ハイレゾウォークマン入門機の最新モデル「NW-A30」シリーズ(以下、A30シリーズ)がついに発売となった。発売直前に一次出荷停止になるなどのトラブルがあったが、10月29日に無事に発売日を迎えることができ、価格.comの売れ筋ランキングですでに1位を獲得するほどの人気モデルとなっている(16GBモデル/2016年11月1日現在)。前世代の「NW-A20」シリーズ(以下、A20シリーズ)も、手軽な価格で入手できるハイレゾ入門機として高い人気を得ていたが、新たに登場したA30シリーズは、タッチパネルの搭載で操作性が刷新されたほか、フルデジタルアンプ「S-Master HX」を強化し、音質をさらにブラッシュアップするなど、A20シリーズから多くの進化を遂げている。A30シリーズの実機を1週間ほど使用する機会を得たので、従来モデルのA20シリーズと比較しながら、A30シリーズの実力をチェックしてみた。
2014年に投入されたハイレゾウォークマン入門機Aシリーズが、2年ぶりのフルモデルチンジを果たした。A20シリーズからの進化点については、製品が発表された10月4日のレポート記事にくわしく書いているのでそちらを参照していただきたいが、進化点をざっくりとまとめると以下のような感じだ。
(1) フロント操作はタッチパネルに刷新。本体が細身の縦長デザインからやや横幅のある長方形デザインにリニューアル
(2) UIもタッチパネルに最適化され、機能もよりオーディオに特化
(3) フルデジタルアンプ「S-Master HX」を強化するなど、音質をさらにブラッシュアップ。DSDにも対応
(3)については、後述する音質インプレッションで触れるとして、まずは(1)の本体デザインと(2)の操作性についてくわしく見ていこう。
まず本体デザインについてから。A30シリーズは、画面サイズが従来モデルA20シリーズの2.2インチから3.1インチに拡大し、前面キー操作からタッチパネル操作へと変わったことで、これまでのA20シリーズのような細身の縦長デザインから大きく変わっている。本体サイズは54.8(幅)×97.3(高さ)×10.7(厚さ)mmで、A20シリーズに比べると、横幅と厚みが増し、高さはギュッと縮まった感じだ。
A30シリーズ(左)とA20シリーズの比較。画面サイズが拡大し、解像度が向上(320×240ドット⇒800×480ドット)したほか、液晶パネルのクオリティも上がっており、ジャケット表示が従来よりもかなりキレイになった
いっぽうで重さはというと、A20シリーズが66gなのに対し、A30シリーズは98gと1.5倍近い重さになっている。コンパクトな筺体なだけに、手に持ってみると中身がぎっしりと詰まっているような感じを受ける。A20シリーズのあの薄さ・軽さが好きというユーザーからすると、A30シリーズのデザインは若干戸惑うかもしれないが、タッチパネル搭載のオーディオプレーヤーとしてはかなりコンパクトにまとまっているのは間違いない。
タッチパネル搭載によってフロント部分からなくなった物理ボタンについては、本体右側面に集約された。ボタンの凹凸がしっかりしているので、ポケットの中に入れて操作する際もなかなか快適だ。
外装については、A30シリーズもA20シリーズと同じ樹脂製だが、ブラスト加工が施されたことで、従来よりも高級感が増している。A20シリーズは薄くて軽い半面、手に持ってみると、樹脂製のボディがややチープに感じられたが、A30シリーズではこの点はだいぶ改善されている印象を受けた。
A30シリーズはビビッドなカラーリングのモデルが多いが、外装にブラスト加工を施したことで、シックで落ち着いたデザインに仕上がっている。中身もしっかりと詰まっている感じで、値段の割になかなか高級感がある
本体デザインがこれだけ大きく変わったが、唯一変わっていない部分がある。それは、パソコンとの接続に使うWMポートだ。先に発表されたフラグシップモデルの「WM1」シリーズを含め、ウォークマンではいまだにWMポートが採用されている。ウォークマンはUSB DAC機能があるわけでもないし、バッテリーライフも比較的長いので、ケーブルを接続する機会は楽曲転送をするときくらいだが、専用ケーブルを使わなければいけないのはユーザーにとってはやっぱり煩わしい。そろそろWMポートをやめるという判断をしてもいいのではないかと個人的には思ってしまった。
PCとの接続用インターフェイスは、ウォークマンではおなじみのWMポートだ
続いては、ユーザーインターフェイスについて見ていこう。A30シリーズは、フロント操作がタッチパネルになったということもあり、WM1シリーズと同じく、音楽再生画面を中心に、上下左右にフリックするだけで、再生リストやブックマーク、音質設定など、各種画面にアクセスできるというタッチパネル操作に最適化した新しいユーザーインターフェイスに切り替わっている。メニューのデザインについては、これまでのA20シリーズをベースになっているようで、操作が特段難しいというところはなく、ボタンでポチポチと操作していたA20シリーズに比べれば、“UIのわかりやすさ”は格段に向上した。
あえて“操作性”と書かずに“UIのわかりやすさ”と書いたとは、タッチパネル操作に最適化した割に、タッチパネルのレスポンスがややもっさりしているためだ。メニューを切り替えた際のレスポンスは、ワンテンポ遅れるような感じで、お世辞にもサクサク快適に動作しているとは言いにくい。使用用途の異なるスマートフォンと比較するのはナンセンスな気もするが、スマートフォンと同じようなヌルヌルの操作性を期待していると、かなり拍子抜けするかもしれない。とはいえ、これまでのA20シリーズと比べると、タッチパネルによるUIになったことで直感的に操作できるようになったのは確かだ。
A30シリーズの楽曲再生画面。基本的なデザインはA20シリーズから引き継いでいる。シークバーはタッチ操作でコントロール可能だ
楽曲再生画面を下からスワイプすると、イコライザーなどの音質設定画面に遷移する。イコライザーもタッチ操作で細かな調整が可能だ
最後に機能面についても軽く触れておこう。A30シリーズは、よりオーディオに特化するということで、A20シリーズに搭載されていた動画や写真の再生機能がごっそりと削除されている。画面の解像度が320×240ドットから800×480ドットに拡大したとはいえ、この解像度に合わせたコンテンツを用意する手間や、再生することによるバッテリー消費の増加等を考えれば、この英断は歓迎すべきところだろう。
A30シリーズ(左)とA20シリーズ(右)のホーム画面。A20シリーズにあった動画や写真の再生機能がごっそりとなくなっているのがわかるはずだ
機能が一部削除されたいっぽうで、語学学習機能の復活や、ボリューム調整がさらに細かくできるようになるなどの細かなブラッシュアップもあった。特にボリューム調整機能は、0から120の121段階になり、A20シリーズに比べて格段に使いやすくなった。プレイリスト機能が内蔵メモリーとSDメモリーカードスロットの曲で混在して作れない点など、改善する余地はまだ残っているが、単純にオーディオプレーヤーとしての使い勝手は、着実に進化していると言えるだろう。
ボリューム調整が0〜120の121段階に強化された
ここからは、オーディオプレーヤーの要ともいえる音質についてみていこう。今回は、ハイレゾ対応のウォークマンということもあり、試聴用のイヤホンには、ウォークマン専用のハイレゾ対応デジタルノイズキャンセリングイヤホン「h.ear in MDR-NW750N」を組み合わせて試聴している。試聴したのはハイレゾ音源が中心だ。なお、h.ear in MDR-NW750Nと組み合わせて利用できるノイズキャンセリング機能、CD音源やMP3など圧縮音源をアップスケーリングし、サンプリング周波数とビットレートを最大96kHz/24bitまで拡張する「DSEE HX」についてはOFFにした状態で試聴している。
イヤホン付属モデルに付いてくるウォークマン専用デジタルノイズキャンセリングイヤホンMDR-NW750Nを組み合わせて試聴した
A20シリーズで試聴音源を一通り聴き、その後A30シリーズを聴いてみたのだが、同じイヤホンを組み合わせているのに、A20シリーズとここまで差があるのかと正直驚いてしまった。これまで、フルデジタルアンプのS-Master HXを搭載してきたウォークマン入門機はいくつか聴いてきたが、A20シリーズも含め、どれもフルデジタルっぽい平面的な鳴り方をする印象があった。その点、A30シリーズはこれまでとはだいぶ異なり、かなり立体的な鳴り方をする。マイケル・ジャクソンの「Thriller」(176.4kHz/24bit)の冒頭部分で扉が開く音があるが、A20シリーズを聴いたあとにA30シリーズを聴くと、奥行き感のある立体的な音の表現にかなり鳥肌がたった。
ボーカルも、奥行き表現が豊かになり、楽器とのコントラストがはっきりしたことで、ベールを1枚はいだようにクリアで聴きとりやすくなった印象を受けた。アコースティックな音源だと、その差はさらに顕著に感じられる。Aimer「Live at anywhere」の「冬のダイヤモンド -Live ver.-」(96.0kHz/24bit)を聴いてみると、A20シリーズでは線がやや細く、ボーカルの息づかいやピアノの響きが乾いた感じに聴こえるのに対し、A30シリーズはボーカルの息づかいや声の響きがよりリアルに感じられた。
ヘッドホン出力や電源周りをA20シリーズから強化したこともあり、出音もかなりパワフルになっている。音質アップのために、S-Master HXの改良だけでなく、回路周りも大きく見直したというが、このあたりもいい意味で影響しているのだろう。
ここまで従来機種のA20シリーズと比較しながら、A30シリーズの使い勝手や音質についてチェックしてきたが、本体デザインやタッチパネルを使った操作性といった部分ももちろんだが、とにかく音質面での進化が素晴らしかった。基本的な音の方向性という点では、A20シリーズと同じベクトルなのだが、どのジャンルの音楽を聴いてもこれまでよりもワンランク上の音で気持ちよく楽しめた。スマートフォンから専用のオーディオプレーヤーにステップアップし、ハイレゾデビューしてみようと考えている新規ユーザーの人はもちろんのこと、ウォークマンA20シリーズを持っている既存のユーザーにも、音質アップの恩恵は十分にありそう。ハイレゾ対応オーディオプレーヤーの入門機として、今後も大きな注目を集めそうだ。
PC・家電・カメラからゲーム・ホビー・サービスまで、興味のあることは自分自身で徹底的に調べないと気がすまないオタク系男子です。PC・家電・カメラからゲーム・ホビー・サービスまで、興味のあることは自分自身で徹底的に調べないと気がすまないオタク系男子です。最近はもっぱらカスタムIEMに散財してます。