プリメインアンプやCDプレーヤーなどを擁するJBL「Classic」シリーズをレビュー。名前のとおり、クラシカルな外観が特徴的。特に注目したいのは写真のアナログレコードプレーヤー「TT350 Classic」だ
クルマにしろカメラにしろオーディオにしろ、工業デザインのピークは1960~70年代。そのあとの半世紀は模倣と退化の歴史ではないか、そんなことをふと思うことがある。優美なクラシックカーが街角に停まっているのを眺めたり、「ずっしりと軽い」([c]ベイシー菅原正二さん)ライカの古いフィルムカメラを触ったりしたときに。
オーディオにもすばらしいデザインのヴィンテージモデルがたくさんあるが、その代表例のひとつとしてぼくはJBLのプリメインアンプ「SA600」をあげたい。JBLと言えばスピーカーメーカーというイメージが強いが、1960年代には同社製高級スピーカーを鳴らすにふさわしいアンプが発売されていた。1965年に発表された「SA600」は、その音のよさとともに美しい意匠で当時のオーディオファンから熱い視線を集めたのである(と言っても、そのころまだ小学生だった筆者は先達からそう聞かされただけだが……)。
この「SA600」のデザイン・テイストを引き継ぎ、オマージュを捧げたのが、JBL創設75周年のアニバーサリーモデルとして2021年に発売された「SA750」だった。
ネットワークオーディオ機能を持ったプリメインアンプ「SA750WAL」。「SA750」のサイドパネルを変更したレギュラーモデルだ。フロントパネルの左右で色が違うように見えるが、実はアルミのヘアラインが縦方向(左側)/横方向(右側)で分けられているだけ
上から「TT350 Classic」「CD350 Classic」「MP350 Classic」「SA550 Classic」「SA750WAL」。意匠が揃えられているので、セットで使うと壮観
さて、この「SA750」の高評価に気をよくしたのだろう。「SA750」のレギュラーモデルとして「SA750WAL」を発売後、JBLは「JBL Classic Components」と銘打ったエレクトロニクス機器群、プリメインアンプ「SA550 Classic」、CDプレーヤー「CD350 Classic」、ネットワークオーディオプレーヤー「MP350 Classic」、そしてアナログプレーヤー「TT350 Classic」を発表した。すべてウォルナットのサイドパネル(「SA750」はチーク)と「SA600」のテイストを引き継ぐアルミ製フロントパネルを採用したフルコンポサイズの製品である。
まずそれぞれのコンポーネントの概要に触れよう。「SA550 Classic」は先述した「SA750WAL」の弟モデルに位置づけられるプリメインアンプ。増幅回路は、小音量時(10Wまで)はA級動作で、それ以上はAB級動作という「SA750WAL」と同じG級回路が採用されており、この2つの動作に最適化した2系統の電源回路が組み込まれている。最大出力は90W(8Ω)。入力端子はフォノ(MM型)を含む4系統のアナログ(RCA)端子のほか、ESSテクノロジー社の高級DAC(D/Aコンバーター)チップを採用してデジタル入力(同軸2系統、光1系統)も備える(Bluetoothもサポート)。ちなみに「SA750WAL」とは異なり、ネットワークオーディオ機能は搭載していない。
「SA750WAL」の弟モデルにあたる「SA550 Classic」。メニューやディスプレイの切り替え用物理キーがレバーからボタンに変更されるなど、よく見ると少しずつ外観も異なる
「CD350 Classic」はJBL初のCDプレーヤー。SACD再生機能はないが、バーブラウン製DACチップを採用し、USB Type-A端子を備え、USBフラッシュメモリーなどに保存した96kHz/24ビットファイル(WAV/FALC)の再生に対応する。
「MP350 Classic」はRoon Readyのネットワークプレーヤーで、Spotify(Spotify Connect対応)、TIDAL(TIDAL Connect対応)、Amazon Music、Qobuzなどの音楽ストリーミングサービスに対応する。対応サンプリング周波数/量子化ビット数は最大192kHz/24bit。Amazon Musicでもハイレゾファイルが再生可能なのだが、取材時は再生中のファイルのレゾリューションが表示できなかった。この点は今後のソフトウェアアップデートに期待したい(※)。
※取材後、仕様変更によりAmazon Musicの再生ができなくなる可能性があるとアナウンスがありました(2024年6月21日時点)。
CDプレーヤー「CD350 Classic」(上)とネットワークオーディオプレーヤー「MP350 Classic」(下)
ちなみに、「SA550 Classic」「CD350 Classic」「MP350 Classic」の3モデルは、JBLと同じハーマングループに属するアーカム(英国)との共同開発品である。ロサンゼルス近郊、ノースリッジのJBLのエンジニアとケンブリッジのアーカムのエンジニアが意見交換しながら、それぞれのモデルを完成させたという。
興味深いのがアナログレコードプレーヤーの「TT350 Classic」だ。海外製品には珍しいダイレクトドライブ型(モーターの回転軸がそのままターンテーブルを回す仕組み)で、スタティックバランス型のS字トーンアームとオーディオテクニカ製VM型(MM型と互換性あり)カートリッジ「VM95E」が標準装備される。ちなみにこのカートリッジ、針交換が簡便で、高級タイプの針に換装して音質グレードアップを図るのも面白い。
「TT350 Classic」はカートリッジまでセットになっているので、初心者にも導入しやすいだろう。ただしフォノイコライザーを内蔵していないため、アンプには(MM対応の)フォノイコライザー内蔵モデルが必須
試聴に使ったスピーカーは「L100 Classic MkII」。こちらもレトロな外観を採り入れた人気モデルだ
東京・秋葉原のハーマンインターナショナルの試聴室にでかけ、それぞれの音を聴いてみた。スピーカーは「L-Classic」シリーズの「L100 Classic MkII」を用意してもらった。300mmホワイトパルプコーンウーハー採用の本格3ウェイシステムである。ブルー、オレンジ、ブラックの井桁状フォーム・グリルが1970年代に大ヒットした「L」シリーズを彷彿させ、この2024年にも大きな人気を呼んでいる。
まず「CD350 Classic」のアナログ出力を用いてプリメインアンプ「SA550 Classic」と兄機の「SA750WAL」を聴き比べてみた。メーカー希望小売価格で言えば「SA750WAL」のほうが13万円ほど高く、その値段差がそのまま音質の違いに出るだろうと予想したが、今回の試聴環境では、なんと「SA550 Classic」のほうが音は好ましかった。
「SA550 Classic」(上)と「SA750WAL」(下)を聴き比べると……
これはちょっとした驚きだったが、「SA550 Classic」は「SA750WAL」と異なりネットワークオーディオ機能が省かれていて、ノイズ環境面で有利だからかもしれない。「SA550 Classic」のほうがS/N感がよく音の消え際の表現が精妙、実に静かなアンプなのである。また、「L100 Classic MkII」の個性でもある低域のゴリッとした質感、ボーカルの肉厚さの表現も「SA550 Classic」のほうがすぐれていた。音量を落としていっても音がやせないのも「SA550 Classic」の美点だと思った。
「CD350 Classic」でCDを、「MP350 Classic」でAmazon Musicなどを再生。両機の説明書を参照すると、「SA550 Classic」との接続時はデジタル接続が推奨されている
それから、「CD350 Classic」と「SA550 Classic」の組み合わせでアナログ(RCA)接続とデジタル(同軸)接続を聴き比べてみたが、総じてデジタル接続のほうが好ましかった。描写されるサウンドステージの広さや奥行き感の表現においてデジタル接続のほうがすぐれる印象なのである。これはバーブラウン製(「CD350 Classic」)とESSテクノロジー製(「SA550 Classic」)DAC素子の性能差が反映されているからだろう。
今回の試聴でいちばん驚いたのは、アナログレコードプレーヤー「TT350 Classic」の音のよさだった。「SA550 Classic」のフォノ入力につないで聴いてみると、ダイレクトドライブ型で昔よく指摘されたコギング(ぎくしゃくした回転ムラ)など微塵も感じさせず、実に滑らかで実在感に富んだサウンドを聴かせてくれたのである。
「TT350 Classic」で各種アナログレコードを再生。この音のよさが本取材でのハイライトだった
1973年に発売された米国西海岸のロック・バンド、リトル・フィートのLP「ディキシー・チキン」をかけてみたが、このバンド特有の粘っこいファンキーなリズムを的確に描写し、ぼくをよろこばせた。ボーカルの表情の豊かさ、スライド・ギターのニュアンスの再現も申し分なし、だ。
1978年に「六本木ピットイン」でライブ・レコーディングされた山下達郎の「It’s A Poppin’ Time」の再生もすばらしかった。ベースとドラムズ、リズムセクションの有機的なからみを精妙に描き分けるし、若き日の達郎さんの歌声の透明感、ソプラノサックスの艶やかな音色の表現など絶品だ。
1967年のデッカ録音、ウィルヘルム・バックハウスがウィーン・フィルと共演したブラームスのピアノ・コンチェルト第2番3楽章の見事な再生にも心を奪われた。冒頭のチェロの音色の美しさ、天上から降りてくるかのようなヴァイオリンの繊細な音にハッとさせられ、ピアノの典雅な響きに陶然となって聴き惚れた次第。
このすばらしい音は、「SA550 Classic」のフォノ入力とのマッチング、そのコンビネーションも十分に考えられているからこそだろう。トーンアーム、カートリッジ込みでメーカー希望小売価格は143,000円(税込)。この音でこの値段はちょっと信じられない。対抗できるのはテクニクス「SL-1500C」ぐらいだろうと思う。
「SA550 Classic」「CD350 Classic」「MP350 Classic」「TT350 Classic」、すべて合わせて約60万円。値段の高い安いはその人の価値観で決まるが、ぼくはこのトータル・パフォーマンスでこの値段は安いと思う。特に「SA550 Classic」と「TT350 Classic」のコンビネーションがすばらしかった。
また、若い人にも人気の高いミッドセンチュリー・デザインのインテリアにこのシステムは完全にマッチングするはず。スピーカーはやはり今回の試聴で使った「L100 Classic MkII」など、JBLの「L-Classic」シリーズを組み合わせたい。
横幅約449mmのコンポーネントだし、設置するにはそれなりに広い空間が必要だと思うが、ちょいと洒落たリビングルームにこんなシステムがあったら、「イエナカ」時間が楽しくなること間違いなし。大人の音楽ファン向けに太鼓判を押します。
組み合わせるスピーカーにぴったりなのは、JBL「L-Classic」シリーズだろう。「L100 Classic MkII」より小型の「L82 Classic」「L82 Classic MkII」および「L52 Classic」がラインアップされる。写真はグロスブラック仕上げの限定版「JBL L-Classic Series Black Edition」。「MkII」ではないが、「L100 Classic BG」と「L82 Classic BG」は「L100 Classic MkII」と「L82 Classic MkII」のベースとなったアップグレードモデルと言える