自動車ライターですが、運転技術に課題が多いのが悩みのマリオ高野です。
自動車ライターでなくても、運転のうまい/ヘタについての悩みを抱えている人は多いのではないでしょうか?
そこで、運転技術向上に役立つ運転トレーニングツールとして注目される、「Gドライブ トレーニングツール G-bowl ジー・ボウル(以下G-bowl)」を試してみることにしました。
ピンポン球(左)、ダンパー式ピンポン球(右)、ゴルフ練習用ボール(中央・青)の3つのボールが用意され、それぞれ異なる感度で3段階のトレーニングができます
底の浅いすり鉢状のお盆の上に小さなボールを乗せただけという、実にシンプルなものですが、結論を先にいうと、自分の運転の雑な部分を自覚するのに極めて有効なツールでした。
ハンドル操作はもちろん、アクセルやブレーキの操作によって発生するクルマの「G(加速度)」の変化量がボールの動きに即座に反映されるので、自分の運転がていねいなのか雑なのかがすぐにわかります。
これはダンパー式ピンポン球。ダンピングが効くので感度は鈍く、難易度としては低くなります
これはゴルフ練習用のボール。3種類の中では中間的な感度です
これはピンポン球。もっとも応答感度が高く、難易度も高くなります
メーカーとしては「一般公道以外のクローズドされた場所での練習に使用することをオススメします」とありますが、運転しながら「G-bowl」を注視しない、置き場所に気をつけるなど、交通ルールにのっとって安全に配慮すれば、一般道でも使用できます。
昔からマンガなどでよくみられる「コップの水をこぼさないようにして運転する」のと同じ感覚で、「G-bowl」に置いたボールをいかにして中心付近に留められるか意識しながら運転をすると、おのずとクルマの動きはスムーズに。
全方向に対して「0.4G」を超えるとボールが飛び出してしまうようにできているのですが、この「0.4G」というのは絶妙な設定数値です。常に「0.4G」を超える「G」を出さなければクルマの動きはスムーズさを失わず、同乗者にとっても快適なはずです。
0.4Gを超えるとボールが車内に転がってしまうので、ボールが飛び出さないよう「G-bowl」よりもやや大きめの容器に入れるか、「G-bowl」の縁に紙やテープを巻くなどの工夫が必要となります
設置場所は、助手席か後席の足元のフロアがよいでしょう。テープか滑り止めマットなどで動かないように設置してください。筆者は助手席の床に設置して使用しています
運転中に「G-bowl」に置いたボールを凝視してはいけませんが、洗面器などの「G-bowl」からボールが飛び出すのを防ぐ容器を敷いて使えば、ボールがはみ出すと音でわかるので、目線を移動させることなく使えます。同乗者にチェックしてもらいながら走るか、固定カメラで動画を撮影し、あとでチェックするのもいいでしょう。本品の説明においても、トレイなど下敷きを用意することを推奨しています。
設置が完了したら、運転をスタートします。今回はGのかかりやすい山坂道でテストしてみました。
加減速とステアリング操作をスムーズに行わないと上手に走れません
市街地でも練習できますが、曲がりくねった峠道で使うともっとも効果的です。0.4Gを超えない範囲で峠を走るのはなかなか難しく、矯正効果はかなり高いでしょう。サーキット走行で成果を試すのが楽しみです
アクセルを踏むと発生するのは加速G、ブレーキ時に発生するのは減速G、操舵時には左右それぞれの方向にGが発生します
同乗者による撮影。筆者の運転で、ときに0.4を超えるGが発生してしまいました
ていねいに扱っているつもりでも、峠道では意外と簡単に0.4Gを超えてしまうもの。やがて、0.4GというGがどの程度のGなのか、体で覚えることができるようになります
3つのボールを使い、山坂道を走った様子を動画でも撮影しました。それぞれの反応速度の違いがわかると思います。揺れが激しいので、酔いやすい方はご注意ください。
ツールとしてあまりにもシンプルな内容なので、約9000円という価格が割高に思えるのが正直なところながら、使えば使うほど緻密に計算された設計だと感心しました。
また、付属の説明書には運転トレーニングのやり方や活用法についてかなり詳細に説明されており、「Gをコントロールすること」について深く理解できます。ドラテク向上意識の高い人には読み応えがある内容といえるでしょう。
同乗者が酔いやすかったり、運転が荒いと指摘されたりすることが多い人は、この「G-bowl」を使って自分の運転の雑さを自覚し、矯正してみてはいかがでしょうか?
同乗者や、三脚使用による動画撮影などによりチェックをすると、自分の運転はどの方向へのGが強く出てしまう傾向があるのか分析できます
自分の運転を客観的、かつ明確に評価することができるので、「自分の運転は問題がない」と思っている人も試してみる価値は高いと思います。
スマホやタブレット向けのアプリでも同様のものがありますが、個人的には、物理的にコントロールする感覚を養うには、物体版のほうがより効果的だと思いました。
クルマの運転で「急」のつく操作はよくない。昔からわかりきっているはずのことですが、「G-bowl」を使うと、それをあらためて実感できるので、運転のベテランにとっても有意義な結果が得られると思いました
筆者の場合、運転技術における具体的な問題点として「手アンダーが酷(ひど)い」というテーマを抱えています。
「手アンダー」とは何かといいますと……?
カーブを曲がる際、遠心力が強く働いてクルマがカーブの外側へ膨らむ軌跡を描こうとする状態を「アンダーステア」といいます。これとは逆に、カーブの内側へ巻き込むような動きを「オーバーステア」と呼びますが、どちらかというと「アンダーステア」のほうが一般的なドライバーでも制御しやすく、物理的にも安定性を保ちやすいので、どんなクルマでも基本的には「アンダーステア」の方向に仕立てられています。
その度合いは車種によってさまざまで、たとえば、真っすぐは気持ちよくビシッと走るけれど、カーブでハンドルを切ってもあまり曲がろうとしない特性のクルマに対しては「このクルマはアンダーが強い」などと評価したりします。クルマによって、アンダーステアの強弱の違いが見られるわけなのですが、そういったクルマの特性とは別に、運転の仕方によってもアンダーステアの強弱は変わります。
「スピードの出しすぎでカーブを曲がりきれなかった」など、ドライバーの運転の仕方が悪いせいでアンダーステアが極端に強くなってしまうことを「手アンダー」もしくは「腕アンダー」と称します。スピードを出しすぎていなくても、ハンドルを急激、または過度に多く回したりしてもアンダーステアは強くなりますが、そのように「ドライバーの運転操作を起因とするアンダーステア」のことを「手アンダー」と呼ぶのです。
サーキット走行中、ハンドル操作が雑なせいで「アンダーステア」を強めてしまう筆者。カーブの手前ではしっかりと減速をし、ハンドルを穏やかに回してクルマが曲がろうとする力を引き出すことが重要なのですが、なかなかうまくいきません……
要するに、ハンドル操作が雑なドライバーが引き起こしやすい悪癖のひとつなんですね。ワタシの場合、日常的な運転ではそれほど目立ちませんが、サーキット走行をすると如実に表れてしまい、カーブがキレイに曲がれず、周回タイムが縮まらないのが悩みになっています。
サーキットを走るたびに「手アンダーを出さないよう」意識をし、ハンドル操作をていねい、かつ繊細に行うように心がけてはいるのですが、まだまだ完全に解消するにはいたっていません。
自覚できていないだけで、おそらく普通に一般道を走っているときも、持ち前の雑なハンドル操作によってスムーズな運転ができていないはずです。同乗者が不快に思うことも少なくないのでしょう。そういった運転の雑さが、45歳になっても結婚できない敗因のひとつになっているのかもしれません……。
高性能車ではGセンサーがあらかじめ搭載されている車種もあります。Gを意識して走ることは運転技術向上において極めて重要です
1973年大阪生まれの自動車ライター。免許取得後に偶然買ったスバル車によりクルマの楽しさに目覚め、新車セールスマンや輸入車ディーラーでの車両回送員、自動車工場での期間工、自動車雑誌の編集部員などを経てフリーライターに。2台の愛車はいずれもスバル・インプレッサのMT車。