ハイレゾ対応の超高級ポータブルプレーヤーとして話題を集めている、Astell&Kernの「AK380」。国内での発売日や店頭予想売価についてのアナウンスはまだないが、『「Astell&Kern AK380」発表! 最高峰のハイレゾポータブルプレーヤー!』でお伝えしたとおり、2014年2月発売の「AK240」の上位モデルとなる、「AKシリーズ」の新しいフラッグシップモデルだ。「どんなプレーヤーなのか、どんな音なのか」を知りたいという方も多いことだろう。今回、短時間ではあるが、AK380の量産前のプロダクトサンプルを試すことができた。本体の外観写真や機能の特徴、音質についてレポートしたい。
AK380 256GB メテオリックチタン AK380-256GB-MT
まずは、AK380のルックスからみていこう。
外観デザインは、多少の違いはあるもののAK240と似た印象だ。AK380では、ボディサイズが79.8(幅)×112.4(高さ)×17.5mm(厚さ)で重量218gと、AK240に比べてひと回り大きくなっている。ボディの素材はジュラルミン(航空機でも用いられる丈夫なアルミ合金)で、AK240と同等だ。背面は、カーボンファイバープレートのコーティングに強化ガラスのゴリラガラスを合わせたものになっている。背面については、AK240のボディ素材をステンレススチールに変更した「AK240 SS」と同じ構成だ。
実際持ってみると、ずっしりとした重みを感じる。とはいえ、AK380の重さを比較してみると、AK240 SS(275g)>AK380(218g)>AK240(185g)となり、AK240 SSと比べて約57g軽い。本体の握りやすさについては、手に置いてみるとやや大きく感じるものの、しっかり握れるくらいには収まっている。ただ、揺れの大きい電車内などで立ちながら操作するときは、落下に注意が必要かもしれない。
ちなみに、ボディを大型化したことで設計にゆとりをもてたのもポイントで、音質のよさにつながっているとのこと。
AK380のユーザーインターフェイスの大きな特徴は、ホームボタンがメタルタッチキーになったこと。メタルタッチキーは液晶画面下にある白いポッチ。バックやポケットに入れた時の誤操作を防ぐために、少し強めに押す必要がある
上面には、電源ボタン、2.5mm4極バランスアウト、ステレオミニアウト(アンバランス)が配置されている
底面には、microUSBコネクタ、専用の周辺機器用4ピンがレイアウトされている
左側面に配置された、再生/一時停止ボタン、曲送り、曲戻しボタン
右側面には、ボリュームコントロールとmicroSDXCカードスロット(最大容量128GB)が備えられている
背面は、カーボンファイバープレートのコーティングに強化ガラスのゴリラガラスを合わせたものになっている
次に、AK380が搭載するDACを見ていこう。AKシリーズはこれまで、シーラス・ロジックの「CS4398」やWolfsonの「WM8740」といった、実績のある成熟したDACが使われることが多かった。だが、AK380が採用するのは、2014年5月に発表された旭化成エレクトロニクスの32bit処理対応の新型DAC「AK4490」だ。PCM系は最大384kHz/32bit、DSDは5.2MHzまでネイティブで対応できる。AK240は、一部の音源でダウンコバート再生が必要だったが、AK380ではそういう心配はなくなった。
また、徹底したノイズ対策を施し、強ジッター耐性を備えているのもポイント。S/N比は120dBでTHD+Nは-120dB。業界トップクラスのS/N比と低歪な設計に加えて、ノイズの立ち上がりが200kHzまでフラットという、帯域外ノイズを大幅に低減するなど、DACレベルでノイズ対策が施されている。
高音質化へのアプローチはこれだけではない。D/A変換の精度を左右するクロックには、femto(フェムト)秒クラスに対応した高精度クロックを搭載。フェムトとは10の-15乗(1000兆分の1)を示す言葉で、AK380では200フェムト秒のクオリティーを持つVCXO(電圧制御式水晶発振器)が採用されているという。VCXOはCrystal(Xtall)のカテゴリーの中では比較的品質の高いものだ。高級な据え置きオーディオでも採用されるクラスのものを取り入れることにより、さらにジッターを減少させている。
なお、DACは左右各チャンネルに1基ずつ計2基配置したデュアルモノーラル構成となっている。
AK380は、音の補正機能も大幅に強化されている。大きなトピックはイコライザー(EQ)だ。AK240世代にはグラフィックEQ(以下、GEQ)が用いられてきたが、AK380では、さらに細かく調整できるパラメトリックEQ(以下、PEQ)が採用されている。
AK380のPEQでは、30Hz〜18kHzの範囲を20分割している。その分割ポイント(周波数)のゲインを上げ下げできるほか、Q値の設定も可能。Q値は、基準となる周波数から中心にその範囲を広げたり狭めたりするかを設定できる数値で、AK240にはないパラメーターのひとつだ。たとえば、Q値を低くすると基準となる周波数を中心に広い範囲でEQを掛けられるようになり、逆にQ値を高くするとその範囲を絞れるようになる。PEQを使いこなせるようになると、さらに自分好みの音に追い込むことができるわけだ。
なおAK240のGEQでは、調整できる周波数範囲は30Hz〜16kHzの10バンドになっている。AK380の半分だ。また、高音域に関連する8kHzより上は、AK240が16kHz(倍音成分や空気感などに影響する)のみなのに対し、AK380が12kHz/14kHz/18kHzの3ポイントを用意する。AK240に比べてAK380では、高音部を調整できるポイント数が増えているため、より細かくカスタマイズできるようになっているのだ。もっとも、低音から中高音もほぼ倍に増えているためこちらも調整範囲が大幅に広がったと言えるだろう。
設定したPEQはプロファイルとして保存可能。お好みの設定を記録して、手軽に切り替えられるようになっている。
AK380では、設定できる周波数帯が2倍に増え、ゲインの調整も0.1dB刻みになった。Q値の設定も追加された
PEQのQ値の設定イメージ。Q値を低くすると基準となる周波数を中心に広い範囲でEQを掛けられるようになり、逆にQ値を高くするとその範囲を絞れるようになる
PEQの画面。20ポイントの周波数ごとにゲインを上げたり下げたり調整できる。ゲインは0.1ステップずつで増減できる
PEQの画面。20ポイントの周波数ごとにゲインを上げたり下げたり調整できる。ゲインは0.1ステップずつで増減できる
Q値の画面
グラフィカルな表示になっているため、感覚的に扱える
このほか、AK380では、DLNAに対応することで使い勝手も大幅に改善されている。DLANアプリを使って、スマホから本体の操作ができるうえ、PCやNASに保存している楽曲データも再生できる。また、専用のCDリッピングドライブやXLR出力に対応したドッグ専用の周辺機器を用意するなど、自宅のオーディオシステムに組み込めるような拡張性も備わっている。
AK380のプロダクトサンプルを聴いてみた印象をお伝えしよう。試聴した時間はおよそ8時間。使用したイヤホン・ヘッドホンは、カナル型イヤホン「Answer Truth Balanced」と、開放型ヘッドホン「AKG Q701」となる。
一聴してわかるのが、AK380は、音数、S/N、音場、定位感のいずれもが、ポータブルプレーヤーとは思えないほどのハイクオリティであることだ。
S/Nが高いこともあり、音像はクッキリとしつつシャープ。輪郭がはっきりとした音は聴き疲れしやすいと言われているが、適度なまとまり感があるためそういうこともない。しっとりした曲を聴けば、その空気感が感じられるし、いっぽうで激しい曲調を聴くとていねいに音を拾いつつも勢いを損なわず音を出してくれる。楽曲のノリをしっかり再現しくれるのだ
また、生楽器やアナログシンセサイザーのわずかな余韻もしっかり描き出してくれる。これは筆者の好みの問題なのかもしれないが、ゆったりとしたウッドベースの低い響きが少しもの足りなく感じたが、これまで埋もれていたり、平坦に聞こえていた部分が、表情豊かに感じられた。AKシリーズのコンセプトである原音忠実性という路線を踏襲し、さらに磨きをかけた音であることを実感できる。
北米での販売価格は3499ドル(約42万円)と言われているため、国内でも40万円オーバーは確実と見られるAK380だが、ぜひ一度その音を体験してみてほしい。