ステイホームが叫ばれる今、家でテレビを見る時間が増えている。通常のテレビ放送のほか、「Netflix」などの映像配信サービスを満喫している人も多いだろう。そこで注目が集まっているのが「テレビ音声のリッチ化」で、テレビ用スピーカー(ホームシアターシステム)の人気が急上昇中だ。ならばいっそのこと、臨場感のある音を楽しめる「サラウンド」の再生環境をテレビ周りに作るのはいかがだろうか?
というわけで今回は、主に「リビングのテレビ周り」を想定して、サラウンドの再生環境を構築する方法・パターンを紹介したい。音声方式の紹介から、再生に必要な機材と組み合わせ、各システムが実際にどんな風に聞こえるかまで解説する。
最近は「5.1chサラウンド」「Dolby Atmos」といった高品位な音声に対応する映像配信サービスが増えてきている。また、NHKや民放の放送番組の一部、それに配信ゲームで5.1chサラウンド音声に対応するものもあり、サラウンド対応コンテンツはどんどん充実している。
その魅力は、前後左右(および上下)に音が広がって映画館のように視聴者の周りを音が包み込み、映像の世界に入り込んだようなリアルな没入感を与えてくれること。せっかくテレビの音質強化を図るなら、これにチャレンジしてみるのもいいのではないか。
配信サービスの作品紹介画面に入ると、「5.1」や「ATMOS」と書かれているので対応コンテンツを見分けることができる
サラウンド音声にはいくつかの種類がある。細かく言うといろいろな方式と細かい規格があるのだが、ここでは主にテレビをソースにするという観点から、大きく2種類に分けて簡単に説明する。
※2020/1/21追記:作図を一部修正しました
ひとつは、オーソドックスないわゆる「5.1chサラウンド音声」と呼ばれるもの。再生環境は前方L/Rスピーカー、センタースピーカー、後方L/Rスピーカーの5つと、サブウーハーによって構成され、前後/左右方向から視聴者を包むようなサウンドを実現するのが特徴となる。サウンドバーなどでは、後方スピーカーを反射音で再現するバーチャルサラウンドに対応する製品が多い。
5.1ch音声の中にもいくつか規格の種類があるのだが、映像配信サービスでは主に「Dolby Digital Plus」(ドルビーデジタルプラス)、地上波やBS放送では「MPEG2-AAC」「MPEG4-AAC」などの5.1chサラウンドが採用されていることを覚えておこう。
そしてもうひとつが、「3Dサラウンド」「イマーシブオーディオ」などと呼ばれる最新の立体音響(ここでは3Dサラウンドと呼称する)。再生環境は、上述の5.1chシステムに加えて、天井にもスピーカーを追加するのが基本。ただし、サウンドバーなどでは天井に音を反射させることで仮想スピーカーとするタイプの製品が多い。天井からも音が出ることにより、前後/左右方向にプラスして上方向からも音が聞こえてくるような、立体的な音場体験ができる。
3Dサラウンドは、「Netflix」など映像配信サービスの一部が対応している。その中でも細かい規格の種類があるのだが、映像配信サービスで主に採用されているフォーマットは、上述のDolby Digital Plusをベースにした「Dolby Atmos」(ドルビーアトモス)なので、本記事ではこのDolby Atmosの再生に関連する製品を取り上げる(※補足:Dolby Atmosは、Dolby Digital Plusの拡張部分として音声データに記録されている。上位互換のような存在と捉えておこう)。
【※もう少しくわしく説明すると……】
5.1chサラウンドは、従来のチャンネルベース(=1つひとつの音をどのスピーカーから出力するかが指定される)の音声技術。
対してDolby Atmosなどの3Dサラウンドは、オブジェクトベース(=1つひとつの音が空間のどこで鳴るか、位置情報を指定する)の音声技術。なお、オブジェクトオーディオ以外に「Auro-3D」やNHKの開発した22.2ch音響なども3Dサラウンドと呼ばれる。
大切なのは、5.1chサラウンドやDolby Atmosのコンテンツを再生する際は、それぞれの音声に対応するオーディオ機器を組み合わせる必要があるということ。ちなみに、オーディオ機器側が非対応の場合はまったく音声が再生できないわけではなく、基本的には通常のステレオ音声等にダウンミックスされて再生されることになる。
それでは以下より、テレビ周りにサラウンド対応環境を構築する機材の組み合わせを、具体的に紹介しよう。簡易的なバーチャル再生から、複数スピーカーを配置する本格サラウンドまで、4つのパターンを解説する。
【※注意ポイント】
テレビとオーディオ機器をHDMIケーブルで直結し、テレビ内蔵の映像配信サービスから3Dサラウンド対応コンテンツをネイティブ再生する場合、テレビ自体がその信号をHDMI出力できることが必須となる(HDMI端子のARC/eARC対応など)。このあたりは製品によって異なるので、個別に確認されたい。
手っ取り早い方法としてご紹介したいのは、最近人気のサウンドバー。もちろん、バーチャルでのサラウンド再生ということになるが、手軽で現実的な選択肢としてアリだ。なお、2ch再生がベースとなっているサウンドバーも多いのだが、今回の記事の趣向である「サラウンド対応」を基準にするなら、バーチャル5.1ch再生モードを搭載するモデルや、Dolby Atmos対応をうたうモデルに注目してみよう。低域の迫力にこだわりたい人は、別体のサブウーハーが付属する2ユニット型モデルを選ぶのもいいだろう。
サラウンド効果としては、さすがに複数のスピーカーを視聴者の周りに配置した本格的なシステムには及ばないものの、最近のサウンドバーは音質が大きく上がっていて満足度は高い。画面のセンターからセリフが明瞭に聞こえ、上下左右にテレビの画面を大きく超える効果音が楽しめるなど、テレビの純正スピーカーと比べて大きな感動を得ることができる。
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「アウトスクリーンサラウンド」「ピュアサラウンド」「クリアサラウンド]という、5.1chサラウンドを含む3つのバーチャル再生機能を持つモデル(Dolby Atmosなどの3Dオーディオには非対応なので注意)。横幅が650oとコンパクトで設置性が高いうえ、大型の78mm口径サブウーハーを内蔵しており、迫力のある低域再生が行える。さらに、周りの環境に合わせて11段階での低音調整ができるなど、機能面も充実しており、コストパフォーマンスの高さが光る。
Dolby Atmos/DTS:Xなどの3Dサラウンドに対応しているサウンドバー。デュアルサブウーハーを内蔵する設計で、低域の再現性を高めているのがポイントとなる。また、前方のスピーカーだけで臨場感あるサラウンドを実現する「S-Force PROフロントサラウンド」や、上方向からの包み込まれるようなサラウンド効果を持つ独自のバーチャルサラウンド技術「Vertical Surround Engine」を搭載しており、迫力のあるバーチャルサラウンド/3Dサラウンド再生が行える。
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別体のサブウーハーが付属する2ユニット型のサウンドバー。Dolby Atmosなど3Dサラウンドのデコード機能は持たないものの、バーチャルで3Dサラウンドを再現する技術「DTS Virtual:X」を搭載し、前後/左右/高さ方向に広がる立体音響を再現する。ワイヤレスサブウーハーにより、迫力のある低音を楽しめるのもポイント。またデザインも洗練されており、音楽再生におけるクセのない音質も大きな魅力だ。
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続いては、視聴者の周りを複数のスピーカーで取り囲む、最もスタンダードで本格的なサラウンド再生環境について。サラウンドの英訳「取り囲む」を、スピーカーで実現したシステムである。テレビの音声をAVアンプで受け取り、そこから複数スピーカーへ出力する。
5.1chサラウンド再生では、フロントL/Rスピーカー、センタースピーカー、後方L/Rスピーカー、サブウーハーと合計6本のスピーカーを使用する(上図参照)。なお、6本のスピーカーをすべて設置するのが難しければ、センタースピーカーとサブウーハーをオミットして4ch再生で始めるのもアリだ。
そして、ここから天井に2〜4基のスピーカーを追加設置して5.1.2ch/5.1.4ch環境にすると、Dolby Atmosの3Dサラウンドに対応できる。ただ、実際はリビングの天井にスピーカーを取り付けるのが難しい家庭も多いだろう。その場合は、天井方向に音を出し反射音を利用して3Dサラウンドを再現できる「イネーブルドスピーカー」を利用するという手もある。
5.1chサラウンドにせよ、Dolby Atmosにせよ、視聴者の周りを取り囲んだスピーカーから直接再生されるダイレクトな音は、サラウンド効果をより強く感じさせてくれる。良質な機材を使ってシステムを組めば、映画館のようなサウンド体験に近づけることも可能だ。デメリットは部屋のスペースをとることや、複数のスピーカーの設置と配線処理が必要なこと。また、上述の通りAVアンプを導入する必要があるが、最近はテレビラックに設置しやすい薄型モデルも登場しているのでチェックしてみてほしい。
DALIは北欧の国デンマークに本拠地を構える世界有数のスピーカーメーカー。高級品から普及価格帯まで幅広いスピーカーラインアップを持つ同社だが、このOBARONは最も安価なシリーズに属しながら、インテリアに映えるデザインとクラスを超えた音質によりヒットモデルとなっている。ぜひ、OBERONシリーズでサラウンドシステムを構築してみてはいかがだろうか? デザインのバリエーションも多く、さまざまな部屋のインテリアになじむし、薄型の「OBERON ONWALL」はサラウンド用スピーカーにベストマッチ。個人的には北欧デザインのライトオークカラーがおすすめだ。
続いては、スコットランドのオーディオメーカー、LINN(リン)のエントリークラスのパッシブスピーカーを組み合わせてサラウンド環境を構築するという提案だ。本スピーカーは、キャビネットやドライバー(振動板)周りまで含むデザインがたいへん美しく、何よりも情報量が豊かで聞き心地のいいサウンドが魅力。現在LINNにはサブウーハーのラインアップがないので、別メーカーの製品と組み合わせる必要があるものの、このシステムは生活空間に最上級の潤いを与えてくれる。
アンプを搭載しないパッシブスピーカーと組み合わせられるAVアンプ。高さ105mmのスリムな薄型デザインで、テレビラックにもスッキリと収まる設置性の高さが特徴だ。単体のAVアンプらしく内部構成はかなりの本格派で、実用最大出力100W/chを誇る7chフルディスクリート・パワーアンプを全チャンネル同一構成で搭載。組み合わせるスピーカーの能力を引き出すことができる。Dolby Atmosはもちろん、8K/60p信号やHDR10+、新4K8K衛星放送で使用される5.1chフォーマットMPEG-4 AACなど、最新の映像/音声フォーマットに対応する人気モデルである。
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こちらも、パッシブスピーカーと組み合わせられるAVアンプ。最大出力185Wの7chパワーアンプを搭載し、全チャンネル同一のディスクリート構成を採用した7.2ch出力モデルで、音声はDolby Atmos/DTS:X/5.1ch MPEG-4 AACなどをフルサポート。本体は薄型デザインではないが、8K/60p信号、HDR10+、eARCといった最新の映像/音声フォーマットに対応し、機能性と高い音質クオリティを兼ね備えている。
品位の高いデザインとスマホアプリが使えるユーザビリティの高いオーディオ開発で注目度が増しているSonos社。本製品は、そんな同社の製品を組み合わせた5.1chワイヤレスサラウンドシステムである。「Arc」(サウンドバー)、「Sub」 (サブウーハー)、「One SL」 (リアスピーカー)で構成され、サウンドバー部のArcだけをテレビとHDMIケーブルで接続すれば、ほかのスピーカーはワイヤレスで動作するというスマートさが魅力。Dolby Atmosにも対応しており、デザイン、使い勝手、設置性の高さと三拍子揃ったスピーカーだ。
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大きな音が出せない環境でサラウンドを楽しみたい人にちょうどいいのが、サラウンド対応ヘッドホンである。対応コンテンツを再生すると、ヘッドホンでバーチャルの5.1chサラウンド再生を実現してくれるものだ。なお、一般的に映画鑑賞/テレビ放送用途とゲーム用途の2種類があり、普通のヘッドホン同様に有線タイプと無線タイプが存在する。ここでは映画鑑賞/テレビ放送用モデルかつ、取り回しのいい無線タイプを例に取り上げたい。
基本的に、サラウンドヘッドホンは本体(トランスミッター)とヘッドホン部で構成される。テレビとトランスミッターをHDMIケーブルもしくは光デジタルケーブルで接続し、そこからヘッドホンに音声をワイヤレス出力する仕組みだ。
サラウンドヘッドホンリスニングにより、音が頭内で広がるイメージ
体験できるサラウンド効果については、セリフが前方からではなく頭内に定位し、その周りをサラウンド音声が包みこむようになる。スピーカー再生のような肌で感じる迫力はないものの、周囲を気にせず大音量で楽しめるなどメリットが多い。ちなみに、高価なモデルほど対応するチャンネル数が多い。なお、家族みんなで楽しむなら、複数の同時使用に対応したモデルを人数分用意する必要がある。
民生用として世界初の9.1ch 3D VPT(Virtualphones Technology)に対応したモデル。基本となる5.1chに加え、背後の音を表現するサラウンドバックおよび高さ方向のサラウンド表現を実現するフロントハイの4ch処理を行う。音声が途切れにくいデュアルバンド(2.4/5GHz)の無線伝送方式や、最大2,400MFLOPSもの演算能力を持つ新DSPプラットフォームも搭載するハイスペックモデルで、別売の「MDR-HW700」を用いれば合計4台まで増設可能だ。
7.1chサラウンド再生に対応したモデルで、ドルビープロロジックIIxデコーダーを搭載する。内部には40mm大口径のドライバーユニットを備え、迫力ある低音表現を実現。それでいてヘッドホン重量は約235gと軽量で、長時間でも快適に装着できる。別売のトランスミッター「RP-WF70H」を使用すれば、最大4人まで同時に利用できる。
スピーカー再生のような立体的なサラウンド再現を追求した、JVC独自の頭外定位音場処理技術「EXOFIELD」を搭載するモデル。ヘッドホンに内蔵したマイクと専用スマホアプリを利用し、個人の耳の音の伝送特性を正確に測定するのが特徴で、そのデータをフィードバックすることで、リアルなサラウンド再生を実現する仕組みになっている。
テレビの買い替えタイミングが来る人は、いっそのこと「サラウンド対応テレビ」を導入するのも手だろう。本格的なサラウンド再生を実現するモデルは限られるものの、上位〜中級機の中にはDolby Atmosなどの3Dサラウンドに対応する製品もある。
サラウンドの聞こえ方はサウンドバーのバーチャル再生に近い。特に搭載スピーカー数が多いモデルだと、一般的なテレビと比べて高域から低域までのレンジが広く、映画のセリフも明瞭になったうえで、画面を中心に上下左右に広がるサラウンド音声が楽しめる。
「Dynamicハイコントラスト有機ELディスプレイ」を採用した、同社の有機ELテレビ最上位モデル。前向きのツイーター+ミッドレンジスピーカー+ウーハー+パッシブラジエーターを利用した3ウェイ・3.2ch+2ch構成で、背面上部には上向きに配置される「イネーブルドスピーカー」も備わっている。Dolby Atmosに対応するほか、一般的なステレオ音声を立体音響に変換するバーチャル3Dサラウンド機能も備える。
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LGが発売する有機ELテレビのスタンダードモデル。出力20Wのフルレンジスピーカー2基と、低域の迫力を上げる出力20Wのウーハーを2基搭載する4スピーカー構成で、Dolby Atmosに対応している。映像面では、周囲の明るさに合わせて画面の輝度を自動調整する「Dolby Vision IQ」を備えるなど、映像と音声の両面で映画鑑賞に強いモデルとなっているのが特徴。
今回は、サウンドバー、スピーカー、ヘッドホンを使って、テレビ周りでサラウンドを楽しむ提案をさせていただいた。サラウンド環境で体験すると、映像への没入感が大きく増して、自分の中でコンテンツの価値も上がってくる。そして、ときに「ハッと」するようなリアルな映像体験に出会えるのだ。ぜひこの魅力を味わっていただきたい。
ハイレゾやストリーミングなど、デジタルオーディオ界の第一人者。テクノロジスト集団・チームラボのコンピューター/ネットワークエンジニアを経て、ハイエンドオーディオやカーAVの評論家として活躍中。