高級ヘッドホンのブームやハイレゾスマホなどの登場により、近年ポータブルオーディオの世界が盛り上がっているのは皆さんもよくご存じだろう。しかし、自宅のスピーカーでがっつり音楽を鳴らす「ホームオーディオ」の世界だって、着実に進化しているのだ。その最新形としてあげられるのが、「ネットワークオーディオ」というジャンルである。マニア向けに見えて、やってみると意外に簡単! ここでは、そんなネットワークオーディオの構築例を、3つのシーン別にご提案しよう。
<目次>
1.ネットワークオーディオって何?
2.基本の必要機材と接続方法
3.シーン別・ネットワークオーディオの構築例&製品カタログ
【はじめに】まずはNASを導入
【シーン1】リビングや自室で手軽に楽しみたい!
【シーン2】0から本格環境を構築したい!
【シーン3】愛用中のオーディオシステムを活用したい!
【おまけ】CDやPCオーディオもいろいろ楽しみたいなら
ネットワークオーディオとは、「家庭用のLANネットワークを使って音楽を再生する」という、インターネット時代の新しいオーディオスタイルである。「DLNA*1」に対応するNAS(ネットワーク対応ストレージ)の中に保存した楽曲ファイルを、家庭内のLANネットワークを介して伝送し、同じくDLNAに準拠したオーディオシステムで再生するというのが基本だ。
家庭内LANネットワークの構築が必須で、一見難しそうな部分もあり、以前は一部マニアの楽しみ方として位置づけられていた。しかし最近は、一般家庭にLAN環境が普及しているので、対応機器さえ導入すれば、誰でも手軽に楽しめるものになっている。そんな状況にあわせて製品バラエティも増加しており、今が絶好の始めどきだ。
ネットワークオーディオの基本は、ルーター、NAS、ネットワーク対応のプレーヤー機器、スマホ/タブレットなどの操作端末。いかにも難しそうだが、最近は対応製品の完成度が上がったこともあり、機器さえ揃えれば簡単に始められる
*1 DLNAはパソコンや家電、モバイル機器、メーカーの違うオーディオ/AV製品の相互接続を行えるようにするガイドライン
ネットワークオーディオの必要機材は主に4つ。DLNA対応の「オーディオ機器」「NAS」、再生操作を行うリモコン役の「スマホ/タブレット」、そして音源を管理する「パソコン」。今ある自宅のLANネットワークを使用して、これらの必要機材を揃えれば、すぐにスタートできるというわけだ。
セッティングの基本は、以下のイメージ図を参照していただきたい。NAS、オーディオシステム、パソコン、操作アプリをインストールしたスマホ/タブレットを、家庭内LANネットワークにつなげるだけ。あとは、主にパソコンを用いて楽曲配信サイトから音源をダウンロードしたり、CDをリッピングしてデジタル楽曲ファイルを作成しよう。それらをPCからNASにコピーすれば準備は完了だ。
これが基本的なネットワークオーディオの接続スタイル。くわしくは後述するが、最近はネットワークオーディオプレーヤーとアンプを一体型にしたレシーバー製品も増えているので、もっとシンプルで簡単な構成も実現できる
ネットワークオーディオのメリットはたくさんあるが、やはり大きいのは、「快適すぎる操作性で、ハイレゾの高音質再生が楽しめること」である。
ネットワークオーディオでは、スマホ/タブレットを操作用のリモコンとして使うのが基本。家庭内のLANネットワークを経由して、スマホから再生機器のコントロールを行う。なので、部屋のどこにいてもスマホから音楽の再生操作が可能。それに、同じネットワーク上にある1台のNASに楽曲を入れておけば、複数の部屋のオーディオシステムでそれを再生できる。自宅のあちこちで、快適にイイ音で音楽を楽しめるのだ。
筆者宅のオーディオルームにて。NAS内にある楽曲を、iPadから操作して愛用のシステムで楽しむ。まず、これだけでも操作感はバツグンだ。再生するハイレゾ楽曲はNASの中に入れておくので、昔のようにCDをいちいち入れ替えるようなことは不要。本格的なネットワークオーディオシステムと高スペックなハイレゾ音楽ファイルを組み合わせれば、驚くほどの高音質再生も実現できる
こちらはダイニングの様子。上述のオーディオルームにあるNAS内の楽曲を、ネットワークを介してダイニングに置いたスピーカーでも聴くことができる。スマホが手元にあれば、再生操作もダイニングから行えるので簡単だ
▼「Spotify」など最新の音楽配信も楽しめる!
最近は、「Spotify」などのサブスクリプション型ストリーミングサービスが聴けるネットワークオーディオ製品が増えてきていることにも注目。しっかりと最新のエンターテインメントに対応しながら、機能の進化を果たしている。
▼PCオーディオとの違いは?
ホームオーディオの世界では、パソコンを使う「PCオーディオ」というスタイルもある。パソコンとUSB-DACを使用して、パソコン内に保存されたデジタル楽曲ファイルを聴く方法だ。こちらもハイレゾ音源を再生できるので高音質再生が可能であり、手持ちのパソコンを利用すればいいので導入がスムーズ。なお、基本的にはデスクトップ上で楽しむスタイルで、使用する際には必ずパソコンと再生ソフトウェアの立ち上げが必須なあたりが、ネットワークオーディオと異なるポイントだ。
ここからは、いよいよユーザーの環境別に、ネットワークオーディオシステムの構築例をご提案していこう。
どんな環境にせよ、ネットワークオーディオを始めるには、まず音源ファイルを入れておくNASの導入がファーストステップとなる。
NAS選びのコツは、容量の大きいハイレゾファイルに対応できる1TB以上の容量と、ハイレゾ音源の形式であるFLACやDSDファイルに対応していること。できれば動作が静かなファンレス製品がよい。さらに、楽曲配信サイトからの自動ダウンロード機能に対応しているモデルだと、スマホから楽曲を購入して、パソコンを使わずにNASに直接ハイレゾ音源をダウンロードできるので便利だ。
アイ・オー・データ機器 「Soundgenic」(型番:HDL-RA2HF)は、オーディオ用に特化したNAS。容量は2TB。上記の条件に全て合致するなど、ネットワークオーディオに適応する数々の機能を備える。SSDモデル「RAHS-S1」もある
▼NAS設置のポイント
「QNAP」や「Synology」などの一般的なNASやパソコンに、「Twonky Server」や「MinimServer」などのメディアサーバーソフト*2をインストールしても、ネットワークオーディオ用途で使用できるようになる。
NASやオーディオコンポは、有線LANのほかに無線LAN(Wi-Fi)に対応しているものもある。Wi-Fiにつないでもよいのだが、場合によって楽曲再生中に音切れが発生することもあるので、特にNASは有線LANで接続するほうが確実だ。
*2 メディアサーバーソフト:楽曲をアルバムやアーティスト単位でソートして、作端末に表示する役割のソフトウェア。NASに標準で装備されるほか、インストールする形でも利用できる。
とにかく手軽にネットワークオーディオを楽しみたければ、スピーカーとレシーバーがセットになった一体型のネットワーク対応コンポを導入するのがよい。全てがセットになっているから導入もスムーズだし、本格的なオーディオシステムよりコストを抑えながらも、音質クオリティの高い製品が多くある。
スピーカーが付属して3万円前後という価格帯のネットワークCDレシーバーシステム。32bit プレミアムDACを搭載し、DSD 11.2MHzなどのハイスペックフォーマットにも対応している。フロントに視認性の高い大型液晶ディスプレイを備えており、使い勝手が高いのもポイント。
DSD 5.6MHzフォーマットの再生に対応するネットワーク再生機能と、CD再生以外にも、さまざまなオーディオ再生に対応する多機能なネットワークCDレシーバーシステム。USBメモリーに保存した楽曲ファイルの再生のほか、PCオーディオで利用できるUSB-DAC入力機能まで搭載している。CDをより高音質で楽しめる「CDハイレゾ リ.マスター」技術も装備する。
さらに手軽にネットワークオーディオを楽しみたいなら、ネットワーク対応の一体型スピーカーを導入するのもよい。上述のネットワーク対応コンポに比べて音質は少々劣るものの、キッチンやデスクの上など、どこにでも手軽に設置できるのは大きな魅力だ。
デノンが提案する新世代のワイヤレスソリューション「HEOS」(詳細はこちら)に対応したコンパクトなアクティブスピーカー。有線/無線のネットワーク再生のほか、Bluetoothや音楽ストリーミングサービスなど多くのソースに対応している。専用バッテリーパックを装着すれば、外にも持ち出せる。
アンプ内蔵のネットワーク対応一体型スピーカー。有線/無線のネットワーク再生のほかにも、BluetoothやChromecast built-inなどのワイヤレス接続に対応する。前面に2基のサブウーハー、背面には1基の大型パッシブラジエーターを配置することで、コンパクトながら臨場感のある再生を狙っている。
よりよい音を求めるなら、単品のコンポーネントを用いて本格的なネットワークオーディオ再生にチャレンジするのがいいだろう。ネットワークオーディオプレーヤー、アンプ、スピーカーなどを組み合わせて、自分好みの音をカスタマイズする楽しさもある。単体のネットワークプレーヤーは、製品によって価格に大きな開きがあるが、ここでは入門者に手の届きやすい5万円以下のモデルをいくつかご紹介しよう。
国内老舗AV機器メーカーのオンキヨーが手がけるベーシックなネットワークプレーヤー。DSD 11.2MHzまでのハイレゾに対応する。USB接続した外付けハードディスクにハイレゾ音源を直接ダウンロードできる「e-onkyo ダウンローダー」機能を搭載しており、パソコンを使わないでハイレゾ音源を購入できるのが便利。
ネットワークオーディオ黎明期から積極的なアプローチを見せたパイオニアの最新ネットワークプレーヤー。DSD 11.2MHzまでのハイレゾに対応するほか、本機も「e-onkyo ダウンローダー」機能を搭載する。フロントパネルの3.5インチ液晶ディスプレイの視認性が高く、快適な操作感でネットワークオーディオを楽しめる。
楽器開発も手がけるヤマハの単体ネットワークプレーヤー。「Spotify」などの音楽ストリーミングサービスのほか、日本で正規スタートしたCDクオリティのストリーミングサービス「Deezer」にも対応することが大きな特徴である。ヤマハ独自の操作アプリケーション「MusicCast」の高いユーザビリティも魅力だ。
コストパフォーマンスの高さでロングセラーとなっているマランツの単体ネットワークプレーヤー。Wi-Fi、Bluetooth、FM/AMチューナーを搭載するベーシックな仕様で、内部には上級機ゆずりのフル・ディスクリート回路を搭載し、音質を追求している。
すでに自宅にオーディオシステムを持っているなら、上の【シーン2】で紹介した単体ネットワークプレーヤーを愛用システムに追加することで、ネットワークオーディオを始められる。
そのほかに、アンプ部をネットワーク対応のレシーバー搭載アンプに置き換えるという手もある。これで、しばらく使わなかったオーディオシステムがネットワーク対応システムとなって息を吹き返すわけだ。以下、ネットワーク機能を搭載したアンプ製品をご紹介しよう。
出力80W×2のパワーを持つネットワークプレーヤー機能内蔵のプリメインアンプ。使用しているシステムのアンプ部に置き換えれば、ほかには追加機材なしですぐにネットワーク再生を楽しむことができる。インターネットラジオや音楽ストリーミングサービスなど、多彩なソースに対応している。
アナログ入力やボリューム調整機能を備えたプリアンプ型のネットワークプレーヤー。プレーヤーモードで単体ネットワークプレーヤーとして利用してもいいし、ソース切り替え可能なプリアンプとしても使用できるなど、幅広い用途に対応する。手のひらサイズのコンパクトな形状で、手持ちのシステムへ追加しやすいのもポイント。
デノンのワイヤレスソリューション「HEOS」の名を冠したプリアンプ。手持ちのオーディオシステムに追加することで、HEOSシステム=ネットワーク再生を始めとするデジタル楽曲再生に対応できるように開発された。幅広いソースに対応し、手持ちのシステムを最新の各種音楽ソースに対応させることができる。操作アプリ「HEOS」のユーザビリティも高い。
最後に、ネットワークオーディオだけではなく、一緒にCDやPC内の音源を聞きたいという人もいるだろう。そんなニーズに応える「多機能ソース対応製品」も存在する。価格帯は少し上がる傾向にあるが、こういった多機能モデルを導入して、過去のアーカイブを一緒に楽しむのもいい。以下、直近1年以内に発売された新製品から代表的なものをご紹介しよう。
ネットワーク再生を始め、CDや、「Spotify」などのストリーミングサービスなど、多くのソースに対応するコンパクトなネットワークCDレシーバー。好きなスピーカーと組み合わせて、新旧さまざまな音楽ソースを楽しむことができる。価格も10万円を切っており、コストパフォーマンスの高さも魅力。
マランツが培ってきた高音質技術を投入したネットワークCDレシーバー。今回紹介したモデルの中では価格が比較的高めだが、CD、ネットワーク再生とも音質が非常によく、操作アプリの仕上がりも良好である。本格的なオーディオシステムを構築したいなら、満足できるであろう1台。
本来、ハイエンドオーディオ機器が採用するESS社の最上位DACチップ「ES9038」を搭載し、発売時から話題となったネットワーク対応USB-DAC。パソコンを利用するPCオーディオとネットワークオーディオの両方で使用できる。ネットワーク再生、USB-DAC再生とも、価格を超えるような情報量のある音質を備え、大ヒットを博した。
ハイレゾやストリーミングなど、デジタルオーディオ界の第一人者。テクノロジスト集団・チームラボのコンピューター/ネットワークエンジニアを経て、ハイエンドオーディオやカーAVの評論家として活躍中。