飲み手の多様化などによってビール離れが叫ばれる昨今ですが、クラフトビール市場は元気です。
この人気は世界的なものですが、トレンドの発信地はアメリカ。そんなクラフトビールの魅力といえば個性的な味わいですが、この個性的なフレーバーに欠かせないのがホップです。
なかでも、クラフトビール大国のアメリカをはじめ、世界中の醸造家を驚かせたホップのひとつが「ソラチエース」。これ、実はサッポロビールが開発した日本生まれのホップなのです。ところが開発当時は個性が強すぎたために日本では採用されず、数年後に海を渡って海外でブレイクするという数奇な運命をたどりました。それがついに、ホップの親元から満を持して発売されることに。今回紹介する「Innovative Brewer SORACHI1984」です。
2019年4月9日にデビュー。ホップは「ソラチエース」を100%使用し、ヒノキや松、レモングラスのような香りを独自のドライホッピング製法で引き出しています(左側の缶は非売品)
そんなビールファン垂涎のニュースから数か月後、また朗報が飛び込んできました。なんと、同ブランドから新たに3つの商品がAmazon.co.jp限定で発売されるというのです。そこで、開発者の方に背景や商品特徴などを聞いてきました。
教えてくれたのはこの人。サッポロビールのクラフト事業部で、ブリューイングデザイナーを務める新井健司(たけし)さんです
まずは、「ソラチエース」についてもう少し説明しましょう。
そもそも、日本産のホップが世界を驚かせたという話は、ほかに聞いたことがありません。それだけ、「ソラチエース」は群を抜いて個性的だったということでしょうか。新井さんに聞いてみました。
「はい。私も数々のホップを扱いますが、『ソラチエース』はなかでも非常に際立った香りを持っていると思います。歴史をたどると、商品名の『1984』は『ソラチエース』が品種登録された1984年のこと。当社の『黒ラベル』がまだ『サッポロびん生』という商品名だった時代で、ビールには今以上にのどごしや爽快感が求められていました。コクや香りが強いビールは需要が見込めず、『ソラチエース』は商品に採用されなかったのです」(新井さん)
2019年4月の発売時に行われたイベントにて。品種登録は1984年ですが、もともとの計画はそれより10年前の1974年にスタートしています
ただ、いつか日の目を見ることを期待されて大切に守られていた「ソラチエース」。やがて、強烈な個性の可能性を信じた同社の研究員が、アメリカ産ホップとの交易のタイミングで、「ソラチエース」をアメリカに持ち込むことに。それが1994年。
「そのころのアメリカでは、まさにクラフトビールのムーブメントが起きていました。ところが当時は、まだ上面発酵の『○○エール』など、醸造法の違いによるビアスタイルが注目され始めた時期。個性の主役はホップではなく、『ソラチエース』もそこまで広がりませんでした」(新井さん)
潮目が変わったのは2002年。有名なホップ農家のマネージャーが「ソラチエース」と出会い、衝撃を受けたことで注目を浴びるようになったとか。
「ダレン・ガメシュさんです。彼は“アメリカのクラフトビールブームの影の演出者”と言われるほど影響力があり、多くのブルワリーとパイプを持っていました。彼が『ソラチエース』をブルワリーに紹介したことで、やがて世界中に広まっていったのです。実は日本のクラフトビールメーカーからも、数年前から『ソラチエース』のビールは発売されており、当社でも3年前から限定で商品化はしていました。そしてやっと供給体制が整い、今春より通年で全国発売できることになったんです」(新井さん)
8月4日に行われたファンミーティングでのひとコマ。「このビールは、世界を変えるかもしれない。」がキャッチコピーです
新井さんいわく、「今回の新作のひとつには、ダレン・ガメシュさんのストーリーにフィーチャーした商品もあります。ぜひ飲んでみてください!」とのことで、いざ試飲へ。全4製品を1本ずつ特徴を聞きながら飲んで、味を確かめてみました。
「飲み比べをする際は、ぜひ4本それぞれを比べながら楽しむことをオススメします。基本の味は『SORACHI1984』なので、これとエクステンションを交互に飲み比べると、より個性がわかると思いますよ」(新井さん)
「Innovative Brewer SORACHI1984」
ということで、まずは定番の「Innovative Brewer SORACHI1984」から。
ハーバルかつフローラルで、柑橘系の風味をまとったジューシーな苦みもしっかり。また、ココナッツ的なフレーバーや、ウッディな香りも。それでいて改めて感じるのは、個性が強めながらも飲み続けたくなる“ドリンカビリティ”がしっかりあること。完成度の高さを感じます。
次は、今夏の新作を試飲。アルコール度数をやや抑えるなど、さらなる飲みやすさを目指したという「SESSION」から飲んでみました。
「Innovative Brewer SORACHI1984 SESSION」。「SORACHI1984」のアルコール度数5.5%に対し、こちらは4.5%です
「『モザイク』というホップを、『ソラチエース』よりも多めに使いました。『モザイク』はよりトロピカルなハーバルフレーバーが特徴で、余韻としてこの香りがふくらむと思います。『ソラチ』の香味とぶつからず、引き立て合う味わいですね。また、『セッション』というのは苦みが強くアルコール度数の高い『IPA』を低アルコールにした『セッションIPA』というスタイルがあるのですが、それと似たニュアンスですね。飲みやすいのでビールが苦手な人にもオススメです」(新井さん)
うん、確かに軽やかでありながら、パッションフルーツを思わせるエネルギッシュな風味が華やぎます。ボリューム感を抑えているのでゴクッといけるものの、トップからラストまでしっかり続く上品な苦みと香り。暑い日に飲むのであれば、これがいいかもと思いました。
次は「DOUBLE」。その名の通り、香り付けに使用する『ソラチエース』の量を『SORACHI1984』の2倍にアップし、より鮮烈な風味を楽しめる1本です。
「Innovative Brewer SORACHI1984 DOUBLE」。アルコール度数は、同ブランド中最高の6%
「これはもう、とことん『ソラチ』(笑)! グッとくる力強い苦みに、ヒノキやレモングラスを思わせる香りが次々と押し寄せます。これに負けないボディ感を実現するために、アルコール度数を少し高くしました。ボディを厚くしている関係で、色も少し濃くなっていますね。とにかく『ソラチエース』が好きという人には絶対飲んでほしいです」(新井さん)
なるほど。「SESSION」を横の広がりとするなら、「DOUBLE」は縦。飲み応えと同時に苦みや香りもアップしていて、味に奥行きがあります。濃厚でありながら重いという感じではなく、1本の満足度が高いという印象。「SORACHI1984」と交互に比べると、より「ソラチエース」自体の魅力を感じられると思いました。
最後は、味わいよりもストーリー性に重きを置いて開発された「Another Story Amarillo」。前記のダレン・ガメシュさんのストーリーにフィーチャーした商品というのがこれに当たります。
「Innovative Brewer SORACHI1984 Another Story Amarillo」。アルコール度数は5%です
「『アマリロ』というホップをふんだんに、そして『ソラチエース』を一部に使っています。この『アマリロ』は世界的に有名で、日本の大手ビールでも使われているのですが、ダレンさんが最初に見つけたフレーバーホップがこれなんです。つまりは彼をホップ発見の旅にいざなったホップであり、『ソラチエース』再発見の物語は、『アマリロ』なくしてはありえなかったはずなんです。その『アマリロ』と『ソラチエース』を組み合わせ、オレンジのような甘美なアロマに、ヒノキやレモングラス的な余韻が香る、至福の1杯に仕上げました」(新井さん)
ほかの「SORACHI」にもシトラス系のフレーバーを感じますが、こちらは甘味とやわらかさがある印象。味わいにはやさしいニュアンスもあって、苦みと華やかな香りが心地よく調和しています。聞くところによると、発売前の事前調査でそれほどビールに慣れていないユーザーに4製品を試してもらったところ、この「Another Story Amarillo」が1番好評だったとか。
4種飲み比べセットはこのパッケージでAmazon.co.jpより限定発売中。中身は350mlが12本入りで、内訳は「SORACHI1984」が6本と、エクステンション3種類が各2本ずつです。「ぜひ、オリジナルの『SORACHI1984』とそれぞれのエクステンションを比べてみてください!」(新井さん)とのこと
「SESSION」「DOUBLE」「Another Story Amarillo」はそれぞれ単体でもAmazon.co.jp限定で買えますが、まずは4種セットで飲み比べをするのが絶対オススメ。今回のAmazon.co.jp限定での発売は、どれぐらい反響があるかといったテストマーケティング的な要素もあり、いったんは今回の醸造分がなくなったら次はないかも、とのことなのでお見逃しなく!
食の分野に詳しいライター兼フードアナリスト。雑誌とWebメディアを中心に編集と撮影をともなう取材執筆を行うほか、TVや大手企業サイトのコメンテーターなど幅広く活動中。