「神の味」。SNSでそんな称号を得た「たらこスプレッド」という食品をご存知ですか? 簡単に言うと“たらこ味のマーガリン”なのですが、そのあまりのおいしさにネット上でバズりまくり、2017年から大ヒットを博しているんです。そんなSNS時代のブレイク食品「たらこスプレッド」のウマさのヒミツに全力で迫ります!
今でも、一部取扱い店舗では品切れになる日があるほどの「たらこスプレッド」。かくいう筆者もどハマり中! カロリーは見ないフリして、パンやパスタなどいろんなものに付けて食べています
……といっても、実は「たらこスプレッド」が開発されたのは、今から10年も前の2007年。一体何がどうなって、こんなに長い時間を経て突然大ブレイクしたのか? 「たらこスプレッド」の開発を手がけるマリンフードの川村敏美氏に、直撃してみました。
実際の製品を手にインタビューに答えてくださったのは、マリンフード株式会社 マーガリン・チーズ・スティリーノ・ホットケーキ・ヴィーガンシリーズ製造研究部 課長 川村敏美氏
-- マリンフードさんは、マーガリンに味をつけた製品を勢力的に開発されています。その中でも、最近大ヒットとなったのがこの「たらこスプレッド」。ちなみに私もハマっているひとりです! 最初にずばり聞いちゃいますが、このおいしさのヒミツは何なのでしょう?
川村敏美氏(以下、川村): ありがとうございます。「たらこスプレッド」の特徴は、「生のたらこのようなつぶ感」と「ローストされたバターの香り」の2点です。これを実現するには結構な苦労があったのですが、私どもも「色物マーガリン」のパイオニアとしてのプライドがございまして。
茹でたてのスパゲティに絡めたり、炊きたてのご飯に混ぜたりするだけでおいしい! ローストバターの香りがふんわりただよって、食欲をそそります
-- い、色物マーガリン??
川村: はい、当社内では、こういった味付けのあるフレーバータイプのマーガリンを「色物マーガリン」と呼んでいるんです。ちなみに、いわゆる普通のマーガリンは「白物マーガリン」と呼んでいます。
マリンフードが手がける「色物マーガリン」たち
-- なんだか白物家電と黒物家電みたいですね(笑)。ではさっそく、その「たらこスプレッド」ができあがるまでの苦労話というのを、お聞きしたいと思います。まず、開発のきっかけは何だったのでしょう?
川村: 話は2006年当時にさかのぼります。おかげさまで当社が「色物マーガリン」の開発で知名度が出てきた頃でして、お客さまのほうから「こういうマーガリン作れませんか?」とリクエストをいただくようになっていました。「たらこスプレッド」の開発も、元々は「明太子を混ぜたマーガリンを作ってほしい」というお客さまからのご意見がきっかけだったんです。
-- 最初は「明太子」だったんですか。
川村: そうなんです。でも、明太子って辛いじゃないですか。製品の企画にあたって一般主婦の方にモニター調査を行ったところ、お子さんも食べられる「たらこのほうがイイ」という意見が多かったんですね。それで「家族みんなで食べられるたらこで行こう!」と決まりました。で、実はここから完成までに1年強かかっているんです。とにかく苦労しました……。
たらこに決まってからが長かった! 完成までの道のりとは?
川村: ネックになったのは、衛生上の問題で生のたらこをそのまま混ぜられないこと。理想の「たらこスプレッド」を実現するには、冷蔵で数か月持たせつつ、食感も風味も見た目もたらこらしさを再現しなくてはなりません。
生たらこが無理なので「乾燥たらこ」を使うことになったのですが、素材の水分や塩分のバランスの影響で物性が刻々と変化してしまうんです。なので、開発初期のころは、品質を安定させるのにすごく苦労しましたね。
-- えっと、今のお話だと、たらこってマーガリンに向いてないですよね……?
川村: はい、そうなんですよね。でも、それをやる。とにかく私たちは、たらこに向き合いました。試作を50パターンは作りましたね。開発担当メンバーは「もうたらこを見たくない」というレベルにまでなりました(笑)
「たらこ×マーガリン」の組み合わせは実は難しい。それをここまで完成させたのは、開発努力のたまもの!
川村: 当社で製品開発する際は、開発チームのほか、社内のさまざまなメンバーから意見を聞くようにしています。もちろん、当社社長も試食します。「たらこスプレッド」は、社長の期待がかかっていた製品でもあり、社長自身のたらこにかけるこだわりが強く反映されています。試作品を試食した社長が「つぶ感が弱い!」ときびしいダメ出しをしたことも(笑)。
最終的に、原料の乾燥たらこを手がけるメーカーさんが、「たらこスプレッド」専用の高い造粒技術を開発してくださいまして。そのおかげもあり、社長以下開発にたずさわった全員が納得するつぶ感で、“たらこらしさ”を出すことができました。
「たらこスプレッド」が何よりもこだわった“つぶ感”! 確かに、このつぶ感がなければおいしさは半減するでしょう
-- そんな苦労された「たらこスプレッド」が、発売から10年を経て大ブレイクするわけですが、ずばり、御社で何かしかけたりされたのでしょうか?
川村: いえ、そもそも発売から10年も経っている製品ですので、このタイミングでは特に何もしていませんし、全く予想しない展開だったんです。この10年間は「まあ、そこそこ売れてるな〜。こんなもんかな〜」くらいだったんですよ。それが突然、2017年初夏に注文数が激増したので、一体何があったのかと。
「ちょっと増えすぎじゃない?」レベルで工場への注文数が増加したそう(画像はマリンフードの公式サイトより)
川村: で、調査したら、某大手食品販売店さんの公式ツイッターが、「今月のおすすめ製品」といった感じでアピールしてくださっていたんです。それがきっかけで、SNSで「神の味」とまで呼ばれてかなり盛り上がったようで。
それで取り扱い店舗さんも増えまして、結果、2017年度の「たらこスプレッド」は、前年度比300%弱の売上にまでなりました。単月で見ると、前年同月の6倍売れた月もあったくらいです。
-- 前年度比300%はすごい! まさに、SNS時代こそと言えるヒットの流れですね。
-- 「たらこスプレッド」は、やみつきになるおいしさはもちろんですが、「時短」というトレンドワードにぴったりであることも、人気の一因かもしれません。トーストに塗ったり、パスタと混ぜたり、ほかに調味料がなくてもこれだけで味付けが完成するので、忙しい生活にぴったりです。パッケージにも調理例の写真が載っていて、見ているだけでおいしそう(笑)。
川村: 実はそのレシピは、当社の女性専務がみずから開発しています。「たらこスプレッド」に限らず、当社の色物マーガリンのパッケージに載っているレシピは、すべてこの女性専務が考えているんです。写真撮影も含めて全てコーディネートしています。
パッケージに載っているレシピの開発と写真撮影まで、全てひとりの女性専務が行っているそう。レシピ開発中の際に専務からたとえば「もうちょっと粘度を調整したほうがいい」など意見が出て、発売直前に中身を微調整することもあるとか
-- レシピ開発から写真撮影やデザインまで、全てを網羅して担当されているというのはすごいですね! レシピにかける意気込みを感じます。
川村: 「このマーガリンがあれば、こんなにおいしそうな料理ができる」とわかりやすく提示することで、お客さまは製品を手に取りやすくなるでしょう。なので、レシピ開発は製品設計と同じくらい重要な位置づけです。
-- 今回お話をうかがって、パッケージやレシピ開発も含めて自社内で完結するという“徹底的なこだわり”が、「たらこスプレッド」のヒットにつながった面もあるのかなと感じました。
川村: そうですね。これまでに、アイデアはあっても技術的な問題で製品化できなかった色物マーガリンもありますし、出しても売れなかったものだってたくさんあります。でも、生き残っている製品ほど、開発者のこだわりが強かったように思いますね。
大切なのは「素材と向き合う」こと。そうでないとイイ商品はできません。まあ、「たらこスプレッド」の担当は、当時「もうたらこは見たくない」という心境にまでなったようですが(笑)。
発売から20年が経過した色物マーガリンの看板商品「ガーリックマーガリン」。歴史が長い商品ほどパッケージが定着しているので、味のほうはマイナーチェンジさせてもパッケージデザインは変えずに来ているそうです
-- ちなみに、新しい色物マーガリンのアイデアはどんな風に生まれるのですか?
川村: アイデアは、社内のさまざまな人間から生まれてきますよ。「たらこスプレッド」のようにお客さまの声がきっかけとなる場合ももちろんありますし。
なお、今春新発売した「私のふわふわホイップバター」は、「バターを極限までホイップしたらどうなるの?」という素朴な発想がきっかけでできました。最終的に、自称「世界一ふわふわなバター」が完成しました。
「世間で1番ふわふわにホイップされているバターはどれだ」というリサーチに始まり、それを超えるべく開発されたのが「私のふわふわホイップバター」
川村: また、開発中の色物マーガリンは、工場のパートさんにも食べてもらいます。工場の食堂で、どの試作品がおいしいか投票コーナーを設けて、意見ももらったりして。そうすると、開発陣と製造現場の間でコミュニケーションが生まれるんです。
試作品だったものが、実際の製造ラインに乗る段階になると、パートさんが「この間の製品、やっとできあがったのね!」なんて愛着を持ってくれたりします。よい製品を作るため、こういった社内のコミュニケーションは大事だと思います。
-- なるほど。社長からパートさんまで巻き込む“コミュニケーション力”があってこそ、色物マーガリンにかけるこだわりを製品化できているというわけですね。
川村: そうですね。社内の団結力には自信があります(笑)。
筆者も普段から「たらこスプレッド」を使っている“たらこスプレッダー”なわけですが、確かに特筆すべきレベルの「つぶ感」は大きなポイント。トーストに塗ったり、パスタに絡めたり、炊きたてのご飯に混たりという、シンプルな使い方がそのおいしさを1番引き出すかも。今回のインタビューを終えて、マリンフードさんから次はどんな色物マーガリンが生まれるのだろう? と期待も高まります。
で、そんな「たらこスプレッド」、取り扱い販売店では品切れになっちゃう日もあるようですが、ネット上では買えるお店がまだたくさんあります。ぜひ、以下からポチッとしてみてください!
オーディオ&ビジュアル専門サイトの記者/編集を経て価格.comマガジンへ。私生活はJ-POP好きで朝ドラウォッチャー、愛読書は月刊ムーで時計はセイコー5……と、なかなか趣味が一貫しないミーハーです。