より高い左右のセパレーション、腰の据わったベースライン、アコースティック楽器の響きの余韻といった、アナログの洗練された世界が見えてくるだろう。
マニュアルでの針圧調整に対応するほか、針が内側に引っ張られるのをキャンセルするアンチスケーティング機能も。なお、本体底に「33」「45」それぞれの回転速度微調整穴があり、マイナスドライバーでピッチ微調整が可能
かつての携帯型プレーヤーのような小ねじも見当たらず、スッキリと仕上げられた「CP13」。1800mAhのリチウムイオンバッテリーを内蔵しており、連続再生時間は公称で最大13時間。充電しながらの連続再生も可能だ
さらに、同じFiiOの“アナログ”プレーヤーであるカセットテーププレーヤー「CP13」もお借りしてみた。
この「CP13」は、FiiOが現在持てる技術とパーツで提案するポータブルカセットテーププレーヤーだ。一般的なカセットテーププレーヤーより大型の純銅製フライホイールと高電圧の駆動モーターを採用したことにより安定したテープ走行を目指したほか、外部干渉に強く耐摩耗性にすぐれた磁気ヘッド、バランス回路設計による高S/Nと低歪み化を図るなど、徹底した高音質志向なのだ。回路も完全アナログで、オペアンプなど部品採用にもこだわりを持って作られている。単なるファッション志向ではない。
それもあってか、EQなども内蔵されていない。また、対応するのはTYPE1(ノーマルポジション)のみ。「Dolby B」や「Dolby C」といったノイズリダクションに合わせた機能もないので、メタルテープや「Dolby C」などで収録されたテープを再生すると、ハイ上がりなサウンドになる。
カセットテープ自体の生産が下火の今となっては致し方ない。それよりも、語学学習やコーラスや楽器の練習ですらデジタルレコーダーが使われる時代に、当時のカセットテープの印象を生真面目に高品位再生できるのはうれしい。
本体はアルミニウム合金。カセットテープケース2個を重ねたくらいのサイズ感
カセットといえば、拙宅では当時新品で購入して以来、三重の友人のメンテナンスも経てソニー「TC-KA7ES」が現役である。ラジオの録音テープのほか、ソニーに就職した友人Kが昭和61年にソニー「TC-K555ES」でCDからダビングしてくれた「NON-STOPPER/荻野目洋子」など、たまに80年代のテープを聴き直す。ノスタルジーというよりも、当時のダビング環境のよさに感心して初心に返ることができるし、配信とは違った中低音しっかり目のサウンドが耳馴染みよく、落ち着いて聴けるからだ。
もっとも、手元に現存するテープはほとんどがメタルテープの「Dolby C」収録。数少ないノーマルテープを「TC-KA7ES」で聴き直した後、同テープを「CP13」で再生してみた。
現役で稼働中のソニー「TC-KA7ES」(1994年発売)
3.5mmステレオミニ出力を使い、プリメインアンプに接続すると……
するとどうだろう、さきほど「TT11」の内蔵フォノイコライザーで聴いたサウンドと同様のテイストなのだ。レトロというと暖かくて生ぬるい印象を抱きがちだが、むしろ今風の明瞭サウンドだ。
左右の定位はきっちりしており、広がりもある。曲間の無音部分の“サー”というヒスノイズも上手く抑えられているうえ、何より走行安定性がすばらしく回転ムラをまったく感じない。
平面磁界駆動型ヘッドホンであるオーデジーの「MM-100」を鳴らしてみた
本来想定しているであろうヘッドホン接続も試す。接続は3.5mmステレオミニ(アンバランス)のみ。必ずしも鳴らしやすいとは言えないオーデジーの「MM-100」をつないだのだが、十分な音量をとれるし、生々しいボーカルが印象的。ギターの余韻も淀みなく、ワウフラッターは一切感じない。背景のヒスノイズがなければわからないほど、デジタルプレーヤーのような精度で再生できていることがわかる。
これがヒットしてくれたら、10万円ぐらいで録音もできてメタルテープ対応、ドルビーNR互換機だって作れそう!? フィルム写真のように若者がポータブルカセットプレーヤーを持ち歩く世界も見てみたいものだ。ちなみに私の最初のオーディオ機器は当時約6万円のソニー「WM-D6」(ウォークマンプロフェッショナル)だった。
レトロをオーディオにおいて語ると、アナログ特有のノイズや回転ムラによる音の揺れを思い浮かべ、その「ふわふわした曖昧なところがなんだか心地よくていいんだよね」みたいな話になることがある。また、掃除の手間や再生にいたる面倒な儀式が「心理的な余裕や贅沢な時間の過ごし方につながる」みたいに語られることもある。
確かに、曲がスキップできないためアルバム単位でじっくり音楽を聴くひとときになるとか、A面とB面が特集のように異なるテイストを発揮しているのがわかる、というのはある。でもそれは、ネットワークオーディオにおいても、いくらでもプレイリスト作成によって実現できることだ。
その点FiiOは、おそらく考え方が違って、シンプルかつ合理的だと思う。旧来のアナログレコードなりカセットテープに一定の需要があるという風潮が開発のきっかけにあるとはいえ、フィジカルデバイスを所有することで生まれる安心感とよろこび、それらに込められた作品世界を、今持てる技術と部品を駆使して最大のコストパフォーマンスで引き出そうとしているだけだと。
だから、今回聴いた2つの製品のサウンドからはウォームな色付けや緩さは感じなかった。むしろ、受ける印象は同社の最新USB DAC/ヘッドホンアンプ「K」シリーズを聴いたときと同じだ。そこがブームに乗った見せかけだけの復刻レトロ商品とは決定的に違うところだ。初めてレコードプレーヤーやカセットテーププレーヤーを使ってみたい人に対してもきちんと向き合い、基本をしっかり伝えてよさを理解してもらいたい、というオーディオメーカーの矜持を感じた。