“買えるイグ・ノーベル賞”が衝撃のデビュー!
イグ・ノーベル賞とは「人々を笑わせ、考えさせる研究」に贈られるものですが、2023年にその「栄養学賞」に輝いたのが、明治大学の宮下芳明教授らによる電気味覚の研究。そしてこの技術を搭載したデバイスが、キリンホールディングスが同大学と共同研究した「エレキソルト スプーン」です。
「エレキソルト スプーン」。電気味覚の研究の結果を踏まえ、まずはスプーン型デバイスが発売されました
その特徴は、電気の力で減塩食品の塩味や旨味などを増強するというもの。世の中には高血圧などを理由に塩分を控えている人が一定数おり、こうした減塩食ユーザーの食事における、味の満足度を高める救世主として期待されているのが「エレキソルト スプーン」なのです。
「エレキソルト スプーン」は、2024年5月20日に公式ECの抽選販売限定で発売されるや否や、19,800円(税込)という価格ながらも初回分の200台に予約が殺到。今も入手困難な状態が続いていますが、その実力はいかがなものなのでしょうか。
そこで今回は、「エレキソルト スプーン」を使ってさまざまな料理の減塩版と通常版を食べ比べ、その真価をチェックします。
それぞれ減塩タイプと通常タイプを用意。なじみ深い5つの料理を、普通のスプーンと「エレキソルト スプーン」で食べ比べます
まずは簡単に、「エレキソルト スプーン」の特徴を紹介します。仕組みとしては、スプーン先端から微弱な電流が食品に流れることで、(料理の種類や個人差はありますが)塩味や旨味などを増強してくれるというもの。具体的には、減塩食の塩味を約1.5倍に増強させる電流波形を搭載しているとか。一例として、70%に減塩された料理に使えば、本来あるべき100%以上の塩味を体感できる計算です。
キリンの資料より。なお、そもそも塩味の基となるナトリウムイオンがない(=塩味0)料理に使っても、効力は発揮しません
本体サイズは約250(幅)×38(奥行)×25(高さ)mmで、質量は約60g(電池含まず)、電源はリチウム電池(CR2)1本。価格や安全面に配慮して、あえて充電式ではありません。
一般的なプラスチックのスプーンと比較したサイズ感。設計上、少々大きめになったとのこと
使い方は、本体の柄にあるスイッチから電源を入れ、好みの強度(4段階)を選択。後は通常のスプーンと同様に料理を食べると、口に含んだときに微弱な電気が流れて塩味や旨味が増すというメカニズムです。
使い方はきわめて簡単。ただし持ち方などにコツがあります
持ち方のお手本がこちら。電極に手(指)が触れるように持つのがコツです
電極はスプーン先端の銀色の部分と柄の裏面にあり、この両方に人体が触れていることがポイントです。うまく電気が流れているかどうかは、ランプの色でチェック。白く点灯しているときがそのサインです。
白く光っている状態。このときに塩味や旨味が増し、光っていないときはその効果も消えています
なお、料理は電気を通すので、スプーン先端の電極には直接人体が触れていなくてもOK。食材を通して唇などが触れていれば、しっかり電気が流れて白く点灯します。
ここからは料理を1つずつ食べ比べて「エレキソルト スプーン」の効果を検証します。キリンによると、スープなどの液体が多い料理のほうが電気が流れやすいとのことですが、あえて汁気のないおにぎりも用意しました。まずは超シンプルに、塩の量が異なる自家製チキンスープでチェックします。なお、今回の検証では「エレキソルト スプーン」の強度を4段階中最も強い4に設定しました。
左が塩少なめ、右が普通量(以下の料理も同様に配置)。市販品の粉末鶏ガラスープは塩が入っているので使用せず、自分で鶏モモ肉を炊きました。つまりは鶏のゆで汁です
手始めに、両方のスープをそれぞれ「エレキソルト スプーン」と普通のスプーンで味見してみます。
約70%に減塩した鶏スープをチェック
減塩スープに関しては、確かに「エレキソルト スプーン」で味わったほうが塩味の豊かさを感じます。
こちらは通常版のスープ(減塩版に比べて1.5倍の塩分)。「エレキソルト スプーン」で味わうと、しょっぱいとまでは全然いかないものの、なかなかのボリュームアップを感じました
また、この検証で特に重要なのは、「減塩版×『エレキソルト スプーン』」と「通常版×普通のスプーン」とで比べた際に、減塩版が通常版と遜色ないのかというところでしょう。筆者の答えとしては、遜色ないレベルにまで塩味がブーストされていると感じました。
ただそれは、料理の種類や個人の味覚、「エレキソルト スプーン」の強度設定などによっても変わるでしょう。その点では、特に今回のスープは鶏モモ肉と水と塩だけとシンプルなので、「エレキソルト スプーン」の効果がわかりやすかったと思います。
ちなみにこの後、ほかの料理も試したわけですが、効果のわかりやすさではこのスープがいちばんでした。単純に塩味の濃淡の変化を感じたいなら、シンプルな料理のほうがいいかもしれません。
次はカレーで検証。先ほどのチキンスープと同様に、塩分濃度の異なる2種類を用意して食べ比べました。
具材にはチキン、玉ねぎ、トマトなどを使いました。スパイス感もあり、前述のチキンスープよりも旨味や酸味が豊かな料理です
感想としては、チキンスープほど明確な差はないものの、どことなく「エレキソルト スプーン」を使って食べたときのほうが塩味は豊かに。また、それ以上に甘みや酸味が増強する印象で、全体的な味が多少濃くなったように感じました。
減塩版カレー×「エレキソルト スプーン」(写真左)と通常版カレー×普通のスプーン(写真右)。カレーは、塩味以上に全体的な味の濃さの増強を感じました
なお、カレーはスープよりもとろみがあるので、「エレキソルト スプーン」の電極部分にカレーをうまく乗せることがポイント。少量残った最後の一口を味わう際などは注意が必要です。
電極部分にカレーが乗っていないと「エレキソルト スプーン」の効果は発揮されません
3食目は市販品の味噌汁で調査。マルコメ「お徳用 フリーズドライ 顆粒 減塩アソート」と、「お徳用 フリーズドライ 顆粒 料亭の味アソート」を使います。
ともにアソートタイプで、そのうちの「長ねぎのおみそ汁」を使って比較
減塩版は、通常版と比較して塩分を25%カット。「エレキソルト スプーン」は塩味などを約1.5倍にアップさせるので、数値的には100%を上回る塩味を感じられる計算です。
ともに、ダシの香りが非常に豊か。この時点で違いがあるようには感じません
ただ、市販品で比較するに当たって、筆者にはひとつの懸念がありました。それは、減塩版「お徳用 フリーズドライ 顆粒 減塩アソート」の公式サイトにある、「数種類のみそをブレンドすることで生まれる甘みと、だしの旨味で減塩とは思えない味わいに仕上げました」の一文。「減塩とは思えない味わいに仕上げました」ということは、「エレキソルト スプーン」を使うまでもなく、そもそも味は薄くないはずです。
減塩とはいえ、普通に食べても違和感のない味わい。見事な設計で、さすがは業界のトップランナーです
とはいえ、比べてみないことには始まりません。さっそく食べてみると、この予想は的中! 同レベルの塩味の味わいではなく、「通常版×普通のスプーン」よりも「減塩版×『エレキソルト スプーン』」のほうが濃いのではないかと思える結果に。特に印象的だったのは、塩味だけでなくダシの旨味も増強されている点。くっきりした味になり、厚みのボリュームアップを感じました。
塩味だけでなくダシ感もアップ。「エレキソルト スプーン」を使うと塩味が100%を超える計算だったこともあり、「通常塩味×普通のスプーン」より味を濃く感じました
続いても市販品であるインスタントラーメンでチェック。知名度の高いブランド「サッポロ一番 減塩 塩らーめん」と「サッポロ一番 塩らーめん」で比較しました。
左の「サッポロ一番 減塩 塩らーめん」は、右の「サッポロ一番 塩らーめん」より塩分が25%カットされています
「サッポロ一番 減塩 塩らーめん」の公式サイトにも、「チキンとポークのうまみをベースに、塩味を引き立たせながらオニオン、ガーリックの香味野菜、香辛料をバランスよく配合したスープです」とあり、きっと減塩している分、味わいを補強しているのでしょう。そんな懸念もありつつですが、この試食では興味深い発見がありました!
ラーメンをスプーンで食べるのは難しいなと思っていたところ……
何と、「エレキソルト スプーン」を直接口に付けなくても、これを媒介役にしながら箸で麺を食べれば、麺が口に触れた瞬間にランプが白色へと変わったのです。つまり、手に持った「エレキソルト スプーン」をスープに浸していれば、ラーメンを箸で食べても塩味が増す効果が発揮されるということです。
箸で食べている麺とスプーンを浸したスープを経由して、スプーン先端の電極に触れている状態ですね
ラーメンを食べる際は、上の写真のように「エレキソルト スプーン」をスープに浸した状態で味わうといいでしょう。
味比べに関しては、やはりこちらも、「減塩版×『エレキソルト スプーン』」のほうが「通常版×普通のスプーン」よりも味の濃さが上回りました。
最後はあえて、効果がわかりにくそうな料理ということで、塩むすびを食べ比べ。カレーの段で述べましたが、汁気がない料理は「エレキソルト スプーン」の電極に触れづらいため、ハードルが高そう。
手作りおにぎりを、減塩(写真左)と普通量の塩(写真右)で用意
ご飯と塩のみなのでシンプルですが、感じ方はどうなるか。食べてみると、判断は難しい結果に……。この理由は、料理がスプーンから離れてしまうと「エレキソルト スプーン」の効果も消えてしまう点にある気がしました。言い換えれば、効果を得られる時間が、汁ものに比べて短いということ。
こちらは減塩版塩むすびでの比較。普通のスプーン(写真左)と「エレキソルト スプーン」(写真右)で食べてみました。おにぎりをスプーンで食べるのはややシュールですが、その点はご勘弁を
普通の量の塩をつけて握った塩むすびも同じように2つのスプーンで試食。「エレキソルト スプーン」の電極に乗せて食べることが重要です
そのうえ、ご飯のような固形食材の多くは、咀嚼(そしゃく)することでより塩味などを感じるので、「エレキソルト スプーン」には不向きだと言えるでしょう。塩むすびは今回食べ比べた中で最も効果がわかりづらかったですが、とはいえ、「エレキソルト スプーン」の電極にうまく乗せて食べれば、塩味のブースト自体は感じられました。減塩のチャーハンなどを食べる際にも活用できそうです。
検証結果をまとめると、「エレキソルト スプーン」の塩味ブースト効果は確かに感じられます。料理の種類は、電極に触れやすい、サラッとしたテクスチャーの汁ものがおすすめ。なお、市販の減塩商品は、その多くがメーカーの工夫によって減塩が気にならない味に仕上げられているので、「エレキソルト スプーン」を使うと、通常品以上に塩味を濃く感じました。
今回と条件は異なるものの、発売前にキリンが行ったテストでは、31名中29名が「塩味が増した」と感じたそう
ニーズとしてはやはり、健康面の不調で減塩食を余儀なくされている人たちです。あるいは、濃い味が好きで、将来のために塩分の摂りすぎを予防したいという人にもうれしいデバイスかもしれません。
なお、個人的なおすすめ料理は汁ありの麺類。市販品ならスープの素を少なめにして調理するといいと思います。「エレキソルト スプーン」は19,800円(税込)と安くはありませんが、減塩に興味があればぜひお試しを。