弁当箱は「曲げわっぱ」がいいらしい。近頃そんな評判をよく耳にする。曲げわっぱとは、薄くそいだスギやヒノキの板を湾曲させて作る器。古くは江戸時代より弁当箱やおひつに用いられ、今なお愛好家が多いそうだ。そんな昔からずっと使い続けられているのだから、そりゃあもうよっぽどいいのだろう。
曲げわっぱの利点としてよく挙げられるのが、「調湿効果」。特に、ごはん(白米)がふっくらおいしくなるというのである。「むしろ炊き立てよりおいしい」なんてレビューもあるくらいだ。本当だろうか? それは言い過ぎではないか?
というわけで、真偽のほどを確かめるべく曲げわっぱを購入した。もっと薄くてぺらぺらしたものを想像していたが、しっかり強度があり思いのほか頼もしい。
ちなみに、かわいい風呂敷もセットで買ってみた。
筆者が購入したのは「祭りのええもん 曲げわっぱ」。ほかにもたくさんの曲げわっぱが売られているので、好みで探してみてほしい。
改めて、曲げわっぱのメリットとして一般的によくいわれているのは以下である。
(1)ごはんが冷めてもふっくらおいしい
(2)天然木の爽やかな香りがする
(3)おかずが映えて豪華に見える
特に(1)だ。
通常、アツアツのごはんやおかずをそのまま弁当箱に入れてフタをしてしまうと、食中毒を誘発する恐れがあるので、好ましくないとされる。立ち上る湯気が余計な水分を充満させ、細菌の繁殖を招くためだ。
ところが、曲げわっぱはそのすぐれた調湿効果により水分を吸収し、ごはんを最も好ましいコンディションに保ってくれるという。
というわけで、いつもなら十分に冷ましてから詰めるごはんを、おっかなびっくりホッカホカのまま曲げわっぱに投入した。
今年の夏はとりわけ暑く、この日も35度を超えそうな陽気だ。大丈夫か? 今日はきっと繁殖する気満々だぞ、菌。
そして数時間後、ランチタイム。曲げわっぱのフタを開けると、ほのかに木のいい香りがした。少なくとも、腐ってはいないようだ。
で、ごはんをひと口食べて驚いた。……甘い! 炊き立てよりも、むしろ甘い。そして、冷めているのにまったく硬くない。これぞ白米としてあるべき、ベストな状態とさえ感じられた。
実は、お弁当に入っている冷めたごはんも、個人的にそんなに嫌いではない。むしろ冷めて硬くなったごはんには、それはそれで悲しくも独特の味わい深さがあると思っていた。しかし、曲げわっぱのごはんを知ってしまった今となっては、申し訳ないがこう言わざるを得ない。冷めて硬くなったごはんなんて、全然だめだ。
ともあれ、これはすごい! 曲げわっぱがいいというウワサは本当に本当だった。
なお、曲げわっぱの効能は、おかずに対しても発揮されていた。
玉子焼きはふっくらしっとり。豚肉のしょうが焼きは、これまた肉が硬くならずにジューシー。おかずごとに、最善の水分量がキープされている感じだ。
そんな恐るべき曲げわっぱだが、とはいえ相性の悪いおかずもあるのだろうか? たとえば、脂っこい中華系の弁当だったらどうだろう。
あんかけチャーハンにあんかけブロッコリー、そしてエビチリ。だいぶ濃いメンツだが、こんなギトギトなおかずたちを曲げわっぱは、うまくコントロールできるのか?
まず、チャーハンはパラパラ過ぎず、かといってベチャベチャでもなく、ちょうどいい。エビチリもブロッコリーもほどよくしっとりしていて、作りたてのおいしさをキープしている。
なお、白木の曲げわっぱは脂ものに弱くシミがつきやすいそうだが、ウレタンや漆で加工されているものであればその心配も不要とのこと。実際、これ以降も脂っこいおかずを遠慮なく入れまくっているが、今のところシミや黒ずみなどは特に気にならない。
では、においが強いおかずはどうか? 曲げわっぱににおい移りして、せっかくの木の芳香が損なわれたりはしないだろうか。
そこで、ある日はにんにく臭たっぷりのおかずを。
またある日はカレー臭たっぷりのおかずで、曲げわっぱに「においの負荷」をかけまくった。
しかし、ちゃんと洗ってちゃんと乾かせば、また曲げわっぱ本来の香りが戻る。曲げわっぱは手入れが難しいなんて声もあるようだが、筆者が購入したものは表面加工してあるためか洗いやすく、水切りかごにひと晩置いておけばカラっと乾いた。もちろん使用後に洗わず長時間放置しておけば、たちまちカビが発生したりはするが、ほかの弁当箱に比べ取り立てて手がかかることはないと思う。
とはいえ、プラスチックよりデリケートな素材であることは確かなので、丁重に扱うに越したことはない。写真のように色の濃いナポリタンや揚げ物だけをギチギチに詰め込むなど、極端なことはしないほうがよさそうだ。
ともあれ、曲げわっぱを手に入れてから、弁当作りが楽しくて仕方ない。外出しない休日でもうっかり弁当を作ってしまうほど、その魅力にハマっているのである。